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ヒマな当番医

平成20年10月26日(日)
今日は広島市の産婦人科当番医なので日曜日でも一日開院している。前回が5月の連休の中日だったので5ヶ月ちょっとで順番が回ってきたことになる。いつもなら6ヶ月ちょっとなので廻りが早い。市内の産婦人科施設数はほとんど減ってないのになぜだろうか。
こんなことをグチるのも休日診療の日の患者さんが少ないからである。他科はそれなりにあるようだがわが産婦人科は本当に少ない。休日診療をする意味があるのかと同業の先生方といつも話すのである。今回はヒマな時間にCDがしっかり聴けたことがよかった。尺八から落語まで、お気に入りのCDをじっくり聴くことができた(泣)。いずれもすばらしい作品ばかりで、それぞれの芸を味わえたのは唯一の収穫であった。

患者さんから聞いた怖い話

平成20年5月24日(土)
患者さんから聞いた恐い話を二つ。
(その1)胸のしこりが気になって近くの医院に行ったところ、「乳癌で、かなり進んでいるのですぐ手術が必要だ」と言われパニックになって故郷に帰り総合病院を受診したら、その日の検査で「悪いものではありませんが、しこりは取った方がいいと思います」とのことで、ようやく落ち着いた。その病院でしこりだけ切除して事なきを得た。でも乳癌だと告げられたときのストレスが大きくてしばらく生理が止まった。
(その2)当院で妊娠の診断して、本人が希望した某病院を紹介した。その後連絡がなかったのでどうなったかわからなかったが、数年後再び妊娠して当院を受診。前の妊娠は無事に生まれたことを確かめたが、紹介した病院とは違う病院で産んでいたので理由を聞くと、「お産近くになった時、医師から骨盤が小さいから帝王切開をする」と言われ、体格がいいのにと納得できず他の総合病院を受診して調べてもらったが、「骨盤は正常で、お産に問題はない」と言われそのままその病院で無事出産し、事なきを得た。その病院のそのような話は結構有名である。
以上2つとも恐い話であるが、現実なのである。身を守るための一番いい方法は、どの科でもいいから信頼できる医師を一人知っておくことである。いい医師はいいネットワークを持っているので、たとえ科が違っていても信頼できるところを教えてくれるに違いない。

健診は不要?

平成20年2月15日(金)
子宮がん検診で異常が認められたためいくつかの病院で複数回検査をしたところ、いずれも異常なしの結果が出たものの心配でたまらず当院を受診された人がおられる。
現在のがん検診システムをはじめ、健康診断システムがある限りこのようなことは起こり続けるだろう。第一に、がんの早期発見は本当にがん死亡数を減らせるのか。第二に健康診断によって本当に寿命は延びているのか。今の医療体制がすべて合理的・科学的であるのか。
医学を学び医師になって多くの経験を積むまでは、考えもしなかったことが見えてくるのはある意味つらいことである。やはり我々の仕事は眼の前の病んだ人を癒すために全力をあげることしかないのだと思う。
将来病気になるかもしれないからと、コレステロールだ、血圧だ、糖尿だ、メタボだと常に脅し続けて、現在どこにも不自由を感じていない人たちを受診させることが本当に正しいのか?正しいというデータがあるのか。以前にも紹介したように、医師が介入してもしなくても寿命は変わらないというデータはあるが…健康診断で少し異常値が出たと知らされて死ぬほど心配して受診される人を見るたびに、意味のないむしろ有害なことはせず、本当に役に立つことだけをするようにしないと医学を学んだ甲斐がないと思うのである。

薬を出し過ぎる施設

平成19年8月2日(木)
当院に来られる患者さんの中には、他科で薬をもらっている人も多いが、薬の種類や量について施設によってかなり違いがある。たくさん(馬に食わせるほど!)出すところはだいたい決まっているが、そういうところの処方には重複がみられることがある。仔細に調べてみると薬をすべて止めても差し支えないと思われる場合もある。患者さんが訴える症状に対する薬を出して、その薬の副作用を抑える薬を出して、更にその薬の副作用を抑える薬を出して…と、きりがない。そもそも薬を出そうが出すまいが結果が変わらないような状態もあるわけである。
そこで、「薬を減らしてもらったら」と言っても本人からはなかなか言い出せないようだ。当院で1種類だけ必要な薬を出そうとしても「先生、これだけ薬を飲んでいるのでこれ以上飲めません」と言われてその種類と量に驚くが、必要なのに困ったことである。こういうのを見ると、政府が薬価差益をなくしたくなる気持ちもわかる気がする。「6種類以上の薬を出すのは犯罪である」という医師もいるが、本当の意味での薬の効果を見直す必要があると思う。

医師の責任

平成19年4月18日(水)
生理不順で来院される患者さんは多いが、ほとんどの場合治療の必要はなく経過観察で問題ない。それでも時にはうつ病またはうつ状態のために排卵がなくなっている人もいる。
先日もそういう患者さんが来られたのだが、聞いてみると近くの(産婦人科ではない)クリニックを受診していて数ヶ月前から薬をもらっているとのこと。クリニックの医師はうつ病ではないと説明しているそうだが、抗うつ剤が処方されており、自覚症状がいっこうに良くならずつらそうである。
ひと目でうつ病もしくはうつ状態だと判断して、すぐに信頼できる精神科に紹介したところ、「重症のうつ病で、現在処方されている薬は効果がないようなので薬を変えて治療してみます」とのことであった。それまで治療していたのは精神科が専門ではないクリニックであったが、処方されていた薬の副作用で乳汁分泌も起こっておりそのフォローもしていなかった。
私の同期のY先生は、10年間産婦人科の修練をして非常に優秀であったが、思うところがあって産婦人科をやめて内科に変わった。そして新たに内科の研修医から始めて約10年修練して「内科医院」を開業した。「産婦人科」の看板を同時に出しても何ら問題ない、むしろ産婦人科医としての技術を使わないのはもったいないと思うのに。彼にとってはあれもこれもなどとは考えられないことだったのだろう。
どの分野もそれぞれ深いものがあるので、自分がきちんとやったという自信のない分野には手を出さず、それぞれの専門家に任せるのが患者さんのためになると思う。特に精神科はセンスがなければ難しい分野だと思うので、医師だからといって何でも治療すればいいというものではないだろう。自分も含め医師はもっと自分の専門を大切にすべきである。それがひいては他の専門分野を尊重することであり、患者さんのためになるのだから。

何のための健康診断

平成19年3月31日(土)
先日も当院にかかっている患者さんが、健康診断で尿の潜血反応が陽性だったので医療機関を受診するようにいわれたと来院された。健康診断が行われたのはなんと!去年の11月である。いったい何のための健康診断なのだろうか。法律で健康診断を義務付けているために、各企業は仕方なしに行っているわけだが、健康診断そのものが無意味であるとわかった以上法律を変えてやめるべきである。なるほどドックも含め健康診断そのものを始めた頃は有用だと思っていたし、それはそれでよかったかもしれないが、有用性が否定されたのだからやめるべきである。なにより対象となる人が気の毒である。何の役にも立たないことを義務として検査され、異常が見つかったからといわれて医療機関を受診する。それも何ヶ月もたってからである。急を要する疾患なら遅すぎるし、そうでなければ治っているかそもそも受診する必要のない指摘が多い。二重の意味でむだな負担を強いられている。
何度でも言うが、症状もないのにこれらの検査をするのは百害あって一理もないのである。早期発見すればなんでも良くなると思っているかもしれないが、治るものは治るし治らないものは治らないのである。こんなことを言っては身も蓋もないが医師の役目は「癒し」であり意味のない検査や治療と称して苦痛を与えることではないはずだ。

健康診断の義務をなくせ!

平成18年10月2日(月)
職場の健康診断で検尿に異常があるので、医療機関でくわしく検査するようにいわれて来院された人が今日もいた。その健康診断が行われたのはじつに1ヶ月!前で、本人は自覚症状はなにもないという。調べたところ尿も正常で何も問題ない。
こういうケースは実に多く、たとえ軽い膀胱炎でも自然に治ることもあれば、悪化することもある。前者なら放置しておけばよいし後者ならすぐに抗生物質を処 方しないと腎盂炎になりかねない。健康診断の結果が本人に知らされるのはおよそ1ヶ月くらい後だろうから、急性の病気には意味がなく、治っているものには 更に意味がない。時間とお金のむだである。
そもそも健康診断(人間ドックを含めて)に意味があると思われたのは学校や職場での結核を防ぐという意味においてであり、現在のような健康診断が意味があ るという証拠はいまだにないのである。厚労省は健康診断には血圧の測定ぐらいしか意味がなく、健康の増進および病気の悪化を防ぐ証拠はないとの報告書を出 したというのに、いまだに職場の健康診断が法律で義務付けられているのはどういうことだろうか。全国で行われているこれらの健康診断に要する費用を介護に まわしたら、介護の内容がどれだけよくなることだろう。早く気付いてほしいものである。

中絶よりもピルを

平成18年8月23日(水)
今月の前半には中絶手術を希望する人が多かった。いろいろ事情はあるのだろうが女性にとっては心身ともにつらいことである。いつも処置後1週間目に来院し てもらい順調に回復しているかを確認することにしているがその際、ピルについて必ず説明するようにしている。何人かに一人はピルを飲んでみようと思われる ようで、実際に使ってみて気に入ってくれる人が多い。
女性は避妊については自分でコントロールすべきで、男性にまかせるのはどうかと思う。やはり自分の身は自分で守らないと、男性は女性の大変さがわかってい ないのである。中絶で傷つくのは女性であり、安全なピルという方法があるのだから考えてみてもいいのではないだろうか。ピルには避妊以外に生理痛の緩和や 生理周期の安定、過多月経の改善など副効用があり、むしろこのために飲む人の方が多いのである。

妊娠に気付かない?

平成18年7月19日(水)
女性が妊娠していることに気付かないことが本当にあるのだろうか?
妊娠女性を診察するのはいつものことだが、妊娠の事実を告げると「えっ!うそでしょう」と心底おどろく人がいる。そういう人には超音波の画像を見せながら 説明するが、妊娠の画像を見てもなかなか信じられない様子である。ほとんどの人は生理が遅れてつわりが始まったりして妊娠かなと思っているのでやっぱりそ うかという反応なのだが、たまになかなか納得されない人がいるのである。中には妊娠5ヶ月で胎動があるのに妊娠に気付かず、それを指摘すると驚く人もい る。
こんな時に思うのが、本当に気付かないのか、うすうす気付いていても認めたくないのかどうなのかである。妊娠初期なら気付かないこともあるかもしれない が、妊娠中期まで普通の女性が妊娠に気付かないのは不思議である。以前四国の病院に勤めていた時、「お腹が痛い」とのことで内科を受診して妊娠のようだか らと産婦人科にまわされてきた人は、妊娠9ヶ月の終わりで遠からぬうちにお産になったが本人は知らなかったと言う。本当に気付かなかったかいまだ疑わしい が本人がそう言うのだから仕方がない。実際のところどうなのか謎である。

医者の匙加減

平成18年7月15日(土)
患者さんの状態に対して医者によってずいぶん対処の仕方が違うものである。
最近セカンドオピニオンを求めてきた患者さんが二人おられたが、二人ともまったく同じことを言われて意見を聞きに来られたのである。自分ならそこまでの検査と治療をしないだろうと思われるケースだが、それ自体は間違いではない。たとえて言えば、街中は危ないからきちんとした服装とついでに傘も持って出かけ るか、そこまでせずふつうの服装でいいのかということである(あまり良いたとえではないが)。本当に必要なら重装備も良いが毎回ではたまらないだろう。色々考えさせられたことであった。