カテゴリー 本

「藤井聡太の鬼手」

令和6年7月19日
表題は今を時めく藤井聡太棋士の令和元年から5年までの棋譜から、プロの棋士も驚くような指し手を特集した本である。令和元年から2年までと、3年から5年までとの2冊に分かれ、日本棋士連盟・書籍編集部編である。
彗星のごとく現れてあっという間に八段に上り詰め、タイトル全冠制覇を果たした若き天才棋士・藤井聡太氏の「鬼手」を解説付きで紹介している。終盤の詰めを読むスピードと正確さはぴか一で、途中の指し手の発想もすごいものがある。最近はコンピュータによる形勢判断がある意味でプロの棋士よりも的確になっていて、プロの棋士も参考にしているというが、その読みをさらに上回った発想を示した1局もある。
一時、プロ棋士がコンピュータの将棋ソフトと対戦して負け越したことが話題になったが、藤井聡太棋士のような天才が現れると「まだまだ人間はすばらしいな」と思わずにはいられない。願わくばこのままずっと第一人者で進んでいってもらいたいものである。

「がん闘病日記」森永卓郎著

令和6年7月5日
表題は経済アナリスト森永卓郎氏の新刊で、近刊の「ザイム真理教」「書いてはいけない」に続く3部作である。現在氏は原発不明のがんを患っていて、抗がん剤の副作用で死にかけ、要介護3の状態になっているが「死んではいいと思ってはいないものの、延命にはこだわっていない」という。それは、いつ死んでも悔いのないように生きてきたし、今もそうして生きているからだ。それを伝えることをメインテーマにしている。
東大の経済学部を出てJTに入社、財務省の奴隷だった経験をもとに書いたのが「ザイム真理教」でベストセラーになった。職場はいくつか変わったが、いずれも面白くて頑張ってやりたいことをやっているうちにコメンテイターとしてテレビに出るようになり、いつのまにかテレビ・ラジオで番組を持つようになった。経済関係の本も多数出版し、獨協大学経済学部教授、農業の経験、60年近く集めてきたおもちゃなどのコレクションを展示する「B宝館」という私設博物館をオープンするなど、やりたいことをやってきた。童話作家にもなりたくて書いた童話もこの本に載せている。
肩ひじ張らず思うままに生きてきた氏の来し方が語られていて、興味深く読ませてもらった。

「検証・コロナワクチン」

令和6年6月28日
表題は名古屋大学名誉教授、名古屋小児がん基金理事長の小島勢二氏の著作である。副題は「実際の効果、副反応、そして超過死亡」で、先端医療の最前線を行くがん専門委である著者が、リアルタイムで追い続けたコロナワクチンの詳細を時系列で語っている。
コロナワクチンの接種を目前に控えた2,021年2月に医療系雑誌に「私がコロナワクチンの接種に慎重な理由」という論文を載せたのを皮切りに、「コロナワクチンにおける情報公開」「コロナ禍が我が国にもたらした財政負担」「コロナワクチンの効果」「子どもへのワクチン接種」「コロナワクチン接種後の死亡事例の報告と救済制度」「コロナワクチン接種による中・長期副反応」「超過死亡」などの論文を2,023年まで相次いで発表している。
すべて公的に発表された資料をもとに、国内・国外のデータ、論文を読み、さまざまな提言をしてきた経過が記されている。
一冊にまとまった著作を丸善で見つけ、早速購入し読んでみた。小島氏は常に真摯に偏ることなくコロナワクチンの功罪を綴り、是は是、非は非と実際のデータをもとに詳細に分析して提言している。実に説得力のある論文で、実にまっとうな内容である。
今になって我が国のコロナに対する対処がいかに間違っていて、当時から的を射た提言をしていたまじめな学者を無視してコロナワクチン(遺伝子治療薬)を打ちまくっていたかがはっきりしてきている。
当時、ワクチンを薦めまくって莫大な金額の損失を出し、多くの超過死亡をを出したというワクチン行政の総括を、政治家も専門家(と称する人々)もマスコミもせず、知らん顔を決め込んでいる。恥を知れ!と言いたい。

「美しい日本の言霊」

令和6年6月14日
表題は数学者藤原正彦氏の著作である。氏は日本人にとって日本語は最も大切なもので、情緒を育てるのも優しさやあわれを感じるのも、美しい日本語あってのものだと以前から述べている。そのなかで、氏の好きな日本の歌を紹介しながら自らの生い立ち、体験を織り交ぜて解説している。私にとって氏は自分より9歳年上なので、共通する好きな歌は一部しかないけれど、どれも気持ちが伝わってきて共感させられる。
「ぞうさん」「たきび」など自身の幼少の頃の思い出と共にその歌を味わっている。「花の街」江間章子作詞・團伊玖磨作曲の歌は私が高1の時、音楽の時間に習った曲で、非常に好きな歌であるが藤原氏もお好きなようである。さらに「琵琶湖周航の歌」「別れの一本杉」「22才の別れ」「なごり雪」「ふれあい」「踊子」「月の砂漠」「秋桜」「学生街の喫茶店」なども共通の好きな歌である。これらは歌詞を見るだけで当時を思い出して懐かしくなる歌たちである。

「俺は100歳まで生きると決めた」

令和6年5月31日
表題は歌手で俳優の加山雄三氏の著作である。現代の健康ブームにまさにぴったりの作品で、思わず手に取ってみた。氏はもうすぐ87歳になるというが心身ともに健康で意欲も充分あり、やりたいこと(作曲・ラジオ出演・油絵・飛鳥の名誉船長など)もたくさんあるそうだ。自前の歯も27本あり毎朝スクワットをしているという。タバコは52歳で止め、酒は63歳で止めた。奥さんの松本めぐみと「エレキの若大将」で共演し結婚、ずっとおしどり夫婦を続けている。80歳になった時に脳梗塞で入院、幸い後遺症なく退院したがその後小脳出血も経験、それでも生活に不自由はない。また、80歳の時に持ち船の「光進丸」が原因不明の炎上し、沈没させたが「船の維持に相当な費用がかかるのでかえって良かった」と気持ちを切り替えている。
加山氏のすごさは身体が丈夫なこともあるが気持ちが常に前向きでへこたれないことだと思う。33歳の時におじが経営していたパシフィックホテル茅ケ崎が倒産、おじは姿をくらましたので、書類上の共同経営者の加山氏が23億円の負債を抱えてしまった。それでも気を取り直して返していこうと決め、コツコツ頑張っていたらホテルが17億円で売れてずいぶん楽になったという。気の持ちようが一番大切なことを教えてくれる著作である。

「穏やかな死に医療はいらない」

令和6年4月19日
表題はがん専門の「緩和ケア萬田診療所」を営む萬田緑平医師の著作である。萬田氏は群馬大学医学部を卒業し17年間外科医として働き数百枚の死亡診断書を書き、その後在宅緩和ケア医になって14年間で1500枚の死亡診断書を書いたという。2,000人以上の死を見てしみじみ思うのは、生き方が死に方に出るということであると。
外科医として第一線で働いているときは、病気を治す・延命を図ることにひたすら頑張ってきたが、治せない・治らないがんを見続けているうちに、治療できなくなった患者さんの悲惨な姿を見るうちに、緩和ケア医になることにしたという。患者さんの治療(抗がん剤など)がいかに過酷で寿命を縮め、穏やかな死を迎えさせなくするかを見て今の診療所を立ち上げたのである。
萬田医師のもとで終末期を迎えた人たちの穏やかな死は、病院でチューブのつながれて苦しんで亡くなることと比べてどんなに人間らしいか。それを実際に行っている氏の著書を読むと、こういう医師が近くにいたらどんなに心強いことだろうと思う。今、日本中で同じような志を持って在宅治療をしている施設も増えているように感じる。そうなってほしいと熱望する。

宇能鴻一郎再び

令和6年4月12日
新潮文庫より復活新刊となった宇能鴻一郎の短編集「姫君を喰う話」と「アルマジロの手」は本屋で偶然見かけて読んでみたが実に面白かった。
氏は昭和9年生まれで、東大大学院在学中に発表した「鯨神(くじらがみ)」で芥川賞を受賞し作家活動に専念する。ユニークな作品を発表していったがいつのころからか「あたし濡れるんです」というエロかわいい官能小説で一世を風靡し、高額所得者の作家部門で7位になり「ポルノ宇能さん」と呼ばれるようになった。その後は氏の作品を見ることはなくなり世間から忘れられた存在だったが、この度初期の作品集が刊行されそのすばらしさに触れて他の作品も読みたくなった。
氏は満州での敗戦体験が原型にあり、食と官能を生命力の象徴として信用し、戦後の文化人が大切にした「正義」や「常識」などは一夜にして変わるものだとして信用していなかった。そして人間の奥底にある欲望、願望、妄想を抉り出す作品を生み出していった。実に味のある作品ばかりで、今後も氏の作品は残っていってほしいと思う。

「免疫学夜話」

令和6年3月1日
表題は大阪公立大学の橋本求教授の著書で、自己免疫疾患がなぜ起きるようになったかを考察したものである。語り口がなめらかでわかりやすく、そうだったんだと納得することが満載で、近年稀な名著である。
帯に養老孟司氏の「人類はウイルス、細菌、寄生虫との戦いと共生の歴史。読むとやめられなくなる」とあるが、まさにその通りでこれほど的確な推薦文はない。
紀元10万年前に南アフリカで類人猿からヒトに移った「マラリア」は人類史上最も古い感染症で、現代でも年間2億人が罹患し、60万人が亡くなっている現在進行形の病である。マラリアはマラリア原虫という寄生虫を持つハマダラ蚊に刺されることによって起きる。マラリア原虫はかつて光合成をしていた藻類から葉緑素が失われて寄生虫になったことがわかってきたが、ヒトの赤血球はマラリア原虫が生きるのに最適な環境のためにそこで増殖し、赤血球を破壊して次の赤血球に移ることを繰り返して行く。
マラリアから逃れるために遺伝子変化して鎌状赤血球になったヒトは、マラリアにかかりにくい。また、マラリアに強い遺伝子変化をしたヒトはSLEに罹患しやすくなっているという事実があり、SLEはマラリヤと同じ症状の自己免疫疾患である。自己免疫疾患は感染症から逃れるために遺伝子変化してきた人類の宿痾のようなものではないだろうか。アレルギーもそのような一面があり、ヒトと感染症のかかわりはどこまでも続くのである。
シマウマの縞はなぜあるのか、など面白い話題満載のこの著書は座右の1冊にしたいと思う。

「沢田研二」

令和6年2月22日
表題は音楽などの著書が多数ある作家・中川右介氏の著作である。522ページもある朝日新書からの労作で、本屋で偶然目に留まり購入した。沢田研二がグループサウンズ「タイガース」のリード・ヴォーカルとして活躍を始めたのは私の中学時代で、他にも様々なグループが活動していてまさにグループサウンズ全盛期だったが、あっという間にフォークグループに取って代わられ、さらにニューミュージックが主力になるなど音楽界の変遷があった。その中で沢田研二を中心にして当時の音楽事情を詳細に調べ、記述しているが、当時の歌手や作詞家・作曲家の名前が懐かしいものばかりで、あっという間にあの頃に戻ってしまった。
思春期から青年期にかけての多感な頃に聞いた曲たちは今でも鮮明に心に残っている。当時はレコード大賞があり紅白歌合戦は今では信じられない高視聴率の番組で、大みそかは家族全員が炬燵で見るのが普通だった。大学時代にアルバイトをしていた店に沢田研二が関係者に連れられてきたことがあったが、知らずに部屋に飲み物を運んだらそこにあのジュリーがいたのでびっくりしたものである。
この著書は資料としても一級品で、当時のことを知りたければこの本を紐解けばいい。久しぶりに懐かしい頃をふり返ることができた。

「不妊治療を考えたら読む本」

令和6年2月2日
表題は不妊治療専門の浅田レディースクリニックの浅田義正理事長と出産ジャーナリスト河合蘭女史の共著で、不妊治療についてわかりやすく解説すると同時に、最先端の技術について丁寧に説明していて、一般の人はもとより不妊を専門にしていない医師にとっても、世界の「今」の流れのわかる優れた著作である。
不妊症の治療として体外受精、顕微授精が行われるようになって、この分野はどんどん新しい技術が開発されてきた。さらに体外受精して胚になった状態を凍結保存する方法としてガラス化法が生まれ、凍結保存した胚の妊娠率が新鮮胚移植による率を上回ってきている。
我が国のARTによって生まれてきた子供の数は6万人を超え、13~14人に一人になっている。一方、興味深いことに体外受精の件数はアメリカより多いのに、採卵1回あたりの出産率は最低だという。これは世界のARTをモニタリングしている組織ICMARTによる60ヵ国の調査で報告され、日本の技術は決して低くないのに成功率が際立って低い事実がわかった。原因はARTを行う女性の年齢が他の国に比べて高いことだという。
これからもARTの技術は進んでいくだろうが、年齢についてはどうしようもないと思う。妊娠を希望したらできるだけ早く取り掛かることが大切である。