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母里啓子著「もうワクチンはやめなさい」

平成26年11月21日(金)
表題の著書は以前にも紹介した「インフルエンザワクチンはいらない」を著しており、その続編ともいうべきものである。氏は元国立公衆衛生院疫学部感染症室長であり、わが国のワクチン行政にかかわってきた疫学のプロである。氏は一貫して現在のわが国のワクチン制度に対してきちんとデータを示したうえで疑問を呈している。
有効なワクチンは少数存在するが、最近乳幼児に打つことを奨励するようになったワクチンの数はとんでもなく増えていて、乳児死亡率が世界で最も少ないわが国で本当に必要なのだろうかと思わざるを得ない。副作用による死亡にはだれが責任をとるのだろうか。WHOのバックにいるビッグファーマによるワクチン販売の世界戦略に乗せられているとしか思えないわが国のワクチン政策は、最終的にわが国のお金をこれらの巨大製薬会社に吸い上げられることになる。以前大騒ぎしてわが国に備蓄した「タミフル」も効果はほとんどないことがわかってきたが、海外製薬会社に支払われた数百億円のお金(われわれの税金)はなんだったのだろう。
これらのさまざまな矛盾は簡単には解けそうにないので、実際に患者さんに接している我々が、徒にワクチンを勧めないことで食い止めるしかない。

発想の転換

平成26年10月31日(金)
30数年前、私が母校の産婦人科に入局した頃は、一人前の医師に育てるための優れた教育制度があり、産婦人科医としての基本をしっかり教わった。母校は歴史もあり代々受け継がれてきた「レーゲル集(現在のガイドライン)」に基づいた検査・治療法を先輩医師より丁寧に教え込まれた。このことはその後の医師人生にどんなに役に立ったことか、本当に感謝している。
時代は変わり経膣超音波検査法が一般化してくると、妊娠の診断・予後に対する従来の考え方が大きく変わった。この検査法は子宮の中がクリアに観察できるので、妊娠初期の状態が的確に診断できる。流産するのか子宮外妊娠・胞状奇胎などの異常があるのかが安全にわかるようになった。そして流産は妊卵の細胞分裂の異常によるもので、一定の割合で起きることがわかり、従来の安静・止血剤・子宮収縮抑制剤の投与の効果が疑問視されるようになった。かつては切迫流産という病名で入院・安静・点滴という治療が多くの病院で行われていたが、現在はほとんど見られなくなった。
その当時、治療効果を信じて入院していた人たちは、今から考えると気の毒で仕方がないが、当時は医師も治療効果を信じて行っていたのである。現在行われている色々な病気に対する検査・治療の中にも将来、意味がなかったといわれるようなものもあるはずだ。発想の転換をすればムダと思われるものは容易に見当がつく。その最たるものは老化とがんに関するものだと思う。有害無益と思われる検査・治療をやめるのも大切なことである。

低用量ピルの副作用について

平成26年9月25日(木)
愛知医科大学の若槻明彦教授の講演があった。低用量ピルは、避妊、生理痛の改善、生理周期の安定化、子宮内膜症の治療、卵巣がん・大腸がん発生の抑制など多くのメリットがある一方、血栓症の発生頻度の増加が問題になっている。そのことについて実際はどうなのか、対策はどうするのかという話で、興味深く聞いた。
ピルはメリットがデメリットをはるかに上回る薬であるが、副作用をなくすよう努めなければならない。静脈血栓症はピルを服用していない人にも発症するが、もっともリスクが高いのは妊娠である。妊娠中と産後3か月の血栓症の発生頻度は非妊時の10倍以上になるという。次いで問題なるのは喫煙である。以下、高年齢、肥満もリスクが高くなる。だから喫煙以下、リスクの高い人にはピルは勧めないのが原則である。血栓症が起きるのはピル内服開始3か月以内が最も多く、その時期を過ぎれば血栓症のリスクは低下する。だからその時期は特に気を付けなければならない。血栓症の発症を予知する方法はないということなので、一層注意が必要だと思ったことである。

ベセスダシステムについて

平成26年9月19日(金)
慶應義塾大学産婦人科、岩田卓講師の講演があった。子宮頸がんの細胞診の問題点を改善しようと、アメリカのベセスダという処に米国の専門家が集まり委員会が組織された。そこで従来の方法を改善すべく考えられたのがベセスダシステムで、現在はアメリカだけでなく世界でも使われるようになった。わが国でも従来のパパニコロウ細胞診から上記の方法に変えてきている。
ポイントは子宮頸がんの原因といわれているHPV(ヒトパピローマウイルス)の感染を関連付けていることで、従来の検査法より少し精度が上がっているそうである。もちろんこの方法も最善ではなく、今後も改善していくことになるだろう。ただ、感想としては本質的な意味で「がん」の治療ができない以上、検診の精度が上がってもなあと思ったことである。

「成人病の真実」再び

平成26年9月3日(水)
久しぶりに近藤誠医師の表題の本を読み返してみた。「成人病の真実」は平成14年(2002年)に出版された本で、近藤医師が平成13年4月より文芸春秋誌に掲載した論文をまとめたものである。
氏の文章は平明でわかりやすく、出典も常に明らかにしており論文として優れたものである。今回読み返してみて、現在の医学の進展?から検証しても内容にいささかの訂正の必要もなく、ほんの一部ではあるがやっと医学界も認めてきたところがある。ただ、医療経済の面からは、全部認めれば医療費が縮小するからその方向にはいかないだろう。
タイトルだけあげれば、「高血圧症3700万人のからくり」「コレステロール値は高くていい」「糖尿病のレッテルを貼られた人へ」「脳卒中予防に脳ドック?」「医療ミス、医師につける薬はない」「インフルエンザ脳症は薬害だった」「インフルエンザワクチンを疑え」「夢のがん新薬を採点する」「ポリープはがんにならない」「がんを放置したらどうなる」「主要マーカーに怯えるな」「定期検診は人を不幸にする」など、なかなか刺激的である。でも著書からは患者さんに不利益を被らせないようにしようという、氏の真摯な思いが伝わってきて、その努力と勇気に満腔の敬意を表するものである。

出生前遺伝学的検査の現状と課題

平成26年6月20日(金)
昭和大学の関沢明彦教授による表題の講演があった。わが国では結婚年齢の上昇に伴って高年妊娠・出産が増えている。母体年齢が上がれば流産率も増え、先天異常の割合も増えてくるので、出生前検査の確かさと安全性が求められる。かつては染色体の異常を見つける方法は羊水検査だけであった。この検査は、妊娠4か月の末頃にお腹から直接子宮に針を刺して羊水を採取し、羊水に含まれる胎児由来の細胞から染色体を抽出して調べるので、母体への負担が大きかったし時間もかかった。現在でも最終診断としてこの羊水検査は行われているが、その前にスクリーニングとして母体血による検査が開発されてきた。
妊娠時には母体血中(血漿中)に胎児由来のDNAが含まれていることがわかり、それを分析することにより遺伝子の異常がかなり正確にわかるようになった。血液を調べるだけなら羊水検査に比べれば負担が少ないので、希望者も増えると思われる。費用がかかることや100%の確かさはないことなど課題はあるが、技術の進歩は素晴らしいことである。

生理不順は病気ではない?

平成26年6月4日(水)
生理不順で来院される人が多いが、治療の必要なケースは少ない。かつては、生理不順だと妊娠しにくいから毎月生理が来るようにしなければならないと言われていたし、今でもその方針で治療している施設もある。確かに下垂体腫瘍や卵巣自体の異常など治療を要する場合もあるが、ほとんどは排卵自体が遅れる傾向のある卵巣か、ストレスなど精神的な問題によって起きていると思われる。
ストレス、うつ、摂食障害などによるものは、その原因を克服するしかないし、精神科の助けが必要になる。そしてこれらの原因がなくなれば自然に排卵は起きてくる。
排卵自体が遅れる傾向の卵巣をPCOタイプの卵巣(ガイドラインどおりではなく、そのいくつかの条件を満たすものである)と称しているが、このタイプの人の多いこと。排卵→月経は妊娠するために起きているので極端に言うと、年に1回しか排卵がなくても妊娠すれば問題ないのである。現に、ヒト以外の哺乳類は年に1~2回しか排卵しない種の方が多い。そしてPCOタイプの人がこれだけいるということは、生物学的に適者なのである。生物の世界はきびしくて適応能力のない種はすべて滅びている。だから体調に不都合なことがなければ、生理不順があっても治療しなくてもいい。適者に対して医者ごときが手出しをすべきでないという発想の転換が必要である。ムダなことはできるだけしない方がいい。

わが国の少子化を考える

平成26年5月23日(金)
慶応義塾大学産婦人科名誉教授の吉村泰典氏による表題の講演があった。氏は内閣官房参与もされているわが国の産婦人科の重鎮である。結婚年齢の上昇と未婚率の増加に伴って、少子化が進むわが国の現状をなんとかしようと活動しておられる。このままでは高齢者1人を若者1人が支えることになり、人口の減少と相まってわが国の存続が危うくなると具体的に数字を挙げて説明された。
政府はどうすれば人口が増えるか様々な角度から検討してるようだが、こういうものは時代の流れと共に起きているので簡単には変えられない。どの民族にも歴史があり人の一生に例えられるような時代の変化がありその流れは誰にもどうしようもないことである。今の日本は成熟期から老年期に入っていると思われるが、安定した息の長い老年期にするのか、急速に衰えていくのか今が正念場である。子孫のために息長く生きていけるようなシステムを考え、残すことが我々の世代の役割である。こんなことを考えるようになったのも、文字通り自分たちの子、孫、を折に触れて目にするからだと思う。

生物には「むだ」がない

平成26年4月17日(木)
先日の新聞に、大阪大学の研究によれば、いままでは退化器官で必要がないと思われていた虫垂に腸内の免疫をつかさどる役目があることがわかった、という記事があった。学生時代には虫垂は退化器官でいずれ無くなるだろうと教わった記憶がある(ニワトリの虫垂は大きくて消化に役立っているようだとも教わった)。
必要のないものなら無くなっていてもいいはずの「虫垂」があるのは不思議であった。きっと何かの役割をはたしているはずだと思っていた。だから、帝王切開や子宮筋腫の手術の際、「これから先に虫垂炎が起きないように盲腸(虫垂)を取っておきましょうか」と好意で患者さんに話す先輩医師の言葉に違和感を持っていた。かつては虫垂切除は最もポピュラーな外科手術であり、多くの人が虫垂切除術を受けていたがこれからは慎重にならざるを得ないだろう。
生物が種として生き残る時、ムダなものをかかえられる余裕はないはずである。生存競争はそんなに甘くない。現在ある器官は、たとえそれがどんな役割を果たしているのかわかっていなくてもすべて必要なものであると考えられる。手術による器官の切除は慎重のうえにも慎重にするべきである。

免疫システムと妊娠

平成26年3月7日(金)
生物のしくみは実にうまくできているが、その中でも免疫システムの精密さは驚異的である。我々の体に異物(細菌、ウイルス等)が侵入したら、即座に「貪食細胞」や「NK細胞」が反応する。これらは前線部隊で、後に控えた「B細胞」「T細胞」が救援に向かう準備を始める。「B細胞」は抗体を作り異物を無力化し「T細胞」はウイルスや病原体が入り込んだ細胞を攻撃する。準備には数日かかるがほぼどんな異物にも対応できるようになっている。
問題はこのシステムが精密すぎると「自己」を攻撃するようになることである。成人の細胞は変異遺伝子が貯まってくるので「変異ペプチド」ができて、これらのシステムに攻撃される可能性が起きる。そうなれば自分で自分を滅ぼすことになるので、寛容さも必要である。その代表的なものとして「制御型T細胞」があり免疫反応を抑制する。これらの絶妙のバランスで免疫システムは成り立っているのである。
妊娠するためには、精子という異物が免疫システムに攻撃されず体内に入り、卵子と結合(受精)しなければならず、その後も半分の遺伝子は異物なのに子宮内で胎児として育たなければならない。胎児を攻撃しないようにするために「制御型T細胞」が大きな役割を果たしているらしいが実にうまくできている。生命のしくみはまことに興味深いものである。