月別記事一覧 2020年4月

WEB学会

令和2年4月24日
武漢コロナウイルスのために日本産婦人科学会がWEB参加のみになり、会員はネットで講演を視聴することになった。この学会は産婦人科の最も大きな学会で、今年は東京で開かれる予定であったが、3密を避けるためにインターネットでの参加になった。例年この学会は東京、大阪など大都市で開催されることが多いのだが、何しろ参加するとなったら1~2日は診療を休まなければならないし、往復の時間がかかるうえに宿も取らねばならず、負担が大きすぎるのであまり参加していなかった。一昨年の学会は広島で行われたので参加できたが、今年は無理だろうと思っていたところ思いがけずWEB学会になった。
早速申し込み、会費を振り込んで、23日から開催されている学会講演を視聴している。経験してみるとこれほど快適な学会はないと思う。いつでも内容を確認でき、途中で止めて用事を済ませて続きが聴ける。わからなければ何回でも聴けるし、本来なら聴きたい講演が同時に別の会場で行われていたらどちらかを選ばねばならないのだが、全部聴ける。これなら全国の医師も参加するために多大な犠牲を払わなくて済むので、これからは学会はWEBでやってほしいと思った。難点をあげれば親睦の機会がなくなることだが、個別に会えばいいわけでなにほどのことはなかろう。これからはWEB学会になることに1票!

灯の消えた街

令和2年4月17日
3月の終わりにはまだ武漢コロナウイルスの感染者は少なかったが、この2週間で広島県で100人を超えた。東京や大阪などの大都市の感染者の増加を他人事のように見ていたが、少し遅れただけで同じように後を追っている。都市の規模に応じた感染者数になるのだろう。そうならないように3密(集まらない、近づかない、閉塞空間を避ける…集・近・閉=シュウ・キン・ペイ)についての注意を呼びかけているが、生きていくためにはある程度動かないとダメなので難しい。経済に与える影響は計り知れず、まさに国難である。阪神淡路大震災も東日本大震災も国民が力を合わせて乗り切ってきたが、今回の武漢コロナウイルスは先が見えないうえに、力を合わせること自体が難しいのである。人は集まってあるいは接触しあって作業し力が出せるのに、互いに近寄ることができなければ力の出しようがない。
広島市内の人の数もめっきり減り、流川は閑古鳥が鳴いている。灯はついていても人がいないのは寒々しい風景である。フラワーフェスティバルをはじめすべての人が集まるイベントは無くなった。こうなった原因が地震や台風などの天災ならあきらめもつくだろうが、人災なら恨みは骨髄に達するだろう。

不妊症について

令和2年4月10日
初婚年齢が上がったので不妊の率もやや増えているが、今のような不妊治療のない時代からカップルの1~2割は不妊であった。原因は男性の場合は精子の数や運動率が悪いこと、女性の場合は最も多いのは卵管の通過障害と卵のピックアップがうまくいかないことである。排卵障害もあるけれど、ポイントは卵管である。さらに年齢が上がるほど妊娠しにくくなる。他にもいろいろな要素はあるが、まず卵管を調べることが大切である。
以前は卵管通過障害に対しては、卵管通気と卵管通水が行われていた。卵管通気とは子宮口よりCO2などの気体を送りこんでふさがった卵管を通そうとすることで、卵管通水は生理的食塩水を使う。通気法は今では行われなくなったが、通水は有効なので行われている。当院でも行っているが、できるだけ痛みを少なく素早くできるようにしている。それでも通過障害が改善しなければ体外受精(IVF)のできる施設に紹介することになる。
生物学はまだまだ不明なことが多く、不妊に関しても原因不明が5割もあるといわれている。不妊専門クリニックで行われているIVFは本来は卵管通過障害の場合に、卵を採りだして体外で授精させ、子宮に戻すことによって妊娠を期待する、いわば卵管の替わりを人工的に行うことである。卵や精子を扱って授精させることは神の領域と考え、IVF黎明期には院内で倫理委員会を開いて体外受精の適応かどうかを判断したうえで行っていた。現在は卵管に異常がなくても妊娠しない場合にはIVFを行っているようであるが、今から思えば隔世の感がある。

人工妊娠中絶術と胼胝(たこ)

令和2年4月2日
人工妊娠中絶術を行う方法に、従来からの鉗子と鈍匙による方法と吸引による方法がある。前者は熟練者にとっては安全で確実な方法であり、後者は比較的やりやすく血液を吸引するのできれいにできる。自分は40年近く前から前者の方法で行っているが、短時間で確実にできるので愛用している。麻酔は短時間で確実に効いて早く覚めるようにしているが、術後は3時間程度休んでから帰宅してもらう。昼から食事もとれるし翌日から仕事もできるようになる。
産婦人科医の基本はお産を安全・確実にできるように修練することと、人工妊娠中絶術を確実に行うことだと大学医局に入った時に教わった。子宮筋腫、子宮癌、卵巣腫瘍、子宮外妊娠などの手術や不妊治療がきちんとできるようになることも必須であるけれど、基本は妊娠にかかわることである。勤務医の時は主にお産に携わっていたが、開業してからは人工妊娠中絶術を行っている。鉗子を使うので、鉗子をつかむ親指と薬指指にいつの間にか胼胝(たこ)ができてしまった。妊娠はうれしいことで女性は産みたいのはあたりまえだけれど、一方でどうしても産めないこともある。その狭間で悩む人にとってはつらいけれど仕方ないことだと思う。右手にできた胼胝(たこ)にはそういう思いが詰まっている。