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マンモグラフィーは閉経後に

平成22年1月9日(土)
先日の新聞に、米国予防医学の部会が「40代の女性の定期検診にマンモグラフィーは勧めない」との勧告を出したという記事があった。昨年11月にこの勧告を出したとのことである。
マンモグラフィーも超音波検査も有用な検査法ではあるが、特にマンモグラフィーは乳房内の石灰化を見つけることがポイントであり、閉経前の女性に行う健康診断には有効性が疑問視されていた。
なぜ世界的に見ても乳がんの死亡率の低いわが国で、マンモグラフィーを閉経前の健康診断で勧めるのか疑問に思っていた。乳がんの専門医に聞いても、同じ意見であった。それが、「がん撲滅」などと、できもしないアピールを政府が行い、その流れで政治的アピールで行われたのではないか。検査のためのレントゲン、CTなど検査による被爆が世界一といわれるわが国で、さらにマンモグラフィーで被爆させようというのか。
今回の米国の勧告は、きちんとしたデータに基づいて出されたものであり、わが国(医学会も含め)が現在の方針を変えないのなら、その根拠となるデータを示す必要がある。

健診よりも保険証受診

平成21年12月9日(水)
健康診断やドックがかえっていらぬ心配をさせたり、むだな検査を増やしたりで、いいことはないと思っているが、先日健康診断のがん検診で卵巣腫瘍が見つかった人がいた。
自治体の行っている子宮がん検診も、ドックなどの健診も、基本的には内診して細胞を採取するだけで、きちんとした超音波などによる画像診断をするわけではない。文字通り「子宮がん検診」だけである。もちろん、内診で子宮や卵巣に異常を認めれば、詳しい検査をするように勧めるけれど、もしイヤだといわれればそれまでである。内診では診断に限界があり熟練した医師が慎重に診察しても、見逃しはある。今回の場合は、内診では非常にわかりにくく、別の症状があったので詳しい検査をした方がよいとお話して超音波検査をして見つかったのである。
なんらかの症状がある人はドックなどに行かずに、保険証を持って医療機関を受診すべきである。医療は本来、現在良くない状態を少しでも良くするのが使命であり、どこも悪いと思っていない人を無理やり検査して、怖がらせることではないだろう。早期発見、早期治療が本当に生命予後を伸ばしているというデータがないかぎり、これらの健診は不要だろう。

漢方薬はローカルドラッグ?

平成21年12月2日(水)
民主党が今行っている「仕分け」で、漢方薬を保険薬から切り離すことが、15人の委員のうち11人の賛成で決まった。つまり今まで医師の処方があれば定価の3割で手に入っていた漢方薬が、高くなるということである。かつて自民党時代の政府が、漢方薬は保険診療になじまないということで、保険薬から切り離そうとしたことがあったが、時の日本医師会長・武見太郎氏が強硬に反対して流れたことがあった。今回も、一部の反対者の意見で撤回される可能性が高いと思われる。
漢方は「証」でそれぞれの人に合う薬を調合して投薬する。だから同じ病気に見えても、一人ひとり薬の種類・量が異なるので、病名によって処方の決まる保険診療にはなじまない。加えてこれだけ長い間日本で使われてきたにもかかわらず、きちんとした有効・副作用の証明がない。生薬なので成分が一定していない。欧米では漢方製薬会社の猛烈な売り込みにもかかわらず、「漢方薬はローカルドラッグである」との位置づけである。理由はきちんとした検証がないからである。
わが国では「中国四千年の歴史」と称して漢方薬を必要以上にありがたがる風潮があるが、漢方薬で結核が治ったか?ピルのようにきちんと避妊効果のある漢方薬はあるか?やはり漢方薬は、一旦振り出しにもどして保険薬からはずして、きちんとした効果と副作用のデータを出したうえで、有効と認められたら保険薬に入れるのがスジではなかろうか。

分娩助成金制度の変更

平成21年10月5日(月)
先の政府のバラマキ政策のせいで全国の産婦人科が困っている。
10月から分娩助成金が直接お産をした施設に支払われるようになったのであるが、問題は3か月遅れで払い込まれることである。今までは、退院の時にお産をした人が直接施設に支払って、その後で個人に助成金が保険者より支払われていたので、各施設は現金がすぐに入ってうまく経営されていた。ところが急に(4か月前に告示された)2ヶ月間は現金収入がないことになったのである。
たとえばお産が月に50件ある施設の場合、入院費が1人40万円として40万円×50件は2000万円、2ヶ月分だと4000万円で、ただでさえぎりぎりで頑張っている施設がこの現金を自前で調達しなければならないのである。あとで返ってくるとはいえ資金繰りの心配をしなければならず、おまけにこの制度の事務手続きの煩雑なこと!これらをすべて産婦人科施設に押しつけておいて、一般の人たちには「安心してお産できるようにわが党(この場合は自民党)が頑張りました」とアピールしていたのである。
おかげでギリギリで経営していた分娩施設の中には、「もう止めた」というところが出てくるのは必定である。今ほど産婦人科医がやる気をなくさせられている時代はないのではなかろうか。

臓器移植法案

平成21年6月20日(土)
臓器移植の法案が衆議院で可決された。脳死をヒトの死と認めることを多数決で決めたことになる。
以前にも書いたが、ヒトの死という根源的な問題を国会議員に多数決で決めてほしくない。臓器移植をするために仕方なく決めたと思われるが、そもそも医療は個人的なものである。臓器移植にせよ借り腹問題にせよ他人がとやかく言う問題ではない。お互いが納得できていればいいと思う。
犯罪や金儲けは絶対にできないように監視することは必要だが、日本人の死生観からはこれらの行為がエスカレートするとは思えない。もっと議論を深めて、脳死をヒトの死とわざわざ言わなくても可能な方法もあるだろう。真理は多数決とはもっとも遠いところにあると思う。

ピルの使用を妨げるもの

平成21年4月11日(土)
中絶手術をして一番傷つくのは女性だから、すべてが終わって落ち着いた後でピルを勧めるようにしている。でもたまに、一旦ピルを飲みだしたのに、パートナーに反対されてやめる人もいる。
理由を聞いてみるとパートナーが「ピルは体に悪いのではないか」と言うらしいが、中絶と比べてどちらが悪いというのだろう。男性は痛くも痒くもないだろうが、実際に中絶手術を受けるのは女性である。今後は絶対に妊娠しないという自信があるのだろうか。コンドームを使っても妊娠する可能性は結構高いのに、もしまた妊娠したらどうするのだろう。今度は生むようにするのなら何も言うことはないが、そうでないのなら結局傷つくのはパートナーの女性である。
神代の昔から、女性は妊娠を自分でコントロールできなかった。そのために死に至るまでの様々の悲劇がおこってきたのであり、それをなくすために開発されたピルというすぐれた避妊の技術を使わない手はない。まことに残念なことである。

妊婦健診の無料化

平成21年3月23日(月)
妊婦健診の無料化が4月から実施されることになった。といっても、完全な無料化ではなく、全額の7割から8割の援助であるが。それでも今までの2割程度の援助に比べればいいことである。とりあえず2年間の時限立法だそうである。
最近の政府は国民全員にお金を配ったり、高速道路を安くしたり、妊婦健診を援助したりしてせっせとお金をばらまいているが、財源は本当にしっかりしているのか心配である。ただ借金を増やして今だけいい目を見させてあとは知らないよ、としか考えられない政策のように感じられる。真偽のほどはあと10年もすればはっきりわかるだろうが、その頃には責任者は引退していて知らん顔だろう。借金を残されたこれからの人たちがかわいそうである。目先の人気取りより、将来を見据えた政策を行ってほしいものだ。きちんと説明すれば多くの人は納得するはずである。

勘と超音波検査

平成21年2月19日(木)
胎児の超音波診断の講演会があった。妊娠5か月ぐらいになれば心臓をはじめ、いろいろな器官の異常がわかるようになっているが、今回の講演はまだ数センチの胎児(胎芽という)の時からすでに様々なことがわかることを提示していて興味深かった。
いつも超音波で胎芽や胎児を診ていると、なんとなくおかしいと感じたら大概は異常があるようである。その点は、人間の感覚(勘?)は数量化しなくてもわかるのが素晴らしいことだと思う。だから、診察していてなんとも思わない時には異常はないと考えていいのである。もちろん、きちんと測定して数量化して検証するけれど。
超音波検査だけでなく、すべてにわたって感覚(勘)は大切であり決しておろそかにしてはならないと思う。

妊婦健診の補助が増える

平成21年1月31日(土)
妊婦健診の補助金が増額されることになった。少子化対策の一環として舛添厚労相が「妊婦健診は無料にする」と大見得を切ったが、この国会で補正予算が成立したので2月には正式に額などが決まる。予算が決まり、分娩数がわかれば一人に補助できる額がわかるのだから、回数や検査内容などは産婦人科医会を信用して、まかせてくれればいいと思うがそうもいかず結構こまかく規制してくるようである。計算してみたが、本来の費用には少し足りないようだ。多分産婦人科が少しかぶるようになるのではないだろうか。
先日、広島市の担当の人たちとの会合でこちらの要望を伝えたが、予算がすでに決まっているのでいい感じで話し合えた。昨年は、かなり強く要望を伝えたが大筋は変える事ができなかったし、5枚の補助券の額が毎回異なっていて、あまりの煩雑さに不満続出だったので、そのことも含めて伝えておいた。きっと今年は良くなるものと思われる。やはりきちんと要望を伝えないと、妊婦さんも我われ医療従事者も迷惑する。

健康診断の(功)罪

平成21年1月17日(土)
先日の新聞の読者欄に、健康診断で大腸の精密検査をするようにいわれ、大いに心配し、さんざん痛い思いをしたあげく「異常なし」の診断で割り切れない思いをした、という投書があった。それに対して今日の新聞に、これらの検査に携わっている医師より、検査したら早期発見治療ができていいのだから大いに検査しなさい、という投書があった。
この医師は、精密検査を指示された患者さんがどんなに不安になり、辛い思いをしているのかを本当にわかっているのだろうか。それよりもまず、早期発見し治療した集団と、健康診断はせずに症状があってはじめて検査治療をした集団との比較で、両者の間に死亡数の差がなかったという数多くの欧米のデータをどう説明するのか。百歩ゆずって、早期発見早期治療が少しでも有効だとしても、1000人の疑いのある人の中から1人のガンの患者さんを見つけるために残りの999人の人に投書したような負担を強いることがよいことなのか疑問である。では100人に1人の割合だったらどうか、10人に1人ならどうか…。
いつも思うのは、どの比率のリスクなら異常のない人にも検査することが許されるか、ということである。保険診療でも、その線引きをいつも意識している。少なくともストレスを与えたあげく「異常ありませんでした」と心の痛みなしに言うことはしたくない。