平成20年9月10日(水)
乳がんの自己検診について、ことあるごとに説明している。どう説明しているかというと「月に1回ぐらいでいいから入浴の際、石鹸をつけた手のひらで直接乳房を洗って下さい、そしてその感触がいつもと違うと思ったら受診してください」と。さらに「この方法で、検診を受けた場合とほぼ同様の乳がん発見率があるというデータがあります」と付け加えている。
これにより少しでも負担が減ることを期待してそうしていたのだが、上海で行われた大規模くじ引き試験では、自己検診群と放置群とで乳がん発見数が同じだったという報告があり困惑している。
乳がん検診群=自己検診群=放置群、これでは何もしない方が負担が少なくていいことになる。そうなればますますがん検診を勧めにくくなるではないか。大規模くじ引き試験で検診の有効性を示すデータがないものだろうか。
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乳房の自己検診
岡田正彦著「がん検診の大罪」
平成20年7月30日(水)
新潟大学医学部教授の岡田正彦氏による「がん検診の大罪」という著書がある。この中で氏は、がん、高血圧、糖尿病など死因の最も多い病気について、正しい統計的手法を用いて、現在行われている検診、治療がほとんど無意味であると提言している。
内容は正確で反論のしようがなく、逆にそれらの検診や治療を勧める側に分がないと思われる。これらのことは以前より慶応大学放射線科講師の近藤誠氏が縷々述べていることと一致しており、まじめに医療に取り組んでいる医師たちの中にも賛同者は増えていると感じられる。斯く言う私もその一人である。
医師の仕事は患者さんを癒すことであり、わずかに寿命が延びたとしても、それが耐え難い苦痛の末に得られるものであれば、すべてを患者さんに話して治療を受けるかどうか自分で選んでもらうべきものであろう。少なくとも自分について言えば、検診は受けたくないし、むだな治療もしたくない。
根拠のないメタボ健診についても言及しており、どうしてこんな無意味な、医療機関だけが利するようなことをするのか理解しかねる。間違いがないのは、医者にかかるのは体の調子が悪い時だけにして、薬もできるだけ使わないようにすることである。
研修医制度の功罪
平成20年7月11日(金)
新聞によれば、小児科の研修医が大都市に集中し、地方には一人もいない県もあるという。現在の研修医制度が、厚労省の主導でできたときからこうなるのはあたりまえだと思っていた。
研修医は早く一人前の医師になりたい気持ちが強いので、最も勉強するし修練を積みたいと思っており、そのための最適の施設のある大都市の病院に集中するのは当然であろう。一体だれが、僻地の設備の少ない、充実していない施設を希望するだろうか。
今の研修制度ができるまでは、研修医の大多数は大学病院の自分の目指す科に入局してキャリアを積んでいた。歴史ある大学はいずれも研修制度が充実しており、何年間かかけてその人物に適した研修を行う。その大学が責任を持って派遣する病院が、大都市から地方までたくさんあり、それらの施設を過不足なくまわらせることによって、さまざまな経験をつませ、医師としてのバックボーンをつくるようにするのである。
明治以降、わが国に最も合うように長い時間をかけて作り上げられたこの大学医局制度を、厚労省は壊してしまった。小泉改革という名のもとに、アメリカの真似そのものの研修医制度を無理やり作ったのである。今になってあわてて医師を増やすとか、僻地に行くための医師を養成するとか、できもしないことを言っているが、もとの大学医局制度に戻せばいいのである。今ならまだ医局制度を経験した医師が大学にいるし、すぐに以前のようにできるだろう。でも、あと10年もすれば戻すことすらできなくなってしまう。厚労省は今こそ決断してほしい。
メタボ健診
平成20年6月28日(土)
40~70歳の人に特定健診(メタボ健診)が義務付けられた。この健診が将来の医療費を抑制できるということで始めることになったようだが、まさに見切り発車である。健康診断(ドックも含む)そのものが生命予後を延ばすとの検証もいまだないにもかかわらず、(延ばさないという論文ならいくつもある)追い討ちをかけるようにはじめられたのである。医療機関にとってはいいかもしれないが、普通に生活している人には迷惑な話である。
病んだ人、病に苦しんでいる人をすこしでも癒すために我々は存在するのだから、今困っている人にこそ時間と人手をかけるべきである。医療機関の数も医師・スタッフの数も限られた中で、健診にそれらを使うのは本末転倒である。本当に困っている人の視点から考えればおのずと答えは決まっているように思う。「過ちては改むるに憚ることなかれ」「君子は豹変す」という論語や易経の言葉に従って、改めるべきであろう。
檜垣先生の講演
平成20年6月13日(金)
先日、広島で最も多くの乳癌の治療をされている同門の先輩、檜垣先生の講演があった。我々が医者になった頃と比べて、日本女性の乳癌による死亡数が格段に増えていて、特に40歳台の患者さんが増えている事を実感を込めて話された。それでも欧米と比べて、まだ1/3から1/4ぐらいではあるけれど。
なぜ増えているのかは定かではないが、食生活の欧米化が原因ではないかということである。実際、米国在住の日系人(外国人との混血のない日本人)の乳癌の発症率はほぼ米国人と同じとの統計がある。
今回、いちばん聞きたかったのは、いつも患者さんに「自己検診が大切です。お風呂で月に一度でいいから石鹸をつけて、直接胸を洗ってください。それだけで検診に行くのと同じ程度に発見できます」が本当に正しいのかということであったが、「そのとおりです。間違いありません」とのお墨付きをもらい、意を強くしたことであった。
緊急避妊ピル
平成20年3月29日(土)
当院にはモーニングアフターピルを求めて来る人が結構いる。避妊に失敗したと思った場合に飲むと、90%台(成書によれば97~98%)で妊娠が防げるとの情報を知っているのだろう。実際のところ、一度に中用量のピルを2錠飲み、12時間後に同じく2錠飲むのだが、人によっては吐き気などの副作用がある。低用量のピルでも同様の効果が得られるが、この場合は種類により3~4錠飲むことになる。
どうせなら低用量ピルを毎日1錠飲むほうが避妊は確実にできて副作用もほとんどなく、生理痛や貧血も改善していいのにと思う。妊娠した場合に中絶して傷つくのは女性である。だから、自分の体は自分で守ってもらうためにも低用量ピルを飲むように一生懸命薦めている。
Bakerの仮説
平成20年3月10日(月)
昨日は、広島医師会館で県の産婦人科医会総会がおこなわれた。
講演は医会本部理事による無過失保証制度についての話と広島大学産婦人科の工藤教授による胎児と成人病にまつわる興味深い話であった。
この30年の間に先進国の中でわが国が最もSFDとよばれる小さな赤ちゃんを産む比率が高くなり、満期で生まれる赤ちゃんの体重が平均300g小さくなった。やせた女性が妊娠して、その後体重があまり増えないとSFD児が生まれる比率が増すという。今のわが国ではダイエットがブームとなっていて、欧米の女性から見たらむしろやせているのに、ダイエットをしている女性が多い。これがわが国にSFD児が増えた原因ではないだろうか。問題なのは、SFD児が後に糖尿病などの成人病を発症する比率が高いというBakerの仮説があり、この仮説が正しければ将来わが国は成人病が最も多い国になるかもしれないこと。
やはり、行き過ぎたダイエットは自分だけでなく、子供の将来にまで悪い影響を与えるのではということである。
健診は不要?
平成20年2月15日(金)
子宮がん検診で異常が認められたためいくつかの病院で複数回検査をしたところ、いずれも異常なしの結果が出たものの心配でたまらず当院を受診された人がおられる。
現在のがん検診システムをはじめ、健康診断システムがある限りこのようなことは起こり続けるだろう。第一に、がんの早期発見は本当にがん死亡数を減らせるのか。第二に健康診断によって本当に寿命は延びているのか。今の医療体制がすべて合理的・科学的であるのか。
医学を学び医師になって多くの経験を積むまでは、考えもしなかったことが見えてくるのはある意味つらいことである。やはり我々の仕事は眼の前の病んだ人を癒すために全力をあげることしかないのだと思う。
将来病気になるかもしれないからと、コレステロールだ、血圧だ、糖尿だ、メタボだと常に脅し続けて、現在どこにも不自由を感じていない人たちを受診させることが本当に正しいのか?正しいというデータがあるのか。以前にも紹介したように、医師が介入してもしなくても寿命は変わらないというデータはあるが…健康診断で少し異常値が出たと知らされて死ぬほど心配して受診される人を見るたびに、意味のないむしろ有害なことはせず、本当に役に立つことだけをするようにしないと医学を学んだ甲斐がないと思うのである。
いい薬なのに
平成19年12月26日(水)
分娩誘発について、英米ではPGE2を子宮頚管内に入れることにより、安全でスムーズにお産ができることから、そのように使うことが認められている。
この薬は初めは内服薬として開発され、1時間ごとに1錠内服することで陣痛が起こり、お産がはじまるというものであり20年以上前からわが国でも使われている。ただし、実際に使ってみてあまり有効ではないという印象であったが、頚管内に入れることで熟化を促し分娩の誘発には最適であることがわかってきた。そのため、米英では頚管内に入れることが承認され使われている。現在わが国で承認されている分娩誘発法よりも、はるかに優れていると思われる。
防衛医大の初代産婦人科教授の加藤先生が、この方法の安全性・優位性を基礎からきちんと研究され、データを発表されているにもかかわらず、わが国では頚管内投与の承認どころかその議論さえ起きていない。分娩誘発自体がタブー視されている現状では無理ないかもしれないが、いいものは認めないと結局は患者さんの不利益になると思う。「羹に懲りて膾を吹く」という愚は避けたいものである。
世界最下位
平成19年12月15日(土)
世界のコンドーム市場で20%のシェアを持つ英国のデュレックス社が、41カ国35万人以上の男女を対象に行った2004年の各国セックス比較調査では、フランスが2年連続世界1で1年間に平均137回セックスを行っていたという。それに対してわが国は中国や韓国にも及ばず、連続世界最下位の46回だそうである。
これを見てわが国でエイズの蔓延が世界でも稀なほど少ない理由がわかった。やはり日本人は性的におとなしいのである。こういった客観的な数字をみれば、若者に性教育を!とことさらに言う必要はないのではと思ってしまう。それでもこの狭い日本に1億人以上の人が住んでいるのだから、生殖という意味では問題ないのだろう。なかなか興味深い調査結果ではある。



