月別記事一覧 2024年2月

「沢田研二」

令和6年2月22日
表題は音楽などの著書が多数ある作家・中川右介氏の著作である。522ページもある朝日新書からの労作で、本屋で偶然目に留まり購入した。沢田研二がグループサウンズ「タイガース」のリード・ヴォーカルとして活躍を始めたのは私の中学時代で、他にも様々なグループが活動していてまさにグループサウンズ全盛期だったが、あっという間にフォークグループに取って代わられ、さらにニューミュージックが主力になるなど音楽界の変遷があった。その中で沢田研二を中心にして当時の音楽事情を詳細に調べ、記述しているが、当時の歌手や作詞家・作曲家の名前が懐かしいものばかりで、あっという間にあの頃に戻ってしまった。
思春期から青年期にかけての多感な頃に聞いた曲たちは今でも鮮明に心に残っている。当時はレコード大賞があり紅白歌合戦は今では信じられない高視聴率の番組で、大みそかは家族全員が炬燵で見るのが普通だった。大学時代にアルバイトをしていた店に沢田研二が関係者に連れられてきたことがあったが、知らずに部屋に飲み物を運んだらそこにあのジュリーがいたのでびっくりしたものである。
この著書は資料としても一級品で、当時のことを知りたければこの本を紐解けばいい。久しぶりに懐かしい頃をふり返ることができた。

永遠の都ローマ展

零把6年2月15日
福岡市美術館で開催されている「ローマ展」に行ってきた。世界で最も古い美術館の一つ「カピトリーノ美術館」所蔵のコレクションが展示されていて興味深いものだった。
美術館は福岡市民の憩いの場所、大堀公園内にあり会場に入るとまず目にするのが「カピトリーノの牝狼」の複製像である。ローマの建国はトロイ戦争(紀元前1,250年ころ)まで遡るがギリシャのオデュッセウスによるトロイの木馬の計でトロイが陥落した際脱出したトロイの王族の子孫によるとされている。双子のロムルスとレムスは狼の乳で育てられ、ロムルスがローマ建国の祖と言われている。他にもカラバッジョの「洗礼者ヨハネ」も展示されていて見ごたえがあった。
昼は館内レストラン・プルヌス(ニューオータニ九州)でパスタセット、公園内の日本庭園などを散策、博多阪急デパートで食材を仕入れて帰宅、充分リフレッシュできた一日だった。

卵子が1つの精子とのみ受精する仕組みの解明

令和6年2月9日
群馬大学の佐藤健教授のグループと東京医科歯科大学の松田憲之教授との共同研究で、卵母細胞(卵子)がただ1つの精子とのみ受精する仕組みの一端を明らかにしたと発表した。
受精の際、卵子の周りには多数の精子が取り囲み、1つの精子のみが中に入って受精する仕組みがどうなっているのか不思議だった。哺乳類などの卵では受精数十分後には卵を覆う透明体が変化して他の精子を拒否することが知られていた。
精子は多数取り囲んでいるので、もっと素早く拒否しなければ多精子を受精してしまうことになる。
多精子を受精すると雄由来の余分なゲノムDNAが受精卵内に持ち込まれてしまい、適切に細胞分裂できず、異常な発生をしてしまう。これを拒否する仕組みがあるだろうとは思われていたが、実体はわかっていなかった。
研究グループは線虫C.elegansにおいて、受精後に卵子の表面で働いたタンパク質が受精後に細胞の中に取り込まれて選択的に分解されて、新たなタンパク質に置き換わっていく現象に着目し、この過程に働く因子としてMARC-3(ヒトではMARCH3)を見出した。この因子を欠損させた卵子では多精の状態になることがわかり、現在MARCH3遺伝子を欠いたマウスを作成中だという。
実に興味深い研究で生命の謎がまた一つ解明されていくことが楽しみである。

「不妊治療を考えたら読む本」

令和6年2月2日
表題は不妊治療専門の浅田レディースクリニックの浅田義正理事長と出産ジャーナリスト河合蘭女史の共著で、不妊治療についてわかりやすく解説すると同時に、最先端の技術について丁寧に説明していて、一般の人はもとより不妊を専門にしていない医師にとっても、世界の「今」の流れのわかる優れた著作である。
不妊症の治療として体外受精、顕微授精が行われるようになって、この分野はどんどん新しい技術が開発されてきた。さらに体外受精して胚になった状態を凍結保存する方法としてガラス化法が生まれ、凍結保存した胚の妊娠率が新鮮胚移植による率を上回ってきている。
我が国のARTによって生まれてきた子供の数は6万人を超え、13~14人に一人になっている。一方、興味深いことに体外受精の件数はアメリカより多いのに、採卵1回あたりの出産率は最低だという。これは世界のARTをモニタリングしている組織ICMARTによる60ヵ国の調査で報告され、日本の技術は決して低くないのに成功率が際立って低い事実がわかった。原因はARTを行う女性の年齢が他の国に比べて高いことだという。
これからもARTの技術は進んでいくだろうが、年齢についてはどうしようもないと思う。妊娠を希望したらできるだけ早く取り掛かることが大切である。