日付別記事一覧 2011年7月30日

「最後の昼餐」に寄せて

平成23年7月30日(土)
先日、本屋で宮脇彩著「ごはんよければすべてよし」という本が目にとまり、あることがひらめいて手にとってみたら思った通りであった。宮脇彩氏は、私がファンだった建築家でエッセイストの宮脇檀氏の娘さんだったのだ。
宮脇氏は残念ながら亡くなられているが、名著「それでも建てたい家」には、そうだったのかと膝を打つ内容が一杯書かれていた。曰く「男には書斎などいらない」「リビングルームは実はほとんど使われない、ダイニングルームを充実させるべきだ」などわが家をリフォームする際にも役に立った。
宮脇氏が咽頭がんで亡くなる直前に書かれた「最後の昼餐」という非常にユニークな本は、離婚後娘さんを男手一つで育て嫁がせた後、料理好きの著者が心ゆくまで料理をつくって楽しめる環境を作り、それを記した2年余りの情景が、ガールフレンドのイラストでまとめられている。都会のオアシスともいうべき空間を作り、休日には二人で、あるいは人を招いて料理を作って楽しみ始めた矢先に、病気の前兆が現れてきたことが淡々とした筆致で書かれている。特に癌が再々発して慶応病院に入院中に書かれたあとがきには、これからまだまだ楽しもうという気持ちがあふれていて、その後数か月で亡くなった経過を思えば言葉もない。
でも、その娘さんが父親のような生き方や食べることを大切にしたエッセイを出版しているのを見ると、親の思いは受け継がれていくのだと思ったことである。