平成18年3月31日(金)
昨日は婦人科で対処する女性のうつ病について島根大学の教授の講演があった。うつ病とまではいかなくてもそれに近い状態の人は多く、婦人科の患者さんの中 には気持ちの落ち込みやうつが原因で身体症状の出ている人も多々みられる。昔から「病は気から」というが、実際それは真実である。ある調査によればプラセボー(偽薬)でも30%の人が効いたと感じたそうである。だからただの粉でも強く効くと思って飲めば30%の人には効いた気がするのである。
当院にもストレスや気分の落ち込みが強い患者さんは多く、うつ病が原因と思われる身体症状がある場合は早めに精神科を紹介するようにしている。今回の話を 聞いて思ったのは、うつ病を見分ける診断基準は大切だが、やはり見分ける医師のセンス(勘)が最も大切だということである。講演された教授も話を聞いた感 じではそのセンスがあり、そういう医師のところには自然にそのような患者さんが集まるのもうなずける。
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婦人科で対処するうつ病
診療報酬が下げられた
平成18年3月11日(土)
4月から診療報酬がまたも下げられ、改革に名を借りた医療報酬(特に医師)への締め付けが続く。さらに医療ミスということで各地で医療従事者の逮捕の報道が頻繁にみられる。逮捕されても仕方ないケースもあるが、どうみてもいいがかりのような医療者には気の毒なケースもある。昨今ほど医療が批判の対象になったことはないのではなかろうか。我が国の医療水準は世界でもトップクラスで、経済効率からも世界一と評価されているにもかかわらず、なぜかお上とマスコミからは改革をするように責められている。いったい何を改革すればいいのだろうか。どういじってもこれ以上総合的にみてよくなるとは思えない。もちろんこまかい問題はあるだろうが、国民皆保険により平等な負担で受診できて高水準を保った医療が受けられるのは、世界的にみてもすばらしいことであると思うのだが。
福島県立病院の医師が逮捕される
平成18年2月25日(土)
福島県立病院の産婦人科医師が逮捕されたという。前置胎盤に加えて癒着胎盤のために帝王切開の際の胎盤剥離が困難で多量の出血が起こり、輸血を始め子宮摘出などあらゆる手を尽くしたが患者さんが不幸にして亡くなったためである。事例の経過を見ると亡くなられた人は本当にお気の毒だと思うが、医師を責めるの はどう考えても酷である。県立病院といっても陸の孤島の如く辺鄙な場所にあり、しかも産婦人科医師は彼一人だけでその地域のお産を任せられていたそうである。
実は私もかつて高知県の安芸市にある県立病院に同じように一人産婦人科医として赴任し、年間500近くのお産を取り上げていたことがある。今ではこの数のお産を一人で行うことは、特に公的病院ではありえないだろうが、当時は大学から派遣されて泣く泣く頑張っていたのである。その頃の大変さを思い出して身につまされる思いがしたわけだ。県立安芸病院からNICUのある高知市まで1時間以上かかりおまけに当時は小児科がなかった。毎日がストレスのかたまりで、 何が起こってもおかしくないと思っていた。
今回の場合は前置胎盤に加えて癒着胎盤があり出血が止まらなかったようである。輸血の準備もしたうえで帝王切開を行っており、やれることは誠実に行っているようだが不幸な結果になっている。これを責めるなら外科を含めたすべての手術の際に不幸な結果になった場合は逐一その手術をした医師を逮捕しなければならなくなる。青戸病院の例とは全く異なっているのである。
お産には危険なことが必ずあり、どんなに設備の整った病院で腕のいい医師団が慎重に手術しても不幸な結果になることがあるのである。そしてそのことを広く知ってもらわないと、誠実に頑張っている医師は報われないと思う。
なぜケタミンを麻薬指定にするのか
平成18年2月22日(火)
ごく少数、場合によってはたった一人の不心得者のために、まともな多数の人が不利益をこうむることはよくあることである。たとえば池田小学校事件のようなごくまれな思いがけない出来事のために、全国の学校に不審者対策が必要になるような。
我々のことであるが、来年から麻酔薬として30年近く使ってきて安全性も効果もすぐれたケタミンという薬が、来年から「麻薬指定」になることが決まったそうである。なんでも六本木あたりで不良外国人が外国から手に入れた同じ成分の薬や他の違法ドラッグを使って死亡した事件があったので、簡単に使えないようにするためらし い。我々としてはまことに迷惑である。30年間安全に使用してなんら問題なかったのに、麻薬指定となると管理を含め今までのように手軽に使えなくなる。まさにごく少数の不心得者のために多数の人が不利益をこうむる典型例である。さらに言えば、「麻薬指定」にした国側もなんでいまさらなのか理解に苦しむ。事なかれ主義の典型であろう。
生理不順は経過観察
平成17年12月9日(金)
先日来院された患者さんで、生理不順のため漢方薬を処方されて飲み始めたが、最近他県から転勤で広島に来たので同じ薬を処方してほしいという。診察したと ころ、生理不順の原因は生来の排卵が遅れやすい卵巣のためであり現在妊娠の希望がなければ特に毎月排卵させる必要はなく、そもそも対症療法しかできないことをお話すると薬を飲まずに経過を見ることになった。患者さんにとっては生理不順をそのままにしておいたら良くないのではと思って薬を飲むのだろうが、特別の場合を除いてそのままにしておいてもいいのである。意味のないことはしない方がよい。患者さんにとっては二重の負担になる。
やっと腰痛が治ったと思ったら朝からのどが痛く、風邪のようである。こんなことではダメだ、鍛え直さねば。
産婦人科医だけが減っている
平成17年11月18日(金)
今日の新聞に「全医師数は増加して27万人になったが、産婦人科医だけは過去最低の1万人に減った」との記事が載っていた。現在、産婦人科の医師はすべての医師の26人に1人しかいないのである。産婦人科を希望する医学生は非常に少ないうえに、最近はお産をする産婦人科医師もどんどん減っており、各病院から産婦人科の医師を求める悲鳴が聞こえてくる。このことは先日も書いたが実に深刻である。
当院がいつもお産を紹介していた病院も来年から産婦人科の医師数が半減して補充のあては今のところないという。産婦人科医のなり手がないのは、つまるところ「分娩費が安すぎる」のが最も大きな要因ではないか。米国などでは一日入院のみでお産をして100万円ぐらいとのことであるが日本では1週間入院で新生児のケアも行って40万円前後である。ホテルに泊まっても三食付ならかなりかかるだろうが、それらも含めてのこの値段ではどう考えても安すぎるのではないだろうか。だからたくさんのお産を引き受けないと採算があわないので、欧米の標準の2~3倍のお産を一人の医師が取り上げざるを得ない。必然的に医師は過重労働となり疲弊するが、追い討ちをかけるように少しでも母児に何かあれば訴訟が待っている。産婦人科医が減るのもむべなるかな、である。
緊急避妊薬について
平成17年9月20日(火)
緊急避妊薬を希望して来院する人が結構おられる。Yuzpe法といってアメリカンジャーナルにその避妊効果についての論文が載っていたが、かなりの確率で避妊できるようだ。中用量のピルを1回2錠、12時間後にもう2錠飲めばいいのだが嘔気などの副作用があり、飲めない人もときに見られる。短期間に何度も来院するリピーターもいて、何回も使うぐらいなら低用量ピルを毎日飲んだ方がいいとすすめたくなる人もいる。以前はそんなに多くなかったが、最近増えているのはネットからの情報のせいだろうか。わからないことがあればネット検索でいろいろな情報が得られるので利用している人は多い。
ピルに関する情報も豊富でそれらを見てよく知っている患者さんも多い。その場合は説明が早くて実にいい。ピルというと何か恐いものという先入観があって、説明に時間がかかるのだが安全性、副作用共にある程度わかっているので必要なことだけ話せばよいのだ。ネットは有用であり、なくてはならないものになっている。
やせ過ぎはよくない
平成17年9月16日(金)
最近生まれる赤ちゃんの体重が減ってきている。この20年間で平均200グラム減っているそうだ。胎児の体重が減るということは胎内環境がよくないことであり、その原因の多くは最近とみに激しくなっている「ダイエット」だそうである。我が国では女性の「やせ願望」が強く、BMIで「やせ」の範疇の20代の女性の割合は20年前の2倍になっている。30代の女性も同様にほぼ2倍になっている。加えて我々産婦人科医のなかにも妊婦健診の際に、体重が増えると怒りまくる医師もいると聞く。
成人病胎児期発症説といって、高血圧・糖尿病などの成人病は胎児期にその素因がつくられるのだという説が提唱されており、世界中で注目されているそうである。それが正しいかどうかはこれからのことだが最近の「やせていれば美しい」という風潮はなんとも不自然である。せめて我々はやせすぎに対して警鐘を鳴らしていかなければならないと思う。
医師は本当のことを言え
平成17年9月13日(火)
「胃がん(スキルス)の発見が3ヶ月遅れたために適切な治療を受ける機会が遅れた」との訴えに対して最高裁は「相当な理由がある」と判断したという。こういった判断が出るのは、医師が長年にわたって「早期発見、早期治療ががん死を減らす」ということを言い続けてきたからだ。
ところががん検診により早期がんは多く見つかるようになっても死亡数はあまり減っていないという現実があり、ことは単純ではないとわかってきた。特に肺がんでは検診の有効性は否定されており、他のがんもおそらく同様になるのではないだろうか。つまりホスト(宿主)側の遺伝子の問題で「治る人は治るが、治らない人は治らない」という、検診を推進する医療側にはきびしい現実が見られるのである。さらに昔から医師は、治るかもしれないからという理由で大きなダメージをあたえる手術、抗がん剤治療を行ってきた。医師も患者も共に、治らないかもしれないということは認めたくないので何とかしようとする。でも実際には治る人は治るがそうでない人は、きびしい治療のダメージだけ残り苦しむのは本人である。
ではどうすればいいのだろうか。一つは治療の有効性、治療に伴う副作用、治療をしてもしなくても予後が変わらないのであればそのことをはっきり公開する、などをすべてきちんとおこなうことである。そのうえで、痛みや不快感など不自由に対する対症療法をいっそうきちんと行えるようにして、同時に精神的な支援を充実させることが必要だと思う。
思いがけない薬の効用
平成17年9月6日(火)
高脂血症の薬が肝細胞がんに有効であるとの論文が報道された。最も有効だったのはシンバスタチンだという。もし各研究者による追試で正しいことが証明されればすばらしいことである。元来、高脂血症薬は本当に必要な人以外に使われすぎていると思っていたのである。ブームとは恐ろしいもので、コレステロール悪玉論はずいぶん長く通用していてコレステロールの値に一喜一憂している人が多かったが、最近ではあまりいわなくなった。いいことである。
薬については当初の目的とは違った疾患に有効なことがわかって使われだしたものも結構ある。かつては喘息の治療薬が早産防止に使われた。この時は早産には経験的に有効とわかっていてもたてまえでは使えなかったのは、その薬が喘息治療薬としてしか保険適応になっていなかったからである。ずいぶん後になって現在使われている薬が保険適応になったが、その成分は喘息治療薬の兄弟分のようなものである。また、我が国の妊婦さんが薬を恐がるようになった大きな原因のサリドマイドは、骨髄腫に効くことがわかり再評価されている。このように薬でも長い目で見なければ評価が定まらないことがあるが、人間ではそれ以上だろう。
本日は台風接近のため午後3時にクリニックを閉めた。次第に風雨が強くなっている。明日は大丈夫だろうか。