カテゴリー 医学情報など

主要ながん検診に寿命延長効果はない

令和5年11月10日
オスロ大学(ノルウエー)健康社会研究所のMichael Bretthauer氏らは、マンモグラフィや大腸内視鏡検査などの代表的ながんスクリーニング検査(以下、がん検診)を受けても、大部分は寿命の延長に寄与しないとするメタアナリシスの結果を報告した。
Bretthauer氏らはMEDLINEとコクランライブラリーからがん検診に関する追跡期間が9年以上のRCTを18件(対象者211万人余り)抽出し検討した。がん検診は、乳がんのマンモグラフィ、大腸がんの全内視鏡検査・S状結腸内視鏡検査・便潜血検査、前立腺がんのPSA検査、現喫煙者または元喫煙者を対象とした肺がんの胸部CT検査の6種類についておこなった。
解析の結果、6種類のがん検診の中でS状結腸内視鏡検査以外のがん検診では、検診を受けた人と受けなかった人との間で寿命の延長に有意差が認められないことが明らかになった。また、有意差の認められたS状結腸内視鏡検査でも、その延長期間はわずか3か月程度に過ぎないことも示された。
こんな報告を見ると、がん検診が果たして有用なのだろうか思ってしまう。まさに故近藤誠医師の主張と重なる。やはり氏は素晴らしい人だった。

「がんの消滅」

令和5年11月2日
表題は芹澤健介著、小林久隆監修の著作で「天才医師が挑む光免疫療法」のサブタイトルがついた新潮新書の近刊である。「免疫」とか「がん消滅」などの文字を見るとなにやら胡散臭いと思っていたが、だまされたと思って購入、一読してこれは本物だと思った。たとえればペニシリンの発見やラジウムの発見をしのぐ治療法ではないだろうか。
小林医師は京都大学を卒業した後、米国国立衛生研究所(NIH)で研究をするようになり、現在終身の主任研究員である。そもそもはがん細胞に特異的なたんぱくに結合して光に反応する物質を使うことによる「がんのイメージング」の研究をしていたが、ある物質の場合、光(近赤外線)を当てるとがん細胞膜が壊れてしまうことがわかった。それがフタロシアニンを水溶化したIR700で正常細胞には侵襲を与えず壊れた細胞膜の中身を周囲のリンパ球などが攻撃し、がん細胞そのものも攻撃するようになることも確認した。実験を繰り返し論文をいくつも書き評価を受けていたが、臨床応用にはいくつもの関門があった。
それをかなえさせる力になったのが楽天グループの三木谷浩史をはじめとする様々な人たちで、光免疫療法は世界に先駆けて日本で承認された。FDAでは承認待ちであるがいずれ承認されるだろう。がん細胞の細胞膜だけが近赤外線を当てて壊れるという治療法は、まさにコロンブスの卵であり現在は頭頚部のがんのみの適応だが、一刻も早く他のがんにも適応されることを望む。再度言うが素晴らしい発見だと思う。

「世にも危険な医療の世界史」

令和5年10月13日
表題はアメリカの内科医リディア・ケインとジャーナリストのネイト・ピーターセンの共著で、昔から世界で行われた医療で今では信じられないような間違ったものをとりあげている。
秦の始皇帝にも使われた「水銀」これはずいぶん長い間使われていて、リンカーンも常用していたという。「ヒ素」も太古の昔から皮膚の潰瘍やいぼなどの治療に使われてきた。毒薬なので毒殺のためにも使われてきたが。「瀉血」は血液を抜く治療法で欧米では日常的に行われていた。あのモーツアルトは死ぬ前の1週間で2リットルもの血液を抜かれたという。マリー・アントワネットやジョージ・ワシントンも瀉血されたそうである。医師たちは大まじめにその治療を行い、死期を早めたのである。
翻って現代の医療にも後世では間違っていたとされるものもあるのではないか。抗がん剤は毒薬であり、白血病など1割ぐらいの病気に有効なだけであるという。それでも他に方法がないということで、高価な抗がん剤が競って作られている。そのことに警鐘を鳴らし続けた近藤誠医師も今はいない。いずれ真実は明らかになるだろうが、歴史を見るといろいろなことがわかってくる。あとになって間違ったとわかるようなことだけはしたくないと思う。

ARTによるお産の後の自然妊娠

令和5年8月24日
英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのAnnette Thwaites氏らの研究によると、体外受精以外では妊娠出来ないと言われてARTを行って妊娠・出産した後、自然妊娠するケースが5人に1人あるという。実際に6回の体外受精によって妊娠して子供を授かった女性(当時43歳)がその後に自然妊娠して「自然妊娠する可能性は1%以下だと言われていたから驚きだったが準備不足を感じ呆然とした」という。
Thwaites氏らによるとARTによる妊娠・出産の後に自然妊娠した女性の割合は、対象者5,180人で追跡期間は2~15年で調べたところ20%だったという。
我々の周りにもそういったケースを見かけるが、そもそも原因不明の不妊は50%あるということは、わかっていることのほうが少ないのである。医学・生物学はわからないことが多すぎて、現在行われている治療も「あれは間違っていました」ということが今までもあったしこれからもあるだろう。医療者はこのことを肝に銘じて日々の診療に当たらねばと心から思う。

母体保護法指定医研修会

令和5年6月7日
表題の研修会が医師会館で行われた。興味深い演題は最近承認された「経口中絶薬」についての説明だった。
以前にも書いたがこの薬は40年近く前にフランスの製薬会社ルセルが開発したRU486で、妊娠を維持するために必須の黄体ホルモン受容体に結合して妊娠の維持ができなくなり流産(中絶)してしまうものである。当時、大学のホルモングループに所属していたので、この薬を使って動物実験をしていた後輩の研究成果を見ていてすごい薬ができたものだと感心したものだ。マウスを使って実験するとほぼ100%流産させることができた。その後、欧米では普通に使われるようになったが我が国では認可されなかった。
我が国では今年の4月28日正式に承認され5月中旬より使われることになったが、問題がいろいろあることがわかった。まず、流産が始まると痛みと共に出血が多くなり、自宅では耐えられなくなって病院を受診したくなるが、深夜だと対応できなくなるので、入院設備のある医療施設で院内でのみ使用して院内で待機する。一日たっても流産しなければ手術になる。ちなみに10人に1人は手術になるという。今までなら朝手術をすれば昼には帰宅できるし、確実に中絶できるのでそのほうが楽ではないかと思ってしまう。値段も従来の中絶術と変わらないか少し高くなるという。これではわざわざ薬を承認する意味がないのではないだろうか。欧米では薬を使う場合と手術をする比率は半々だそうである。なぜ承認したのかわからない。

「良性子宮疾患に対する新たな治療戦略」

令和5年3月17日
表題は帝京大学医学部産婦人科・長坂一憲教授の講演である。WEB参加の予定だったが医会の総会もあり、会場の医師会館に行くことになった。出席者はほぼ役員ばかりで顔を合わせるのは久しぶりだったが、このような場は必要だと思った。
講演はWEBなのでスクリーンの演者の話を聞くだけである。ならば自宅でWEB参加と同じである。県外など遠くの会場ならWEBのほうがいいけれど近くなら会場に集まったほうがいいようだ。これからは自由に選択できるようになるのがベストと思う。
講演内容は、子宮筋腫・子宮内膜症・子宮内膜ポリープなどの良性疾患についての治療にGnRHアンタゴニスト(レルミナ)を使うことを推奨するといったことだったが、これらの疾患は月経(ホルモン)が関与したものである。妊娠するために月経があるとはいえ女性は大変である。今後どのような治療戦略があるのか考えさせられる講演だった。

子宮内膜症は増えている?

令和5年3月3日
講演会などで演者が「子宮内膜症が増えている」というが当院のような小クリニックにはそんな感じはない。勤務医の頃もそれほど多いという印象はなかったのでいつもなぜなのかと思っていた。子宮内膜症は、子宮内膜が卵巣や他の臓器に生着して卵巣からのホルモンにより月経と同じ変化を起こすために起きる病気で、典型例は卵巣にチョコレート嚢腫をつくり、周囲と癒着を起こし痛みが強くなる。以前は良い治療法がなく手術が中心だった。手術しても再発が多く、治療薬ダナゾールも副作用があって使いづらかった。
そこで登場したのがLEP製剤(低用量ピルなど)である。安全で画期的な薬で、どれだけ助かったかわからない。ピルの安全性は欧米では常識になって使われていたのに、厚労省は待ったをかけて10年据え置き、20数年前にやっと認めた。ピルは排卵を抑制するので避妊もできるし、生理痛も改善する。以前講演で「生理の回数が増えたのが子宮内膜症が増えた原因だ」「少子化になったので女性が一生の間に450回生理を経験するようになったが、かつては多産なので50回くらいしか生理がなかった」と説いていた先生がいたが一理あると思う。いずれにせよピルが開発されてよかった。ピルの普及が進めば進むほど子宮内膜症は減ってくると思う。

人工妊娠中絶薬について

令和5年2月2日
現在、人工妊娠中絶薬ミフェプリストンについての審議が行われている。この薬は30年以上前にフランスの製薬会社ルセルが開発したもので、RU486と称されて動物実験を経て人に適応されるようになった。当時、属していた研究室で後輩がこの薬をマウスに使い薬の血中濃度の変化を調べ、ほぼ妊娠中絶できることを確認し学会で発表した。その後フランスでは一般に使われるようになったが日本には入ってこなかった。現在は妊娠9週までは使われるように審議されているらしい。
妊娠を継続する必要なホルモンであるプロゲステロンの受容体に結合して流産(中絶)させるので、早い時期ほど効果がある。問題なのは流産が始まると痛み、出血などが起こり不安になって受診したくなることが多いと思われるが、24時間対応の医療機関以外では対処できないことである。また一部遺残することもありその場合は手術が必要になる。だからこの薬は着床した後せいぜい2週間ぐらいの間に使うべきで、それなら生理と同じような出血で済むだろう。これが本当のアフターピルである。承認するならこの条件ですべきと考える。

流産手術

令和4年12月22日
久しぶりに流産手術を行った。以前は妊娠初期に超音波検査で稽留流産が確認された場合、流産手術で治療することになっていた。当院でも年間40件くらいは行っていたが米国発の「自然流産まで待機してもし不全流産になった場合に流産手術を行う」という方針が我が国でも主流になった。確かに多くの場合は1か月くらいの間に流産が始まって、1週間ぐらいで出血が減って治癒する。ただ、出血がいつ始まるかわからないし、痛みも強いことが多いので患者さんは不安だろう。
当院でも基本的には自然に流産するように待機する方針をお話しするが、早く治癒したいと希望される人には流産手術を行ってきた。令和になってから流産手術を希望する人は非常に少なくなっていたけれど出血が多く不安になる人もいた。また、2か月待っても流産が始まらない人もいて手術を希望することもある。手術は人工妊娠中絶術と同じ手順なので半日で帰宅でき、後は普通に過ごすことができる。以前のように流産手術を薦めるほうがよいのかと考えることもある。

性感染症について

令和4年12月1日
性感染症でよくみられるのは「クラミジア感染症」で、無症状の保菌者も多いのでその発見が蔓延を防ぐ最善の策である。男性は排尿痛などの症状がみられることが多いが、女性は無症状のことが多いので注意が必要である。「淋菌感染症」もよく見られ、クラミジアと同時の感染がみられることも多い。これらは抗生剤で治癒するので早めに受診した方が良い。「尖圭コンジローマ」はHPV感染による「イボ」で、外陰部・膣・肛門などに多発するがクラミジア感染も併発していることもある。「ヘルペス感染症」はHSV-1によるものが多いが、初感染の場合外陰部に潰瘍をつくるなど痛みが強い。薬はあるがあまり効果がなくそれでも2~3週間で治るので「日にち薬」の病気といわれる。再発の場合は4~5日で治るので薬はほとんど要らない。
このところ増えているのが「梅毒」で以前はほとんど見たことがなかったが、今年は全国で1万件を超えたという。外陰部の痛みや鼠経リンパ節の腫れ、バラ疹、手掌丘疹などから発見されることもあるが、無症状で見つかることも多い。ペニシリンで治癒するのでやはり早く受診することが肝要である。かつては時々あった「毛じらみ」はあまり見られなくなった。「膣トリコモナス」は魚臭を伴う泡沫状黄色帯下などで発覚するが慢性化して無症状のこともある。
人と人との接触がある限り性感染症がなくなることはないだろうが、早めに見つけて治療することが大切である。