「がんの消滅」

令和5年11月2日
表題は芹澤健介著、小林久隆監修の著作で「天才医師が挑む光免疫療法」のサブタイトルがついた新潮新書の近刊である。「免疫」とか「がん消滅」などの文字を見るとなにやら胡散臭いと思っていたが、だまされたと思って購入、一読してこれは本物だと思った。たとえればペニシリンの発見やラジウムの発見をしのぐ治療法ではないだろうか。
小林医師は京都大学を卒業した後、米国国立衛生研究所(NIH)で研究をするようになり、現在終身の主任研究員である。そもそもはがん細胞に特異的なたんぱくに結合して光に反応する物質を使うことによる「がんのイメージング」の研究をしていたが、ある物質の場合、光(近赤外線)を当てるとがん細胞膜が壊れてしまうことがわかった。それがフタロシアニンを水溶化したIR700で正常細胞には侵襲を与えず壊れた細胞膜の中身を周囲のリンパ球などが攻撃し、がん細胞そのものも攻撃するようになることも確認した。実験を繰り返し論文をいくつも書き評価を受けていたが、臨床応用にはいくつもの関門があった。
それをかなえさせる力になったのが楽天グループの三木谷浩史をはじめとする様々な人たちで、光免疫療法は世界に先駆けて日本で承認された。FDAでは承認待ちであるがいずれ承認されるだろう。がん細胞の細胞膜だけが近赤外線を当てて壊れるという治療法は、まさにコロンブスの卵であり現在は頭頚部のがんのみの適応だが、一刻も早く他のがんにも適応されることを望む。再度言うが素晴らしい発見だと思う。