平成22年7月12日(月)
当院では多くの人にピルを処方しているが、ピル処方のための定期健診は患者さんの負担になるので、できるだけ少ない回数で行うようにしている。
低用量ピルがわが国ではじめて使われるようになった頃は、厚労省の指導で3カ月ごとに検診しなさいということだった。これは諸外国ではありえない慎重さで、どう考えても使用者を心配してというより、何かあったらピルを承認した責任を追及されたくないという厚労省の姿勢が感じられた。これらの負担は全部患者さんにかかってしまう。それで当院では私の責任で1年に1回行うようにしていた。
その後、安全なことがより明らかになったためか、厚労省の指導は1年に1回でよいことになった。その頃、当院では問題のない人はもっと間隔をあけてもいいのではないかと、ケースバイケースで検討していた。その結果、2年以上検診していないケースも出てきたので、検診の間隔が長すぎる人にはこちらから勧める場合も多くなってきた。
ところが検診を勧めると「近くの医院でもう済みました」という人もいて、当院ができるだけ患者さんの負担を少なくしようとしている気持が伝わっていないのだと、なんだかなと感じることがある。ピルを処方しているのだからそれによる効用および副作用を検証する責任があるが、そのための検診をできるだけ少なくしてあげたいという真意が伝わっていないと思うのである。
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低用量ピルの処方
バラマキ行政
平成22年7月5日(月)
子宮がんのワクチン無料化を公約にしている参議院選挙の候補者が何人もいるようだ。
これこそバラマキ行政の最たるものである。優先順位からいえばもっと有効な医療政策はいっぱいある。たとえば子宮がん検診と婦人科検診の無料化に必要なお金は、高価で効率の悪いワクチンよりはるかに安く有用である。女性の病気は癌だけではない。子宮筋腫、内膜症、卵巣腫瘍、不妊症、性感染症などたくさんあるが、子宮がん検診はまさに「子宮がんの検診のみ」である。少なくとも超音波検査を併用しないとこれらの疾患をきちんと診断することは難しく、現在の検診ではこの検査は必要ないことになっている。
子宮がんが予防できるなどと言うが、じつに疑わしい。ある程度は有効であったとしても、それにかかる費用をだれが負担するのか?ワクチンを製造している外国巨大製薬会社の強力な働きかけで、公費負担で接種している国もあるようだが、もう少し考えた方がいいと思う。借金が増えまくっているわが国で、もっと優先すべきことはほかにあるだろう。
老化と治療
平成22年6月16日(水)
梅雨入りしたが、W杯でカメルーンに勝ったので大騒ぎである。にわかサッカーファンが増えるだろう。岡田監督も試合前は散々な評価だったのが、一夜で名監督になった。まことに勝負の世界は「勝てば官軍」である。
宮崎の口蹄疫の封じ込めはなかなかうまくいかないようだ。そういえば新型インフルエンザの流行も、防ぐことはできなかった。政府もできないことは約束しない方がいい。それより防げないことを前提に、被害を最小限にするような対策を考えた方がいいと思う。感染していない牛まですべて処分するのは、間違っていないか。食料にしてこその肉牛である。
「がん撲滅」などとできもしないことを言わない方がいい。さらに言えば「老化」を病気にしない方がいい。いま「生活習慣病」と言われている病気?は、ほぼ「老化」による状態の変化である。かつて「成人病」といわれていたのがいつの間にか「生活習慣病」といわれるようになったが、実態は「老化」である。近藤誠氏が警鐘を鳴らしているが、完全に無視されている。昔から権力者をはじめ人々は、老化を防ぎ、永遠の命を手に入れようとしてきたが、ことごとく失敗した。現代医療費の多くは、この「老化」の治療費である。苦しい状態や痛みに対する緩和は絶対に必要だが、「老化」そのものは治療の対象にすべきではない。それらの費用は介護にまわすべきだと思う。
子宮頸がん予防ワクチンの効果
平成22年2月10日(水)
最近、子宮癌の予防ワクチンについての問い合わせが多い。テレビや新聞で紹介しているからだろうが、他科のドクターからも聞かれる。
テレビでは、このワクチンを接種しておけば子宮癌が防げるので欧米では政府が無料で実施している国も多い、と報道しているようである。子宮頸癌はHPV(ヒト・パピローマウイルス)が最大の原因だとわかってきたことは事実である。HPVの種類は100近くあり、そのうちの16,18の型の感染が子宮癌の70%を占めているという。ワクチンはその16,18の型に対するものである。だからそれ以外のウイルスに対しては効果がない。
問題なのは、まず値段が高いことである。3回接種しなければならず、全部でおよそ5万円かかる。さらに、このワクチンを接種することで子宮癌による死亡数がどれくらい減るか試算してみる。わが国の子宮癌による年齢調整死亡率は2万人に1人である。だから2万人にワクチンを接種してすべて効果があったとして、子宮癌死亡数は2万人につき0.3人になる。つまり、19999人には打っても打たなくても死亡には関係ないことになる。しかも効果は7~8年しか続かないという。
わが国で毎年1000万人が罹患するインフルエンザのワクチンなら、まだ費用対効果があるだろう。なにしろ1回3~4000円でOKだから。でも子宮癌のワクチンは値段が高すぎるうえに費用対効果が低すぎないか。このワクチンは英国の製薬会社が開発したそうであるが、こういうものにお金をかけても喜ぶのは製薬会社だけである。それよりお金は介護にまわすべきである。介護事業はお金をかけるほど良くなるからである。
マンモグラフィーは閉経後に
平成22年1月9日(土)
先日の新聞に、米国予防医学の部会が「40代の女性の定期検診にマンモグラフィーは勧めない」との勧告を出したという記事があった。昨年11月にこの勧告を出したとのことである。
マンモグラフィーも超音波検査も有用な検査法ではあるが、特にマンモグラフィーは乳房内の石灰化を見つけることがポイントであり、閉経前の女性に行う健康診断には有効性が疑問視されていた。
なぜ世界的に見ても乳がんの死亡率の低いわが国で、マンモグラフィーを閉経前の健康診断で勧めるのか疑問に思っていた。乳がんの専門医に聞いても、同じ意見であった。それが、「がん撲滅」などと、できもしないアピールを政府が行い、その流れで政治的アピールで行われたのではないか。検査のためのレントゲン、CTなど検査による被爆が世界一といわれるわが国で、さらにマンモグラフィーで被爆させようというのか。
今回の米国の勧告は、きちんとしたデータに基づいて出されたものであり、わが国(医学会も含め)が現在の方針を変えないのなら、その根拠となるデータを示す必要がある。
健診よりも保険証受診
平成21年12月9日(水)
健康診断やドックがかえっていらぬ心配をさせたり、むだな検査を増やしたりで、いいことはないと思っているが、先日健康診断のがん検診で卵巣腫瘍が見つかった人がいた。
自治体の行っている子宮がん検診も、ドックなどの健診も、基本的には内診して細胞を採取するだけで、きちんとした超音波などによる画像診断をするわけではない。文字通り「子宮がん検診」だけである。もちろん、内診で子宮や卵巣に異常を認めれば、詳しい検査をするように勧めるけれど、もしイヤだといわれればそれまでである。内診では診断に限界があり熟練した医師が慎重に診察しても、見逃しはある。今回の場合は、内診では非常にわかりにくく、別の症状があったので詳しい検査をした方がよいとお話して超音波検査をして見つかったのである。
なんらかの症状がある人はドックなどに行かずに、保険証を持って医療機関を受診すべきである。医療は本来、現在良くない状態を少しでも良くするのが使命であり、どこも悪いと思っていない人を無理やり検査して、怖がらせることではないだろう。早期発見、早期治療が本当に生命予後を伸ばしているというデータがないかぎり、これらの健診は不要だろう。
漢方薬はローカルドラッグ?
平成21年12月2日(水)
民主党が今行っている「仕分け」で、漢方薬を保険薬から切り離すことが、15人の委員のうち11人の賛成で決まった。つまり今まで医師の処方があれば定価の3割で手に入っていた漢方薬が、高くなるということである。かつて自民党時代の政府が、漢方薬は保険診療になじまないということで、保険薬から切り離そうとしたことがあったが、時の日本医師会長・武見太郎氏が強硬に反対して流れたことがあった。今回も、一部の反対者の意見で撤回される可能性が高いと思われる。
漢方は「証」でそれぞれの人に合う薬を調合して投薬する。だから同じ病気に見えても、一人ひとり薬の種類・量が異なるので、病名によって処方の決まる保険診療にはなじまない。加えてこれだけ長い間日本で使われてきたにもかかわらず、きちんとした有効・副作用の証明がない。生薬なので成分が一定していない。欧米では漢方製薬会社の猛烈な売り込みにもかかわらず、「漢方薬はローカルドラッグである」との位置づけである。理由はきちんとした検証がないからである。
わが国では「中国四千年の歴史」と称して漢方薬を必要以上にありがたがる風潮があるが、漢方薬で結核が治ったか?ピルのようにきちんと避妊効果のある漢方薬はあるか?やはり漢方薬は、一旦振り出しにもどして保険薬からはずして、きちんとした効果と副作用のデータを出したうえで、有効と認められたら保険薬に入れるのがスジではなかろうか。
分娩助成金制度の変更
平成21年10月5日(月)
先の政府のバラマキ政策のせいで全国の産婦人科が困っている。
10月から分娩助成金が直接お産をした施設に支払われるようになったのであるが、問題は3か月遅れで払い込まれることである。今までは、退院の時にお産をした人が直接施設に支払って、その後で個人に助成金が保険者より支払われていたので、各施設は現金がすぐに入ってうまく経営されていた。ところが急に(4か月前に告示された)2ヶ月間は現金収入がないことになったのである。
たとえばお産が月に50件ある施設の場合、入院費が1人40万円として40万円×50件は2000万円、2ヶ月分だと4000万円で、ただでさえぎりぎりで頑張っている施設がこの現金を自前で調達しなければならないのである。あとで返ってくるとはいえ資金繰りの心配をしなければならず、おまけにこの制度の事務手続きの煩雑なこと!これらをすべて産婦人科施設に押しつけておいて、一般の人たちには「安心してお産できるようにわが党(この場合は自民党)が頑張りました」とアピールしていたのである。
おかげでギリギリで経営していた分娩施設の中には、「もう止めた」というところが出てくるのは必定である。今ほど産婦人科医がやる気をなくさせられている時代はないのではなかろうか。
臓器移植法案
平成21年6月20日(土)
臓器移植の法案が衆議院で可決された。脳死をヒトの死と認めることを多数決で決めたことになる。
以前にも書いたが、ヒトの死という根源的な問題を国会議員に多数決で決めてほしくない。臓器移植をするために仕方なく決めたと思われるが、そもそも医療は個人的なものである。臓器移植にせよ借り腹問題にせよ他人がとやかく言う問題ではない。お互いが納得できていればいいと思う。
犯罪や金儲けは絶対にできないように監視することは必要だが、日本人の死生観からはこれらの行為がエスカレートするとは思えない。もっと議論を深めて、脳死をヒトの死とわざわざ言わなくても可能な方法もあるだろう。真理は多数決とはもっとも遠いところにあると思う。
ピルの使用を妨げるもの
平成21年4月11日(土)
中絶手術をして一番傷つくのは女性だから、すべてが終わって落ち着いた後でピルを勧めるようにしている。でもたまに、一旦ピルを飲みだしたのに、パートナーに反対されてやめる人もいる。
理由を聞いてみるとパートナーが「ピルは体に悪いのではないか」と言うらしいが、中絶と比べてどちらが悪いというのだろう。男性は痛くも痒くもないだろうが、実際に中絶手術を受けるのは女性である。今後は絶対に妊娠しないという自信があるのだろうか。コンドームを使っても妊娠する可能性は結構高いのに、もしまた妊娠したらどうするのだろう。今度は生むようにするのなら何も言うことはないが、そうでないのなら結局傷つくのはパートナーの女性である。
神代の昔から、女性は妊娠を自分でコントロールできなかった。そのために死に至るまでの様々の悲劇がおこってきたのであり、それをなくすために開発されたピルというすぐれた避妊の技術を使わない手はない。まことに残念なことである。