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健康診断に替わる制度を!

平成24年10月20日(土)
職場などの健康診断で婦人科の異常(?)を指摘されて来院される人がおられる。これらの人たちで本当に問題のある人は少ない。これは無理もないことで、検診医は異常を見落としてあとで問題になってはいけないので、必要以上にささいなことでも異常を指摘する。もし、普通に保険証を出して診察に来られた人であれば、異常があればその場で検査・治療ができるし、そうでなければ経過を見て何か不都合なことがあれば来院するようお話ししてそれで終わるので、患者さんも無駄な受診をしなくてすむ。
今から10年前に厚労省の研究班が「健康診断の項目の大半が無意味である」との結論を出しているが、職場検診・自治体の検診はあいかわらず盛んである。むしろ新聞などでキャンペーンをやって検診を増やそうとしている。これは医療経済のパラダイムからは当然のことで、経済が縮小するようにはならないものだ。そこで、実質もよくなり経済も変わらない方法として次のように法律を改正したらどうだろう。企業の検診は中止するが、その費用を社員の医療機関の受診に充てる。もちろん受診理由がある場合のみであるが。
このようにすればすべてが良くなり、私自身のイライラも解消されると思われる。

うつ病の回復とは

平成24年9月14日(金)
最近読んだうつ病に関する最も納得できた論文を紹介する。著者は沖縄協同病院心療内科部長の蟻塚亮二医師で、弘前大学を卒業し青森県で精神科医を務めていたが、加重労働からうつ病が再発し2004年から沖縄に移住し診療・講演を行っている。氏によれば「うつ病が治る」ということは、病気になる前の自分に戻ることではないという。
うつ病の回復戦略とは①環境要因に無理があったらそれを是正すること、②環境要因にどうしても適応できなければ環境を変えること、③本人の価値観の相対化・対人スキルアップをはかることであるという。さらに従来の内因性うつ病とは異なる「適応障害に伴ううつ病(特に若者のうつ病)」については発達課題への支援が必要だと説く。
「治る」とは病気になる前の自分に戻ることではない。病気になる前の自分に戻るなら、また病気になる。生きることのどこかに無理があったから病気になったのだ。だから「治る」とはもっと楽な生き方に変わることである。仮に生きることを惑星の軌道にたとえるなら、「生きる軌道を変えること」こそがうつ病の回復目標である。
また、「この世に絶対的な価値があるとすればそれは生きることだけであり、その他の価値は相対的なものでしかない」と伝えて、世間で良しとされる価値観の相対化を繰り返すことにしているという。
他にも色々書いてあったが、うつ病に関する腑に落ちるわかりやすい論文だった。

インフルエンザワクチンはいらない

平成24年7月27日(金)
表題は元国立公衆衛生院疫学部感症室長の母里啓子氏の著書の題名である。氏は医学部卒業後ウイルス学を修め、感染症の対策に一貫して携わってきた人である。現在B型肝炎の垂直感染を防ぐことができるようになったのは、母里氏たちの功績によるところが大きい。いわばワクチンのプロである。
氏によると、インフルエンザウイルスは変異が激しく流行に合わせたワクチンをつくることが難しいそうである。そもそも不活化ワクチンの外部に通ずる粘膜感染予防の効果は疑問視されているが、インフルエンザワクチンは不活化ワクチンである。一方、インフルエンザは高熱が出るとはいえただの「風邪」である。暖かくして安静にしておけば治る。一度かかると強力な抗体ができ、少々違う型のウイルスにも効果があり、流行があってもブースター効果でかえって抗体価が高くなる。インフルエンザのワクチンを打つ意味はない。まして副作用があるのである。母里氏は専門家として正しいことを発言しないのはよくないとの信念のもとに、逆風覚悟で発言しておられる。
日ごろからインフルエンザワクチンについて思っていたことと一致して、わが意を得たりという気持である。さらに氏は子宮頸がんワクチンについても、このワクチンは不活化ワクチンであり粘膜感染予防効果には疑問が残るとしている。もともとHPVは感染してもほとんどは消えてしまうウイルスであり、たとえ感染が持続して異形成となってもなんら害はなく、その後がん化しても早期発見すれば治療できるものなので、わざわざ高価なワクチンを打つ意味があるのかと述べられている。まさに的を射た提言で、医療者は傾聴すべきである。

精神科医師の本

平成24年7月6日(金)
精神科セカンドオピニオン活動に携わり、自身でもクリニックをたちあげ薬を使わない治療に努めている医師、内海聡氏の近著「精神科は今日も、やりたい放題」は、精神科についての内部告発ともいうべき話が語られていて実に興味深い。
近年、精神科のクリニックが増え抗うつ薬が大量に処方されるようになったが、本当の意味での「うつ病」「そううつ病」「統合失調症(精神分裂病)」などが、こんなに高頻度に発病するはずがないと思っていたが、やはり欧米の巨大製薬会社の抗うつ薬、抗精神病薬の販売拡大との関連があったのかと納得した。抗うつ薬SSRIが国内で承認されて以来、売り上げはうなぎ昇りで同時に副作用も増えている。内海医師によると、これらの薬は効かないうえに副作用・依存性が強く、患者のためにならず製薬会社を利するだけだという。やや過激な発言であるが腑に落ちる部分もある。
そもそも精神疾患を薬で治すことが可能なのだろうか?先ごろ亡くなった北杜夫氏は自身の「そううつ病」を公表していたが、その状態になったらどうしようもなくなることがプロの作家の筆でくわしく描かれている。私も同様の病気の人を知っているが、一旦「そう状態」あるいは「うつ状態」になったらお手上げで、ひたすら普通の状態に戻るのを待つしかないことを痛感していた。本物の病気でもそうなのである。安易に薬を使わないようにするべきであろう。

月経血の逆流

平成24年6月29日(金)
昨日の講演会で高知大学の深谷教授が子宮内膜症について面白い話をされた。生理の時月経血が卵管を通って腹腔内に逆流することは以前から言われていたが、なんと全員に逆流が見られるという。子宮内膜症の原因はこの月経血の逆流にあると言われているが、逆流が全員に起きているにもかかわらず子宮内膜症になるのは10%なので、その違いはなぜなのか。また全員に逆流があるということは、逆流そのものになにか大切な意味があるのではないかと話された。
妊娠しにくい人に検査として卵管造営を行う際、造影剤を卵管に流すことが妊娠につながることは経験上良く知られている。おそらく月経血が毎回逆流するのは、卵管をきれいにして精子が通りやすく卵子が子宮内に行きやすくするために、つまり受精・妊娠するために必要なことなのだろう。生物・種が現在生き残っているのは環境に適応しているからで、適応できず滅びた種は数限りなくあるという。生き残るためにはなにひとつ無駄なものはない、きびしいのである。現在体内・対外で起きていることは、たとえそれが不合理に見えても必要なことなのだろう。不必要なことを許容できる余裕はないはずだから。
生物は生き延びるために色々な仕組みを作っていると改めて思ったことである。

流産について(2)

平成24年5月21日(月)
自然流産は妊娠の15%起きるといわれているが、検査精度の増した現在ではどこからを流産というのか悩ましい。一般的には子宮内に胎嚢という袋が超音波検査で確認できる時点で妊娠と診断するが、妊娠検査薬が陽性になるのはそれより1週間以上前である。では、検査薬が陽性になった時を妊娠としたとして、胎嚢が見えるまでに出血が起こり流産してしまうことは結構多いのであるが、これを流産にカウントするべきかどうか。
もし、妊娠検査薬で調べていなければいつもより生理が遅れてきたということで、そのまま普通に生活していることだろう。
胎嚢が見えた1週間後に胎児の心拍が確認できるようになるが、この時にダメになるのを「稽流流産」といって流産の中では最も多い。これをなにもせず経過をみていると数週間後に自然に流産してしまうことが多い。だから、こういう場合、流産手術をせずに自然に経過をみるのも選択肢の一つである。問題はときに組織の一部が子宮内に残ったままでいつまでも出血する「不全流産」になることである。その場合に感染を起こすと厄介なことになるので、そのことを話して手術をするかどうか決めていただく。
もっと大きくなって胎児が確認されるようになった後、胎児の心拍が止まった場合は流産手術を勧める。この場合、自然に経過を見ていても出血も多くなり痛みも強く、なにより不全流産の頻度が増すからである。流産は一定の割合で起きるが、どう対処するかは必ずしも同じではないのである。

妊婦健診昨今(2)

平成24年4月28日(土)
世間は大型連休に入ったが、当方は暦通りで朝から救急車2台来て忙しい。
妊婦健診の続き。妊娠初期に必要なのは正確な予定日を決めることと、各種血液検査を行うことである。体重、腹囲、子宮底長、検尿、血圧測定は毎回母子手帳に記載する。妊娠23週までは4週間毎、妊娠24週から35週までは2週間毎、妊娠36週からは1週間毎の健診となる。妊娠24週~28週にクラミジア・GBSなど感染症の検査と貧血・血糖値を測定する。
超音波検査は毎回行い胎児の成長、胎盤の位置、羊水の量、子宮頸管の長さなどを測定する。日本以外の国では、超音波検査を毎回していないようであるが、わが国では妊婦さんへのサービスとしてほとんどの施設が毎回行っている。人気のある分娩施設では健診に時間がかかり、待つのが大変だと聞くが、超音波検査の回数を欧米のように減らせば待ち時間は短縮されると思う。胎児の心拍の確認はドップラーで十分である。
妊婦さんの8割ぐらいは何もしなくても問題なく出産できる。もっと言うと、健診しなくても大丈夫である。でも残りの2割ぐらいの人は何が起きてもおかしくない。早めに気付いて軌道修正できればスムーズにいくものが、機会を逃したためにひどいことになることがある。そしてそれはいつ起きるかわからないのである。妊娠は予測がつかないことが起きるのである。

妊婦健診昨今(1)

平成24年4月21日(土)
今の産婦人科診療で最も大きな出来事は超音波検査装置が開発されたことだと思う。胎児を観察する方法で、これほど安全で手軽にできるものはない。レントゲンやCTは被爆が問題になるうえに、装置が大げさなので場所やコストがかかりすぎるし、実際に使うのも大変である。
わずか30年前までは妊娠の状態を知るための触診・内診は産婦人科医にとって大切な、名人芸のような技術が必要であった。なにしろお腹の外から子宮内の胎児がどれくらい育っているのか、元気なのか、逆子ではないかなど、様々なことを診断しなければならなかったからである。現在でも行われている子宮底長・腹囲の測定はその時代の名残である。これらはもはや不必要になっているが、まだ健診の項目に入っている。また、胎児の心音を聞くための聴診器に相当するトラウベという木製の筒も、超音波を利用したドップラー装置になり、胎児の状態を観察するためのNSTへと発展していった。
もうひとつの大きな変化は、妊婦健診がほぼ公費になったことである。従来は健診は自費診療で、検査項目は施設によって若干異なっていたが、公費になったために画一化され、回数も決められてしまった。本当に必要なのかと思われる検査もある。かつて多かった妊娠中毒症(今ではこの病名はなくなった)を見つけ、早めに治療するという目的で始まった妊婦健診だけれど、ずいぶん様変わりしてきたものである。(この項続く)

緊急避妊ピルについて

平成24年3月8日(木)
新しい緊急避妊ピル(ノルレボ錠)がわが国で承認・発売されて6カ月を過ぎた。聞くところによるとあまり普及してないようで、原因はその値段が高すぎるせいだという。1回分が1万円である。これは製薬会社の卸値であり、これに診察料などが加わると1万5千円ぐらいになり、なぜこんな法外な値段を厚労省・製薬会社(外資系)が決めたのか納得いかない。フランスではノルレボ錠が薬局で売られていて、3,500円ぐらいだそうである。ということは卸値では2~3000円であろう。わが国の卸値1万円はどう考えてもおかしい。
従来の緊急避妊の方法は、中容量ピル(プラノバール)を2錠飲み、12時間後にもう2錠飲むYuzpe法であるが、避妊率はノルレボ錠とほぼ同じである。こちらの値段ははるかに安く、この値段でメーカーは利益があるのかと思うくらいである。いずれにしても私としては法外な値段のノルレボ錠を勧める気はなく、従来のYuzpe法を勧めている。ただ、問題なのはこの方法だと吐き気を訴えることがあり、そのためにノルレボ錠が開発されたのである。もちろん従来の方法でなんともない人も多いので、私としては当分従来の方法を勧めるつもりである。
排卵時に性交した場合の1回の妊娠率は約30%で、緊急避妊ピルの妊娠阻止率は約80%なので、ざっと5~6%は緊急避妊薬を飲んでも妊娠する可能性がある。毎日飲むピルの場合の妊娠率は0,1%で、これがどんなに優れているかわかるだろう。避妊には毎日飲むピルを勧めるものである。

初めてピルを飲む人のために

平成24年2月9日(木)
欧米では日常的に使われているピルは、わが国では以前より増えたとはいえまだまだ普及していないのが現状である。当院では多くの人にピルを処方しているが、初めて服用する人の多くは「ピルは怖い」と思っているようである。
実際に飲み始めてみると「なんだ、何も問題ないじゃないか」と思う人がほとんどで、避妊はほぼ完璧にできるし、生理痛は楽になる、生理の量も減るので貧血が治る、生理の周期がきちんとするなど多くの利点を実感する。副作用で多いのは飲み始めにおきる「吐き気」「むくみ」であるが、ほとんどの人は慣れてなんともなくなる。
ピルは原則3週間飲んで1週間休むことになっているが、種類によっては連続内服できるものもあり、2~3カ月続けて飲んでもらいその間生理はなく、その後の1週間の休薬期間に生理がくるようにしている人もいる。欧米ではすでに1年に1回だけ生理が来るピルも発売されていて、なかなかの人気だそうである。
なぜ生理があるのかを考えると、これはすべて妊娠するためである。妊娠するために毎月排卵し子宮は妊卵を着床させるために内膜を厚くし、妊娠がなければそれが剥がれて生理となり、また次の排卵が起こり…これを延々と繰り返している。その間には排卵時の卵巣出血が起きたり、子宮筋腫ができたり、子宮内膜症が発症したり大変である。なにより生理痛や生理の出血の手当てがわずらわしい。
だから、妊娠を望んでいない時にはピルを飲んでいると上記の悩みから解放される。なにより子宮・卵巣を休ませることができるので子宮筋腫や内膜症の進行を遅くすることもできるし、卵巣がんになる確率は飲まない時の半分になる。良いことばかりで悪いことがほとんどない稀有な薬である。ピルは薬を含め人類が開発した最も良いものの一つだと思う。