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「最後の昼餐」に寄せて

平成23年7月30日(土)
先日、本屋で宮脇彩著「ごはんよければすべてよし」という本が目にとまり、あることがひらめいて手にとってみたら思った通りであった。宮脇彩氏は、私がファンだった建築家でエッセイストの宮脇檀氏の娘さんだったのだ。
宮脇氏は残念ながら亡くなられているが、名著「それでも建てたい家」には、そうだったのかと膝を打つ内容が一杯書かれていた。曰く「男には書斎などいらない」「リビングルームは実はほとんど使われない、ダイニングルームを充実させるべきだ」などわが家をリフォームする際にも役に立った。
宮脇氏が咽頭がんで亡くなる直前に書かれた「最後の昼餐」という非常にユニークな本は、離婚後娘さんを男手一つで育て嫁がせた後、料理好きの著者が心ゆくまで料理をつくって楽しめる環境を作り、それを記した2年余りの情景が、ガールフレンドのイラストでまとめられている。都会のオアシスともいうべき空間を作り、休日には二人で、あるいは人を招いて料理を作って楽しみ始めた矢先に、病気の前兆が現れてきたことが淡々とした筆致で書かれている。特に癌が再々発して慶応病院に入院中に書かれたあとがきには、これからまだまだ楽しもうという気持ちがあふれていて、その後数か月で亡くなった経過を思えば言葉もない。
でも、その娘さんが父親のような生き方や食べることを大切にしたエッセイを出版しているのを見ると、親の思いは受け継がれていくのだと思ったことである。

うなぎ

平成23年7月23日(土)
わが国では土用の丑の日にはうなぎを食べる習慣があるが、今年は21日の丑の日には会食があったため食べ損ねた。
うなぎは昔から大好物で、蒸してから焼く関東風の軽めが好きである。以前は広島そごうの「伊勢定」のうなぎがおいしくて月に1回は通っていたが、10年ぐらい前になくなってしまった。その後、クリニックの近くの小料理屋のうなぎが好みに合っていたのでしばらく通っていたが、その店も店主が高齢のため閉店した。
それからは、三越地下に「たこつぼ」が出しているうなぎを時々買って食べていたが、クラウンホテルの「雲海」のうなぎが美味いと聞いて何度か行ってみた。たしかに好みの味であるがやや高価なのが玉に傷である。
歌人の斎藤茂吉はうなぎが特別好きだったと、子息の北杜夫がその思い出を書いている。また、「吾輩は猫である」の中で迷亭が静岡から用事で東京にでてきた伯父さんに「うなぎはどうですか、竹葉でもおごりましょう」というくだりがあるが、昔から多くの人に好まれた食べ物であったようである。

いつまでも「まろ」

平成23年7月15日(金)
愛犬まろ診察室の机の上に、カミさんの描いた愛犬「まろ」の絵を絵ハガキにして写真立てに入れているが、時々患者さんから「先生のおうちのワンちゃんですか?」と聞かれる。実は自宅のテレビの横に本物の「絵」と写真を飾っていて、つい先日もカミさんと「まろが亡くなって2年になるなあ」と話したばかりである。子供たちにとっても、一緒に暮らしていた「家族」が亡くなるのはとてもつらいことだったが、今では貴重な経験をさせてくれた「まろ」に改めて感謝している。
養老孟司氏は「死」には一人称と二人称と三人称がある、という。一人称の死とは自分が死ぬことで、二人称は親子、夫婦、兄弟などごく身近な死であり、三人称はその他である。自分の死は何も分からなくなるから関係ないし、他人のそれもほぼ関係ない。二人称の死だけが、その人にとって本物の死であるというが、まことにそのとおりである。まろは天国へ行って、今頃は輪廻転生しているかもしれない。

子宮頸がん予防ワクチン

平成23年7月8日(金)
製造が遅れていた子宮頸がんを防ぐワクチンが、8月初めには供給されるとのことである。さらに、8月末には4価ワクチンのガーダシルも発売されるそうだ。
子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)は何十種類も型があり、そのうちの16,18が子宮頸がんの60~70%に認められることから、この2種類の型に対応したワクチンができたわけである。これを2価ワクチンといい、現在不足しているサーバリックスのことである。
HPVの6,11は「いぼ」をつくるウイルスで、がんにはならないが尖形コンジローマという性病をひきおこす。ガーダシルは、HPVの16,18、に加えて6,11もカバーした4価ワクチンである。ちょっと考えればこちらの方がよさそうであるが、そうでもないらしい。
2価ワクチンのサーバリックスの方がHPV16,18に対する抗体価が強く、長期にわたって有効なのだという。困ったものだ。今後どちらを薦めたらいいのか難しい。

おいしい「とくみ鮨」

平成23年7月1日(金)
早いもので平成23年も後半に突入してしまった。以前にも書いたが本当に月日の経つのが早い。毎日変わりばえもせずうかうか過ごしていると、もう7月かと驚くありさまである。驚きついでに久しぶりに鮨を食べに行った。
近くにある「とくみ鮨」はじつにおいしい。特に、こはだ、たこ、あなごは絶品である。ほかのネタもよく吟味されており、ネタケースを見ているとうきうきしてくる。ちょっとした酒肴も味付けが良く、こういうのは店主のセンスだろうと思う。子持ちコンブの厚いこと。さば、とり貝、しゃこもおいしい。もう少ししたらしんこも入ってくるとか。鮨はすばらしい日本の文化だと思う。けれども歳とともにたくさん食べられなくなって、おいしいものをちょっとで良くなってきたのは喜んでいいのか悲しむべきなのか。いずれにせよ一食一食を大切に暑い夏をしのいでいかなければ。

ウインブルドン

平成23年6月24日(金)
ウインブルドンのテニスが始まった。おとといの夜はクルム伊達選手があのヴィーナス・ウイリアムスを相手に一歩も引かず、すばらしい戦いを見せてくれた。正直なところ、40歳の伊達選手がここまでやれるとは思わなかった。夜12時を過ぎて始まるので、一応録画するようにしていたのだが、つい見てしまったら目が離せなくなった。寝不足になると困るので、惜しかったけれど途中で無理にテレビのスイッチを切って寝たが、翌日録画を見て感嘆したことである。
昨夕は超音波の講演に久留米大学から来られた先生がテニスが好きで、やはり見てしまって寝不足です、とおっしゃっていた。わが国ではスポーツを始め他の分野でも、世界に通用するのは女性である。男たちはあまり冴えないのはどういうわけだろうか。でも、その優秀な女性たちを同胞と思えるのはうれしいことである。

文芸春秋7月号

平成23年6月17日(金)
文芸春秋7月号の特集は「大研究 悔いなき死」である。その中で、大津秀一医師の「ホスピスで見た1千人の死、最後の言葉はありがとう」の文章は興味深い。
人は死期を悟ったら最後は従容として従うようである。その心境にいたるまでにどんな葛藤があったかは誰にもわからない。少しでも生の望みがあればどんな苦痛にも耐えて治そうとするだろう。がんを切除する手術、抗がん剤治療を受けることなどがそうである。それらが無効だとわかると、すべてをあきらめ次第に衰えていき、最後は穏やかな死を迎えるようにみえる。でも本人の心の中はだれにもわからない。生老病死は必然であり、死ぬときは一人である。だからこそ生きている間は人とつながりあって生きたいものなのである。

すすまないワクチン

平成23年6月10日(金)
今日から子宮がん予防ワクチンの接種がOKとなった。といっても、今年高校2年生になった人と、1月から3月までにすでに接種を開始している人の2回目ないし3回目の人だけが対象であるが。初めての接種はまだ無理なようである。
震災を期にいろいろ困難なことが続出している。財政破綻ははっきりしているのだから、バラマキ政策はすべて中止しなければ仕方ないだろう。われわれ国民もバカではないのだから、今国の財政がどうなっているかぐらいはわかっている。政府はまともな政策を施行してほしいものである。

適応とがん

平成23年6月4日(土)
女性ホルモン依存腫瘍である乳がんや子宮内膜がんは、閉経後の血中女性ホルモンがほとんどない時でも増殖していく。それは、腫瘍組織内でホルモンを作っているからで、このことがわかってきたのは1980年代以降である。がん組織が生き延びるためには、本人にはお構いなく何でもやるということだ。
生物は環境に適応するためにその形や代謝を様々に変えて生きてきた。環境に合わせて変えることができた生物のみが生き延びていて、それ以外は全部滅びてしまった。飛躍するようだが、変える能力を持っているがゆえに「がん」も発生するのである。つまり、良い方に変われば「適応」として生き延びることができ、悪い方に変われば「がん」となって滅びる。「適応」と「がん」は紙一重、表裏の関係である。だから人類は「がん」を克服することはできないだろう。

赤字大国

平成23年5月27日(金)
まだ5月なのに広島も梅雨に入ったそうだ。台風も発生して沖縄から本州の南を通過するという。今年は東日本大震災をはじめ、天変地異の起こる年なのだろうか。
太平洋戦争で完膚なきまでに壊滅したわが国が、死に物狂いで頑張って復興し、世界第2位の経済大国となったことは奇跡であった。ところがある時から国は借金して予算を立てるようになり、いまや1000兆円の借金国になりさがった。今も毎年赤字国債を発行し続けている。このままでは早晩、国は借金でつぶれるだろう。こうなったのも目先の利益を与えてくれるような政治家を選んだ我々が悪かったのである。
わが国はこのたびの震災でもわかったように、決して我慢できない国民ではない。品性のある政治家が情理を尽くして説得すれば、借金を返し子や孫のために窮乏生活をする覚悟はあるはずである。地方では橋本大阪府知事や河村名古屋市市長など新しい政治のうねりが起こっている。国にもこのうねりが起きて欲しい。