平成30年9月21日
表題は漫画原作者として数多くの作品を送り出してきた小池一夫氏の著書である。氏は以前は小池一雄の筆名だったが、氏の原作の漫画は面白いので今でも結構持っている。さいとうプロ時代に手がけた「御用牙」、独立してからの「ブラザーズ」「オークションハウス」「弐十手物語」「上がってナンボ」「新上がってナンボ」「新新上がってナンボ」「魔物語」「実験人形ダミー・オスカー」「青春の尻尾」「クライングフリーマン」などほぼ全巻そろえていたが、「弐十手物語」だけはリホームの時になくなってしまった。氏の原作はアイデアがいいのと色々な分野に詳しく、裏社会にも通じている内容が実に面白く注目していた。
氏は現在80歳を過ぎているようであるが、表題の著書ではこれまでの経験をもとに様々な「言葉」を綴っている。こういう言葉はともすれば年寄りのたわごとのようにとられがちだけれど、表も裏も知り尽くした氏のような人生の達人の言葉として読めば共感することが多い。「過去が未来を決めるのではなく、未来が過去を決める」これは理論物理学者の佐治晴夫氏の言葉でもあるが、いい言葉だと思う。もう起きてしまった過去を変えることはできないけれど、これからのことが過去の解釈を変えることができるということで、希望の言葉である。興味深く読ませてもらった。
カテゴリー 日誌
「人生の結論」
「黄体ホルモンに関する最近の話題」
平成30年9月13日
岡山大学産婦人科の鎌田泰彦准教授による表題の講演があった。黄体ホルモンは妊娠に欠かせないホルモンであるが、妊娠以外にはあまり役に立たないようである。むしろPMSの原因となっていることもあり困った症状が出ることもある。講演後フロアから「黄体ホルモンは妊娠と子宮保護以外では有用でないのか」との質問に否定はされなかった。子宮保護とはエストロゲンによる子宮内膜の肥厚に対して妊娠しなかった場合は月経で元に戻すための役割のことで、妊娠に関連しているともいえる。
ホルモンに関しては未知の部分がたくさんあり、他にもなにか重要な働きもあるのだろうと思う。生物の仕組みで無駄なものは一つもないはずで、無駄なものを抱えたまま種として生き残れるはずがないからである。地球上の生物は環境に適応したものだけが生き残っているわけで、現在生きている種の背後には数限りない滅びた種がある。
生物学と密接な関係にある医学は未知な部分が多く、今の治療が絶対に正しいのではなく、わからないことが多い中で最善をつくすのだという気持ちを忘れてはならないと思う。
「看る力」
平成30年9月7日(金)
表題は阿川佐和子氏と氏の父親である故阿川弘之氏が入院していた病院を経営している大塚亘夫医師の対談を記した新書である。阿川弘之氏はその病院に3年半入院して94歳で大往生を遂げたが、大塚氏の経営する病院は老人が終焉を迎えるための理想的な施設であることが対談から伺える。
大塚氏は精神科の医師であったが、親友の頼みで彼の祖父の介護施設を探してみたところ、どこも悲惨な老人施設しかないことがわかったので自分で施設を立ち上げることにした。老人には医療より介護であり、寝たきりでも認知症でも病気でも「ここで過ごす時間は人生の最後に誰もが経験する生活の一時期なんだ」と考えて、生活を基本にして衣食住を整えたうえで介護と医療をつける構造にしようとした。生活が基本なので面会は24時間OKだし、飲酒も食べ物の持ち込みも自由、何か問題が起きた時のために医師・スタッフがいるのだという考えである。
阿川弘之氏は元気なころは「もし俺が老人ホームに入ることになったら自殺してやる」と言っていたのが、実際にこの施設に入ってみたら食事がとても美味しく色々な点で気にいったようで、佐和子氏もほっとしたそうである。対談を通して老人の介護と医療の問題点が浮き彫りになってくるが、大塚氏の実践していることと佐和子氏の親との関わりは理想的で、いずれは自分もこういう施設に入りたいものだと思った次第である。
夏の終わりに
平成30年8月31日
猛暑の8月も今日で終わり、特に朝夕は季節の移ろいが感じられる。自転車通勤していると日の暮れるのが早くなったことを実感する。通勤で最も時間のムダなのが信号待ちだけれどそれでも待ち時間に見る風景の微妙な変化も面白いし、10年以上同じコースを通っているとどこで待たねばならないか決まってしまう。平日と土日では信号の待ち時間などを変えていることもわかるし、イベントなどでも変えていることがわかる。月曜日の朝は通勤の人たちの表情が心なしか暗く、とげとげしく感じられることがある。学生さんたちは明日から新学期なのでさぞかし気が重いだろう。自分のことを思い出してもそうだったから、長い夏休みの後は大変だ。中学高校と部活はテニスで休みの日も練習に行ったり他のことで学校に行くことがよくあって、新学期の登校が久しぶりではなかったけれど、夏が終わったんだというもの哀しさを感じたものである。
季節の変わり目を迎えるたびに我が国の自然の素晴らしさ、四季があってよかったと思うのである。
「最後の講義」福岡伸一
平成30年8月24日
NHKBSの番組に「最後の講義」というのがある。これは米国の同名の番組をまねたもので、各界の著名人に人生最後の講義をすることになったらどんな講義をするかということで、実際に講義をしてもらったものを編集・解説し放映したものである。
今回は生物学者で「生物と無生物のあいだ」「動的平衡」などの著書でおなじみの福岡伸一氏が、現在教授をしている青山学院大学で講義したもので、解説は阿川佐和子氏だった。以前から福岡氏の著書を読んでそのユニークさと生物に対する理論への共感から注目していたので、興味を持って視聴した。まず、自分がなぜ生物学者になろうと思ったのかというところから語り始めて、京都大学時代に重要な遺伝子を欠損させたマウスを作ったけれど、外見も機能も寿命も全く変わらなかったという経験を経て、生命とは何かを一層考えるようになったと言う。そして生命とは動的平衡であるという結論に達したのである。生命の動きを的確に表現する手段として絵画があり、大好きなフェルメールの絵はその極致だろうと。
福岡氏の生物に対する考え方は、解説の阿川氏が「福岡先生は養老孟司先生と同じような印象がある」というように、的確に本質をついているのだと思う。脳死問題も氏が述べている通りだと思う。学生たちも真剣に聴講し質問も真摯なもので、面白く視聴させてもらった。
休み明け
平成30年8月17日
お盆休みが終わり8月16日から診療開始したが、木曜日なので午前中だけである。例年、休み明けは患者さんが多いけれど、今年は特に多くて終了時間が大幅に遅れた。休みモードから仕事モードへの変換が急激だったので、いささか疲れたが心地よい疲れである。
今年は孫たちも帰ってこないので、かねてより訪れてみたかった鎌倉・箱根へ行ってきた。鎌倉は紫陽花の季節がいいのだろうが、まとまった休みが今しか取れないから仕方ない。養老孟司先生のお住まいを拝見することは望むべくもないので、鶴岡八幡宮などをベタに観光した。隠れ家的鮨屋「和さび」が予約できたのはラッキーだった。結局、横浜に1泊、箱根に2泊したが、箱根はレンタカーで回ってみた。例年正月に行われる箱根駅伝のコースも通ってみたがテレビで見ている風景そのままなのが面白い。圧巻だったのは「彫刻の森」で、特に「密着」という作品にはしばらく足を止めて鑑賞した。残念だったのは海抜1327メートルの箱根駒ケ岳にロープウエイで登って富士山を見ようと思ったのだけれど、雲と霧で真っ白になり何も見えなかったことである。宿は居心地が良くて温泉も食事も良く、久しぶりのリフレッシュできる休暇であった。
木曜日の午後
平成30年8月10日
木曜日の午後は休診なので、昼食は普段行けないところに行くようにしている。最近よく行くのは、「そば切り吟」と「サカナヤ」である。
そばは元々好きで、おいしい店があると聞けば試しに行ってみるようにしている。「はっぴ」「雪花山房」「翁」「ながお」「宮島達磨」「浅枝」「やぶそば」、どの店もそれぞれ特徴がありおいしいそばとつまみを味わうことができる。初めの4軒はいずれも高橋名人の店とその弟子・準弟子の店であるが、惜しいことに「雪花山房」と「翁」はなくなってしまった。「そば切り吟」はそば自体は名人のそばに似ておいしく、つゆもほどよい加減で、昼のあなごの天ぷらとのセットは優れものである。段原にあるので通いやすく、夜もたまに行って軽く飲んでそばを食べて(関東ではたぐって、というらしい)帰る。年越しそばはここのそばを予約して持ち帰り、家で茹でて食べる。
「さかなや」は佐伯区にあるゾーナイタリアの系列店で、ここのオイルパスタが好きである。ガーリックパンの少し辛めの塩加減がなんともいえず、前菜の白身魚のカルパッチョがうまい。この2軒はこのところ2か月に1~2回は行っている。
猛暑(続)
平成30年8月3日
このところ記録的猛暑が続いている。昨日は気温が40度に達した地域があったという。日中は外にいるだけで汗がふき出てくるので、エアコンの効いた室内にいるのが一番である。ところが昨日、待合室のエアコンが調子が悪くなって、冷気が入ってこない。業者の人に点検してもらったのだが、修理に2~3日かかるらしい。当院には7台のエアコンがあるが、待合室のエアコン以外は問題なく稼働している。急遽、扇風機を出したりして対応しているが、昨今の異常な暑さには難しいことである。
昨日、瀬野川のそばを車で通ったら洪水の後の修復の作業をしていたが、この猛暑の中頭の下がる思いがする。熱中症の対策はしっかりやっておかないと大変である。がれきを搬出するためのトラックもたくさん行き来している。ありがたいことである。
夏の高校野球が始まった。この猛暑の中、球児は大変である。いくら元気な高校生とはいえ、熱中症が多発する可能性が高い。そもそも暑い夏に大会を開く理由があるのだろうか。学校が夏休みという休暇を作ったのは、暑い夏はなるべく外に出ないでマイペースで行動しなさい、という意味だろう。それなのに、一番暑い日中に根性論のような練習や試合をさせるのはいかがなものか。自分も高校時代は夏の日中、部活でテニスをしていたが、今ほど暑くなかったような気がする。
猛暑
平成30年7月26日(木)
大雨の後は一転して猛暑の日々が続いている。災害復興のために日中、汗を流している人の中には、熱中症で救急搬送されている人もいると報道されている。天はまじめに生きている人たちになぜこんな過酷な試練を与えるのか。普通に外を歩いているだけで汗が噴き出てくるような時に、自宅に住めなくなって避難所で過ごすのは、心身ともに疲れることと思う。一日も早く復興することを切に願う。
例年、7月下旬から8月初めの頃が暑さのピークで、盆を過ぎれば少し凌ぎやすくなってくる。自分が子供の頃はクーラーはなく、団扇と扇風機だけだったけれどこんなに暑くなかったように思う。田舎なので家も少なく田んぼや畑、小川や裏山など緑に囲まれていたからだろうか。昼食の後は大人たちは開け離した風の通る家の中で昼寝をして、子供たちは川や池に泳ぎに行ってその後昼寝したものである。夜は蚊取り線香をたいて台場で涼み、窓や戸を開けて蚊帳をつって寝る。明かりをつけると虫が飛んでくるので暗くしておかねばならない。早寝早起きになるわけだ。朝は地区ごとに集まってラジオ体操、涼しいうちにスイカを裏の畑から採ってきて井戸に入れておくと、ちょうどいいおやつになる。振り返ってみれば、物のない時代ではあったけれど贅沢なことだったと改めて思う。
子宮内膜症と不妊症
平成30年7月20日
東京女子医大産婦人科・熊切順教授の表題の講演があった。月経困難症の治療薬としてのLEP製剤を発売している製薬会社の後援だったため、講演に先立ち別の講師によるインターネット講演もあった。子宮内膜症に対するLEP製剤の有効性は今では常識となっているが、20年前に我が国でやっと低用量ピルが認められた頃には健康保険制度のしばりもあって、あまり使われていなかった。自分のクリニックでは最初から子宮内膜症のファーストチョイスの薬として使ってもらっていた。特に1相性のピルを、当時は認証されていなかった連続使用が有効であると積極的に薦めていた。20年経ってやっと連続内服の方が有効だと言い出して、連続内服のLEP製剤が発売されている。理屈から考えればわかりそうなものだが遅すぎる。はじめからそうしておけば、どれだけの患者さんが楽になったことか。
熊切教授のあざやかな腹腔鏡手術のビデオを供覧したが、薬物療法だけでは難しい内膜症も多数存在していて、これらには教授のようなエキスパートの手術が必要である。子宮内膜症と不妊症は最も大きなテーマであるが、簡単に解決される問題ではなく、長い地道な努力が続けられている。自分としてはピルを含めたLEP製剤の普及に努めていきたい。