「怒りを抑えし者」

平成30年6月22日
表題は京都大学文学部から朝日新聞社を経てフリージャーナリストの稲垣武氏が平成9年に出版した著書で、サブタイトルが「評伝 山本七平」となっている。この本は「寺田寅彦覚書」と同じところで手に入れたもので、なぜか多くの古書の中からすぐに目について購入した。「日本人とユダヤ人」で鮮烈デビューした山本七平氏はその後の20年間に多くの著書・対話集を出して、当時大きな影響力のある論客として活躍した。氏の「日本教について」「ある異常体験者の偏見」「私の中の日本軍」「空気の研究」「論語の読み方」など興味深い著書は枚挙にいとまがなく、新刊が出る度に購入して楽しませてもらっていた。
この「評伝」には氏のルーツから生い立ち、下士官として従軍してフィリピンで終戦、九死に一生を得て帰国、「山本書店」の立ち上げと結婚、地道な出版の仕事から49歳でのベストセラー著書の大宅賞受賞で世に出た後の活躍、すい臓がんの闘病から69歳の終焉まで詳細に記していて興味深く読ませてもらった。死の直前、息子の良樹氏との共著「父と息子の往復書簡」をうれしそうに眺めていたというエピソードは心に残る。