¥1円の古本

平成27年12月4日(金)
突然、半村良の「妖星伝」を読みたくなったので家の書棚を探してみたが、全6巻(後で第7巻が追加された)揃えていたはずなのに第1巻しか見当たらない。そうなると第2巻以降をいっそう読みたくなりブックオフで探してみた。20年~30年前頃ベストセラー作家だった半村良の作品は当時、本屋の文庫本の棚に一杯並んでいたが、今では古本屋でも探すことが難しいことがわかった。アカデミー書店他、数か所回ってみたけれどせいぜい1冊ぐらいしかなかった。ついでに西村寿行、高木彬光の本も探してみたがほとんどなかった。確か西村寿行は作家の長者番付で1位になったぐらいの流行作家だったはずである。
アマゾンで調べてみると、古書で出ているので注文してみた。なんと!1冊1円で出品されていた(中には91円というのもあった)が、信じられない値段である。ただし送料が257円かかるという。月曜日に注文したら木曜日には1冊だけは届いた。トレッシングペーパーのカバーがかけてあり、出品者「いちょう企画」の仕事には好感が持てた。それにしても便利になったものであるが、流行作家の賞味期間はなんと短いことかと思ったことである。

再び和歌山へ

平成27年11月26日(木)
連休を利用して和歌山へ行ってきた。メインの目的は軽音楽部でピアノを担当していた息子の大学最後の定期演奏会を聴きに行くことであるが、ついでに前回行けなかったところも訪れてみよう、美味しいものも食べてみようと思ったからである。大学内の講堂での演奏会は満席・立ち見の盛況で、1ステージ6曲を3ステージ、全部で18曲をほぼ3時間かけて演奏するものだった。いずれも迫力のあるレベルの高い演奏で、しっかり楽しませてもらった。2年間バンドマスターを務めた息子はなんと半分の9曲に出演し、すべて楽譜なしで演奏しており、プログラムの「ピアノばかり弾いていたらいつの間にか6年経ちました」は真実だと思った次第である。卒業生たちの感動的な場面もあり、定期演奏会は初めてだったが来てよかった。
前から行ってみたかった「オテル・ド・ヨシノ」でひさびさのフランス料理、いいものが少しずつ出され堪能した。翌日はレンタカーで紀州東照宮、和歌浦天満宮、番所庭園、風土記の丘、県立博物館などを巡って特急くろしおで大阪へ。法善寺横丁の串揚げ「wasabi」で夕食、以前行ったことのある黒門市場の「六覺燈」も良かったが、また違った工夫が見事であった。翌日は京都へ寄ってみたがあまりの人の多さにげんなり、市街を散策し「まえはら」でうなぎ、辻留の弁当を仕入れて帰広、食べるばかりしているようだがそうなのである。でもいい息抜きになった。

立川談春著「赤めだか」

平成27年11月19日(木)
本屋に行った時にたいてい寄るコーナーの一つに、落語関係の本が収められている棚がある。以前、上田文世著「笑わせて笑わせて桂枝雀」を見つけたのもその棚で、たまに名著・珍著に出会うので見逃せない。
「赤めだか」は、著者が高校卒業直前の17歳で立川談志に入門して、前座から二つ目になるまでのあれこれを書いた、立川談春の青春記である。昔から「青春記」が好きで、いろいろな人の著書を読んだが、この本は著者の素直な気持ちを淡々と表した文章が心地よく、一気に読み終えた。立川談志に関する書籍、落語のCD、DVDなどは多数出版されていて結構持っているが、この本は弟子の立場から書いた出色の著書である。
「赤めだか」とは、その頃談志の家で飼っていた金魚のことを、弟子たちが餌をやってもちっとも大きくならないのでそう呼んでいたところから、一人前になろうとしてもなかなかなれない自分たちになぞらえての題名だろうが、的を射た言葉である。まだ何者にもなれない、なれるかどうかもわからない世に出る前の不安と、一方では漠然とした根拠ない自信の間で揺れ動く心境こそが青春時代なのだろう。

産婦人科同門会

平成27年11月13日(金)
毎年恒例のわが母校、岡山大学産婦人科教室広島支部同門会が平松教授臨席のもと、メルパルク広島で行われた。昨年はシェラトンホテルで行ったのだが、予算不足のため今年はメルパルクにしたのである。現在、同門会の人数は29人、うち21人の出席であった。24年前、中電病院に赴任した頃はもっと同門の人数が多く、会合の場所も今はなき料亭「新月」で豪華に行われていた。毎年配られる名簿は入局順になっていて当時、自分の位置は大体下から3分の1ぐらいのところだった。現在の位置は24年たっているのにまだ真ん中よりわずかに下である。これは新しい人が入らないのと先輩の人たちがお元気だということであるが、平均年齢はかなり高くなっていると思われる。
どの組織でも同じだと思うが、新しい人が入らないと組織は衰退して行く。産婦人科医、特にお産をする医師が減っている現状では仕方ないことかもしれないが、このままでは全国的にお産難民が増えて行くだろう。

アルコール中止

平成27年11月6日(金)
アルコールに弱いくせに好きで、だらだらと飲むことが多かったが、とうとう飲めなくなった。先週、木金と飲みがあり土曜日に偶々いい肉があったので家ですき焼きをして旨かったのでつい食べ過ぎてしまった。翌日から胃部不快感でなにも欲しくない。アルコールは厳禁である。すぐに治るかと思ったが今回はなかなか回復しない。なのに火曜日は休日だったので久しぶりに「梅の葉」で取れたてのイカをビールで堪能してしまった。少し回復してきていたのがまたもダメになった。水曜日から昼は「讃岐屋」でうどん、夜は湯豆腐などの鍋物のみ。体重が減るかと思ったがほとんど変わらず。いずれにしてもアルコールは自分には向いていないのだと思う。アルコールのほとんどない生活に戻るのがいいかもしれない。

久坂部羊著「人間の死に方」

平成27年10月29日(木)
表題は医師で作家の久坂部氏が、自身の父親を在宅で看取った顛末を記した新刊書である。氏の父親も医師であったが医療を信用していないので病院にかかることはほとんどなく、自由気ままに生きた。息子である著者との関係はすこぶる良好で、家族関係が良いことがやすらかな在宅死を可能にしたのだろう。
著者の久坂部氏は大阪大学医学部を卒業後、外科専攻したけれど思うことがあって外務省に入り、日本大使館の医務官となって9年間の海外勤務をした後、現在は高齢者医療にかかわりながら作家活動をしている。筆名は父親の姓と母親の旧姓からとったもの(久家+坂部)だと思われるが、著者の両親とくに父親に対する思いが文章から感じられて本当にいい家族だと想像させられる。氏の祖父母、曽祖父母も(父方も母方とも)病院ではなく自宅で亡くなったそうで、珍しいことである。きっとそのような星のもとに生まれた一族なのだろう。
内容に共感する部分が多く、一気に読んでしまった。

十の詩曲

平成27年10月23日(金)
偶然、YouTubeで早稲田大学グリークラブの演奏する「六つの男声合唱曲」を見つけ、その演奏の素晴らしさと曲にまつわるあれこれを思い出し、何とも言えない気持ちになった。この曲は、ショスタコービッチ作曲の無伴奏混声合唱曲「十の詩曲」から、合唱指揮に造詣の深い今は亡き福永陽一郎氏が6曲を選んで男声合唱曲に編曲し、歌詞も原曲のロシア語の詩を日本語に自分で意訳したものを1970年代に東西四連で演奏したのが初めだと思うが、その時に大阪まで聴きに行った合唱団の仲間がテープレコーダーに録音したものを聞いたとき思わず「これだ!」と叫んだ。ちなみに「東西四連」とは早稲田、慶応、関学、同志社の東西4大学の男声合唱団の合同演奏会のことで、東京と関西で毎年開かれていて、そのレベルの高さに一般の大学合唱団はあこがれを抱いていたものである。
当時、大学男声合唱団の学生指揮をするように先任の優れた先輩から言われ、能力もないのに若気の至りで引き受けてしまい大いに皆に迷惑をかけてしまった。合唱コンクールに出場することになり、自由曲を何にするか迷っていた時にこの曲を聴きこれに決めたのである。ただ、曲自体が非常に難しい上に、指揮者の能力がないため散々な出来で、いまだにメンバーに悪かったと反省している。
今回聴いたのは2010年、京都で行われた第59回東西四連の演奏会で、福永氏のお孫さんにあたる小久保氏の指揮による早稲田大学グリークラブの演奏である。その素晴らしさに陶然となり思わず書いてしまった。

美しい姫路城

平成27年10月16日(金)
天守閣の修復が完成した姫路城に休日を利用して訪れた。以前から新幹線で姫路を通過する時お城を見ようと思っても、ずいぶん長い間覆いがかけられて見ることができなかったが、晴れて修復が終わったと聞き行ってみる気になったのである。姫路は医師になって初めて研修医として赴任した地で、病院の看護婦さんたちと姫路城の広場で夜桜酒盛りをした思い出があるが、あの時は寒かった。当時は世界遺産などという厚化粧もなく、ひたすら美しいお城で春は花見客でにぎわい、天守閣に登るのも簡単であった。今回訪れて驚いたことは、観光客の多さである。お城に入るのに90分待ちで、入った後も通過するだけでゆっくり見る暇はなかった。せっかく昔を思い出しながらしみじみ歩いてみようと思っていたが、残念だった。
姫路での昼食はネットで調べて予約しておいた広東・四川料理「避風塘ふじた」に行った。小さな店だが地元の人が勧めるだけあって実に美味しく、丁寧に作られた料理(飲茶)をリーゾナブルな値段でいただいた。接客も良く大いに満足した。次に訪れる時には観光客の少ない平日に姫路城を見て、この店で夕食を食べてみたい。

「そば」について

平成27年10月9日(金)
「そば」についてのエッセイでは池波正太郎氏の作品が知られているが、氏は店が込み合っていない午後に行きつけの蕎麦屋にふらりと入り、軽いつまみで酒を1~2合飲み、もりそばをたぐってさっと引き上げる、というようなふるまいを書いている。私も「そば」は好きなのでちょくちょく食べに行くが、よく行くのは「はっぴ」と「そば切り吟」である。どちらも「そば」がすばらしく、つゆもそれぞれ微妙に異なるが美味しく甲乙つけがたい味である。つまみも品数は少ないがビール、日本酒に合うものを用意していて好きである。「つまみ」の種類とおいしさではそごうに出店している「藪そば」がいい。ここのかき揚げとだし巻きは、さすが日本の名店だと思わせる味である。
「そば」そのものでは高橋邦弘名人の「雪花山房」が素晴らしかったが、残念ながら今年の5月に閉店したそうである。高橋氏は今もそば打ちの指導に全国を回っているらしい。拠点を大分県に移すといううわさもあるが真相はわからない。最近宮島に高橋名人系列の「翁」ができたそうである。ぜひ行ってみたいと思っている。

産婦人科の薬

平成27年10月2日(金)
先日、いま最も多く処方されている産婦人科の薬のベスト10を知る機会があり驚いた。私が使っていない薬ばかりである。ベスト1は子宮収縮抑制剤(流早産防止の薬)で注射ではプラセンタ製剤だったのである。
つい最近にも書いたが、30数年前に産婦人科教室に入局した時に「切迫流産には止血剤と子宮収縮抑制剤を処方する」という決まりがあった。まだ超音波検査がない時代で、それらの薬が効果があるかもしれないと思われていた時代である。その後、流産の原因は妊卵の細胞分裂の異常によることがわかってきたので、これらの薬の有効性に疑問を持つようになった。流早産は自然の流れで起きるので、薬でどうなるものではない。まして外来で内服薬を出したぐらいでは止められないし副作用もあるので、患者さんが「何か薬を飲んだ方が精神的に落ち着くので出してくれ」と言わない限り処方していない。またプラセンタも薬として認可されてはいるが、生物製剤だし効果については?なので使わない。
他にも突っ込みどころ満載の薬がいっぱいあり、逆に面白かった。厚労省は薬の使用量を減らそうとしているようだが、私みたいな医者ばかりになると薬の使用量は激減して薬屋さんはあがったりになるだろう。