梅雨

平成28年6月24日(金)
このところ雨の日が続き市内でも避難警報が何度も出るようになった。今週になって二日間、深夜にスマートフォンのけたたましい音に快適な眠りを中断されたが、増水による河川の氾濫を警戒したものであった。この時期は雨が降るのはあたりまえだが、それにしても降り過ぎである。
梅雨時になると思い出すのは小学生の頃の「田植え」である。自分を含め同級生はほぼ全員農家の子供だったので、梅雨になると一斉に田植えを行う。今のような田植えの機械はないので、近所同士が手伝いあって一株ずつ手で植えて行くのである。小学生といえども貴重な働き手であるから、小学校は農繁休暇ということで何日間か休みになる。田んぼの泥の中にくるぶしまで埋まりながら田植えをするのは結構つらいことだった。いつの間にかヒルに血を吸われていることも多く、数少ない農家以外の子供がうらやましかったものだ。さすがに中学時代は農繁休暇はなかったが、稲刈りは手伝っていた。当時はあまりうれしいことではなかったが、今では四季を体で感じることのできた貴重な子供時代だったと思う。

藤原教授の講演

平成28年6月17日(金)
「腫瘍と生殖医学における手術アプローチ法の相違点ー生殖機能の再建を目指してー」と題して金沢大学産婦人科、藤原浩教授の講演があった。初めに子宮癌の手術の映像の供覧があり、表題との関連がよくわからなかったが、妊孕性の保存の観点からその意味がはっきりしてきた。受精する場所は子宮の裏側、腸に邪魔されない場所で行われるので腹膜を傷つけないことが肝要でありそのために手術方法を工夫すること。子宮内膜症による癒着がある場合は丁寧にはがし、内膜症組織を取り除くことにより生理痛は改善し、妊孕性も保存されること。受精と着床にかかわる内分泌と免疫の関係では、これらが複雑に絡み合って妊娠が成立することを仮説も含めて腑に落ちるように説明された。
生物学は実に奥の深い学問でわからないことだらけであるが、様々な面からのアプローチにより現在の生物学・医学が成立している。医学は病気を治すために仮説に基づいた治療を試みざるを得ないところがあり、そのために治療がうまくいかないことがある。でも、目の前に病んでいる人がいたら何とかしてあげたくなるのが人情だろう。不完全なことを承知で、負担のかからない意味のあると思われる治療を試みるしかないのが現実である。そのことを改めて思わせてくれた講演であった。

行きつけの店

平成28年6月10日(金)
料理をおいしく食べるために欠かせないのが酒であるが、晩酌をするようになったのは開業してからである。開業前は夜はお産で呼び出されることもあり、元来アルコールには強くないのであまり飲まなかった。開業後は次第に食事内容がつまみ中心になり、ビール・日本酒がおいしくなってしまった。
飲み(食事)に出るときは鮨屋・居酒屋が多くなり、せっかく行くのならおいしい店にしようと試行錯誤ののち、現在の状態に落ち着いている。平成22年からは行った店はほぼ記録することにしているが、2回以上行ったのは80軒ほどあり、その中で何度も訪れている行きつけの店は20軒ぐらい、鮨屋・魚の旨い料理屋・居酒屋・蕎麦屋・焼き肉店・天ぷら屋・イタリア料理店などが多い。初めは良く通っていたけれど次第に行かなくなったり、気に入っていたのに店がなくなったために行けなくなったり、いろいろ変遷はあったが今はだいたい固定している。それでもいい情報が入るととりあえず行ってみるようにはしている。思わぬ「当たり」の店に出くわすこともあるからである。
尾道・福山にも何軒か行きつけの店があるが休日の昼しか行けないのが残念である。いずれの店も一度は夜行って腰を落ち着けてアルコールと共に料理を楽しんでみたいと思っている。

ウオーキング

平成28年6月3日(金)
腰痛のため週1回のスポーツクラブのテニスもできなくなり、体を動かしたくて仕方ない時は歩くようにしている。元来、健康には自信があったのだが、自分には向いてないゴルフの練習のし過ぎから腰痛になり、二度とゴルフはしないと誓っていた。ところが、のど元を過ぎればのことわざもあるが、ゴルフ自体が面白いスポーツなので再開しようとしたら一層腰を痛めてしまった。この学習能力のなさはニワトリ並みだと自嘲しつつ今は歩くことだけが唯一の運動になっている。情けないことであるが仕方がない。
先日は比治山に登り、京橋川沿いに北上して二葉の里から常盤橋を渡り白島から川沿いに南下、カノーバカノーバでランチを食べて帰宅、合計12キロ歩いたことになるがこれぐらい歩くと少しは運動したかなという気持ちになる。京橋川の東側遊歩道には泰山木の白い花が咲いており、実に気持ちがよかった。自転車通勤は続けているがそれとは別に、なるべく歩くようにしたい。

平松洋子著「食べる私」

平成28年5月28日(土)
著者は料理や食、生活文化などの執筆活動を行っているエッセイストで、表題の本は2012年から足かけ3年かけて29人の著名人に「食」を中心にした話を聞いてまとめたものである。
まず、ひきつけられたのは、それぞれの人に食べ物を語ってもらうことを通して、いつの間にかその人の真実に触れてしまうようになる著者の力量である。もちろん話を聞く前にはその人のことを著書も含め詳しく調べているけれど、本音を引き出す力は著者のこれまで生きてきた総合力だと読みながら納得している。映画「かぞくのくに」で数々の賞を受賞したヤン・ヨンヒ映画監督の章では、一家の過酷な運命に驚き涙しそうになるが「疲れたときは、オモニ手製の鶏のスープを飲むと元気が出て、ほっとします」という言葉に救われた気持ちになる。マラソンの高橋尚子氏の章では、「食は私の命そのもの」と言い切る氏のこれまでの選手生活と今のスポーツキャスターとしての生活が、食を通して語られマラソンに対する思いが伝わってくる。圧巻は芥川賞作家でのちにポルノ小説家に転じた宇能鴻一郎氏の章で、著者が話を聞いた時70代後半だった宇能氏のこれまで公表されていない少年時代の「食」と「官能」の一体化の記憶が語られていて、息をのむ思いがした。
著者の作品は本屋ではよく目にしていたが、読んだのは初めてだった。これを契機に他の作品も読んでみたいと思う。

日常診療における子宮内膜アブレーション

平成28年5月20日(金)
表題の講演が島根大学医学部産婦人科の中山健太郎准教授により行われた。子宮筋腫や子宮内膜症により過多月経になることは多いが、その際にピルなどによる薬物治療ではコントロールが難しい場合、筋腫摘出術や子宮摘出術を行うことが一般的である。子宮をなくしたくない人や手術を希望しない人のために、子宮動脈の一部をふさいで筋腫への栄養血管をなくするUAEという技術が開発されている。この方法では子宮は残るけれど良い点も悪い点もあり、それほど一般化していないのが現状である。
子宮内膜アブレーションはマイクロ波を使って子宮内膜を焼くことにより月経の量を減らすか失くすという治療法である。この方法だと子宮内膜は機能しなくなるというか、失われるので女性ホルモンによる変化はなくなる。ただし、子宮筋腫の増大が防げるわけではないし子宮内膜症による卵巣チョコレートのう腫の増大は防げないので、症例を選んで行う必要があるが、子宮内に細いマイクロ波アプリケーターを入れて焼くだけなので、手術のような侵襲はなく当日か翌日退院も可能である。いろいろな治療方法が開発されることにより治療の選択肢が増えるのはありがたいことである。

治験について

平成28年5月13日(金)
「治験」とはその薬が有効か、副作用はどうなのかなどを実際に患者さんあるいは健康な人を対象に使用して調べることで、現在医薬品として使われている薬はすべてこの「治験」という段階を経ている。だから医師はほとんどの薬を安心して処方するわけである。
ここで疑問に思うのは、緊急避妊ピルの治験である。そもそも対象は避妊に失敗したかもしれない女性であるからその人たちに、本物の薬と偽薬を無作為に出すことができるのだろうか。妊娠を心配して病院に行ったのに医師から「あなたは緊急避妊薬の治験に協力してくれますか。本物の薬か偽薬かは私もわかりませんが50%の確率で本物の薬が当たると思います」と言われて、協力してくれる人がいるとは思えないからである。日本以外の国では、貧困層の人たちに無料で薬を提供する代わりに治験に協力してもらうということで成立しているというが、健康保険が世界一充実している我が国でこの薬の治験ができるとは思えない。だからこの薬は外国のデータに基づくものだろうが、どうも疑わしい。
実は、緊急避妊ピルに限らず自分から見て疑わしい薬は他にもある。そのような薬は自分からは処方しないが、患者さんが他の病院で処方されていてその薬を希望する場合には、仕方なく処方することはある。もちろん自分の見立てを言っても患者さんが納得しない場合だけであるけれど。

黄金週間

平成28年5月7日(土)
ゴールデンウイークは最長10日間休めるの人もいるようだが、当院は暦どおりで今週は月・金・土曜日は開院している。長い休みを取らないのは、あまり海外旅行に興味がないのと、この時期は混雑する上に旅行の費用がやたらと高くなるからである。ヨーロッパには行ってみたいけれど往復の時間を考えると、じっくり時間をかけて滞在しないともったいない。昔、一度だけ学会にかこつけてスペイン・ポルトガル・モロッコ14日間の旅に参加したことがあるが、さすがに歴史のある国は見たいものがたくさんあるので、最低1か月は滞在したいと思ったものである。特にスペインは食べ物も美味しくバルでビールを飲んでも安いしつまみもうまい。もう一度行ってみたいけれど、どうせ行くなら長い休みを取って行きたいものである。
今はもっぱら国内旅行、名所旧跡を訪ねて美味しいもの・美味しい店を探すのが好きである。京都にはよく行ったが、今は人が多すぎて身動きが取れないのであまり行かなくなった。近頃では中四国・九州あたりをうろうろして楽しんでいる。

中区医師会第4支部会

平成28年4月28日(木)
耐震補強のために紙屋町の仮店舗に移転しているアンデルセンで支部会が開かれた。本通りを中心に南北1km、東西500mの場所に50を超える医療施設がひしめく第4支部は新しい施設が増えており、施設名簿をみると開業19年目の当院はもう開業順でみれば古い方から真ん中近くになっている。新規開業と継承の責任者が順番に毎年、世話人として支部会を開催することになっているが、最近開業した医師が世話人になるのは15年先なので「自分が世話人になるときはもう閉院しているか亡くなっているかな」と冗談をいう人もいるぐらいである。他の地区は新規開業が少ないので世話人の係が何回もまわってくるという。自分の場合も世話人をしたのは開業して10数年たった後だったし、もう2度と回ってこないだろう。
仮店舗のアンデルセンはさすがに本店と比べると小さいが、料理はそこそこよかった。今まではアンデルセンはすぐそばにあって食事会や支部会などに使えるし、パン・食材・惣菜・ワインなど豊富にとりそろえられて実に便利だったけれど耐震補強のためなら仕方がない。熊本の地震をみれば絶対に必要なことだろうと思う。何年かかるかわからないというのが気になるけれど。

「Jazzen」「The Circle」

平成28年4月22日(金)
表題はいずれもカリフォルニア生まれのアメリカ人尺八演奏家、ジョン・海山・ネプチューン氏のCDである。このところ様々な尺八演奏家のCDを聴いているが、さすがに名のある演奏家の音色はそれぞれ特徴はあるが快く聴くことができる。琴との演奏も多いが和楽器同士は相性が良くて和の世界を満喫できる。
ジョン・海山・ネプチューン氏の演奏はかなり前に一度だけ広島での演奏会で聴いたことがあるが、尺八という単純だけれど扱いにくい楽器を自由自在に吹き、伴奏のギターとピタリと合ったすばらしい演奏であった。尺八の弱点をこれほど感じさせない演奏も少ないと思うが、こういった傾向は外国人尺八演奏家に多いような印象がある。
上記のアルバムは前者はジャズと尺八のコラボであるが、曲想はジャズと禪の融合であり、後者は日本・インド・ジャズ、さらにはラテンの音楽を融合させた独特の世界を表現している。我が国では技術を要するものはなんでも茶道・華道・柔道など道がついて精神の鍛練を重んじる文化がある。尺八はともすれば尺八道になりがちであるが、海山氏の尺八は純粋に音楽表現の楽器として使い、演奏しているように思われて実に快い。