妊娠中絶について

令和4年7月1日
日本では人工妊娠中絶は合法になっているが世界ではそれぞれ異なった取り決めがある。たとえばマルタは全面的に禁止されている。アイルランド、スペイン、ポルトガルは基本的に禁止だけれど条件付きで可能になっている。アメリカでは州によっては禁止なので正式な統計は出ていないが年間130万件ぐらいと推定されている。妊娠中絶の率が最も多いのがロシアでスエーデン、フランス、英国も多い。我が国はかつては多かったが今は最も少ない国の仲間入りをしている。その理由はコンドームの普及のおかげだといわれている。
たしかにピルの普及している欧米に比べて我が国のピルの普及率は最低である。現在3%といわれている。でも、我が国より一桁ピルの普及率の多い欧米がなぜ人工妊娠中絶が多いのだろうか。欧米の人の方が性的に活動的なのかもしれない。
妊娠中絶を決めるのは女性であるべきで、男性はオブザーバーにすぎない。妊娠を継続し命がけで産み、育てるのは女性である。中絶という心身ともに大きな負担をこうむるのも女性である。それを男性社会が合法だとか非合法だとかいうのはおかしな話で、女性が真剣に考えて決めたことを尊重すべきである。

「森のうた」

令和4年6月23日
表題はN響の指揮者で2,006年に逝去された岩城宏之氏の著書で、復刻版として今年発刊された。氏は東京芸大に現役入学し、一浪して一学年遅れて入学した山本直純氏と肝胆相照らす仲となり、指揮者になることを目指して頑張った青春記である。あまりにも面白かったので紹介することにした。
「青春記」はどれも面白いもので、自分のその頃の記憶と相まって興味深く読めるものだ。畑正憲「ムツゴロウの青春記」南木佳士「医学生」小松左京「やぶれかぶれ青春記」北杜夫「どくとるマンボウ青春記」久坂部羊「ブラックジャックは遠かった 阪大医学生ふらふら青春記」など数え上げればきりがないが、いずれも実に面白い。
表題の「森のうた」は芸大の打楽器科に入った岩城氏と作曲科の山本氏が、指揮がしたい一念で切磋琢磨しながら夢をかなえていき、とうとうショスタコービッチのこの曲を指揮するに至るところまでを描いている。語り口もよく、よくぞ復刻版を出してくれたものだと思う。

食物日記(再)

令和4年6月17日
平成28年10月から「食物日記」なるものを記すことにして、毎日昼夜の食事の内容、店の名前、誰と一緒だったか、値段、簡単な感想などをメモするようにした。始めてもう5年になる。だいたいは何日分かをまとめて書くようにしていたが、時々思い出せなくなることがあった。PayPayが使えるようになって日時と店名と金額が記録されるのは実にありがたいことで、1週間分くらいは簡単に書けるようになった。
ところがコロナに感染し入院して中断、その後回復して従来通りの食生活に戻ったものの、なんだか毎日記録するのがおっくうになった。それで外食した時と印象深い食事だけを書くようにした。これはいっそう簡単で、PayPayの記録を基に思い出せば2週間分くらいは一度に書ける。毎日の記録は結構負担になっていたのでこれくらいがちょうどいいと思う。これからはこのスタイルで「食物日記」を続けるつもりである。

「副作用死ゼロの真実」

令和4年6月9日
表題は近藤誠医師の最新著書である。出版日付は2022年6月17日、まだ書店には出てないと思うが、ネットで手に入れることができた。内容は①ワクチン「副作用死」が一人もいない本当の理由②誰も教えてくれなかったワクチン接種の不都合な真実③すでに答がでているコロナ新薬の効果と限界④ここまでわかった感染する人、しない人の違い⑤過去からみえてくる変異の実態とウイルスの未来⑥世界の常識からかけ離れた間違いだらけのコロナ予防策⑦インフルエンザの教訓から学ぶコロナ禍との正しい向き合い方、からなり、終章として「僕はこの2年半、何を考え、どうしてきたのか」を忌憚なく述べている。
世界を相手に真実を追求し、論文を精査し納得できる理論を組み立て、人々に有用でない、むしろ害となる医療を受けないように警鐘を鳴らし続けている氏の著書は「患者よ、がんと闘うな」以来、その語り口のよさと相まって納得することばかりである。こういう人がいてくれるので「人間もまだまだ捨てたものではない」と思う次第である。

大丈夫か

令和4年6月2日
人や物の名前が出てこなくて焦ることがある。数年前に開業されたT先生夫妻に、紀伊国屋書店で偶然出会ったとき、T先生は奥様を紹介してくださったのだが、T先生の名前が出てこなくて一緒にいたカミさんを「こちら〇〇先生、家内です」と言えずに焦った。なんとかごまかしたが名前を失念したことを気付いておられただろう。もっとも知り合ってまだ日が浅いせいもあったけれど。
20年以上前から薬を処方するときに、いつも使っている薬の名前が出てこないことがある。出てこないのはいつも同じ薬なので、いつでも見える場所に薬剤名をメモしておく。
昨日、Y電気店で買い物をしたときポイントカードを持参していなかったので、家の電話番号を聞かれた。ところが家の電話番号が出てこなかったのである。スマホを見てそうだったと思い出したが、ちょっとショックだった。大丈夫か?

生活のリズム

令和4年5月26日
この4月から思うところがあって診療時間を一部変更した。今までは日曜・祝日を除いて木曜日だけ午後休診にしていたのだが、休診は水曜の午後と土曜日の午後に変更・増やしたのである。土曜日の午後は楽になったが、木曜日から水曜日への変更は、長年木曜日午後休診に慣れた身としてはなかなか馴染めない。生活のリズムがそうなってしまっていたからだろう。昨日(水曜日)午後休診だったが、今までの習慣で今日は金曜、明日が土曜日だとつい思ってしまう。25年近く体に刻まれたリズムは一朝一夕には変えられないのだろう。
一週間の流れで言えば日曜日はゆっくり休み(趣味・遊びなど)月・火と働いて水曜日は午後休む、木・金と働いて土曜日は午後休む、これが自然なリズムではないだろうか。体に馴染むまでにはしばらく時間がかかるだろうが、今後はこの診療時間でやっていくつもりである。
皆様よろしくお願いします。

普通の日

令和4年5月19日
ゴールデンウイークも終わり今まで通りの日常が戻ってきている。コロナの感染状況もあまり変わっていない。大阪の吉本知事も飲食の際の人数を4人から制限なしに緩和する方針だという。いいことだ。ほとんど意味のない飲食店への防止策強要はもうやめて欲しい。どの店も透明な衝立を立てさせられるのは意味がないのに。でも多くの店が営業を再開しているのはうれしいことである。
最近、福山のとんかつ店「豚笑」に行った。福山から広島に転勤してきた人が口を極めて褒めるので訪れてみたのである。こじんまりした店で数人がけのカウンターとテーブル席が少し、奥に座敷のようなテーブルが4つあり20人弱は入れるが、一杯人が並んでいるので待たないと入れない。おおよその待ち時間を教えてくれるのでそれまで時間をつぶすわけである。でも、待ったかいのある非常においしいとんかつであった。以前BSで「東京とんかつ会議」という番組があった。山本益博氏をはじめ食通のおじさんたちがそれぞれ一押しのとんかつ屋をレポートしていて、実に美味しそうだったが、その映像を思い出させるとんかつだった。福山にこんな店があるとは思わなかった。まだまだ知らないことが多いと思った次第である。

「人はどう死ぬのか」

令和4年5月12日
表題は医師で作家の久坂部羊氏の近著で、在宅での豊富な看取りの経験から「幸せな死を迎えるにはどういう心構えが必要か」をわかりやすく説明したものである。
阪大医学部出身の氏は外科・麻酔科で研修、指導医の後、思うところがあり終末医療に取り組んで悪戦苦闘し、自分の無力さと困難さに打ちひしがれてていた時に外務省の医務官募集の公募を見つけ応募し、サウジアラビア・ウイーン・パプアニューギニアの大使館で勤務した。その時に他国の人々の「死」に対する考え方を知り、我が国との違いを痛感した。我が国では「死」は病院でのことで、日常ではなく怖いものだということになっているが、それらの国では「あたりまえ」のことと受け止めている。我が国もかつてはほとんどの人は家で亡くなっていたので「死」は日常の出来事だった。それらを踏まえての経験から病院で死ぬことの弊害を説いている。
①善意の延命治療が悲惨な結果を招く②高齢者の場合は救急車を呼ばないほうがよいことも③在宅で看取った患者はほぼ例外なく「穏やかな死」を迎えた④下顎呼吸は臨終を告げる重要なシグナル⑤死に目に会うことを重視する弊害⑥医者たちが「がんで死にたい」と思うのはなぜ⑦自宅での看取りは決して難しくないなど、だれでも迎える死に対しての心構えを説いている。同時に医療への過度の期待を戒め、医療の行き過ぎや弊害も指摘して悔いのない終わりが迎えられるように著したもので、実にその通りだと思いながら読んだ。氏の医療に対する考え方は納得できることが多い。

いつもと同じ

令和4年5月6日
今年の連休は、5月1日(日)が広島市の産婦人科当番医のため、3,4,5日だけが休みで、今日から後はいつもと同じである。3日は孫の初節句で両家が集って祝うことができたのはありがたいことだった。あとはどこに行っても混雑しているから近場でごろごろしていた。休みが続くのでつい油断したら体重が増えてしまった。入院で10kg減っていた体重が7~8kg戻ってほぼ元の肥満になった。困ったものだ。
数年前までは連休は国内の名所旧跡を訪ねるべく、宿をとり旨い店を調べて予約したものだった。それが次第に新たな魅力的な場所もなくなり、コロナによる規制もあって早めに予約して出かける気分にならない。旨い店を調べ、予約できたら宿を探すのが基本だったが今は難しくなってしまった。だから連休でもいつもの休日と同じように過ごしている。まさにいつもと同じ日々である。

「まる ありがとう」

令和4年4月28日
表題は養老孟司氏と愛猫「まる」との関わり合いを、秘書の平井玲子氏が写真に撮り、養老氏が文章を書いて本にした作品である。NHKの番組「まいにち養老先生、ときどきまる」で、鎌倉の養老先生の自宅でくつろぐスコティッシュフィールドの雄猫「まる」と養老先生の姿を見ていて、ほっこりした気持になった人も多いのではないか。自分も大好きな番組であった。残念ながら「まる」は16年生きて亡くなったが、養老先生にとってはかけがえのない存在だったようで、文章を読むと喪失感の大きさが伝わってくる。さらっと書いているだけにその奥にある思いが感じられるのである。
養老氏の著作を愛読しているファンとしては、先生にとってはもちろんだが「まる」にとってもすばらしい猫生(人生ではなく)がおくれてよかったと思う。BSで今でも「養老先生」の番組をやっているが、「まる」がいなくなったことを思い出させるシーンがしばしば現れる。「まる」は養老先生と不思議な「縁」があったのだとしか思えない。