日付別記事一覧 2024年3月1日

「免疫学夜話」

令和6年3月1日
表題は大阪公立大学の橋本求教授の著書で、自己免疫疾患がなぜ起きるようになったかを考察したものである。語り口がなめらかでわかりやすく、そうだったんだと納得することが満載で、近年稀な名著である。
帯に養老孟司氏の「人類はウイルス、細菌、寄生虫との戦いと共生の歴史。読むとやめられなくなる」とあるが、まさにその通りでこれほど的確な推薦文はない。
紀元10万年前に南アフリカで類人猿からヒトに移った「マラリア」は人類史上最も古い感染症で、現代でも年間2億人が罹患し、60万人が亡くなっている現在進行形の病である。マラリアはマラリア原虫という寄生虫を持つハマダラ蚊に刺されることによって起きる。マラリア原虫はかつて光合成をしていた藻類から葉緑素が失われて寄生虫になったことがわかってきたが、ヒトの赤血球はマラリア原虫が生きるのに最適な環境のためにそこで増殖し、赤血球を破壊して次の赤血球に移ることを繰り返して行く。
マラリアから逃れるために遺伝子変化して鎌状赤血球になったヒトは、マラリアにかかりにくい。また、マラリアに強い遺伝子変化をしたヒトはSLEに罹患しやすくなっているという事実があり、SLEはマラリヤと同じ症状の自己免疫疾患である。自己免疫疾患は感染症から逃れるために遺伝子変化してきた人類の宿痾のようなものではないだろうか。アレルギーもそのような一面があり、ヒトと感染症のかかわりはどこまでも続くのである。
シマウマの縞はなぜあるのか、など面白い話題満載のこの著書は座右の1冊にしたいと思う。