令和2年10月30日
表題は早稲田大学名誉教授、生物学者の池田清彦氏の著書である。武漢コロナウイルスによるパンデミックの結果、自粛要請を受けた人々は外出しなくなって世界経済は大打撃を受けている。さらに「自粛警察」と呼ばれる人間も出現し、不幸にして感染した人はバッシングされるようになった。特に我が国ではマスク着用は必須になっていて、それに逆らうと非難を浴びる。そうなる日本人の思考過程について考察し、もっと自分で考えて行動しようよと呼びかけている。本の帯に「養老孟司氏推薦」とあったので買ってしまったが、それほど目新しい内容ではなかった、もちろん賛同する部分は多かったけれど。
「リスクゼロ症候群という病」「クレーマーと無責任社会」「多数派という安全地帯」「事故家畜化する現代人」「空気を読まない人になるために」など刺激的な題のついた章からなる読み物である。コロナにうんざりしているのでつい買ってしまった。
月別記事一覧 2020年10月
「自粛バカ」
広島の蕎麦屋
令和2年10月23日
そば打ちの高橋名人が町長の頼みで豊平に「雪花山房」というざるそばだけの店を作ってから広島の手打ちそばのレベルが上がった。今から20年ぐらい前のことである。今は高橋名人は九州に移り、店も閉まっているがそば打ちを教わった弟子たちの店が県内に沢山できている。いずれも名人の味を引き継いだ美味しいそばを食べさせてくれる。
「雪花山房」は豊平の山中にあり、非常にわかりにくい場所でこんなところに店があるのかと思うような立地だった。月に数回、土日しか営業していないので、開いている日をネットで調べて行ってみると、開店前からすでにたくさんの車が停まっていて店の前の広場には人があふれていた。メニューはざるそばだけでビールを頼めばそばみそを出してくれる。なにより水がうまい。山から湧き出る水は持ち帰りもできるのでありがたい。禅寺を思わせる凛としたたたずまいが一層味を引き立てたようだった。
今、自分がよく行く蕎麦屋で名人の流れをくむ店は「宮島達磨」「手打ちそば浅枝」「手打ちそばながお」最近は行ってないが「はっぴ」などで、どの店もそれぞれ特徴があり大変美味しい。最もよく行くのは名人とは別系統の「蕎麦切り吟」で、近いので行きやすく美味しいからである。一杯飲みたいときはそごうにある「やぶそば」、ここはつまみが充実しているのがいい。酒は「菊正宗」、ここのかき揚げは絶品である。考えてみると結構充実した蕎麦屋廻りができてありがたい。また行ってみよう。
不妊治療が保険診療になる
令和2年10月16日
菅総理の提案で不妊治療が保険診療になるらしい。もっとも普通の不妊治療は今までも保険診療だったし、当院も保険診療の不妊治療は行っているが、不妊専門施設で行っている体外受精、顕微授精など今までは保険外で自由診療だったものが保険になるという。
そもそも体外受精などの専門治療は、卵管不妊が原因の患者さんに行っていたもので、初めは手術室で全身麻酔のもと、腹腔鏡を使って卵子を採取し精子と混ぜ合わせて受精させ、子宮に戻して妊娠させていた。設備と人員など費用がかかるので患者さんの負担は大きかった。その後、経膣超音波装置による採卵技術が広まり、普通のクリニックで簡便にできるようになったが、費用はその頃のままで患者さんの負担はあまり変わらなかった。保険診療になれば費用はもっと安くなる上にその3割負担でいいので患者さんにとってはうれしいことだろう。
体外受精などの専門治療は本来、卵管不妊のためのものだった。それが今では原因不明の不妊(これが最も多い)にも適用されるようになっているのが現実である。かつては体外受精を行う場合は、病院内で倫理委員会を立ち上げ、命を作るような行為に対して本当に適応なのかと議論して決めたものである。今は昔の話ではあるが…
「氷心」
令和2年10月9日
表題は盛唐の詩人王昌齢の七言絶句の末尾にある言葉で、ひとかけらの氷のように澄みきった心という意味であるが、人と接する時には思い込みや偏見を持たずありのままの人となりを見るようにすれば世界が変わっていくだろう、という文章を読んで「これだ」と思ったことである。どうしても自分の目から見た偏見が入って、その人物を正しく判断してないことを反省することがちょくちょくあったからである。なるほどそういう目で他人を見ると少しずつ世界が変わっていくように感じた。
中国にはかつては素晴らしい人物がいて、今でも読まれている詩などの文化があった。漢詩の簡潔な表現が好きで、漢文の授業は音楽の次に好きだったが、遠い地に赴任して行く友を送る詩はことにいい。「氷心」の言葉のある詩も王昌齢が江寧(コウネイ:いまの南京)の副知事をしていた時、洛陽に旅立つ親友:辛漸への送別として作った詩
「芙蓉楼送辛漸(ふようろうにてしんぜんをおくる)」である。
寒雨連江夜入呉
寒雨(カンウ) 江(コウ)に連(つらな)って 夜 呉に入る。
冷たい雨が揚子江に降り続く中を、昨夜君を送って呉の地までやってきた
平明送客楚山孤
平明(ヘイメイ) 客を送れば 楚山(ソザン) 孤(コ)なり。
夜明け方、君を送れば、行く手に楚山が一つさびしく聳(そび)え立つ
洛陽親友如相問
洛陽(ラクヨウ)の 親友(シンユウ) 如(も)し 相(あひ)問(と)はば、
洛陽の親友たちが、もし私のことをたずねたら、
一片氷心在玉壺
一片の 氷心 玉壺(ギョクコ)に 在(あ)りと。
玉の壺に盛られた氷のように清らかな心、とそう答えてくれたまえ。
日本の妊婦コロナ感染
令和2年10月2日
日本の分娩施設2,185を対象に行われた調査(回収率65%)では6月までに72人の感染があり(分娩数30万人)家族内感染が57%だった。コロナ陽性妊婦の81%に症状がありその71%に発熱があった。死亡例は0で症状のある妊婦の17%に酸素投与、2%に人工呼吸器が必要だった。生まれた赤ちゃんへの感染は無かった。
以上の結果から見れば、インフルエンザの感染と比べてどちらが問題になるかわからない。フルは毎年全世界で発生し、ワクチンがあってもいっこうに減っていない。重症・死亡数もほとんど変わらない。コロナを2類感染症にしているが果たしてそれでいいのかという声もあがっている。日本の妊産婦のコロナ有病率は0.02%(5000人に1人)で決して高くないが、これは外出を控えたりマスク着用が徹底している我が国の国民性によるものも理由の一つだろう。フルもそうだけれど起きてしまったウイルス感染は無くすことはできない。他のウイルス感染症と同様に共存するしかないのである。時間が経てば実態も見えてくるので「あの時は騒ぎすぎた(マスコミに最大の責任がある)」ということになるのではないだろうか。