日付別記事一覧 2016年12月22日

「十一月にふる雨は」

平成28年12月22日(木)
表題は明治生まれで大正から昭和時代に活躍した詩人、堀口大學の詩である。この詩に男声合唱で有名な多田武彦氏が曲を付け、合唱組曲「雨」の中におさめられており、初めて聴いた時からいい曲だと思ったし、学生時代に定期演奏会のための練習を重ねる度に詩の味わいを感じて気に入っていた。同じように思っている人は多いと見えて、ネットでもこの詩についての記載も多数みられる。YouTubeでいくつかの合唱団の演奏が聴けるのはうれしい。ところがある時からこの曲は公式には組曲から外され、代わりの曲が入りCDでも「十一月にふる雨は」はなくなってしまった。原因は詩の中に「コジキ・ヒニン」という言葉があるため、作曲者がこれを演奏する学生たちに迷惑が掛かってはいけないと考えてなくしたのではないかと思われる。
文学作品の中の言葉が、現代では使えないとはなんという不便なことであろうか。曽野綾子氏はエッセイの中で、これらの言葉狩りに対して反対されており、特にマスコミの自主規制に不快感を表明しておられる。かつては学生時代に買ったLPレコードで何度も聴いたこの曲をもう聴くことができないのかと思っていたが、YouTubeで聴けるとはありがたいことである。
「十一月にふる雨は」
十一月はうら悲し 世界を濡らし雨がふる!
十一月にふる雨は あかつき来れどなお止まず!
初冬の皮膚にふる雨の 真実冷たい悲しさよ!
されば木の葉の堪えもせで 鶫(つぐみ)、鶉(うずら)も身ぶるひす!
十一月にふる雨は 夕暮れ来れどなお止まず!
されば乞食のいこふ可き ベンチもあらぬ哀れさよ!
十一月にふる雨に 世界一列ぬれにけり!
王の宮殿(みやゐ)もぬれにけり 非人の小屋もぬれにけり!
十一月にふる雨は 夜来れどもなお止まず!
逢引のみやび男(をとこ)もぬれにけり、みやび女(をんな)もぬれそぼちけり