平成16年7月22日(木)
「がん患者学Ⅱ・Ⅲ」を読了。作者の柳原和子氏は医療にも深い関心を持ってきたジャーナリストであるが、自ら母親が発症したのと同じ年(47歳)に母親と同じ卵巣がんになり、それも腹水や胸水がたまりほとんど絶望的な状態からよみがえり、渾身の力をこめて書き上げた作品である。
がんと宣告された時の気持ち、治療を始めてその苦しさと治療効果に一喜一憂する時、また医師との気持ちのつながり、代替医療にはしる思い、他の患者との交流、アメリカではどうなのかなど克明に記している。そしてその時々の心の動きを包み隠さず書いていて、読んでいると患者さんの思いは自分が想像していたのとは違うと感じることが多かった。みんな死と実際に向き合うまでは、そのことを考えずに生きていてそれが自然で健康なのであるが、一旦死が現実のものとなるとうろたえじたばたする。でも、死はすべての人に例外なく訪れる。今までに死んでいったすべての人は、一人一人さまざまな思いを抱えながら逝ったのだろう。
人は病気になった時に治してもらおうと医師にかかる。でも治らない病気もいっぱいある。特にがんは人を絶望的にする病気である。治らない、治る可能性がきわめて低いとわかった時、我々はどうしたらいいのだろうか。この著書で思ったことは、人は希望無しには生きられないということである。たとえ明日死ぬとわかっていても希望がなければならない。絶望的な病気の人に対して、おざなりでない希望を示すことができるのは、強さと深い人間愛がなければならないだろう。本当に難しいことである。著者は最近がんが再発したとあとがきに書いていた。私はただ祈るだけである。