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禁・長期処方

平成29年2月17日(金)
厚労省は昨年4月から、30日を超える薬の長期処方を制限すると通達を出していた。それまでは患者さんのためには長期処方を推奨していたにも関わらず何を思ったか一転、制限に移ったのである。もっと前は2~4週間処方しかできず、薬だけ取りに来られる患者さんが気の毒だったのが、長期処方が可能になってよかったと思っていた矢先の通達である。それでもすぐに締め付けることはないだろうと、少しでも長く処方するようにしていたのだがとうとう査定されてしまった。当院での長期処方は更年期のホルモン補充療法が主なもので、子宮内膜症に対するホルモン処方などもあるが、これらは毎月来院してもらって診察しなければならないものではないので長期処方していたのである。査定されると、薬局に薬の代金、調剤料その他全額を当院が負担しなければならない。当院は、患者さんに負担をかけまいとできるだけ来院回数を減らすために長期処方をするのだがこれでは完全に赤字である。これなら薬を自分で仕入れて患者さんにタダで配った方がマシである。
薬局は査定されても全額、処方した医療機関が保証することになっているので何の痛みもない。毎月薬局に通ってくれた方が売り上げは増えるわけである。こんな決定をする厚労省は本当に国民のことを考えているのだろうか。あまりにもアホらしくて頭に血がのぼったが、どう対処していこうかと思っている次第である。

優勝前夜

平成28年9月9日(金)
昨夜は久しぶりに魚の美味しい店「とみ助」で一杯飲んだが、流川界隈はいつもに増してにぎわっており、スポーツバーにはカープの赤いユニフォームを着た若者が店外まであふれていた。カープが勝って巨人が負ければ25年ぶりのリーグ優勝が決まるのでテレビカメラもその様子を撮影していて、優勝の瞬間を待っていた。残念ながらカープは勝ったけれど巨人も勝ったので優勝は今日以降に持ち越しになった。
いつも思うのだが優勝してもクライマックスシリーズなる視聴率稼ぎの戦いがあり、リーグ1位から3位までのチームが何回か試合をしてその勝者が日本シリーズに出場し日本一が決まる。いつからこんなつまらないことを始めたのだろうか。リーグ優勝するためにはリーグ内で125試合、他リーグと18試合、合計143試合をして初めて1位が決まるのである。数試合行うだけのクライマックスで1位がひっくり返されるとしたら、1年間の戦いは意味がなくなる。クライマックスだけはやめてもらいたいものである。

ドック・健診でみつかる異常

平成28年8月26日(金)
ドックなどの婦人科健診で異常を指摘されて来院される人のうち、精密検査・治療の必要な疾患のある人はごくわずかで、ほとんどの人は経過観察か何もしなくていい人ばかりである。ドックなどの婦人科健診では子宮頸がん検診がメインであとは内診による診察のみの施設が大半である。
婦人科健診に限らず、ドックなどの健診制度が始まった頃は、早期発見・早期治療が絶対だとの思い込みがあった。ところがこれらの健診をいくらやってみても寿命が延びたという結果にならなかった。欧米では健康診断の有効性を調べるために集団を無作為に2つに分け、一方は健診を行い、他方は健診をせず何か異常があれば来院するようにして10年以上観察した結果、両者の死亡数に差がなかったので健診を行っていない国がほとんどである。
婦人科健診については経膣超音波検査を行っている施設はまだ少なく、きちんと調べるのならこの検査が絶対に必要だろう。子宮頸がん検診についてはリスクのない人は3~5年間隔になっているのが現実である。有効性を上げようと思うなら毎年の健診はやめて3年毎に経膣超音波検査も同時に行うべきだろう。今の健診体制はどう見ても有用とは思えない。

医薬分業の功罪

平成28年6月30日(木)
院外薬局が隆盛をきわめているが、以前は医者にかかるとその医院で薬を出してもらうのが普通であった。なぜ今、医院で薬を出さなくなったのか不思議に思う人も多いだろうが、これは厚労省が医療費を抑えるために行った政策のせいである。
以前は、薬はそれぞれの医院が製薬会社から購入して患者さんに出していたが、仕入れ値と薬価に差額があり、それが医院の収入の一部にもなっていた。ただし、在庫などの問題もありわずかな収益しかなかった。ところがお役人たちは、薬の使用量が増えているのは医者が差額を儲けるために必要以上に出しているせいだと考え、薬品メーカーに仕入れ値を安くしないよう通達を出した。さらに院内で薬を出すより院外処方箋を出す方がわずかに有利になるように決めた。医者たちは院内で薬を出すと赤字になるので、仕方なしに院外薬局に薬をゆだねることにしたのである。
ところが日本のお医者さんたちはまじめな人が大半で、薬の処方量はほとんど減らなかったのである。つまり、儲けるために余分な薬を出す医者は少なかったので医療費の抑制にならなかった。優秀なはずのお役人たちは大きな間違いをしたわけである。そして誰が得をしたかといえば、製薬会社の一人勝ちになったのである。製薬会社は卸値を下げる必要がない分、丸儲けであり、医者に接待をしてはならぬという通達のため経費がかからない。今日の新聞に某製薬会社の社長の役員報酬が9億円と書いてあったが、うなずける話である。また、院外薬局を増やすための優遇政策により院外薬局はコンビニ以上に増えた。そして一番割を食っているのが患者さんである。患者さんの多くは院内で薬をもらった方が楽だと思っているのに処方箋を持って院外薬局に行かなければならないのである。
このような愚策を行った厚労省は責任を取るべきではなかろうか。

 

母子健康手帳とマイナンバー

平成28年2月19日(金)
マイナンバー制度が始まり、広島市でも今年の1月1日より母子健康手帳をもらうときに個人番号カードが必要になった。昨日市役所から届いた書類で知って驚いた次第である。個人情報保護法についでマイナンバー制度という悪法?ができて、早速妊婦さんの負担が増えたわけである。今までは母子手帳は予定日さえ言えばすぐに交付されていて、手帳についている無料券などは、医療機関でしか使えないので何の問題もなかったわけである。
法律や制度というものは住民のためになるべきであるのに、かえって負担を増やしてどうするのだろう。今の社会は、いろいろな分野で一部の不届き者のために多くのまともな人の負担を増やす方向に制度が作られているように思う。どんな法律や制度を作っても守らない者や悪用する者はいるので、そのような者には罰則を重くして一般人の負担を少なくするように努めるのが良い社会ではないだろうか。
[母子健康手帳交付について]
手続き:各区保健センターの窓口で妊娠届に必要事項を記入
持参物:①本人の「個人番号カード」「通知カード」「個人番号の記載された住民票の写し」のいずれか ②本人の身元を確認するもの(「個人番号カード」「運転免許証」「パスポート」等、顔写真がないものは健康保険証や年金手帳等2つ以上の書類が必要)
面倒になってしまった。

 

薬はできるだけ使わない

平成27年7月3日(金)
同じ症状に対して医師によって薬の使い方はずいぶん違う。たとえば妊娠初期に出血があった場合、「切迫流産」という病名がついて止血剤、子宮収縮抑制剤が処方されることが多い。かつてまだ超音波検査装置がなかったころは、入院・安静・上記の薬の点滴が治療の定番だった。研修医のときにはそのような患者さんが、大学病院でも個人病院でもいっぱい入院していた。今は流産は細胞分裂のミスによることがわかってきたので意味のない入院・治療はしなくなった。母親の妊娠時の年齢が上がるほど流産率は上昇する。私の場合、ずいぶん前から薬は出さないで経過を見守るだけにしている。
ウイルスによる感染症、ヘルペスなどに対しても一定の期間で必ず治るので副作用のことを考えれば内服薬を出そうとは思わない。痛みなどを緩和するための軟膏を出すぐらいである。そもそもウイルスに効く薬などないと思っている。
一事が万事で、当院では実際に処方する薬は実に少なくなっており、厚労省が薬剤費を抑えるために行っている姑息な政策に逆の意味で心ならずも貢献している。でも、長く診療にかかわっていると、薬はできるだけ使わない方がいいと改めて思う。

発想の転換

平成26年10月31日(金)
30数年前、私が母校の産婦人科に入局した頃は、一人前の医師に育てるための優れた教育制度があり、産婦人科医としての基本をしっかり教わった。母校は歴史もあり代々受け継がれてきた「レーゲル集(現在のガイドライン)」に基づいた検査・治療法を先輩医師より丁寧に教え込まれた。このことはその後の医師人生にどんなに役に立ったことか、本当に感謝している。
時代は変わり経膣超音波検査法が一般化してくると、妊娠の診断・予後に対する従来の考え方が大きく変わった。この検査法は子宮の中がクリアに観察できるので、妊娠初期の状態が的確に診断できる。流産するのか子宮外妊娠・胞状奇胎などの異常があるのかが安全にわかるようになった。そして流産は妊卵の細胞分裂の異常によるもので、一定の割合で起きることがわかり、従来の安静・止血剤・子宮収縮抑制剤の投与の効果が疑問視されるようになった。かつては切迫流産という病名で入院・安静・点滴という治療が多くの病院で行われていたが、現在はほとんど見られなくなった。
その当時、治療効果を信じて入院していた人たちは、今から考えると気の毒で仕方がないが、当時は医師も治療効果を信じて行っていたのである。現在行われている色々な病気に対する検査・治療の中にも将来、意味がなかったといわれるようなものもあるはずだ。発想の転換をすればムダと思われるものは容易に見当がつく。その最たるものは老化とがんに関するものだと思う。有害無益と思われる検査・治療をやめるのも大切なことである。

製薬会社と医師の関係

平成26年6月12日(木)
ノバルティス社の降圧剤のデータ改竄問題で、ノ社側から逮捕者が出た。東京地検特捜部が動いたためで、大学側も徹底的に追及されることだろう。製薬会社は薬を売るのが仕事だから、何とかして売ろうとする。今回のような問題は過去にもあったに違いないが、こんなインチキをしなくても本当にいい薬ならば使われるはずである。多くの医師は患者さんを治すために有効な薬を選んでいる。そしてベテランになればかなりの確率で良否を見分けることができるようになるが、今回のようにデータそのものを改竄した論文はタチが悪いと言わざるを得ない。
製薬会社と医師の関係は利益を共有する部分があるので深くなりがちである。医師側は、患者さんを治すために有効な薬を求めており、製薬会社は薬が売れれば儲かるという関係である。以前は薬価差益があったので薬を出せば医師も利益があったが、今はほとんどないのでその意味での利益の共有はないが、製薬会社にとっては売り上げを増やすことが一番なので宣伝・接待などの働きかけをする。医師にとってはいい薬かどうかだけがポイントである。だから製薬会社との付き合いは、できるだけ淡くすることが肝要である。

スプリンクラー設置の義務化

平成26年3月19日(水)
従来は一定の面積以上の病院に義務付けられていたスプリンクラーの設置が、すべての有床診療所に義務付けられる方向で検討されている。原因は福岡の医院の火災により死者が出たためだと思われる。スプリンクラーを設置するには、建物をそのように設計しなければならず、費用もかなりかかるうえに、もし誤作動でもすれば高価な医療機械が水浸しになってしまう。
今まで何十年も問題なくいっていたのに、わずか1件の防火扉の開閉さえ無視しているような未熟な施設の不始末のために、全国の有床診療施設に必要以上の義務を負わせるのは問題である。どれだけムダになっても自分たち(政府・役人)が非難されないようにとの、事なかれ主義の典型の義務付けである。
以前、麻酔薬のケタラールがたった1件の不良外人の不始末のために麻薬指定になり、全国の医師・獣医師が多大な迷惑を被っているのも同じ構造である。もっとも、なにかことが起こった時、すぐに責任を追及する一般人の姿勢にも問題があるので、公的機関が保証できるのはここまででそれ以上は「自己責任」だという線をはっきりさせればいいのである。
当院は無床診療所なのでスプリンクラー設置の義務はないが、すべての有床診療所への義務化はおかしいと思う。

「STAP細胞」はどうなるのか

平成26年3月13日(木)

生物学の常識をくつがえす発見「STAP細胞」の論文の真偽が問われ始めている。世界中の他の研究者たちが論文に基づいて再現しようとしてもうまくいかないらしい。論文の中の不適切な部分も指摘されて、共同研究者から論文の取り下げが提案されている。さらに著者の小保方氏の3年前の博士論文の一部が米国の雑誌からのパクリであることまでマスコミで話題になっている。小保方氏もきちんと説明すべきだろう。

科学の世界で再現性のない論文が認められないのは常識であるが、マスコミも記事にするのはその後にすべきであった。ネイチャーに掲載されただけなのにあれだけ持ち上げておいて、一転罪人のごとく追及する姿勢はいただけない。マスコミはこのような報道姿勢を反省してほしい。いずれにせよ残念というしかない。