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久しぶりの研修会

令和3年7月2日
「いのちを繋ぐ女性のライフサイクルと漢方~特にこころの症状、こころからの症状に~」と題した香川大学医学部塩田敦子教授の講演があった。WEBであるが会場に行くことも可能なので今回は出席することにした。さすがに役員など世話係以外は少人数の参加者だけだったが、久しぶりの講演会出席だった。内容は漢方薬についての詳しい説明と有用なことの講演であったが、座長の工藤教授の「私は漢方薬についての知識が全くありませんので一つ聞きたいのですが…」の言葉には思わず笑ってしまった。教授も自分と同じ考えなのだなと。
更年期症候群はホルモン変動によって起きる自律神経失調なのであるが、かつては「当帰芍薬散」「加味逍遙散」などで治療することが当たり前であった。自分もその昔は「証」などを勉強して処方していたが効かないので困っていた。そこへ「ホルモン補充療法」の登場である。これは非常に効果があった。原因に対する的確な治療でなければ効果がないのは当たり前である。以後、漢方に対しては距離を置くようになった。我が国ではどういうわけか漢方薬が女性に受ける現象がある。欧米そのほかの国々では「ローカルドラッグ」という位置付けで正式な薬だとは認められていないのに。

ハイブリッド研修会

令和3年2月10日
広島県で毎年行われる産婦人科研修会が、今回は関係者の尽力で会場とWEBのハイブリッドで開催された。演題は岩成治島根県産婦人科医会会長による「子宮頸がん征圧のための最適な検診」と山田秀人元神戸大学産婦人科教授による「最新の母子感染対策:トキソプラズマ、サイトメガロウイルスほか」の2題である。今回はWEBで受講したが、やはり講演そのものは分かりやすく快適だった。会場で受講する場合、後ろのほうだったらスライドの小さな文字が読めないことがあるし、前に座っている人が邪魔で見えないこともある。WEBではこれらのことはすべてクリアされるし、講演の先生も仕事場や自宅(島根県と北海道)から講演できる。普段なら広島までの往復の旅費、滞在費、講演後の接待などかなりの負担がかかるし、講師の先生も1時間の講演なのに1日以上の時間を費やさなければならない。これらがすべて必要なくなるので合理的である。問題なのは人と人とのつながりが希薄になることである。やはり実際に会って話をしたり、食事をしたりすることで共感できることが大切である。コンサートなどは臨場感がいいのであって、CDやDVDでは限界がある。でも研修会についてはコロナ終息後もWEBと半々になっていくのではないだろうか。

「子宮内膜症、その謎に迫る」

令和2年11月20日
ほぼ1年ぶりに厳重な感染予防策のもとに上記の演題の講演が行われた。普段なら会場は一つで、それでも余裕があるのだが、4つに増やして一部屋当たりの人数を制限して行われた。第1会場のみ演者と座長がいて、他はリモートである。幸い第1会場に入れて直接講演を聞くことができた。高知大学医学部産婦人科教授、前田長正氏による講演で、子宮内膜症の原因、経過、治療への新しい視点でのアプローチをしたユニークで素晴らしい講演であった。
子宮内膜症は月経血の腹腔内への逆流が原因で起こるのがメインであるが、免疫応答の違いが発症の差になっていることを実際の映像を通して見せてくれた。基本に最近の第1子出産年齢の上昇と、出産回数の減少が大きな原因になっていることである。50年以上前は平均出産回数は5回で流産もあり、一生を通じて月経は50回だったが今は平均出産回数は2回、月経は450回だという。子宮内膜症が増えるわけである。
それならば月経の回数を減らせば防げるわけで、ピルを連続で内服して月経を起こさないようにすればいいのである。自分がいつも言っていることの整合性が一層強化されたと思った次第である。

不妊治療が保険診療になる

令和2年10月16日
菅総理の提案で不妊治療が保険診療になるらしい。もっとも普通の不妊治療は今までも保険診療だったし、当院も保険診療の不妊治療は行っているが、不妊専門施設で行っている体外受精、顕微授精など今までは保険外で自由診療だったものが保険になるという。
そもそも体外受精などの専門治療は、卵管不妊が原因の患者さんに行っていたもので、初めは手術室で全身麻酔のもと、腹腔鏡を使って卵子を採取し精子と混ぜ合わせて受精させ、子宮に戻して妊娠させていた。設備と人員など費用がかかるので患者さんの負担は大きかった。その後、経膣超音波装置による採卵技術が広まり、普通のクリニックで簡便にできるようになったが、費用はその頃のままで患者さんの負担はあまり変わらなかった。保険診療になれば費用はもっと安くなる上にその3割負担でいいので患者さんにとってはうれしいことだろう。
体外受精などの専門治療は本来、卵管不妊のためのものだった。それが今では原因不明の不妊(これが最も多い)にも適用されるようになっているのが現実である。かつては体外受精を行う場合は、病院内で倫理委員会を立ち上げ、命を作るような行為に対して本当に適応なのかと議論して決めたものである。今は昔の話ではあるが…

日本の妊婦コロナ感染

令和2年10月2日
日本の分娩施設2,185を対象に行われた調査(回収率65%)では6月までに72人の感染があり(分娩数30万人)家族内感染が57%だった。コロナ陽性妊婦の81%に症状がありその71%に発熱があった。死亡例は0で症状のある妊婦の17%に酸素投与、2%に人工呼吸器が必要だった。生まれた赤ちゃんへの感染は無かった。
以上の結果から見れば、インフルエンザの感染と比べてどちらが問題になるかわからない。フルは毎年全世界で発生し、ワクチンがあってもいっこうに減っていない。重症・死亡数もほとんど変わらない。コロナを2類感染症にしているが果たしてそれでいいのかという声もあがっている。日本の妊産婦のコロナ有病率は0.02%(5000人に1人)で決して高くないが、これは外出を控えたりマスク着用が徹底している我が国の国民性によるものも理由の一つだろう。フルもそうだけれど起きてしまったウイルス感染は無くすことはできない。他のウイルス感染症と同様に共存するしかないのである。時間が経てば実態も見えてくるので「あの時は騒ぎすぎた(マスコミに最大の責任がある)」ということになるのではないだろうか。

生理日の移動

令和2年7月10日
生理の日をずらしてほしいという訴えは多い。方法は2つ、生理を早めるか遅らせるかだ。①遅らせる場合は予定月経の3日前からプラノバール(中用量ピル)を毎日1錠ずつ、延ばしたい日まで飲むこと。そうすればその2~3日後に生理が始まる。②早めたい場合(これは少し難しい)は、生理中から低用量ピルを1日1錠飲み、生理になってほしくない日までに終わるように調節する。
①の方が確実でわかりやすいけれど、問題は人によっては吐き気があって飲めないことと、長くは止められないのことである。②は吐き気はほとんどないけれど、やや確実性が劣ることである。ただし、低用量ピルは数か月使えばある程度自由に調節できるようになるし避妊もできる利点がある。
生理は排卵の2週間後に始まるので、生理が始まってはじめていつ排卵が起きたかわかる。以前は基礎体温で排卵日を予想していたが、非常にわかりにくく実用的ではなかった。現在は、経膣超音波検査で子宮の内膜の厚みと卵胞の大きさを調べることでかなり正確に排卵日を予測できるようになった。それにしても急に生理日の調節を頼まれても難しいことがあるので、できるだけ早めに受診してもらえればより確実に調節できるのである。

不妊症について

令和2年4月10日
初婚年齢が上がったので不妊の率もやや増えているが、今のような不妊治療のない時代からカップルの1~2割は不妊であった。原因は男性の場合は精子の数や運動率が悪いこと、女性の場合は最も多いのは卵管の通過障害と卵のピックアップがうまくいかないことである。排卵障害もあるけれど、ポイントは卵管である。さらに年齢が上がるほど妊娠しにくくなる。他にもいろいろな要素はあるが、まず卵管を調べることが大切である。
以前は卵管通過障害に対しては、卵管通気と卵管通水が行われていた。卵管通気とは子宮口よりCO2などの気体を送りこんでふさがった卵管を通そうとすることで、卵管通水は生理的食塩水を使う。通気法は今では行われなくなったが、通水は有効なので行われている。当院でも行っているが、できるだけ痛みを少なく素早くできるようにしている。それでも通過障害が改善しなければ体外受精(IVF)のできる施設に紹介することになる。
生物学はまだまだ不明なことが多く、不妊に関しても原因不明が5割もあるといわれている。不妊専門クリニックで行われているIVFは本来は卵管通過障害の場合に、卵を採りだして体外で授精させ、子宮に戻すことによって妊娠を期待する、いわば卵管の替わりを人工的に行うことである。卵や精子を扱って授精させることは神の領域と考え、IVF黎明期には院内で倫理委員会を開いて体外受精の適応かどうかを判断したうえで行っていた。現在は卵管に異常がなくても妊娠しない場合にはIVFを行っているようであるが、今から思えば隔世の感がある。

第22回オープンカンファランス

令和2年2月14日
広島市民病院産婦人科主催の勉強会が行われた。若い医師から部長まで6人の演者が広島市民病院の産婦人科手術の現況を紹介した。今回は腹腔鏡手術からロボット支援下手術までの低侵襲手術を中心に情報開示された。
昨年の手術件数は1509件でそのうち婦人科手術は1039件、さらに婦人科手術のうち腹腔鏡手術は552件、53%に増えている。手術器具や方法の改良などでより安全で侵襲の少ない手術ができるようになっている。なによりうれしかったのは児玉部長の「広島市民病院は24時間対応しているので、緊急手術が若い医師にもできるように研鑽を積ませている。特に腹腔鏡の手術はどの分野に進もうが覚えておくべき技術なので、積極的にやらせるようにしている。」という言葉であった。
振り返って自分が岩国国立病院(現・岩国医療センター)に研修医でいた頃、上司の部長はどんどん手術をやらせてくれた。部長は手術が上手かったがわざと手術室に入らず、控室にいて時々見に来て難しそうならすぐに対処できるようにしてくれていた。おかげで安心して手術することができて、1年間でたくさん症例を重ねることができた。
広島市民病院の児玉部長のこの姿勢は母校の医局の伝統である。この良き伝統が続くことを切に願っている。

産婦人科研修会

令和2年1月31日
広大医学部広仁会館で広島県産婦人科医会研修会が行われた。今回は東京慈恵医大の岡本愛光教授による「卵巣癌治療における最近の話題」と、岡山大学の増山寿教授による「PIHからHDPへ~妊娠高血圧症候群 up to date~」と題した講演が行われた。どちらも今現在の医療水準を教えてくれるすばらしい内容だった。
産婦人科は研修会や講演会が多く、全部出席するとかなりの回数になる。そこでなるべく勉強になりそうな、興味深そうな会を選んで聴きに行くようにしている。この数十年の産婦人科の流れで大きな変化は、なんといっても超音波検査装置ができたことだろう。昭和55年ころから各大学で試験的に使われ出して、機械の改良と相まってみるみる普及した。さらに経膣超音波装置の出現はまさにエポックメーキングだったと思う。ほぼMRIと同等の診断ができ、何より簡便でリアルタイムに動きが観察できる。CTのように被爆することもないので子宮内の胎児の観察には最適である。それまでは胎児の発育の状態は推定するしかなく、子宮の大きさを内診で判断して妊娠3ヶ月(手拳大)妊娠4ヶ月(新生児頭大)などと教えられていたが、その必要はなくなった。不妊治療の採卵も経膣超音波装置が無ければ不可能である。我々はちょうどいい時代に生まれてありがたいことだと思う。

「患者よ、医者から逃げろ」

令和元年11月1日
表題はキズや熱傷(やけど)湿潤療法の創始者、形成外科医夏井睦(なついまこと)氏の近著である。氏は植皮手術が必要とされる熱傷の患者でもほぼその必要がなく、傷跡も痛みも少なくキレイに治療できることを、湿潤療法を通して実践し公開してきた。だが大学病院や総合病院の形成外科や皮膚科では今も変わらずひどい治療が行われているという。氏は一人でもそのような患者が減るようにとこの本を書いた。
「なつい式湿潤療法」とは①創面は水道水で洗うのみ(消毒・洗剤などは一切使わない)②創面は乾燥させない被覆材で覆い、毎日とりかえ、水道水で軽く洗う。外用剤は白色ワセリンのみ。さらに被覆材もメーカーと協力して開発し、安く取り寄せられるようにしている。また、「素人でもできる熱傷治療」としてやり方をくわしく説明、インターネットに公開しているのでだれでも実践できる。熱傷の痛みは人類最大のストレスと言われているが、湿潤療法ではほぼ痛みはなくなる。なぜそうなるかも詳しく説明しているので納得できる。氏は他にも「傷はぜったい消毒するな」などの著書があり、「なついキズとやけどのクリニック」院長として治療を行っている。すばらしい医師だと思う。