平成21年3月23日(月)
妊婦健診の無料化が4月から実施されることになった。といっても、完全な無料化ではなく、全額の7割から8割の援助であるが。それでも今までの2割程度の援助に比べればいいことである。とりあえず2年間の時限立法だそうである。
最近の政府は国民全員にお金を配ったり、高速道路を安くしたり、妊婦健診を援助したりしてせっせとお金をばらまいているが、財源は本当にしっかりしているのか心配である。ただ借金を増やして今だけいい目を見させてあとは知らないよ、としか考えられない政策のように感じられる。真偽のほどはあと10年もすればはっきりわかるだろうが、その頃には責任者は引退していて知らん顔だろう。借金を残されたこれからの人たちがかわいそうである。目先の人気取りより、将来を見据えた政策を行ってほしいものだ。きちんと説明すれば多くの人は納得するはずである。
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妊婦健診の無料化
勘と超音波検査
平成21年2月19日(木)
胎児の超音波診断の講演会があった。妊娠5か月ぐらいになれば心臓をはじめ、いろいろな器官の異常がわかるようになっているが、今回の講演はまだ数センチの胎児(胎芽という)の時からすでに様々なことがわかることを提示していて興味深かった。
いつも超音波で胎芽や胎児を診ていると、なんとなくおかしいと感じたら大概は異常があるようである。その点は、人間の感覚(勘?)は数量化しなくてもわかるのが素晴らしいことだと思う。だから、診察していてなんとも思わない時には異常はないと考えていいのである。もちろん、きちんと測定して数量化して検証するけれど。
超音波検査だけでなく、すべてにわたって感覚(勘)は大切であり決しておろそかにしてはならないと思う。
妊婦健診の補助が増える
平成21年1月31日(土)
妊婦健診の補助金が増額されることになった。少子化対策の一環として舛添厚労相が「妊婦健診は無料にする」と大見得を切ったが、この国会で補正予算が成立したので2月には正式に額などが決まる。予算が決まり、分娩数がわかれば一人に補助できる額がわかるのだから、回数や検査内容などは産婦人科医会を信用して、まかせてくれればいいと思うがそうもいかず結構こまかく規制してくるようである。計算してみたが、本来の費用には少し足りないようだ。多分産婦人科が少しかぶるようになるのではないだろうか。
先日、広島市の担当の人たちとの会合でこちらの要望を伝えたが、予算がすでに決まっているのでいい感じで話し合えた。昨年は、かなり強く要望を伝えたが大筋は変える事ができなかったし、5枚の補助券の額が毎回異なっていて、あまりの煩雑さに不満続出だったので、そのことも含めて伝えておいた。きっと今年は良くなるものと思われる。やはりきちんと要望を伝えないと、妊婦さんも我われ医療従事者も迷惑する。
健康診断の(功)罪
平成21年1月17日(土)
先日の新聞の読者欄に、健康診断で大腸の精密検査をするようにいわれ、大いに心配し、さんざん痛い思いをしたあげく「異常なし」の診断で割り切れない思いをした、という投書があった。それに対して今日の新聞に、これらの検査に携わっている医師より、検査したら早期発見治療ができていいのだから大いに検査しなさい、という投書があった。
この医師は、精密検査を指示された患者さんがどんなに不安になり、辛い思いをしているのかを本当にわかっているのだろうか。それよりもまず、早期発見し治療した集団と、健康診断はせずに症状があってはじめて検査治療をした集団との比較で、両者の間に死亡数の差がなかったという数多くの欧米のデータをどう説明するのか。百歩ゆずって、早期発見早期治療が少しでも有効だとしても、1000人の疑いのある人の中から1人のガンの患者さんを見つけるために残りの999人の人に投書したような負担を強いることがよいことなのか疑問である。では100人に1人の割合だったらどうか、10人に1人ならどうか…。
いつも思うのは、どの比率のリスクなら異常のない人にも検査することが許されるか、ということである。保険診療でも、その線引きをいつも意識している。少なくともストレスを与えたあげく「異常ありませんでした」と心の痛みなしに言うことはしたくない。
乳房の自己検診
平成20年9月10日(水)
乳がんの自己検診について、ことあるごとに説明している。どう説明しているかというと「月に1回ぐらいでいいから入浴の際、石鹸をつけた手のひらで直接乳房を洗って下さい、そしてその感触がいつもと違うと思ったら受診してください」と。さらに「この方法で、検診を受けた場合とほぼ同様の乳がん発見率があるというデータがあります」と付け加えている。
これにより少しでも負担が減ることを期待してそうしていたのだが、上海で行われた大規模くじ引き試験では、自己検診群と放置群とで乳がん発見数が同じだったという報告があり困惑している。
乳がん検診群=自己検診群=放置群、これでは何もしない方が負担が少なくていいことになる。そうなればますますがん検診を勧めにくくなるではないか。大規模くじ引き試験で検診の有効性を示すデータがないものだろうか。
岡田正彦著「がん検診の大罪」
平成20年7月30日(水)
新潟大学医学部教授の岡田正彦氏による「がん検診の大罪」という著書がある。この中で氏は、がん、高血圧、糖尿病など死因の最も多い病気について、正しい統計的手法を用いて、現在行われている検診、治療がほとんど無意味であると提言している。
内容は正確で反論のしようがなく、逆にそれらの検診や治療を勧める側に分がないと思われる。これらのことは以前より慶応大学放射線科講師の近藤誠氏が縷々述べていることと一致しており、まじめに医療に取り組んでいる医師たちの中にも賛同者は増えていると感じられる。斯く言う私もその一人である。
医師の仕事は患者さんを癒すことであり、わずかに寿命が延びたとしても、それが耐え難い苦痛の末に得られるものであれば、すべてを患者さんに話して治療を受けるかどうか自分で選んでもらうべきものであろう。少なくとも自分について言えば、検診は受けたくないし、むだな治療もしたくない。
根拠のないメタボ健診についても言及しており、どうしてこんな無意味な、医療機関だけが利するようなことをするのか理解しかねる。間違いがないのは、医者にかかるのは体の調子が悪い時だけにして、薬もできるだけ使わないようにすることである。
研修医制度の功罪
平成20年7月11日(金)
新聞によれば、小児科の研修医が大都市に集中し、地方には一人もいない県もあるという。現在の研修医制度が、厚労省の主導でできたときからこうなるのはあたりまえだと思っていた。
研修医は早く一人前の医師になりたい気持ちが強いので、最も勉強するし修練を積みたいと思っており、そのための最適の施設のある大都市の病院に集中するのは当然であろう。一体だれが、僻地の設備の少ない、充実していない施設を希望するだろうか。
今の研修制度ができるまでは、研修医の大多数は大学病院の自分の目指す科に入局してキャリアを積んでいた。歴史ある大学はいずれも研修制度が充実しており、何年間かかけてその人物に適した研修を行う。その大学が責任を持って派遣する病院が、大都市から地方までたくさんあり、それらの施設を過不足なくまわらせることによって、さまざまな経験をつませ、医師としてのバックボーンをつくるようにするのである。
明治以降、わが国に最も合うように長い時間をかけて作り上げられたこの大学医局制度を、厚労省は壊してしまった。小泉改革という名のもとに、アメリカの真似そのものの研修医制度を無理やり作ったのである。今になってあわてて医師を増やすとか、僻地に行くための医師を養成するとか、できもしないことを言っているが、もとの大学医局制度に戻せばいいのである。今ならまだ医局制度を経験した医師が大学にいるし、すぐに以前のようにできるだろう。でも、あと10年もすれば戻すことすらできなくなってしまう。厚労省は今こそ決断してほしい。
メタボ健診
平成20年6月28日(土)
40~70歳の人に特定健診(メタボ健診)が義務付けられた。この健診が将来の医療費を抑制できるということで始めることになったようだが、まさに見切り発車である。健康診断(ドックも含む)そのものが生命予後を延ばすとの検証もいまだないにもかかわらず、(延ばさないという論文ならいくつもある)追い討ちをかけるようにはじめられたのである。医療機関にとってはいいかもしれないが、普通に生活している人には迷惑な話である。
病んだ人、病に苦しんでいる人をすこしでも癒すために我々は存在するのだから、今困っている人にこそ時間と人手をかけるべきである。医療機関の数も医師・スタッフの数も限られた中で、健診にそれらを使うのは本末転倒である。本当に困っている人の視点から考えればおのずと答えは決まっているように思う。「過ちては改むるに憚ることなかれ」「君子は豹変す」という論語や易経の言葉に従って、改めるべきであろう。
檜垣先生の講演
平成20年6月13日(金)
先日、広島で最も多くの乳癌の治療をされている同門の先輩、檜垣先生の講演があった。我々が医者になった頃と比べて、日本女性の乳癌による死亡数が格段に増えていて、特に40歳台の患者さんが増えている事を実感を込めて話された。それでも欧米と比べて、まだ1/3から1/4ぐらいではあるけれど。
なぜ増えているのかは定かではないが、食生活の欧米化が原因ではないかということである。実際、米国在住の日系人(外国人との混血のない日本人)の乳癌の発症率はほぼ米国人と同じとの統計がある。
今回、いちばん聞きたかったのは、いつも患者さんに「自己検診が大切です。お風呂で月に一度でいいから石鹸をつけて、直接胸を洗ってください。それだけで検診に行くのと同じ程度に発見できます」が本当に正しいのかということであったが、「そのとおりです。間違いありません」とのお墨付きをもらい、意を強くしたことであった。
緊急避妊ピル
平成20年3月29日(土)
当院にはモーニングアフターピルを求めて来る人が結構いる。避妊に失敗したと思った場合に飲むと、90%台(成書によれば97~98%)で妊娠が防げるとの情報を知っているのだろう。実際のところ、一度に中用量のピルを2錠飲み、12時間後に同じく2錠飲むのだが、人によっては吐き気などの副作用がある。低用量のピルでも同様の効果が得られるが、この場合は種類により3~4錠飲むことになる。
どうせなら低用量ピルを毎日1錠飲むほうが避妊は確実にできて副作用もほとんどなく、生理痛や貧血も改善していいのにと思う。妊娠した場合に中絶して傷つくのは女性である。だから、自分の体は自分で守ってもらうためにも低用量ピルを飲むように一生懸命薦めている。