カテゴリー 医学情報など

原点にかえる不妊症治療

平成27年7月24日(金)
表題は秋田大学産婦人科教授、寺田幸弘氏の講演である。内容は、福岡伸一氏の著書「生物と無生物のあいだ」を引用しての生殖の本質の問題から始まって、現在行われている生殖医療(ART)の安全性についての考察、妊娠について原点にかえって考えるなど新しい切り口の興味深い話であった。最後に、秋田大学での不妊症診療の実績と現在試みている新たな研究を紹介された。
確かに現在行われているARTは本当に安全なのか、あるいは50歳過ぎた女性に他の女性の受精した卵子を戻して妊娠・出産させることが正しいことなのか、など考えさせられることは多い。でもそれを言うと、そもそも医学は本質的に必要なのかというところまで議論しなければならなくなる。つまり、「自然」が最もいいのなら人間も生物であるから、他の動物のように病気やけがに対してもなにもせず様子を見るだけでいいということになる。結局、自然に対してどこまで医学が介入することが最適なのかを見極めることが最も重要なのだと思う。

薬はできるだけ使わない

平成27年7月3日(金)
同じ症状に対して医師によって薬の使い方はずいぶん違う。たとえば妊娠初期に出血があった場合、「切迫流産」という病名がついて止血剤、子宮収縮抑制剤が処方されることが多い。かつてまだ超音波検査装置がなかったころは、入院・安静・上記の薬の点滴が治療の定番だった。研修医のときにはそのような患者さんが、大学病院でも個人病院でもいっぱい入院していた。今は流産は細胞分裂のミスによることがわかってきたので意味のない入院・治療はしなくなった。母親の妊娠時の年齢が上がるほど流産率は上昇する。私の場合、ずいぶん前から薬は出さないで経過を見守るだけにしている。
ウイルスによる感染症、ヘルペスなどに対しても一定の期間で必ず治るので副作用のことを考えれば内服薬を出そうとは思わない。痛みなどを緩和するための軟膏を出すぐらいである。そもそもウイルスに効く薬などないと思っている。
一事が万事で、当院では実際に処方する薬は実に少なくなっており、厚労省が薬剤費を抑えるために行っている姑息な政策に逆の意味で心ならずも貢献している。でも、長く診療にかかわっていると、薬はできるだけ使わない方がいいと改めて思う。

子宮内膜症の手術

平成27年5月15日(金)
倉敷成人病センターの太田啓明医師による子宮内膜症の腹腔鏡手術に関する講演があった。腹腔鏡手術の名手、安藤正明医師のもとで子宮内膜症をはじめ、様々な手術を精力的に行っている氏の講演はなかなか面白かった。今は腹腔鏡手術はマストの時代となり、器具もずいぶんよくなっていて細かいところは直視下の手術よりもよく見えるしうまくできる。自分が手術をしていた頃はちょうど開腹術から腹腔鏡の手術への過渡期で、ずいぶんまどろっこしい手術だなと思ったものであるが。
お腹を開いて手術するよりも小さな穴から器具を入れ、内視鏡で画面に大きく映しながら手術した方が術後の回復が早いのは確かなことであるが、何か不測のことが起きた場合すぐに対応できるのはやはり直視下で手の出せる従来の方法だろう。だから術者は直視下の技術と腹腔鏡手術の技術と両方とも習熟しなければならない。大変な時代になったものである。

経膣超音波検査

平成27年4月10日(金)
産婦人科診療の上でこの数十年最も有用だった検査法は超音波検査、特に経膣超音波検査である。超音波検査の利点は、レントゲンやCT検査とは異なりコンパクトで手軽に使用でき、X線被ばくもなく、リアルタイムに検査できることである。特に産科においては胎児を見るのにこれほどピッタリの検査法はない。
超音波検査法が開発された30年以上前は画像も荒く解読が難しかったが、コンピューターの進歩とともに性能は向上し、解像度もCTやMRIにひけをとらなくなってきた。特に経膣超音波検査法は検査法そのものの弱点を経膣プローブを使うことによって克服しており、産婦人科医にとってはなくてはならぬ検査法である。子宮外妊娠の診断、排卵の有無、妊娠初期の胎児の状態、卵巣腫瘍や子宮筋腫などすべてカバーできるすぐれものである。いい時代に生まれたことを感謝している毎日である。

京 哲 教授の講演

平成27年3月13日(金)
島根大学教授による子宮頸癌手術についての講演があった。以前はこの手術は大きく開腹して行っていたが、最近では腹腔鏡手術で行うことも多くなっており侵襲が以前に比べて格段に少なくなっているようである。リンパ節の郭清に伴う膀胱麻痺や下肢のむくみもかなり改善しているという。技術の進歩と研鑽を積むことは大切なことである。ただ欧米では子宮がんの治療は初期のケース以外は原則として放射線で治療しているという。
放射線治療の方が後遺症は少ないと思われるが、治療成績が同じなら後遺症は少ない方がいい。ただ、手術の技術を磨いておかないと、いざというときに何もできないことになる。わが国は以前から高い技術で子宮癌手術を行ってきた。世界の中でもトップレベルである。ただこれからは縮小手術、放射線治療と、侵襲の少ない治療が主体になっていくと思われる。なかなか難しい問題である。

産婦人科の新しい診療領域

平成26年11月28日(金)
弘前大学産婦人科の水沼英樹教授による表題の講演があった。少子高齢化による女性の疾病構成の変化に伴って、従来の更年期を中心にした産婦人科医のかかわりをもっとトータルに広げる必要がある、という内容である。
わが国の女性の総患者数では圧倒的に多いのが高血圧で、ずっと離れて脂質異常である。そして妊娠時の高血圧は将来の高血圧症になるリスクがあり、PCOタイプの卵巣は将来の脂質異常のリスクがあるので、妊娠にかかわっている産婦人科医が予測しフォローするのが理にかなっている。また、骨粗鬆症は骨折につながり、高齢者の骨折は死亡リスクを上昇させる。骨量の減少は更年期に入った時から始まり急激に進行し、更年期が過ぎたところで緩やかな減少へと移行する。つまり、更年期をホルモン補充療法でうまくやり過ごせば骨がもろくなるのを防ぐことができ、高齢になってからの骨折も防ぐことができる。
このように女性の一生にトータルにかかわることが産婦人科医のこれからの方向である、という興味深い話であった。

母里啓子著「もうワクチンはやめなさい」

平成26年11月21日(金)
表題の著書は以前にも紹介した「インフルエンザワクチンはいらない」を著しており、その続編ともいうべきものである。氏は元国立公衆衛生院疫学部感染症室長であり、わが国のワクチン行政にかかわってきた疫学のプロである。氏は一貫して現在のわが国のワクチン制度に対してきちんとデータを示したうえで疑問を呈している。
有効なワクチンは少数存在するが、最近乳幼児に打つことを奨励するようになったワクチンの数はとんでもなく増えていて、乳児死亡率が世界で最も少ないわが国で本当に必要なのだろうかと思わざるを得ない。副作用による死亡にはだれが責任をとるのだろうか。WHOのバックにいるビッグファーマによるワクチン販売の世界戦略に乗せられているとしか思えないわが国のワクチン政策は、最終的にわが国のお金をこれらの巨大製薬会社に吸い上げられることになる。以前大騒ぎしてわが国に備蓄した「タミフル」も効果はほとんどないことがわかってきたが、海外製薬会社に支払われた数百億円のお金(われわれの税金)はなんだったのだろう。
これらのさまざまな矛盾は簡単には解けそうにないので、実際に患者さんに接している我々が、徒にワクチンを勧めないことで食い止めるしかない。

発想の転換

平成26年10月31日(金)
30数年前、私が母校の産婦人科に入局した頃は、一人前の医師に育てるための優れた教育制度があり、産婦人科医としての基本をしっかり教わった。母校は歴史もあり代々受け継がれてきた「レーゲル集(現在のガイドライン)」に基づいた検査・治療法を先輩医師より丁寧に教え込まれた。このことはその後の医師人生にどんなに役に立ったことか、本当に感謝している。
時代は変わり経膣超音波検査法が一般化してくると、妊娠の診断・予後に対する従来の考え方が大きく変わった。この検査法は子宮の中がクリアに観察できるので、妊娠初期の状態が的確に診断できる。流産するのか子宮外妊娠・胞状奇胎などの異常があるのかが安全にわかるようになった。そして流産は妊卵の細胞分裂の異常によるもので、一定の割合で起きることがわかり、従来の安静・止血剤・子宮収縮抑制剤の投与の効果が疑問視されるようになった。かつては切迫流産という病名で入院・安静・点滴という治療が多くの病院で行われていたが、現在はほとんど見られなくなった。
その当時、治療効果を信じて入院していた人たちは、今から考えると気の毒で仕方がないが、当時は医師も治療効果を信じて行っていたのである。現在行われている色々な病気に対する検査・治療の中にも将来、意味がなかったといわれるようなものもあるはずだ。発想の転換をすればムダと思われるものは容易に見当がつく。その最たるものは老化とがんに関するものだと思う。有害無益と思われる検査・治療をやめるのも大切なことである。

低用量ピルの副作用について

平成26年9月25日(木)
愛知医科大学の若槻明彦教授の講演があった。低用量ピルは、避妊、生理痛の改善、生理周期の安定化、子宮内膜症の治療、卵巣がん・大腸がん発生の抑制など多くのメリットがある一方、血栓症の発生頻度の増加が問題になっている。そのことについて実際はどうなのか、対策はどうするのかという話で、興味深く聞いた。
ピルはメリットがデメリットをはるかに上回る薬であるが、副作用をなくすよう努めなければならない。静脈血栓症はピルを服用していない人にも発症するが、もっともリスクが高いのは妊娠である。妊娠中と産後3か月の血栓症の発生頻度は非妊時の10倍以上になるという。次いで問題なるのは喫煙である。以下、高年齢、肥満もリスクが高くなる。だから喫煙以下、リスクの高い人にはピルは勧めないのが原則である。血栓症が起きるのはピル内服開始3か月以内が最も多く、その時期を過ぎれば血栓症のリスクは低下する。だからその時期は特に気を付けなければならない。血栓症の発症を予知する方法はないということなので、一層注意が必要だと思ったことである。

ベセスダシステムについて

平成26年9月19日(金)
慶應義塾大学産婦人科、岩田卓講師の講演があった。子宮頸がんの細胞診の問題点を改善しようと、アメリカのベセスダという処に米国の専門家が集まり委員会が組織された。そこで従来の方法を改善すべく考えられたのがベセスダシステムで、現在はアメリカだけでなく世界でも使われるようになった。わが国でも従来のパパニコロウ細胞診から上記の方法に変えてきている。
ポイントは子宮頸がんの原因といわれているHPV(ヒトパピローマウイルス)の感染を関連付けていることで、従来の検査法より少し精度が上がっているそうである。もちろんこの方法も最善ではなく、今後も改善していくことになるだろう。ただ、感想としては本質的な意味で「がん」の治療ができない以上、検診の精度が上がってもなあと思ったことである。