平成24年7月13日(金)
17世紀のオランダの画家フェルメールは、現在世界中で最も人気のある画家ではないだろうか。かく言う私も本物を見たことはないが、光を巧みに表現した細部にわたって精緻な絵に惹かれていた。先年、東京で作品展が開かれたことがあったが、あまりの人気に行くのがためらわれた。作品の前でゆっくり観賞することなどできないだろうと思われた。ゆっくり見るためには作品が展示されている各国の美術館に行くしかないだろうと思っていた。フェルメールに関する本は多数出版されており、いくつかは読んでみたが内容がもう一つだと感じていた。
「生物と無生物のあいだ」「動的平衡」 などの著書で知られる生物学者福岡伸一氏の近著「フェルメール光の王国」は、4年間にわたってフェルメールの作品が所蔵されている美術館を訪ねてまわり、その地の歴史と合わせて考察・観賞した力作である。旅の後半で氏が生物学者になって以来、考え方のよりどころとなっている孤独な学者シェーンハイマーの生誕の地ドイツ(ワイマール共和国)を訪ね、新築されたベルリン国立絵画館でフェルメールの絵を鑑賞し同時に生前その業績が正当に評価されたとはいえない学者に思いを馳せる。
ここでは芸術と科学と哲学は混然一体となり、切っても切り離せないものだと納得させられる。ヨーロッパの歴史にはかなわないと感じるのも、氏の深い考察と筆力の賜物であると思う。
カテゴリー 好きなもの
フェルメール光の王国
「細川家の至宝」と「クーザ福岡公演」、「鮨安吉」
平成24年2月16日(木)
サーカスに物語を取り入れたカナダのパフォーマンス集団、シルクドソレイユの公演が現在福岡で開催されているが、この連休にチケットが手に入ったので行ってみた。シルクドソレイユは数年おきに日本で公演しており、いつもは大阪公演に行くが今回は大阪でのチケットが手に入らなかったのである。ちょうど大宰府天満宮にある九州国立博物館で特別展「細川家の至宝」も開かれていたので、そちらも見ることができた。
シルクドソレイユの公演は毎回肉体的パフォーマンスのすばらしさに圧倒されるが、今回の「クーザ」は道化師も主役の一つで通常よりもおとなしい感じだったが、それはそれでよかった。
国立博物館では、鎌倉時代から続く細川家の文化財を伝えるために設立された「永青文庫」におさめられている数万点のコレクションの一部(300点以上)が展示されていたが、その歴史に圧倒された。第16代当主・細川護立がそれまでに受け継いできた宝を管理し、高度な鑑識眼で新たに収集した宝が展示されていたが、時を超えて残っているものは味わい深い。
たまたま予約できた博多駅近くにある「鮨安吉」は、よく吟味されたつまみを適当に出しながら鮨をにぎってくれる超人気店である。わずか7席のカウンターでゆっくり飲みながら江戸前鮨を味わうことができる。接客もよく、値段もリーゾナブルである。いい店に出会えたものである。今回の小旅行は、小倉の「松本清張記念館」にも行くことができたしなかなか面白いものであった。
養老孟司著「解剖学教室へようこそ」
平成23年11月15日(火)
養老孟司氏の著書を久しぶりに読み返してみたが、改めてその面白さに感じ入った。氏の文章は、本当はとても難しいことや複雑なことを簡潔に分かりやすく示してくれるので、なんだか自分が賢くなったような気がするが、これが氏の能力のすごさであろう。
「解剖学教室へようこそ」は氏が東大の解剖学の教授だった56歳のときに出版された。それから2年後大学を退官し、その後の活躍は世間の知るところである。学生時代、基礎医学の解剖学や組織学、ウイルス学や寄生虫学などは自分には全然面白くなく、これをやらなければ大好きな臨床に進めないので無理して頑張ったが、当時この本があったら解剖学にも興味がわいたかもしれない。
人体のマクロからミクロへ、生老病死とDNAの連続性、心とからだの関係など興味深い内容をさらりと説明して最後は宗教書のようである。この本の解説を僧侶がしているが、相通ずるものがあるのだろう。
ロバート・ショウ合唱団
平成23年9月12日(月)
久しぶりにロバート・ショウ合唱団のCDを聞いてみた。曲は黒人霊歌、フォスターの作品、シーシャンテなどであるが実にいい。ロバート・ショウ合唱団は、1949年アメリカで設立され、またたく間に全米屈指の合唱団として評判になり、その演奏のすばらしさをトスカニーニに認められたそうである。活動期間は短かったが、その時に録音した音源はいまでもCDとして売られ、根強い人気がある。
大学時代にこの合唱団のレコードを聞いてそのすばらしさにしびれていたが、その後も折に触れて聞くたびに、上記の曲をこれほどすばらしく演奏できる合唱団はもう二度と出ないのではないかと思ってしまう。人間の声ほど魅力のある楽器はないと思うが、その声を使ってこれほどすばらしい演奏を行ったのは奇跡に近いことだと思うのである。
桂枝雀の医者噺
平成23年4月25日(月)
今は亡き桂枝雀は、「夏の医者」「ちしゃ医者」など医者もの落語の「まくら」で権威ぶった医者や上から目線の医者、「どこが悪いの?診てやろう」などが大嫌いで、病気になった者の損だといつも言っていた。かつて医師免許のない時代には、誰でも医者ができたそうで、色々やってみたがどれもうまくいかなくて「それなら医者でもやってみるか」という「でも医者」、「やぶ医者」、「葛根湯医者」、「手遅れ医者」などがいたという。
「やぶ医者」というのは、平生は流行っていないが「風邪」が蔓延すると人気の医者は引っ張りだこなので診てもらえず、仕方なく人気のない医者でも人が診てもらいに来る、「風邪(風)で動くからやぶ」という説が有力だそうである。「葛根湯医者」、葛の根を煎じて飲むと、発汗作用があり熱が下がるので使われていた葛根湯は、手軽に使えるのでどんな病気にでもこれを処方する医者がいたところから来ているそうだ。
また「なんでもっと早く連れてこないのだ、手遅れじゃ」という言い訳を面白おかしく非難しているが、なるほど一理あるのでアハハと笑えて面白い。桂枝雀はまことに得難い、正統派の落語家だったと思うのである。
チェロリサイタル
平成22年12月2日(木)
もう師走である。時間が矢のように過ぎて行く。
昨夜は知人の奥様のチェロリサイタルに招待されてカミさんと行ってきた。会場が満席で座る場所を探すのに苦労するぐらいであることに驚いたが、演奏を聴いてそのすごさに一層驚き納得した。すべての曲を暗譜で演奏されたが、音の美しさ、なめらかさ、抑揚、どれをとっても完璧な演奏であった。プログラムが終わってもだれ一人席を立とうとせず、アンコールを何曲も演奏することになったが、すごい人がいるものだと思ったことである。
いい音楽は誰が聴いても心を惹かれる。以前音楽をされていたとは聞いていたが、知人の主婦という認識しかなかったことを恥じた次第である。世界は広い。
枝雀の落語
平成22年3月30日(火)
最近、桂枝雀にはまっている。折々に買いためていたCDを暇さえあればとっかえひっかえ聞いている。小米時代から枝雀になったばかりの頃の噺もあれば晩年に近い頃の噺もある。ある頃からマクラに「一生懸命のおしゃべりでございます」というようになったが、なるほど面白さの中に懸命さがちらちら感じられて、そこまでしなくてもと思わせるようなところがあった。
思いつめる性質のようで、そのことが早すぎる一生になってしまったのだろう。そういえば加藤和彦も同じぐらいの年の一生である。男性の還暦の頃は心が萎えやすいのだろうか。やはり枝雀にはもっともっと生きてすばらしい話芸を楽しませてほしかった。
サイモンとガーファンクル
平成21年6月10日(水)
サイモンとガーファンクルが来日して大阪でコンサートをするそうだ。同世代の友人知人が何人も行くそうである。高校時代にはじめて聞いた「サウンドオブサイレンス」は衝撃的であった。以来、彼らの創り出すメッセージを含めた高い音楽性の曲たちは、我々を魅了し続けた。そういう人たちでコンサート会場は埋め尽くされることだろう。
青春期に影響を受けた音楽は、いつまでもその人にとって魅力を持ち続けるものである。最近よしだたくろうが復活しているし、矢沢栄吉も健在である。一方、かつてファンだった歌手が年をとって衰え、声が思うように出なくなったのにテレビのリバイバル番組で歌うのを見るのは無残である。大切にしていた思い出が壊されるようで、きっとその歌手も自分の衰えがわかっていると思われ、お互いにつらいことだ。サイモンとガーファンクルはどうなのだろうか。
田中一村展
平成20年11月29日(土)
時間がとれたので、連休を利用して奈良、京都へ行ってきた。目的は、奈良明日香村の万葉文化館で開催されている「生誕百年記念 田中一村展」を見るためだったが、紅葉の季節だしついでに京都をまわってくればいいと思って、急遽計画したのだった。さすがにこの時期は宿がとれず、はじめは大阪のビジネスホテルしかあいてなかったが、出発5日前に奈良公園入り口にあるホテルがキャンセルでうまくとれて幸運だった。奈良は大混雑で、申し込んでおいた奈良観光バスツアーが大幅に遅れたが、おかげで若草山からのすばらしい奈良の夜景を見ることができた。
翌日の京都も大変な人で、清水寺などの有名なところは大混雑なので避けて、午前中に紅葉のきれいな穴場、金福寺、詩仙堂を巡ったが、ゆっくりと紅葉を堪能できた。昼前に雨が降ってきたので、少し早めに予約しておいたレストラン「おくむら」でランチ、秋を満喫できた二日間であった。
チキンガーリックステーキ
平成20年6月21日(土)
梅雨に入りうっとうしい日が続く。この時期は健康診断、ドックなどで異常を見つけられて来院する人が多い。ほとんどが取るに足りないことばかりで、心配して来られる患者さんが気の毒である。健診システムそのものの見直しと、健診の義務付けの法律改正が必要である。
「チキンガーリックステーキ」というふざけた名前の男声6人のコーラスグループのコンサートに行ってみた。マイナーなグループだがその歌唱力はすばらしく、思わず帰りにCDを2枚買ってしまった。なんでも結成18年になるそうで地道に活動を続けているらしいが、すばらしいハーモニーがあり実力充分と思われるのにメジャーにはなれないようだ。実力があるので、もっと知られるようになってほしいものである。



