平成16年6月5日(土)
相性というのは必ずある。友人同士、上司と部下、夫婦、先生と生徒、飲み屋のオヤジと客、そして医者と患者にも相性は大いにあるようだ。他院に紹介したE さんが来院されて言うには、紹介先の先生とあまり合わない様子である。それぞれの人はいいのだが、組み合わせではうまくいかないことがある。正しい間違いではなくまさに「相性」である。医者と患者の場合は相性が悪ければよそへ行けばいいが、会社などで上司との相性が悪ければ大変だろう。夫婦なら最悪である。
日本では昔から見合いの制度があった。これは物のわかった大人が、双方の家柄や性格をみつくろって引き合わせるのでそれなりにうまくいっていたようである。医者がよそに紹介する場合は、その病気を治療するのに一番良いと思われる医者を選ぶのだが、相性のこともチラッと考える。でも病気の種類によっては、相性より腕だという場合は腕を優先するために今回のようなことがおきる。紹介といってもけっこう難しいのだ。
カテゴリー 診療
紹介先と相性
コンジローマの治療
平成16年6月2日(水)
最近コンジローマが多い。コンジローマとはイボのことで、おもに外陰部にできるウイルス感染症である。セックスで感染するため性感染症の一つといわれてい る。コンジローマができたときには、他の性病も同時にあることがよく見られるので気をつけなければならない。性病に感染するということはそれだけ性的に活発ということで、生物学的には正しいのだろうが他人にも感染させるし本人も困る。
コンジローマの治療は焼くか凍らせるかが一般的だが、欧米ではポドフィリンという植物からの抽出液を塗ることで治す。これはほとんど痛みもなくきれいに治るのでおすすめである。ちなみにこの薬は、欧米では薬局で自由に買えるようであるが、我が国では厚生省が禁止しているので買えないし売っていない。この薬はきついから危険なのだそうだ。それを言うなら一般に売られている消毒薬だって危険である。厚生省だって何かあった時に責められるのがイヤなので、簡単には薬剤の許可をしないのだろう。我々ももっと自己責任を重んじて(そういえばイラクの人質では随分自己責任論が盛んだったが)なんでもお上まかせはやめに して、もっと権利、義務、責任を明確にして主張すべきは主張していきたいものである。
中絶にまつわる話
平成16年5月24日(月)
日誌を休みだすとぶりがついてしまって、金、土と日誌を休んでしまった。今日は梅雨明けの初夏のような気候である。先週はまるで梅雨のような天気が続いていたからだが、こんな日は仕事がなければ海や山に行きたい所である。
中絶するかしないかでもめている人がいる。かと思えば中絶して1年以上経っていて相手ともめている人がいる。関係が深ければ一層もめごとも多くなるのだろう。まことに難しいことである。配偶者のいる女性(つまり結婚してだんなさんがいる人です)が、配偶者以外の男性(つまり不倫の関係ですね)との間に妊娠して中絶を希望した場合、同意書に記載するのはだれの名前でしょうか。正解は本人(妊娠した女性)はもちろんですが配偶者の同意が必要なのです。この場合、配偶者がすんなり同意するでしょうか。きっとかなりもめると思います。血の雨が降るかもしれません。怖いことです。
中絶よりピル
平成16年5月18日(火)
今日はキャンセルを繰り返したあとの中絶があった。やはり気持ちが揺れるのだろう。こちらは医学的に問題がありそうな時にはアドバイスするが、基本的には黙って見ているだけである。色々葛藤があるのがわかっても聞かれるまでは何も言わないことにしている。処置の後は気持ちが落ち着く人が多いのだが、それを引きずる人もいる。体よりも心にダメージを与えることが問題なのだ。私がピルをせっせと出しているのもそういうことが少なくなって欲しいからだ。何でみんなピルを怖がるのだろうか。
ピルの副作用?
平成16年5月17日(月)
湿度の高い不快な日が続く。まるで梅雨のような天気だ。先日のトライアスロンの妊婦さん(4月30日の日誌参照)であるが、順調に経過している。来月頃またトライアスロンの大会があるそうだがこれはキャンセルしたとのこと。今は一日3キロ程度ジョギングをしているとのこと。「散歩の方がいいですよ」とは言っておいたが彼女には散歩では物足りないだろう。きっとジョギングは止めないと思う。
Dさんはピルを飲み始めて10日目ごろから体中に発疹が出てきた。その頃、胃薬も飲み始めたので内科を受診したら「胃薬のアレルギーの可能性が高いが、ピルを飲んでいるのなら婦人科にも聞いておいたほうがよいです」とのことで来院、一旦中止してもらう。その後、連休初めに発疹の薬がなくなったので、休日診療で受診した所入院をすすめられ12日間某国立病院に入院していたとのこと。入院していた皮膚科ではピルの可能性が高いとのこと。詳しくは落ち着いたら検査する予定だそうである。当院でピルを処方して3年になり8000シートぐらいは出していると思うが、こんなことは初めてである。どうかな?と思ったことは何回かあるが、結局問題なかった。検査の結果が待たれる所であるがDさんはできればピルを続けたいとのことだった。
説明は難しい
平成16年5月12日(水)
MRさんが言うには、ピルのメーカー価格を上げるとのこと。しかも関東ではもう上げていると言う。今でも高いと思っているのになんてことを。今までと全く同じで材料費が上がったわけでもなく、唐突な話だ。仕入れ値がいくら上がっても患者さんには同じ価格で提供するつもり(涙)だが、どういうことなのだろうか。値上げの理由がわからない。
無排卵の患者さんがいる。現在妊娠の希望はなく、体調も良い。基礎的なホルモン量は問題ない場合、①経過を見る、②排卵誘発剤を使ってみる、③ピルで毎月生理をおこす、の選択がある。どれも正解なのだが患者さんがどうしたいかによって異なる。そのことを縷縷説明するのだが、何を言っているのかという顔で見られることがある。こういう時は初めから「あなたはこうしたほうが良いですよ」と言っておけばよかったかなと思うことがある。時間をかけて説明して不信感をもたれてなにもいいことはないのだが、よかれと思ってつい言ってしまうのだ。自分の性格も変わらないなとつくづく思う。
性同一性障害
平成16年5月11日(火)
今日は処置もなくヒマだった。どうも患者さんの数に波があるようだ。やはり多いときのほうが自分はパワーが出る。性同一性障害の人を複数診ているが、ここしばらく姿を見なかった人が半年ぶりに来院されホルモン注射とホルモン剤の処方。男性から女性へ、女性から男性へどちらもあるのだが、女性から男性への方が薬の副作用も考えると難しいように思う。人間の原型は女性だと思うので、女性から男性へは難しいのではないだろうか。いずれにせよ精神科の先生に紹介して相談しながらフォローしている。
男女間のトラブル
平成16年5月7日(金)
男女間でのトラブルが多いのは、妊娠が関係している時だ。人間の本質が見えるのは争いの時だろうと思うが、妊娠があるとそれが深刻になることが多い。それに加えてお金。こういう仕事をしているといやでも色々なことが目に入る。そういう時いつも思うのはそれぞれの立場での真実である。100%悪人もいなけれ ば100%善人もいない。それぞれのエゴと相手に対する思いやりの間で気持ちは揺れ動くのである。私としてはどうしても患者さんの方を好意的に見ようとするが、どう考えても相手の男性が気の毒なケースもある。
ただ、男であれ女であれ小ざかしく立ち回って得したように見えても、もっと大いなるものから見れば結局は損も得もないように思う。人をだませばかならず自分にかえってくると思っていたほうがいい。今日も多忙な一日だった。
高齢妊娠でトライアスロン完走!
平成16年4月30日(金)
連続10日間休みがなかったので、昨日の休みは貴重だった。今日は朝から流産手術。今月は流産がいつもの月より多い。流産は誰の責任でもなく運であることを一層感じたのは、2週間ぶりに来たCさんの話を聞いたからだ。あまりに驚いたので思わず「これは皆さんに公表してください」と言ってしまった。
Cさんは2週間前に高齢初妊娠とわかり、大いに喜んでおられた。まだ初期なので1週間後に来院するようお話するも来院せず、2週間後の今日来院され順調なことを確認したが、なんとこの2週間のあいだに宮古島トライアスロンに出場され完走したそうだ。3キロメートル泳いで155キロメートル自転車に乗り、42,195キロメートルのフルマラソンを走る、それも14時間以内に!す、すごい。お腹の中の新しい命はなんて強いんだろうと思った。正常な妊娠の極限の強さを見せられた気がする。トライアスロンを完走できる人はたとえ妊娠していなくてもほとんどいないと思うが、妊娠して挑戦した人は私の知る限りでは一人もいない。もし事前に相談されていたら、絶対ダメと言っていただろう。ただ本音を言うと、胎芽(赤ちゃん)が正常なら少々走ろうがどうしようが流産することはない、と思っているのでその確信が一層強くなったといえる。
なにはともあれ次回は彼女のパワーを分けてもらい、ついでに爪のあかをわけてもらい、自分の怠け癖を治す薬にすると共に、流産の予防薬として売ろうかしらん。ああ驚いた。
大切な問診
平成16年4月26日(月)
57歳のBさんは昨年の秋ごろから体重が減った。内科を受診して1ヶ月に渡って検査したが、異常は見つからなかった。それでも体重は増えず、夜はなかなか寝付かれない。担当医は「しっかり食べてください」と言うが、あまり食べたくないし友人が「婦人科でホルモン注射をうけたら太った」と言うので当院を受診した。ご主人が1年半まえに亡くなって、はじめの1年ぐらいはそうでもなかったが、半年前から食欲が落ちて体重が減っている。日中よりも夜の方が落ちつくが、なかなか眠れない。明け方まで起きていることもある。娘は嫁いでおり現在一人暮らし。
こういう書き方ををすると、医師であればまず「うつ病」を考えるだろう。そしてカウンセリングや抗うつ剤などを使い総合的に治療しようとするだろう。また精神科に紹介してきちんと診断治療を仰ぐだろう。でもそういう視点で診ていなければ、背景もわからないし身体的な病気の有無ばかり探して、患者さんにとっては検査はいっぱいしたけどちっとも良くならないことになる。実はこういうことはよくあり、問診だけでかなりのことがわかるのである。要はどういう視点で人を見ているかに尽きるのだろう。人を見る目を鍛えるということは、自分を鍛えるということである。自分はまだまだ全然だめだと思うが、少しづつでもわかるようになっていきたいものだ。今日はまじめなことを書いてしまった。