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手術と放射線治療

平成16年9月27日(月)
10年以上前に子宮がんの手術をされて、現在再発もなく過ごしておられるCさんは足が腫れており、やや不自由でなんとかならないだろうかと言われる。以前から(今もそうだが)少し進行した子宮がんは子宮を取る際に周辺のリンパ節を切除することが一般的で、そのためにリンパの流れが滞り下肢がぱんぱんに腫れることがあった。これに対してはいい治療法がなく、本人にとってはまことにしんどいことで、一生その状態でいるのは苦痛であろう。じつに気の毒である。
欧米では手術よりも、放射線による治療の方が主な国もあり、治療成績も手術とほとんど同じようである。どちらの治療も一長一短があるが、やはり治療する側としては両者の良い点と悪い点をきちんと説明して選んでもらうしかないだろう。日本ではがんの治療は手術だとの思い込みがあり、ドラマ「白い巨塔」でも手術の名手をカリスマの如くあがめているようである。
放射線科の医師と協力し合って治療をするようになればよいのだが、現実にはなかなか難しい。患者にとってどうするのが一番いいのかだけを考えていれば、妙な縄張り意識なくうまくいくとおもうのだが。

ドックや検診には近づかない

平成16年9月18日(土)
ドックや検診で何か異常を指摘されて来院される人がいる。ほとんどの場合、問題ないことが多いのでその旨をお話しすると安心される。異常を指摘されてからずっと心配されており、かなりストレスだったようである。無理もない。だれでもそう思うのは当然である。
私はいつも「体調が良く、どこも何ともない人は医者に近づかない方がいいですよ。痛かったり、不都合があれば来て下さい」と言うことにしている。どんな健康な人でも探せば少しぐらい不都合な部分は見つかるものである。昔、経済状態も悪く労働条件もよくない時代は健康診断も必要であったかもしれないが、今はどうだろう。栄養状態は良く、快適な生活を営んでいる人が多いなか、いたずらに検診を受けるのは(?)と思う。私自身、体調が悪くなければ一切検査しない。治る病気は少々遅れても治るだろうし、その逆もまた真なりと思うからである。
そのかわり、信頼できる相性のいい医師を見つけておいて、心配なことがあれば相談に行き、そこから色々な科に紹介してもらうのがいいだろう。

産むか産まざるか

平成16年9月3日(金)
妊娠中絶希望のCさんが、予定中止を言ってきた。実は2週間前にも中絶予定を中止して生むことになっていたのだが、迷ったあげく再度中絶希望になったのだ。非常に迷っている様子が見られ、私としては「生むにせよやめるにせよ、あなたの思う方に協力します。迷っているのはよくわかりますが決めるのはあなたです。できるだけ後悔しないようにしてください」と言っておいたら「生むことにしました」と連絡してきた。でもまだ少し迷っているように感じた。
以前にも書いたが、これらのことは命にかかわる本能的な問題で、深い。私は単純に生むことがすべて正しいとは思っていないが、生物学的には生むことが理にかなっていると思う。問題は社会的、情緒的な部分である。一人一人状況が違うので正解などないと思う。どちらを選んでも後悔するのなら、生物学的に理にかなった後悔の方がいいのではないだろうか。とはいえ、悩んでいるのを見るのはこちらもつらい。

耐性菌の増えた性病

平成16年7月9日(金)
腰が痛い。日曜日にテニスをした後、何年ぶりかのマージャンをしたためと思われる。一度ヘルニアになってからはすっかり腰がだめになった。ちょっと運動をすると痛くなる。情けないことである。今回はどちらかというとスジが痛いようなのでまだマシであるが。
今日は、パートナーが淋病になったので、自分も感染していないか調べて欲しいと言う人が何人か続いた。ちょうど昨夜講演会で性感染症の話があったばかりである。いま淋病は耐性菌が増えて、以前なら簡単に治っていたのが治らなくなったという話であった。これは我々開業医が日々感じていることである。実際なかなか治らない。クラミジアなら内服剤で良いが、淋病は抗生物質の静脈注射でないと治りにくいのである。
性感染症の蔓延で有名なのはコロンブスがアメリカ大陸(実は西インド諸島)から持ち帰って、あっという間にヨーロッパ中に拡がった梅毒である。この梅毒は日本にも持ち込まれ全国に拡がった。西インド諸島の風土病であった梅毒が、ヨーロッパを経て日本に拡がるまでの期間はわずか数十年である。人間の性行動はまことにすごいものがある。生殖力の強さと性病の蔓延の強さは一致するようである。生殖力が強いから人類はこれだけはびこってきたのだろう。性病の存在もある意味で仕方がないのかもしれない。

流産にまつわる話

平成16年6月30日(水)
以前にも書いたが、妊娠が確認できたあとで胎芽が育ってないことがわかり、そのことを告げるのはイヤなものである。特に不妊治療後の妊娠の時は、患者さんのつらさがひとしおで本当に気が重い。流産は一定の確率で起こり(最近は妊娠の20%といわれている)、どうしようもない。まさに運である。これが同じ人に続けておきると一層つらさが増すようで、私も実につらいのである。最近も続けての流産があり、本人は「なぜ自分だけが」と納得できない様子である。妊娠にまつわる女性の感じる重圧は、男性の想像を越えるものがあると思う。ところが一方では中絶を希望する人もまた必ず一定の率でいて、我々は両方の真実をみるのである。

初めての妊娠は心配が多い

平成16年6月21日(月)
台風は四国から北陸へ抜けていったようだ。広島はほとんど雨も降らず風も無し。台風の影響はあまり実感できず。台風や地震などの災害の時にはいつも、瀬戸内地方はなんと気候に恵まれた所だろうと思う。昨日はフェーン現象で暑い中、テニスをしていたので顔と腕が赤く焼け、ヒリヒリしている。
Gさんは6年前に高齢初産で第一子を授かった。初めての妊娠で色々な不安もあり、よく時間外に電話をしてこられた。その都度、話を聞いてアドバイスしていたが結局無事に生まれた。3年前に二人目を妊娠した時は、かなり落ち着いておられた。今回3人目の妊娠がわかったが、全くリラックスしている。初めの時の心配がうそのようである。考えてみれば、初めの時に心配するのはあたりまえのことで、お産は昔から命と引き換えと言われるぐらい危険なことだったのだ。今でこそ妊産婦死亡率は低くなったが(各県で年に一人位)近代まではお産で死ぬ人は本当に多かったのである。源氏物語をはじめ昔の書物には、お産の時にうまくいかなかったり産後回復が悪かったりして母体が死ぬ話が実に多い。現代の日本では医療が進んでおり帝王切開も安全にできるので良いのだが、発展途上国ではまだまだ危険なことが多いようである。初めての妊娠で心配するのは本能的にあたりまえのことなのだろう。

タバコについての考え

平成16年6月16日(水)
Fさんは妊娠がわかったけれどなかなかタバコが止められない。減らしたが完全には止められないようだ。もちろんタバコの胎児に与える影響を話し、やめるように言うのだがなかなか難しいようだ。
今はタバコに対する風当たりが強く、本人だけの問題なら「自己責任だから吸う」といわれればそれ以上は何も言えないが、「副流煙が他人に迷惑をかける」と言えばこれは正義だから非難できる。
もちろん私自身はタバコを止めたし、健康をそこなうものだと思っている。ただし、である。タバコには相応の歴史と文化がある。葉巻をくわえたチャーチルの貫禄や、パイプを咥えて日本に降り立ったマッカーサーの姿などは映像で見る機会がありそれはそれで風情があった。また、江戸時代の日本でも「一服つける」という言葉あるように、一休みする時はキセルをだしてきざみタバコをいれ、ひと時の休息をとっていたのである。悪いことばかりでなくいいこともいっぱいあるのがタバコである。そうでなければこれほど世界中に広がらなかっただろう。
それが「健康」中毒のアメリカが、タバコは体に悪いし他人にも迷惑をかけるからやめようと言い出すと、なんでもアメリカのまねをする日本も同じように言い出した。その理由は「本人の体によくないし、他人に迷惑をかける」ということである。でも本人の体は自己責任であるし、他人に迷惑をかけずに生きている人がいたら見せて欲しい。そんな人は神様以外にいるものか。キリストは「汝ら罪なき者、あの女を打て」と言った。誰もみずからを省みて、罪人といわれた女に石を投げることはできなかった。
いつも「その時代に正義といわれていること」を旗印にして他人を非難することは最も簡単だしだれからも文句をいわれず、正しいことをしていると胸をはれる。戦争中は「欲しがりません勝つまでは」と言って大いに戦争を支えて、戦争反対を言う人を「非国民」とののしった。今タバコを非難しないと同じことにな るかもしれない。
くわばらくわばら。

検査結果を伝える

平成16年6月14日(月)
当院では、子宮がん検査をはじめほとんどの検査の結果を電話で答えるようにしている。本当は来院してもらって直接説明する方が間違いがなくてよいのだろう が、そのためにわざわざ来院してもらうのも気の毒なので電話で答えることにしている。問題なのは異常があったときで、その時は「来院してからお話します」 と言うことにしている。でもこう言われた患者さんの気持ちは本当にイヤだと思う。私も以前に内容は異なるが似たようなことがあり、その時の気持ちを思うと 察するにあまりある。私の場合は結局問題なかったのであるが、それでもかなり大変だった。
悪い結果を伝えて今後どのようにしたらいいのかを話すのにも実は二通りあり、一つは予後がよさそうな場合ときびしい場合である。これはだいたい予測がつく。前者はまだ良いのだが後者はどういう風に話そうかと思うのである。

細胞診の結果

平成16年6月9日(水)
細胞診でクラスⅢというカテゴリーがある。子宮がん検診での異常は、このクラスⅢのことが多く、とくにそのうちのクラスⅢaであれば2~3ヵ月後に再検査 をすればよい。最近では20代の女性にもしばしば認められ、充分説明するのだがなんにも気にせず後検査にも来ず、2~3年してから別のことで来院する人がいる。かと思うと親に話したら親はがんだと驚いて、あわてて一緒に来院して説明を求める人もいる。気持ちはわかるが、ここはこちらを信頼して怖がり過ぎず、ほっときもせずでいてもらいたいと思う。
私も相手の反応を見ながら、ほっておきそうな人にはややきつめに話し、心配しそうな人には大丈夫だと強調しながら話すのであるが、相手の性格の予想が外れることもあるのだ。

英語がしゃべれない

平成16年6月7日(月)
場所がら時々外国人が受診する。少しでも日本語がしゃべれればよいのだが、全くしゃべれない人もいる。この時が最も困る。中学高校と英語を習っていて、大学でも英語の授業があり、医者になってからも英論文は読んでいるのに、さっぱりわからないししゃべれないのである。医学用語の単語だけはかろうじて使えるが、普通の会話はお手上げである。そのたびに「アビバへ行こう」と思うのだが、いざとなるとめんどうになりそのままとなる。かくしていつまでたってもしゃべれないままである。
昔、学会でモロッコへ行った時は、現地の人と身振り手振りである程度意思の疎通ができた。そこでは英語はほとんど通じず、アラビア語とフランス語しか通じないので、全くお手上げであったのだが。要は通じ合おうという気持ちが大切なのだろう。今は通じないとカッコ悪いと思っているからいっそう通じないのだと思う。なりふりかまわず頑張ればいいのだろうが、なかなか難しい。