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ウマに食わせるほどの薬

平成17年6月22日(水)
当院をはじめて受診した患者さんの、今までに処方された薬の種類と量のあまりの多さに驚くことがある。こんなに飲んだらご飯が食べられなくなるのではと思 わず心配してしまうような。さらに、同じ種類の薬がダブル、トリプルで重なって出されていることもある。これらは院外薬局なら薬剤師のチェックが入るので 防げるかもしれないが、やはり処方する医師が気をつけないとだめだろう。日本人は薬が好きで、病院に行っても薬を出してもらえなければそこへは行かなくな るという。だから本当は薬が必要ないと思っていても、患者さんに要求されたら仕方なく出すこともあるだろう。幸い当院は薬を出す患者さん自体が2割~3割 ぐらいしかいないので、これらの葛藤がないのがありがたいことである。

過剰な検査は患者さんの負担になる

平成17年5月24日(火)
患者さんから「これこれの検査をしなくていいのですか、母親が検査してもらわなくていいのかと言っています」と言われることがある。たいていはまだ信頼関係がしっかりとできてない時にこのような質問を受けることが多い。
こういう時はいつもどのように説明しようかと思うのであるが、検査の中には①絶対に必要な検査、②しておいた方が良い検査、③参考どまりの検査、④保険上は認められているがなくても診断できる検査、があり、①の検査は患者さんを説得してでも行う、②は「~しておいた方が良いですよ」と言ってできるだけ行うようにするが患者さんが拒否すれば無理には行わない、③④は原則として行わないことをお話する。そして問題はこの二つなのだ。これら③④は患者さんの経済的身体的負担がふえるわりに有用性が少なく、患者さんに不利益になる(医院には利益になる)と思うのでしたくないのだ。
でも一般的には行われている検査なので、患者さんがどこかで聞いてきたり、本で読んだりして「これこれの検査をしたほうが良いと聞いたのですが」と言われて真意を説明するのだが、わかってもらえないこともある。かえって不信感を持つ人もおられるかもしれない。そういう場合はめんどうなので求められるとおりに検査しようと思うこともあるが、やはり性分なので説得しようとしてしまう。十分信頼感関係ができている場合は、検査をしないのは③か④だからだとわかってくれているので問題ないが、そうでない場合は結構大変なのである。
実は治療についても全く同じことがあるのだが、それはまたの機会に。

意見不一致

平成17年5月16日(月)
明け方はやや冷えるようだが日中は暑いぐらいである。いい季節になった。
先日中絶を希望する夫婦が来院されたが、話を聞いてみるとどうも意見が一致していないようだ。もう何人も子供がいるから経済的にも中絶したいという意見 と、せっかくできたのだから生みたいという気持ちとがせめぎあっていた。とにかくご夫婦の意見が一致してからということにしたが、なかなか一致するのは難 しそうである。経験から言うと、女性の意思のとおりになることが多いようだ。少子化のおりから子供は多い方が良いのだろうが、それぞれ事情があるので必要 なことだけを説明するが、あとは二人で決めてもらうしかない。
避妊にはピルが一番いいと思うのだが我が国ではなかなか普及しない。なぜだかわからないが、日本にはピルを拒否する伝統的思考があるのだろうか。

力不足

平成17年4月23日(土)
自分の力不足で患者さんに不快な思いをさせて大いに落ち込んでいたが、別の患者さんから「ここに来て良かった」と過分な評価をいただいて、ほんの少し気持ちが落ち着いた。自分ではいつも同じようにしているつもりであるが、患者さんとしては結果がすべてである。うまくいかなければ腹も立つだろう。私としては良かれと思って精一杯やったのだが、つらい思いをしてしまう結果になったようだ。どういう理由であれ患者さんが満足できなければこちらの負けである。大いに反省し、これからもまた一人ひとり心を込めて丁寧に診ていくしかない。我々にとって患者さんの評価がすべてだから。

病気の予後

平成17年3月7日(月)
我々は明日のことはわからないから毎日平穏に暮らしているが、もしどうなるかわかってしまったら心穏やかではいられないだろう。医者は、患者さんの病気の予後がかなりわかるので、予後不良の場合はどのように対処しようかと悩むのである。患者の立場から言えば、がんを宣告されたときの衝撃はすごいものがあるだろうが、いくら想像しても実際のところは本人以外には本当のところはわからないと思われる。
流産の場合も、初期で胎児(胎芽)の心臓の拍動が確認できても近いうちにだめになることが予測できる場合がある。超音波検査で診断できるのであるが、どのように話そうかといつも悩む。衝撃をできるだけ緩和するように努めているつもりであるが、実際のところつらさは本人にしかわからないだろう。医者は予後を知ってしまうが故に悩みも深まるのである。

相性は難しい

平成17年2月28日(月)
先日、他県に在住の患者さんより「紹介していただいたお医者さんと合わないようなのでどうしたらいいでしょうか」との連絡があった。患者さんは以前から当 科で診ていたのであるが、結婚して他県に転居されたが年に一回は当科を受診されていた人である。紹介させていただいた先生はその地におられる私の信頼するすばらしい先生である。相性が良くなかったのだろうか、双方に申し訳なく思っている。どんなにいい人同士でも相性が悪ければどうしようもない。「いい先生だから信じて行ってみて下さい」とお答えしたが、相性ばかりは難しいかもしれない。逆に私が紹介された場合にも同じようなことがあっただろうと思う。
今日で二月も終わりである。まさに「二月は逃げる」であっという間に逃げて行ってしまった。

順調な外来の流れ

平成17年2月12日(土)
二月ももう半ばになった。二月は逃げる、三月は去るというが、日がたつのは実に早いものである。今日は朝から処置を含めてちょうどいい感じの流れであった。忙しすぎず暇すぎず、ベストの状態である。いつもこうであればいいのだがなかなかそうはいかない。
当院はよろず相談所のようなところもあり、大きい病院に紹介した患者さんや妊婦さんが「病院でこんなことを言われたがどうなのでしょう」とか、ここには書 きづらいようなさまざまな相談が持ち込まれることがある。時間があるときはゆっくり対応ができるが、そうでなければ困ることもある。そういうことにも時に対応しながら、順調に進んでいくのがいいペースの外来なので今日は良かったと思う。

生理不順は経過観察でいい

平成17年1月27日(金)
当クリニックは場所がらか、生理不順を訴えて来院される若い女性が多い。生理不順の原因の多くは下垂体ー卵巣にあり、卵巣が一個だけではなく複数の排卵を起こすタイプの場合によくみられる。以前はこのタイプの生理不順を治療していたし、今でも治療しているケースもあるようだが、疑問である。まず、排卵は妊娠を希望していないときは絶対に必要というわけではないし、排卵がないからといって体に悪いわけではない。次に、このタイプの生理不順は根本的には治すことはできないし、治す必要もない。排卵が不定期の場合には排卵誘発剤を使えばその時だけは排卵させることができるかもしれないが、次の月は前の状態にもどり排卵が不定期になるのである。だから妊娠の希望がないかぎり治療の必要はない。多くの女性は「生理は毎月あるものだから自分の生理が毎月ないのは異常だ」と考えているかもしれないが、心配することはない。たとえばピルを飲んでいる人は毎月生理様の出血があっても排卵は原則おこっておらず、その状態が何年続いても(ピルを何年飲んでも)特に問題があるわけではない。
人間も哺乳類なので排卵するわけだが、他の哺乳類の多くは年に数回の発情期にまとめて排卵するだけであり、その時に一度に複数の卵を排卵し、複数の仔が生まれるのである。だから、たまたまヒトが月に一個だけ排卵するように進化?しているのだとしても、複数排卵するという本来の多くの哺乳類のなごりがあってもおかしくはないだろう。実際複数の卵を排卵するタイプの生理不順の女性の多いこと。むしろそちらの方が本来の姿かと思うくらいである(ちょっと言いすぎか)。だから生理不順であってもこの場合は心配ないので、時々経過を見てもらうようにするだけでいいのである。

アナフィラキシー

平成17年1月7日(金)
午後の診療開始早々、抗生物質を1錠飲んでアレルギー反応の出た患者さんがおられた。今我が国で最も広く使われている抗菌剤のひとつで、10年以上多くの人に処方しており特に問題なく、今回も午前中の外来で処方したのであるがこのようなことは初めてであった。内服後顔が紅潮し、気分が悪くなり呼吸音に軽い喘鳴が認められた。この症状は内服30分後ぐらいで起こり、すぐに来院されたのだ。血圧・脈拍は正常であったが、内科の先生に診察を依頼したところ、念のため救急車で市民病院の救命救急へ移送することになった。その後移送先のドクターから「おちついてきてもう大丈夫と思うが念のため一晩入院してもらいます」との知らせがあった。そして翌日の午前中に問題なく退院となった。
アレルギーは恐い。たとえ10万人に問題なくても10万1人目に起こることがあるのだ。今まで一度もなかったからといって、今後もないとはいえないのである。アレルギーにはいつも注意しているつもりであったが、今回はまさかと思うような出来事であった。実は私自身アレルギー体質があって同じような経験をしたことがあるが、その時は解熱鎮痛剤で同じような症状が出て本当に苦しかったが、5~6時間するとおさまって事なきを得た。初めての薬であればその薬に対するアレルギーの有無は、使ってみないとわからないのである。
今後は薬の処方に対しては一層注意していくつもりであるが、アレルギーは恐いと改めて感じた年頭であった。

流産を告げるとき

平成16年11月17日(水)
朝から流産手術2件。いつもながら流産の事実を告げるのは気が重い。特にやっとできたはじめての妊娠の場合は、どのように話そうかと思う。できるだけ衝撃を緩和するように反応をみながら話すのだが、つらい事実には変わりなく心の動きが手に取るようにわかる。納得するのに時間がかかるので、緊急を要するとき以外は流産手術をすることの同意を何日でも待つようにしている。そして、次の妊娠への希望を持ってもらえるように話すのである。
当院ではがんや致命的な病気の治療は行っていないが、そういう病気を本人に告げるのは大変であろう。治る可能性があればいいが、ほとんどない場合は本人の衝撃はすごいものだろう。「世界が変わる」という。それを告げてさらに本人の驚き、怒り、恐怖などもろもろの感情を受けとめるのは、大変なことと思う。よほど強い意志と深い愛情がないとできないのではないか。そういう立場の医師は大変だろうが、現在の私はそうでなくてほっとしている部分もある。勤務医の頃は多くはないがそういう立場になることがあり、自分の無力さを痛感することがあったのである。