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平松洋子著「食べる私」

平成28年5月28日(土)
著者は料理や食、生活文化などの執筆活動を行っているエッセイストで、表題の本は2012年から足かけ3年かけて29人の著名人に「食」を中心にした話を聞いてまとめたものである。
まず、ひきつけられたのは、それぞれの人に食べ物を語ってもらうことを通して、いつの間にかその人の真実に触れてしまうようになる著者の力量である。もちろん話を聞く前にはその人のことを著書も含め詳しく調べているけれど、本音を引き出す力は著者のこれまで生きてきた総合力だと読みながら納得している。映画「かぞくのくに」で数々の賞を受賞したヤン・ヨンヒ映画監督の章では、一家の過酷な運命に驚き涙しそうになるが「疲れたときは、オモニ手製の鶏のスープを飲むと元気が出て、ほっとします」という言葉に救われた気持ちになる。マラソンの高橋尚子氏の章では、「食は私の命そのもの」と言い切る氏のこれまでの選手生活と今のスポーツキャスターとしての生活が、食を通して語られマラソンに対する思いが伝わってくる。圧巻は芥川賞作家でのちにポルノ小説家に転じた宇能鴻一郎氏の章で、著者が話を聞いた時70代後半だった宇能氏のこれまで公表されていない少年時代の「食」と「官能」の一体化の記憶が語られていて、息をのむ思いがした。
著者の作品は本屋ではよく目にしていたが、読んだのは初めてだった。これを契機に他の作品も読んでみたいと思う。

日常診療における子宮内膜アブレーション

平成28年5月20日(金)
表題の講演が島根大学医学部産婦人科の中山健太郎准教授により行われた。子宮筋腫や子宮内膜症により過多月経になることは多いが、その際にピルなどによる薬物治療ではコントロールが難しい場合、筋腫摘出術や子宮摘出術を行うことが一般的である。子宮をなくしたくない人や手術を希望しない人のために、子宮動脈の一部をふさいで筋腫への栄養血管をなくするUAEという技術が開発されている。この方法では子宮は残るけれど良い点も悪い点もあり、それほど一般化していないのが現状である。
子宮内膜アブレーションはマイクロ波を使って子宮内膜を焼くことにより月経の量を減らすか失くすという治療法である。この方法だと子宮内膜は機能しなくなるというか、失われるので女性ホルモンによる変化はなくなる。ただし、子宮筋腫の増大が防げるわけではないし子宮内膜症による卵巣チョコレートのう腫の増大は防げないので、症例を選んで行う必要があるが、子宮内に細いマイクロ波アプリケーターを入れて焼くだけなので、手術のような侵襲はなく当日か翌日退院も可能である。いろいろな治療方法が開発されることにより治療の選択肢が増えるのはありがたいことである。

治験について

平成28年5月13日(金)
「治験」とはその薬が有効か、副作用はどうなのかなどを実際に患者さんあるいは健康な人を対象に使用して調べることで、現在医薬品として使われている薬はすべてこの「治験」という段階を経ている。だから医師はほとんどの薬を安心して処方するわけである。
ここで疑問に思うのは、緊急避妊ピルの治験である。そもそも対象は避妊に失敗したかもしれない女性であるからその人たちに、本物の薬と偽薬を無作為に出すことができるのだろうか。妊娠を心配して病院に行ったのに医師から「あなたは緊急避妊薬の治験に協力してくれますか。本物の薬か偽薬かは私もわかりませんが50%の確率で本物の薬が当たると思います」と言われて、協力してくれる人がいるとは思えないからである。日本以外の国では、貧困層の人たちに無料で薬を提供する代わりに治験に協力してもらうということで成立しているというが、健康保険が世界一充実している我が国でこの薬の治験ができるとは思えない。だからこの薬は外国のデータに基づくものだろうが、どうも疑わしい。
実は、緊急避妊ピルに限らず自分から見て疑わしい薬は他にもある。そのような薬は自分からは処方しないが、患者さんが他の病院で処方されていてその薬を希望する場合には、仕方なく処方することはある。もちろん自分の見立てを言っても患者さんが納得しない場合だけであるけれど。

黄金週間

平成28年5月7日(土)
ゴールデンウイークは最長10日間休めるの人もいるようだが、当院は暦どおりで今週は月・金・土曜日は開院している。長い休みを取らないのは、あまり海外旅行に興味がないのと、この時期は混雑する上に旅行の費用がやたらと高くなるからである。ヨーロッパには行ってみたいけれど往復の時間を考えると、じっくり時間をかけて滞在しないともったいない。昔、一度だけ学会にかこつけてスペイン・ポルトガル・モロッコ14日間の旅に参加したことがあるが、さすがに歴史のある国は見たいものがたくさんあるので、最低1か月は滞在したいと思ったものである。特にスペインは食べ物も美味しくバルでビールを飲んでも安いしつまみもうまい。もう一度行ってみたいけれど、どうせ行くなら長い休みを取って行きたいものである。
今はもっぱら国内旅行、名所旧跡を訪ねて美味しいもの・美味しい店を探すのが好きである。京都にはよく行ったが、今は人が多すぎて身動きが取れないのであまり行かなくなった。近頃では中四国・九州あたりをうろうろして楽しんでいる。

中区医師会第4支部会

平成28年4月28日(木)
耐震補強のために紙屋町の仮店舗に移転しているアンデルセンで支部会が開かれた。本通りを中心に南北1km、東西500mの場所に50を超える医療施設がひしめく第4支部は新しい施設が増えており、施設名簿をみると開業19年目の当院はもう開業順でみれば古い方から真ん中近くになっている。新規開業と継承の責任者が順番に毎年、世話人として支部会を開催することになっているが、最近開業した医師が世話人になるのは15年先なので「自分が世話人になるときはもう閉院しているか亡くなっているかな」と冗談をいう人もいるぐらいである。他の地区は新規開業が少ないので世話人の係が何回もまわってくるという。自分の場合も世話人をしたのは開業して10数年たった後だったし、もう2度と回ってこないだろう。
仮店舗のアンデルセンはさすがに本店と比べると小さいが、料理はそこそこよかった。今まではアンデルセンはすぐそばにあって食事会や支部会などに使えるし、パン・食材・惣菜・ワインなど豊富にとりそろえられて実に便利だったけれど耐震補強のためなら仕方がない。熊本の地震をみれば絶対に必要なことだろうと思う。何年かかるかわからないというのが気になるけれど。

「Jazzen」「The Circle」

平成28年4月22日(金)
表題はいずれもカリフォルニア生まれのアメリカ人尺八演奏家、ジョン・海山・ネプチューン氏のCDである。このところ様々な尺八演奏家のCDを聴いているが、さすがに名のある演奏家の音色はそれぞれ特徴はあるが快く聴くことができる。琴との演奏も多いが和楽器同士は相性が良くて和の世界を満喫できる。
ジョン・海山・ネプチューン氏の演奏はかなり前に一度だけ広島での演奏会で聴いたことがあるが、尺八という単純だけれど扱いにくい楽器を自由自在に吹き、伴奏のギターとピタリと合ったすばらしい演奏であった。尺八の弱点をこれほど感じさせない演奏も少ないと思うが、こういった傾向は外国人尺八演奏家に多いような印象がある。
上記のアルバムは前者はジャズと尺八のコラボであるが、曲想はジャズと禪の融合であり、後者は日本・インド・ジャズ、さらにはラテンの音楽を融合させた独特の世界を表現している。我が国では技術を要するものはなんでも茶道・華道・柔道など道がついて精神の鍛練を重んじる文化がある。尺八はともすれば尺八道になりがちであるが、海山氏の尺八は純粋に音楽表現の楽器として使い、演奏しているように思われて実に快い。

日常生活のありがたさ

平成28年4月16日(土)
いつもと同じ日々を過ごせるありがたさを痛感するのは病気・ケガなどを経験した時と自然災害の時だと思う。もっとも、その最中にはそれどころではないだろうがある程度ふだんの生活に戻ったときにいっそう感じるものだ。自分の経験では過去に2度入院・手術をしているが、退院後今までどおりの生活に戻れた時は当たり前の日常生活のありがたさをしみじみ味わった。普通に自転車でクリニックに行き、いつもと同じように診療をおこない帰宅、夜は晩酌をしたり飲みに出たりという、なんということもない毎日が素晴らしく貴重に思われた。それでもしばらくすればすぐに慣れてしまい、当たり前になってこれといった感動もなくなるけれど。
昨日から熊本では地震がおきて大変なことになっているが、深夜に広島でも揺れを感じた。これが本震らしく昨日の揺れは予震だそうである。被災された人たちは本当に気の毒なことで、一日でも早く余震が収まって復興することを祈る。地震・雷・火事・親父というが、日本は地震列島なのでこのようなことはいつでも起きるだろう。明日は我が身である。

血圧が高い

平成28年4月8日(金)
今から7年前に偶然血圧を測ったら高かったので、同じビル内の循環器専門医に相談したところ、降圧剤の処方と減塩、運動などを指示された。毎日朝夕2回血圧を測定し記録し薬もまじめに飲んでいたが6か月ぐらいでやめた。軽度高血圧で安定していたし、薬をしばらく止めてみてもあまり変わらなかったからである。血圧を毎日測りその値に一喜一憂することがかえってストレスになったためでもある。
その後血圧のことは忘れて能天気に過ごしていたが、先日偶然血圧を測ったら完全な高血圧である。最近は過食による体重増加に加えて運動不足、アルコールの増加などすべてが悪い方へ向かっているようだ。大いに反省し、生活習慣を改めることを決意した。医者の不養生とはよく言ったもので恥ずかしい限りである。

新しいエコー装置

平成28年4月4日(月)
産婦人科の診断で最も有用なのは超音波(エコー)装置で、もしエコーの機器が故障したら仕事にならない。妊娠の診断は子宮内にある胎嚢と胎児(胎芽)をエコーで確認し、大きさを測り妊娠週数を推定する。胎児の発育・異常の有無を診断するには必須である。不妊症では、卵胞の大きさ、子宮内膜の厚みを測定して排卵日の予測をするなど最も大切な検査を担っている。また、子宮筋腫の位置・大きさ、子宮内膜症の有無、卵巣嚢腫の性質・大きさの測定にも欠かせない。超音波診断装置のない時代は内診によって診断しようとしていたのであるが、どんな名人でも内診だけでこれらのことを正確に診断することは不可能である。
診療中に超音波診断装置が故障したらまさにお手上げになるので、予備として新しいエコー装置を買った。現在使っている装置は解像度もよく使いやすいので、同じ系列の機種を求めたのだが、どうも今一つである。設定条件のせいなのかメーカーの人に調整してもらっているがなかなか難しい。現在の装置と同等になればいいと思っているのだけれど。

子宮頸がん検診の間隔

平成28年3月25日(金)
以前は毎年行うことになっていた子宮頸癌検診の間隔が、HPV検査の導入により大幅に延びるようになってきた。米国での30万人の追跡調査では、子宮がんの原因と言われているHPV(ヒトパピローマウイルス)がいなければ、5年間での異常発見率は0,17%であり、従来の細胞診による発見率0,36%より優れていることがわかった。そのため、検診間隔を3~5年にすることが可能と発表している。スウエーデンでも従来の細胞診単独よりもHPV検査単独、あるいは細胞診との併用により検診間隔を5年以上延長することが可能との調査結果を示した。
すでにHPV検査単独法を導入しているオランダでは、30代は5年間隔、40~60歳では10年間隔で子宮癌検診を実施している。オーストラリアでも3年毎だった細胞診を、来年から5年毎のHPV単独検査法に変更する予定だそうである。また、子宮がん検診の年齢の上限も、欧米ではおおむね60~70歳としている。
わが国ではドックなどでは細胞診を毎年行っているし、市町村の検診では2年ごとになっていて年齢の上限もなく、世界の流れからははずれてきている。早急に女性の負担を減らす方向に変えていくべきだと思う。