新潮45特集「私の寿命と人生」

月刊誌新潮45は興味深い記事が結構見られるので注目しているが、6月号の特集「私の寿命と人生」は共感することが多かった。著名人たちの現在の状況や死生観などが述べられているが、医師で作家の久坂部羊氏による「実際の長生きは苦しい」は高齢者医療に携わっている氏の本音であり腑に落ちる内容である。元気のままで長生きできると思っている人が多いがそれは夢想であり、実際は体が弱り機能が衰え、生き物としてダメになっていくのを実感するのが長生きだという。がんにせよ心臓・脳血管障害にせよ老化によるものなので自然の寿命なのである。それをなまじ病院などに行けば無理やり死を遠ざけられ想定外の苦しみを味わうことになる。病院に1,2か月通っても良くならなければ医療は無力とあきらめたほうがいいという。作家で津田塾大学教授、三砂ちづる氏の「末期ガンの夫を家で看取る」も、昔から生まれるのも死ぬのもあたりまえのように家で行われていたことで、生も死も身近なものだったのだと実際に夫を家で看取ることで実感したという。夫は痩せてしまい食べられなくなっていたが、最後まで今日死ぬとは思っていなかったと思うし、亡くなるその日まで普通に話して心を通わせることができ、そしてふっと向こうに行くように死が訪れたという。
特集の最後に102歳で現役のフォトジャーナリスト笹本恒子氏を紹介している「100歳の肖像」という記事は、それまでの普通の人の老いの困惑、寿命についての記述と比べてあまりの違いに驚いた。笹本氏は100歳を超えても元気で仕事をしており、あの有名な現役医師、日野原氏と双璧をなす生命力があり、まさに持って生まれたものという他はない。寿命にはさからえないとあらためて思った次第である。