平成27年2月13日(金)
著者は東京大学名誉教授で英語精読の第一人者であるが、昨今の英会話重視の風潮に異をとなえてこの本を著した。文章は平明でわかりやすく、何より言葉の後ろに深い考察と経験が感じられる名著である。最近の文科省の小学生から英語を始める方針に真っ向から異を唱えている。そして、英語ができるようになるのは簡単ではなく、やはり一定の時間と努力が必要であると具体例をあげて説く。どの分野でもそうだがショートカットなどあるはずもなく、王道しかないのである。
面白かったのは、社会人になった東大時代の同級生から「海外へ行くことになったので英語ができるようになるにはどうすればいいか」と聞かれることが多く、彼らは一様に「読むことと書くことはできるのだが、聞くことと話すことができない」と言う。そこで実際に簡単なテストを用意してみると、多くは読むことすらもそれほどできないことがわかるという。東大出身でそうなら一般人は絶望的だろう。
それでも、本当に英語が必要で強い熱意があれば上達も可能であることもわかり、興味深く読ませてもらった。
カテゴリー 本
行方昭夫著「英会話不要論」
堀江貴文著「我が闘争」
平成27年1月30日(金)
伝記を読むのは結構好きで、特に若者が自己実現していく様子を見るのは実に興味がある。最近、幻冬舎から出た表記の著書は、堀江貴文という個性の強い青年の来し方を飾らない書き方で記していて興味深く読んだ。
生い立ちから両親とのかかわり、彼が持っているものと持っていないもの、東大に入学後会社を創って世間で話題になり逮捕、受刑、その後の日々など実に面白かった。堀江氏が物心ついた時から闘ってきたのは「情」というか「情」という言葉に含まれる日本人的なもろもろの考え方である。氏の能力は素晴らしいもので、理論性・合理性・行動力・発言力、どれも一流であるが「情」の部分が不得意のように思え、結局それが彼の足を引っ張ったのではないだろうか。実際、氏は結果的に部下の罪を社長という立場ゆえ思いがけずかぶらされたとしか思えない。
実際、今でも氏は自分を有罪だとは思っていないだろうし、これからも興味のあることを休みなくやっていくだろう。「情」を無視せずにやらないと痛い思いをするという教訓を込めて。
太田和彦著「居酒屋を極める」
平成26年12月4日(木)
著者は資生堂宣伝制作部を経て独立したグラフィックデザイナーであるが、居酒屋好きが高じて居酒屋評論家としての著書を多数あらわし、全国居酒屋百選のDVDまでも出して、「酒場放浪記」の吉田類の向こうを張るような人である。表題の新書は著者の来し方を簡潔に記し、居酒屋との付き合い方ひいては人生の処し方を上から目線でなくひとりの庶民的酒飲み目線で語っている。
私自身はアルコールは弱いけれど旨いものには目がなく、おいしく食べるにはアルコールが必須であると思うので、料理に合わせてビール、日本酒、ワイン、ウイスキーを自分の適量飲むことにしている。ワイン以外はほぼ毎日飲んでいるが、少量で満足できるので強くなくてよかったのかもしれない。
著者の居酒屋でのふるまいを読むと、こういう人と偶然居酒屋で同席しても気持ちよく飲むことができると思う。まことに酒席の達人、人生の達人ともいうべき人で、私の周辺にもこういう人がいるが、他愛のない話をしながら飲んでいるうちに知らぬ間に時が過ぎて行くのが快い。
母里啓子著「もうワクチンはやめなさい」
平成26年11月21日(金)
表題の著書は以前にも紹介した「インフルエンザワクチンはいらない」を著しており、その続編ともいうべきものである。氏は元国立公衆衛生院疫学部感染症室長であり、わが国のワクチン行政にかかわってきた疫学のプロである。氏は一貫して現在のわが国のワクチン制度に対してきちんとデータを示したうえで疑問を呈している。
有効なワクチンは少数存在するが、最近乳幼児に打つことを奨励するようになったワクチンの数はとんでもなく増えていて、乳児死亡率が世界で最も少ないわが国で本当に必要なのだろうかと思わざるを得ない。副作用による死亡にはだれが責任をとるのだろうか。WHOのバックにいるビッグファーマによるワクチン販売の世界戦略に乗せられているとしか思えないわが国のワクチン政策は、最終的にわが国のお金をこれらの巨大製薬会社に吸い上げられることになる。以前大騒ぎしてわが国に備蓄した「タミフル」も効果はほとんどないことがわかってきたが、海外製薬会社に支払われた数百億円のお金(われわれの税金)はなんだったのだろう。
これらのさまざまな矛盾は簡単には解けそうにないので、実際に患者さんに接している我々が、徒にワクチンを勧めないことで食い止めるしかない。
黒鉄ヒロシ著「韓中衰栄と武士道」
平成26年10月24日(金)
「赤兵衛」でおなじみの漫画家黒鉄ヒロシ氏の新刊で、平成12年9月から夕刊フジに連載したものをまとめたものである。以前にも紹介したことがあるが氏の文章は秀逸で、「毎日クローがねえ」という今は絶版になっているエッセイ集を読んで以来注目していた。最近では戦国時代から江戸・明治時代にかけての名だたる武将・著名人を様々な角度から考察した「千思万考」があるが、これも氏のユニークな視点を加味した人物像を浮かび上がらせていて面白い。
表題の著作は近年いっそうギクシャク度を増しているお隣の国との関係を、歴史的考察を中心に的確に述べている。人生の達人である氏の結論は「覚悟して一定の距離を保って隣国と付き合え、覚悟とは武士道である」、一見古臭いと思うかもしれないが、含蓄のある氏ならではの発想で、じつにそのとおりだと納得する。
半村良ふたたび
平成26年10月10日(金)
かつて注目して新刊が出るたびに読んでいた作家は何人もいるが、ある時を境に興味が無くなった作家も少なからずいる。また、人気作家であっても亡くなった後、あっという間に忘れられた人も多い。一時はまっていてほとんどの作品を読んだ作家に「半村良」がいる。SF、伝奇小説の名手といわれていたが、さらりとした人情ものも上手かった。
初期の作品「石の血脈」「産霊山秘録」の面白さにはまって以来、「妖星伝」「太陽の世界」で半村良は天才だと思い、特に「太陽の世界」は新刊が出るたびに買っていたが、ある時期から中断された。結局、再開することなく氏は他界されたので未完のままである。思い出して読み返してみても決して色あせてなく、当時のわくわくした気持ちがよみがえる。
流行作家となって脚光を浴びていたが、亡くなってしまうとすぐに忘れられてしまう作家が多い中、半村良は自分にとっては心に残る作家である。
藤田紘一郎著「人の命は腸が9割」
平成26年9月11日(木)
著者は、寄生虫体内のアレルゲン発見で小泉賞を受賞した東京医科歯科大名誉教授で、サナダ虫の「ハナコ」ちゃんを自らの腸内に寄生させてみたり話題の多い人であるが、一貫して表題の内容を主張している。
生物は栄養を吸収する腸を中心として発達してきており、脳は後付けの器官であるからヒトの体の司令塔は「脳」ではなく「腸」に置くべきだという説はそのとおりだと思う。ヒトの体は60兆個の細胞からできているが、腸内には2万種1000兆個もの細菌が住み着いていて、いわば生命共同体というべきものである。これらの菌が免疫システムを支え、働きを活性化しているのである。生後1年間で腸内細菌の組成がほぼ決定するといわれているが、この時期に「はいはい」していろいろなものを舐めない赤ちゃんは、免疫力が弱くなるという。
腸から健康になる方法として「食事の初めに小皿1杯のキャベツを食べる」「ネバネバ食品をたくさん食べる」「週に2~3回ステーキ(肉)を食べる」などは、わりと簡単にできそうである。広島大学の元学長、原田先生の話題もあり面白く読ませてもらった。
「成人病の真実」再び
平成26年9月3日(水)
久しぶりに近藤誠医師の表題の本を読み返してみた。「成人病の真実」は平成14年(2002年)に出版された本で、近藤医師が平成13年4月より文芸春秋誌に掲載した論文をまとめたものである。
氏の文章は平明でわかりやすく、出典も常に明らかにしており論文として優れたものである。今回読み返してみて、現在の医学の進展?から検証しても内容にいささかの訂正の必要もなく、ほんの一部ではあるがやっと医学界も認めてきたところがある。ただ、医療経済の面からは、全部認めれば医療費が縮小するからその方向にはいかないだろう。
タイトルだけあげれば、「高血圧症3700万人のからくり」「コレステロール値は高くていい」「糖尿病のレッテルを貼られた人へ」「脳卒中予防に脳ドック?」「医療ミス、医師につける薬はない」「インフルエンザ脳症は薬害だった」「インフルエンザワクチンを疑え」「夢のがん新薬を採点する」「ポリープはがんにならない」「がんを放置したらどうなる」「主要マーカーに怯えるな」「定期検診は人を不幸にする」など、なかなか刺激的である。でも著書からは患者さんに不利益を被らせないようにしようという、氏の真摯な思いが伝わってきて、その努力と勇気に満腔の敬意を表するものである。
高血圧はほっとくのが一番
平成26年8月9日(土)
表題は関東医療クリニック院長、松本光正氏の著書名である。氏は長年、高血圧症や高脂血症などの成人病(今は「生活習慣病」といって、本当の原因である「老化」を隠してあたかもきちんと生活しなかった本人のせいだといわんばかりの呼び方である)を診てきたが、これまでの経験とさまざまな新たにわかってきたデータから、上記の結論に達してそのように診療しているという。
ヒトの体は自然にそれぞれ最も良い状態になる力があり(これをホメオスタシスという)血圧が高くなるのはそれなりに理由があるわけで、無理に下げると脳梗塞になりやすくなる。氏は高血圧症の基準値をWHOが8年間で50も下げたことに憤りを感じている。WHOは予算の7割を製薬会社の寄付金に依存している。降圧剤は製薬会社にとってドル箱である。高血圧症の基準値を下げれば患者が増えるのはあたりまえである。それらも含め氏は「血圧計は捨てなさい」など一見過激に思えることを提唱している。そういえばかの有名な近藤誠医師も「私は何十年も血圧を測ったことがない」と書かれていた。
実は私もここ1年血圧を測っていない。
藤原正彦著「ヒコベエ」
平成26年7月4日(金)
表題の「ヒコベエ」は「若き数学者のアメリカ」「遥かなるケンブリッジ」など興味深い著作を持つ数学者、藤原正彦氏の自伝小説である。氏はベストセラー「国家の品格」をはじめ、エッセイなど精力的に著しているがこの「ヒコベエ」は、著者の記憶の始まる3~4歳ごろから小学校を卒業するまでの自分史・家族史を中心に、戦後の混乱・復興期の世情が描かれていて読み出したらやめられなくなるほど面白い。
「ヒコベエ」は著者の幼小期の呼び名で、元気一杯・猪突猛進・ガキ大将、それでいてやさしくてユーモアのある氏にぴったりである。氏の母親は終戦後満州から幼い3人の子供を連れて命がけで引き上げた体験を書いた「流れる星は生きている」の著者、藤原ていであり、父親は気象学者で直木賞「強力伝」で知られる作家、新田次郎である。さすがカエルの子はカエルで、氏は数学者としての業績の上に興味深い本を多数著して多くの読者の支持を得ている。今は週刊新潮に毎週エッセイを載せているが、面白く読ませてもらっている。
次は、「ヒコベエ」と「若き数学者のアメリカ」のあいだ、思春期から青年期の自伝小説を読んでみたいものである。