平成28年11月25日(金)
表題の本はかねてからがん放置療法を提唱している慶応大学医学部元講師、近藤誠氏と東京女子医大がんセンター長の林和彦氏との対談をまとめたものである。近藤氏は「患者よ、がんと闘うな」を著して以来、一貫して現代のがん治療に警鐘を鳴らし続けている。世界中の文献を毎日読み込み、がんの本質からみていかに今の標準とされている治療が患者さんに負担を与えているか、医学界から孤立しても訴え続けている医師である。じつは氏の意見に賛同している医師は結構いると思われるが、立場上賛意を示していない人が大半だと思われる。
一方、林氏は食道外科の名医として知られていたが、自らの意思でメスを捨て内視鏡医、化学療法医、緩和ケア医を経て現職にいるという経歴を持つ異端ともいうべき医師である。氏はセンター内に「化学療法・緩和ケア科」を立ち上げがん治療の第一線で活躍している。
対談を読んで感じたことは、林氏の医療は抗がん剤を使わなければ近藤氏の考えに近いけれど、今の医学界では抗がん剤を使わなければその地位にいられなくなるだろうということである。無論、林氏は抗がん剤を少しは信じているようであるが、近藤氏による世界中の信頼できる文献をもとにした抗がん剤は無効・有害であるという主張を論破できない。化学療法と緩和ケアは対立する概念であり併設は無理であると思うが、氏の立場も難しいところである。
オピオイドという麻薬系の薬は緩和医療にとって奇跡の薬である。痛みだけでなく息苦しさ、けだるさなど終末期のつらい症状をほとんどすべて和らげてくれる。我が国ではこれらの薬があまり使われていない。それに対しても近藤氏や以前に紹介した新潟大学・カリフォルニア大学名誉教授の中田力氏は、すべての人の旅立ちをやすらかなものにしたいと願い、米国ほどではないにしてもせめて欧州並みに使ってもらいたいと考えている。