妊婦健診昨今(1)

平成24年4月21日(土)
今の産婦人科診療で最も大きな出来事は超音波検査装置が開発されたことだと思う。胎児を観察する方法で、これほど安全で手軽にできるものはない。レントゲンやCTは被爆が問題になるうえに、装置が大げさなので場所やコストがかかりすぎるし、実際に使うのも大変である。
わずか30年前までは妊娠の状態を知るための触診・内診は産婦人科医にとって大切な、名人芸のような技術が必要であった。なにしろお腹の外から子宮内の胎児がどれくらい育っているのか、元気なのか、逆子ではないかなど、様々なことを診断しなければならなかったからである。現在でも行われている子宮底長・腹囲の測定はその時代の名残である。これらはもはや不必要になっているが、まだ健診の項目に入っている。また、胎児の心音を聞くための聴診器に相当するトラウベという木製の筒も、超音波を利用したドップラー装置になり、胎児の状態を観察するためのNSTへと発展していった。
もうひとつの大きな変化は、妊婦健診がほぼ公費になったことである。従来は健診は自費診療で、検査項目は施設によって若干異なっていたが、公費になったために画一化され、回数も決められてしまった。本当に必要なのかと思われる検査もある。かつて多かった妊娠中毒症(今ではこの病名はなくなった)を見つけ、早めに治療するという目的で始まった妊婦健診だけれど、ずいぶん様変わりしてきたものである。(この項続く)