平成18年6月27日(火)
磯田道史著「殿様の通信簿」という本がある。ベストセラーとなった「武士の家計簿」の著者の作品であるが前作と同様に古文書をもとに江戸時代の各地の「お殿様」に対する幕府の評価と実際のところはどうだったのかなどを記していて面白い。
時代劇などで大奥で寝泊りして昼はあまりすることがないのでボーっとして過ごしている「バカ殿様」が描かれているが、それは事実だったらしい。無論全部の 殿様がそうではなく一部ではあったようだが、実際お家を存続させるためには「殿様」はお家の象徴であり、なまじ政治に口出したりせずそういうことは優秀な 部下たちにまかせて子作りに励んで習い事でもしておいたほうがよかったのである。だから「能」好きな殿様が実に多かったそうである。
考えてみれば「殿様」はあまり面白くなかったのではないだろうか。お家を創るまでは実力も運も必要で、うまく「お家」ができるのはまさに僥倖でありそれだ けに喜びも大きかっただろう。しかしひとたび「お家」が確立してしまえば「お家の存続」だけが必須となり、前記のようなことになるのである。これは武士の 世界に限らず商人の世界でも同じようで、「船場」のことを描いた山崎豊子の小説を読めば、戦前までの「老舗」の存続のさせ方は武家の「お家」の存続のさせ 方と実によく似ていると思うのである。