この2週間

平成24年4月15日(日)
今日は日曜日だけれど当番医なので午前9時から午後6時まで開院しなければならない。本当は腰痛があるのでゆっくり休みたいのだが、順番なのでそうもいかないのがつらいところだ。実際この2週間はきつかった。初めは寝返りもつらかったがなんとか座ることができるようになり、かろうじて仕事はしていたが暇さえあれば横になって腰を休めていた。昼の食事も遠くには行けないので近所の讃岐屋だけ、飲み会も中止、仕事以外の活動はすべて止めてひたすら横になっていた。整形外科の友人に訊いても治療は安静しかないようなので仕方ない。
暖かい日が続く。桜も満開になりもう散り始めている。先週の日曜日は比治山の桜を見に行った。比治山は動く歩道と長いエスカレーターがあるので、腰に負担をかけないようにそろそろ歩いてなんとか行くことができたのである。コンビニ弁当とビール、ワンカップ、これはこれで楽しい。

腰痛再々発来

平成24年4月5日(木)
一昨日の春の嵐から一転、おだやかな陽光が心地よい。桜も開花を始め平和公園は10日が満開とか。まことに季節はめぐり来るものである。
治まりかけていた腰痛がふとした油断から再再発してしまった。土曜日の夜、寝る前に尺八の演奏を聴きながら、ウイスキーの水割りを飲みつつパソコンのゲームをするという、至福の時を過ごしていてそのまま一瞬眠ってしまったらしい。椅子から落ちそうになりながら眠っていたためにかなり腰に負担がかかったようで、すぐに普通に横になったが翌日は寝がえりをうつのも難く、幸い日曜日だったので一日中寝ていた。月曜日からは辛うじて診察を行っていたが、今日ぐらいになってやっと痛みが治まり始めたようだ。今回は治るのに時間がかかりそうだが、一年で最も良い季節である。少々痛くても花見で一杯飲みたいものである。

高見浩氏の名訳「羊たちの沈黙」

平成24年3月29日(木)
トマス・ハリスのサイコスリラー「羊たちの沈黙」は映画にもなった作品であり、その後に続く「ハンニバル」、「ハンニバル・ライジング」と合わせて読むと一層面白い。この本の前に書かれた「レッド・ドラゴン」を加えて4部作となってはいるが、モンスターと言うべきハンニバル・レクターが主人公になっているのは「羊たち…」以降の3作品である。
初めて「羊たち…」を読んだ時には、人物描写の巧みなことやその魅力、物語の流れなど実に面白かったが、翻訳の文章のこなれてない硬さが気になった。明らかに誤訳と思われる文章もあり、日本語としてもおかしなところがあった。その後しばらくして続編「ハンニバル」が発売されたがこれは気持ちよく読めた。翻訳者は前作とは異なっていて高見浩氏とのことであった。日本語としてもすばらしく、まさに名翻訳者であると思った。続いて出た「ハンニバル・ライジング」も同じく高見氏の翻訳で優れていて、連作なのに「羊たち…」だけが明らかに劣っているのが不満であった。
最近、高見氏の翻訳の「羊たちの沈黙」が出たので早速読んで見たが、素晴らしい翻訳で長年の不満が解消された。翻訳とは難しいもので、単に言葉を変えるだけでなく、その背景の宗教・文化・その国の社会常識・考え方などをふまえたうえで変えなければならない。さらにその国のアルファベットなどの文字を使った言葉・文字遊びやスラングも知っておく必要がある。そして最も大切なことは日本語の文章表現が的確にできなければならないことである。高見氏の翻訳はこれらをすべて備えた稀有な一級品であると思う。

味わい深い地唄

平成24年3月22日(木)
三弦、筝、尺八で演奏する地唄の発表会に誘っていただいたので、糸方の人たちと何度か音合わせをしているが結構楽しい。何しろ尺八を始めるまでは和楽器に触れたことはほとんどなかったし、そもそも地唄を聞いても意味もわからず退屈なだけだった。それが三弦、箏、唄に合わせて曲を作り上げるために集中して尺八を吹いてピタリと合うとなんとも良い心持になる。これらの曲は江戸時代から続いているだけあって、初めはとっつきにくいが一旦わかってくると味わい深い音楽である。学生時代にはまった男声合唱の曲も同じで、初めはそれほど良いと思わないがなじんでくるといいものである。
今まではプロの演奏(CD)に合わせて吹いていたが、我々で演奏する場合は人それぞれ異なるので合わせないと音楽にならない。そこを合わせてはじめて快い地唄が出来上がるのである。この年になるまでこういう世界があることを知らなかったので、今しばらくやってみようと思う。

腰痛再発

平成24年3月16日(木)
久しぶりに腰痛が再発した。30代にギックリ腰をして以来、時々腰痛が起きていたが決定的になったのは、ゴルフの練習に熱中した40代であった。コンペのラウンド中に動けなくなりほぼ1週間寝て過ごした。当時は勤務医で、外来、回診、分娩処置はなんとかこなすことができたが、手術は姿勢の関係で苦しいので半年免除してもらった。もう2度とゴルフはできないと思っていたが、のど元過ぎればというやつで、開業直後に少しやってみようかと思ってやってみたが、練習をすると腰に違和感が起こり大事をとって止めていた。不思議なことにテニスは普通にやってもなんともないのである。ゴルフは歩くのがメインで運動量も多くなく、ゲームとして優れているし知り合いも増える。十数年封印していたが腰に負担をかけないようにぼちぼち始めてみようと思ったのである。
何度か練習してラウンドしてみたがスコアはともかく腰痛は起きない。気をよくして練習を増やしてみたが問題ないので油断してしまったのである。かつて、腰痛が起きた時の打ち方をしてしまっていたうえに、それをしつこく繰り返してしまっていた。翌日から腰痛が起こり、誘っていただいていたコンペもキャンセルしてしまった。情けない話だが当分というかもしかしたら一生、ゴルフは無理かもしれない。今後はのんびりテニスと散歩、サイクリングぐらいしかできないのだろうか。

緊急避妊ピルについて

平成24年3月8日(木)
新しい緊急避妊ピル(ノルレボ錠)がわが国で承認・発売されて6カ月を過ぎた。聞くところによるとあまり普及してないようで、原因はその値段が高すぎるせいだという。1回分が1万円である。これは製薬会社の卸値であり、これに診察料などが加わると1万5千円ぐらいになり、なぜこんな法外な値段を厚労省・製薬会社(外資系)が決めたのか納得いかない。フランスではノルレボ錠が薬局で売られていて、3,500円ぐらいだそうである。ということは卸値では2~3000円であろう。わが国の卸値1万円はどう考えてもおかしい。
従来の緊急避妊の方法は、中容量ピル(プラノバール)を2錠飲み、12時間後にもう2錠飲むYuzpe法であるが、避妊率はノルレボ錠とほぼ同じである。こちらの値段ははるかに安く、この値段でメーカーは利益があるのかと思うくらいである。いずれにしても私としては法外な値段のノルレボ錠を勧める気はなく、従来のYuzpe法を勧めている。ただ、問題なのはこの方法だと吐き気を訴えることがあり、そのためにノルレボ錠が開発されたのである。もちろん従来の方法でなんともない人も多いので、私としては当分従来の方法を勧めるつもりである。
排卵時に性交した場合の1回の妊娠率は約30%で、緊急避妊ピルの妊娠阻止率は約80%なので、ざっと5~6%は緊急避妊薬を飲んでも妊娠する可能性がある。毎日飲むピルの場合の妊娠率は0,1%で、これがどんなに優れているかわかるだろう。避妊には毎日飲むピルを勧めるものである。

春を待つ

平成24年3月1日(木)
雨の日以外は毎日自転車通勤しているが、出がけに玄関わきの鉢植え(クリスマスローズだそうである)につぼみができているのを見た。今日から3月、次第に暖かさが増している。今朝の新聞の投書欄に、山陰から雪の峠を越えて広島市の美術館巡りに来た人が「広島市の暖かさに驚いた」と書かれていたが、まだ春が遠い地方も多いのだろう。
北海道、小樽市の近郊の村で育った詩人、伊藤整の詩集「雪明りの路」の扉に、「雪明りをよく知り、永久に其処を辿るあの人々に、私はこれらの詩篇を捧げる」とあるが、過酷な冬と生命に満ち溢れた春の対比が味わい深い。その中に「雪解」「春を待つ」「春」「春日」など、春の来るのを待ち望み春を喜ぶ詩があるが「春を待つ」という詩が好きだ。
「春を待つ」
ふんわりと雪の積つた山かげから 冬空がきれいに晴れ渡ってゐる。
うつすら寒く 日が暖かい。
日南ぼっこするまつ毛の先に ぽっと春の日の夢が咲く。
しみじみと日の暖かさは身にしむけれど
ま白い雪の山越えて 春の来るのはまだ遠い。

中村仁一著「大往生したけりゃ医療とかかわるな」

平成24年2月23日(木)
著者の中村医師の父親は、医者になりたくて苦学していた20歳の時に、受診した眼科で目薬と消毒薬を間違えて点眼され失明したためあんまの技術を身につけてやっと一家を養っていたが、著者が高校生の時に心筋梗塞で亡くなった。それもあって著者は医者になろうと思い京都大学医学部に合格したが学費も生活費もなく、すべてアルバイトで頑張って卒業し医師になった。その後病院の院長を経て現在、特別養護老人ホームの医師をしている。市民グループ「自分の死を考える集い」を主宰して16年になるという。
著書の中で、「生、老、病、死」は避けられないことだから、さからわず受け入れていくことがすべてだという。生き物は繁殖し、繁殖を終えたら死ぬのはあたりまえで、それにさからうことは不可能である。ホームで何百人もの自然死を見ていると、病院で医療を受けつつ死ぬよりはるかにやすらかに逝けることがわかる。医療にかかわらない方がいいのである。死は怖くないことがわかれば死を正面から見つめることができ、だからこそ「今」を精一杯生きようとすることができる、とユーモアを込めて説く。
医療の限界を知ってしまった著者は、生きることと医療のかかわりをまことに的確に述べている。さらにこの書は「老化」を治療の対象にしている現代医療へのアンチテーゼでもある。感染症やけがなどは原因を取り除けば治癒するが、「老化」による変化は治療できるわけがない。それを「生活習慣病」と称して賽の河原の石を積むようなことをしている現代医療と、それを信じて従っている人々に警鐘を鳴らしているのである。なかなかユニークな正鵠を射た考え方であると思う。

「細川家の至宝」と「クーザ福岡公演」、「鮨安吉」

平成24年2月16日(木)
サーカスに物語を取り入れたカナダのパフォーマンス集団、シルクドソレイユの公演が現在福岡で開催されているが、この連休にチケットが手に入ったので行ってみた。シルクドソレイユは数年おきに日本で公演しており、いつもは大阪公演に行くが今回は大阪でのチケットが手に入らなかったのである。ちょうど大宰府天満宮にある九州国立博物館で特別展「細川家の至宝」も開かれていたので、そちらも見ることができた。
シルクドソレイユの公演は毎回肉体的パフォーマンスのすばらしさに圧倒されるが、今回の「クーザ」は道化師も主役の一つで通常よりもおとなしい感じだったが、それはそれでよかった。
国立博物館では、鎌倉時代から続く細川家の文化財を伝えるために設立された「永青文庫」におさめられている数万点のコレクションの一部(300点以上)が展示されていたが、その歴史に圧倒された。第16代当主・細川護立がそれまでに受け継いできた宝を管理し、高度な鑑識眼で新たに収集した宝が展示されていたが、時を超えて残っているものは味わい深い。
たまたま予約できた博多駅近くにある「鮨安吉」は、よく吟味されたつまみを適当に出しながら鮨をにぎってくれる超人気店である。わずか7席のカウンターでゆっくり飲みながら江戸前鮨を味わうことができる。接客もよく、値段もリーゾナブルである。いい店に出会えたものである。今回の小旅行は、小倉の「松本清張記念館」にも行くことができたしなかなか面白いものであった。

初めてピルを飲む人のために

平成24年2月9日(木)
欧米では日常的に使われているピルは、わが国では以前より増えたとはいえまだまだ普及していないのが現状である。当院では多くの人にピルを処方しているが、初めて服用する人の多くは「ピルは怖い」と思っているようである。
実際に飲み始めてみると「なんだ、何も問題ないじゃないか」と思う人がほとんどで、避妊はほぼ完璧にできるし、生理痛は楽になる、生理の量も減るので貧血が治る、生理の周期がきちんとするなど多くの利点を実感する。副作用で多いのは飲み始めにおきる「吐き気」「むくみ」であるが、ほとんどの人は慣れてなんともなくなる。
ピルは原則3週間飲んで1週間休むことになっているが、種類によっては連続内服できるものもあり、2~3カ月続けて飲んでもらいその間生理はなく、その後の1週間の休薬期間に生理がくるようにしている人もいる。欧米ではすでに1年に1回だけ生理が来るピルも発売されていて、なかなかの人気だそうである。
なぜ生理があるのかを考えると、これはすべて妊娠するためである。妊娠するために毎月排卵し子宮は妊卵を着床させるために内膜を厚くし、妊娠がなければそれが剥がれて生理となり、また次の排卵が起こり…これを延々と繰り返している。その間には排卵時の卵巣出血が起きたり、子宮筋腫ができたり、子宮内膜症が発症したり大変である。なにより生理痛や生理の出血の手当てがわずらわしい。
だから、妊娠を望んでいない時にはピルを飲んでいると上記の悩みから解放される。なにより子宮・卵巣を休ませることができるので子宮筋腫や内膜症の進行を遅くすることもできるし、卵巣がんになる確率は飲まない時の半分になる。良いことばかりで悪いことがほとんどない稀有な薬である。ピルは薬を含め人類が開発した最も良いものの一つだと思う。