人生50年があたりまえ

平成17年9月9日(金)
生物学者本川達雄氏によれば、平均寿命が80年になったのは人類600万年の歴史でわずかここ30年のことだそうである。なるほど自分が子供の頃は還暦は祝うべきめでたい比較的まれなことだったように思う。それが今では70歳でも元気なのがあたりまえになってしまった。こういう経験は人類には今までなかったわけで、どうしてよいかわからないのはあたりまえである。
生物は年を取ればそれだけ体にガタがくるので、永遠をめざすためには自分の複製である子供をつくって次につなげるしかないのだ。そして多くの生物は子を作ったら生を終える。哺乳類は親が子供を一人前にしてから死ぬので、子が自力でエサを取れるようになるまでは生きている必要があるが、子供が一人前になればお役御免でその後の生はもうけものであった。昔からそれがあたりまえであり、それ以外の選択はなかった。むしろ、子を産み一人前にできればめでたいことで、それ以上を望むのはぜいたくであったと思われる。
それが今はどうかというと、50歳からの30年の健康と生きがいを求めなければならないのである。この余分な30年は生物としては不自然な大量のエネルギーを使うことによって成立しているそうである。こんな状態が長続きするはずがない。アフリカなどは今でも平均寿命は30~40歳の国もある。いずれは我々も元の寿命に戻るかもしれない。

思いがけない薬の効用

平成17年9月6日(火)
高脂血症の薬が肝細胞がんに有効であるとの論文が報道された。最も有効だったのはシンバスタチンだという。もし各研究者による追試で正しいことが証明されればすばらしいことである。元来、高脂血症薬は本当に必要な人以外に使われすぎていると思っていたのである。ブームとは恐ろしいもので、コレステロール悪玉論はずいぶん長く通用していてコレステロールの値に一喜一憂している人が多かったが、最近ではあまりいわなくなった。いいことである。
薬については当初の目的とは違った疾患に有効なことがわかって使われだしたものも結構ある。かつては喘息の治療薬が早産防止に使われた。この時は早産には経験的に有効とわかっていてもたてまえでは使えなかったのは、その薬が喘息治療薬としてしか保険適応になっていなかったからである。ずいぶん後になって現在使われている薬が保険適応になったが、その成分は喘息治療薬の兄弟分のようなものである。また、我が国の妊婦さんが薬を恐がるようになった大きな原因のサリドマイドは、骨髄腫に効くことがわかり再評価されている。このように薬でも長い目で見なければ評価が定まらないことがあるが、人間ではそれ以上だろう。
本日は台風接近のため午後3時にクリニックを閉めた。次第に風雨が強くなっている。明日は大丈夫だろうか。

贅肉落とし

平成17年9月2日(金)
9月になってしまった。去年はどんなことをしていたか診療日誌を見たら、どうもよく飲みに行っていたようである。最近は週一がせいぜいで、飲みすぎた翌日はいささかしんどいことがある。それよりも気候がいいので体を動かした方がいいだろう。今月の目標は「贅肉落し」と決定。さて一ヵ月後の結果やいかに。

階前の梧葉すでに秋聲

平成17年8月30日(火)
8月も残すところあと一日である。照りつける日差しもやわらかくなりいつのまにか秋の気配を感じさせるようで、人の一生にたとえると三十台の終わりから四十台の初めといったところか。以前にも書いたが昔から、盛りの時は短くすぐに過ぎてゆきそのことに気付くのは老いてからだと言われている。まさに「階前の梧葉すでに秋聲」である。たいていの場合、時間が大切だと気付いた時はもうあまりその人の持ち時間がなくなっているという。おそらく有史以来ヒトは一生を通じて同じようなことを感じて生きていったのだろう。

健康診断は無効(厚労省研究班)

平成17年8月26日(金)
先日のニュースで、「厚労省の研究班によれば、健康診断にはほとんど意味がないので見直しが必要である」との報道があった。現在行われている健康診断24項目のうち有効なのはなんと!血圧測定と飲酒・喫煙の問診だけだそうである(有効というのはその検査によって本人の寿命が延びる可能性があるという意味である)。飲酒と喫煙は本人の自覚の問題であるからせいぜい「アルコールはほどほどに、タバコはやめましょう」と言うだけであれば本人がその気にならないかぎり意味がない。そうすると「血圧」だけが意味があることになり、血圧は今は簡単に家でも測れるようになっているので「健康診断は必要ない」といっていることになる。
欧米では健康診断などはやってないようで我が国だけの慣例のようである。以前から、この類のことはあまり意味がないからその時間とお金があれば信頼できるかかりつけの医療機関を決めておいて、なにかあればそこに相談して意見を聞いたほうがはるかにいいといつも言っていたのだが、世の中がその方向へ向かうのであれば実にいいことである。そもそも毎日を元気で過ごしている人は医療機関には行かなくて良いのである。どこか具合が悪ければそこで初めて行けばいいのだ。そして信頼できる医師に相談してその人にとって最もいいと思われる医療機関・医師を紹介してもらうか、医師が自分のところで治療した方がその人のために良いと判断したらそうするだろうし無駄なくフォローしてもらえる。かくして患者ーかかりつけ医院ー信頼できる他の医療機関という「良性サイクル」ができあがる。これが逆の方向へ行けばその人にとっては悲惨なことになるだろう。
問題はそのような医者をどうやって見つけるかだが、こればかりは評判を聞いたりして自分で行ってみるしかない。相性もあるのですぐには見つからないかもしれないが、そのつもりでいればいつかは必ず見つかると思う。

当院のスタイル

平成17年8月23日(火)
お盆明けの忙しさが過ぎて今日はヒマである。生来の貧乏性で何かしていないと落ち着かない。こういう時はカルテ整理が一番いいが、整理の仕事がはかどるのもかえってイヤなような複雑な気持ちだ。ここまで書いてふと以前の記述を見たら結構ヒマという言葉がある。よく流行っているところは別として、当院のようなごく普通のクリニックはこんなものだろうがヒマよりは忙しいほうがいいに決まっている。その施設の評価は患者さんがしてくれるので、精進するしかないのである。
当院に来られた患者さんは、少なくとも受診してよかったと思ってクリニックを出てもらわないと困る。できるだけ少ない回数で、検査は必要最小限、薬は意味のあるものだけ、を基本にしているが、時に患者さんから「○○の検査はしなくていいのですか」と聞かれることがある。「ご希望ならいたしますが、その検査はしなくてももう診断はついているし参考程度の検査なのであなたの負担が増えると思って私はしておりません。」と答えると、ほとんどの人は「それならいいです」とおっしゃる。これが当院のスタイルなのである。

「麻呂」は愛いやつ

平成17年8月20日(土)
我が家では愛犬「麻呂」号を暑さしのぎのために玄関の中に入れてやっていたが、三和土(たたき)から上にはあがってこない。外に出すと中へ入れてくれと玄関の戸に体当たりをするので、入れてやると満足している。愛(う)いやつだと安心していたら、先日勝手にうえに上がり、気がつけば二階から階段を降りてくるではないか。麻呂は自分も家族の一員(人)だと思っているので皆と同じようにあがってきたのだろう。かわいそうだが叱りつけて元の玄関先に戻してしまうと、初めはいやがっていたがじきにあきらめておとなしくなった。あきらめが早くやはり愛いやつである。
今日は午前中は忙しかったが午後はのんびりしていたので、紹介状の返事など書類がゆっくり書けてよかった。

盆明けの患者さん

平成17年8月17日(水)
今日からお盆明けであるがさすがに患者さんが多かった。以前当院を受診していてご主人の転勤などで他県に住んでいて、里帰りで帰っている人の受診も多かった。生まれた赤ちゃんを連れてきて見せてくれる人もおられてうれしいことであった。我々にとって信頼されることは一番大切なことで、もし信頼されなければ自分の力不足を反省しなければならない。信頼されてはじめてほっとしてまた頑張ろうと思うのである。
当院は若い人の受診が多いせいだろうか保険証を持っていない人も時々来院され、今日も二人おられた。一回だけですめばいいが治療が長引くような場合は負担が増えて大変だろう。やはり国民皆保険はすばらしい制度だと改めて思った次第である。

立秋を過ぎると

平成17年8月12日(金)
立秋を過ぎると暑さもどことなく峠を過ぎたように感じられる。昼間は暑いのだが夕方になると秋を感じさせるような風が吹くようになった。お盆を境にして空が深い青になり秋に移行していくのである。
当院は明日13日(土)から盆休みに入るが、16日(火)までの4日だけなので今年はどこへも行かずのんびり休むつもりである。今日は休み前なので忙しいかと思ったら午前中は逆にヒマだったのでカルテの整理などができてよかった。午後になると結局いつもと同じで夕方忙しくなって終了。

HPV(ヒトパピローマウイルス)への対処

平成17年8月9日(火)
細胞診で軽度の疑陽性の場合は、1~3ヵ月後に再検することが多い。ほとんどの場合、同じ疑陽性の状態が続き、精密検査をしても軽度の異型上皮という悪性ではないが正常でもないという結果が多い。特に若い人の場合はHPVというウイルスの感染による細胞・組織の変化のせいであることがわかってきた。そのままにしておくと、ほとんどの場合は疑陽性のままでそのうち正常にもどることも多いが、一部では悪性に進むこともあるので一定の期間ごとに細胞診をしなければならない。これは本人にとっては不安な気持ちになることに加えて、通院の負担も結構大変だろう。異常を見つけても経過を見る以外には方法がないというのは、どう考えても医療側の責任でなんとかしなければならない問題である。
そこで、HPVに効果のある薬を塗ることによりウイルスを殺し、感染細胞が修復されれば細胞診も正常に戻るのではないかと考えた。ちょうど、いくつかの大学で同じ方法の治療をした論文が発表されていたので、軽度の異型性の続く患者さんにインフォームドコンセントの上治療を試みた。細胞診の異常の認められた部位に1~数回薬を塗るだけであるが、副作用はなく患者さんには何の問題もなかった。
その結果は、現在までのところ32例中14例は正常にもどり、13例は変わらず、1例は進行し、4例は脱落例(来院せず)であった。全くの無治療で経過をみた場合と比較しなければならないが、副作用がないことを考えるとなかなか良好な結果だと思う。もう少しこのまま続けてみるつもりである。