令和5年6月29日
表題は沢木耕太郎セッションズ<訊いて、聴く>全4冊中の第1冊である。沢木氏のノンフィクション作品はその視点と綿密な調査、対象への共感が感じられて楽しく読ませてもらっていた。特に初期の作品の「人の砂漠」「テロルの決算」を見つけた時はすごい新人があらわれたものだと興奮したことを覚えている。その後「深夜特急」をはじめ意欲的な作品を次々に生み出し、旅に関するエッセイも多数あり、読むたびに氏の人間としての美学が感じられて居住まいを正して読まなければと思わせられる。
この作品では、吉本隆明、吉行淳之介、淀川長治、磯崎新、高峰秀子、西部邁、田邊聖子、瀬戸内寂聴、井上陽水、羽生善治の10人と対談をしている。もっとも現在も活躍している人は僅かで、ほとんどの人は鬼籍に入っている。
対談は互いの人間の力量が揃わないと難しいが、氏はすべての人と肉薄した会話をしながらある距離以上には踏み込まない、いわばジャズセッションのように対話している。そのやり取りが面白く、興味深い話も出て読みだしたら止められない。実は2年前に買っていたのを今読み始めてみて、やはり沢木耕太郎はすごいと改めて思った次第である。
月別記事一覧 2023年6月
「達人、かく語りき」
産婦人科医会300回記念
令和5年6月23日
広島市を中心にした産婦人科の研修会が、めでたく300回を迎えた。年に5回程度の開催なので50年以上の歴史を持つ勉強会である。会長は従来は県の産婦人科医会の会長が兼任していたが、広島市以外の医師が会長の場合があるので、2001年から新たに広島市の医師を会長にして運営することになった。それまでは当番幹事2名が会の準備などを行っていたが、新たに数名の理事が加わることで非常にやりやすくなった。その時の当番幹事が自分で、それ以来ずっと理事としてかかわってきた。コロナ感染を機に辞めさせてもらったが、いい経験をさせてもらったと思う。
講演に来る先生方は教授か講師、部長クラスの人たちで、講演の後の食事会で親しく話ができる。100人くらいの先生方と話ができたと思う。さすがに講演に来られる先生方はその道のプロなので、話も面白いし魅力的な人ばかりである。興味深いエピソードなど聞かせていただき本当によかった。今回はその記念の集まりで、関係者一同盛り上がって祝うことができたのはありがたいことだった。
「古地図と歩く広島」
令和5年6月15日
表題は「迷った時のかかりつけ医」シリーズなど出版している広島・南々社の最新刊で、著者は神学博士・中道豪一氏である。広島市の名所を19のエリアに分けて、江戸時代・戦前・現代の3つの地図を重ね合わせるようにして歴史を今に再現しているもので、じつに興味深く読ませてもらった。
冒頭は「中島町」現平和記念公園で、江戸時代には本安橋(現元安橋)と猫屋橋(現本川橋)が西国街道の交通を支えていて、本川と元安川に分流する三角州の中島町は水運の要所であり経済活動の盛んな地であった。広島城築城と共に発展してきたという。今でも残る旧跡を紹介してそれらをたどるコースとかかる時間を記しているので、散策するのにはもってこいである。19のエリアのコースはそれぞれ1~2時間くらいにまとめているので全コース制覇するのも面白いだろう。久々のヒット作品に出合った。
母体保護法指定医研修会
令和5年6月7日
表題の研修会が医師会館で行われた。興味深い演題は最近承認された「経口中絶薬」についての説明だった。
以前にも書いたがこの薬は40年近く前にフランスの製薬会社ルセルが開発したRU486で、妊娠を維持するために必須の黄体ホルモン受容体に結合して妊娠の維持ができなくなり流産(中絶)してしまうものである。当時、大学のホルモングループに所属していたので、この薬を使って動物実験をしていた後輩の研究成果を見ていてすごい薬ができたものだと感心したものだ。マウスを使って実験するとほぼ100%流産させることができた。その後、欧米では普通に使われるようになったが我が国では認可されなかった。
我が国では今年の4月28日正式に承認され5月中旬より使われることになったが、問題がいろいろあることがわかった。まず、流産が始まると痛みと共に出血が多くなり、自宅では耐えられなくなって病院を受診したくなるが、深夜だと対応できなくなるので、入院設備のある医療施設で院内でのみ使用して院内で待機する。一日たっても流産しなければ手術になる。ちなみに10人に1人は手術になるという。今までなら朝手術をすれば昼には帰宅できるし、確実に中絶できるのでそのほうが楽ではないかと思ってしまう。値段も従来の中絶術と変わらないか少し高くなるという。これではわざわざ薬を承認する意味がないのではないだろうか。欧米では薬を使う場合と手術をする比率は半々だそうである。なぜ承認したのかわからない。
LGBT法案
令和5年6月1日
自民公明両党はLGBT法案を国会に提出した。性的少数者を守ることは大切だが、G7サミットに合わせて大急ぎで出したのはいかがなものか。女性だと自認した男性がトイレ・浴場・スポーツなどに介入してくることを、LGBT当事者団体特に女性団体から反対の声が上がっているという。さらに児童生徒にも性差をなくする教育がなされるようになることが、はたして本当にいいことなのだろうか。
エッセイストで動物行動学研究者の竹内久美子氏によると、人間も含め動物はメス(女)がオス(男)を選ぶのが原則で、メスにとって1回の繁殖に多くのエネルギーと拘束時間がかかるためできるだけ質の良いオスを慎重に選ぶ。対してオスは1回射精したら次の繁殖のチャンスはすぐに巡ってくるので相手を慎重に選ぶ必要はないし、そうしないほうが得である。繁殖における原則の違いが男と女の一番の違いで、性差を失くする教育は動物としての大原則に完全に逆らっている。
性の多様性を認めることは必要であるが、欧米に合わせての性急な法案提出はいかがなものかと思う。