月別記事一覧 2015年7月

ピルにまつわる話

平成27年7月30日(木)
わが国で低用量ピルが解禁されてもう17年になる。ピル解禁以前は生理痛に対しては対症療法の鎮痛剤しかなく、月経過多に対しては有効な方法はなかった。ピルはその両方に対して最も有効であり、避妊はほぼ完ぺきである。私自身、ピルが日本で解禁される前に、臨床治験にかかわっていたのでその効果と安全性については確認していたので、解禁後は患者さんに積極的にピルを薦めてきた。そのため当院でのピルの処方はかなりの数になっている。ピルを認可した当初、厚労省は副作用の防止のために3か月ごとに検査するよう勧めていたが、これは認可して何か起きた時の責任逃れのための奨励であり、患者さんの負担を増やすにすぎないと思っていたので、一切無駄な検査はしなかった。その後、1年に一回検査でいいと言い出したがあたりまえである。自分としては患者さんの負担をできるだけ少なくするよう一人ひとり考えて行っている。
ピルは必ず自分で製剤の種類、枚数を確認してから出すようにしているが、先日何年も内服している人から「ピルが切り貼りしてホッチキスで止めてある」という連絡がありすぐに持ってきてもらった。見ると、1週間ごと3列あるピルの1列が切り取られ、同じ種類のやはり切り取られたピルがホッチキスで止めてある。当院でこんなことはあり得ないのでその旨話したが、本人は覚えがないという。ピルを処方して17年、こんな悔しい思いをしたことはない。なによりそんなことをして渡したのかと思われたことが屈辱である。当分怒りは収まりそうにないが、長くやっていればこんなこともあるのだろう。

原点にかえる不妊症治療

平成27年7月24日(金)
表題は秋田大学産婦人科教授、寺田幸弘氏の講演である。内容は、福岡伸一氏の著書「生物と無生物のあいだ」を引用しての生殖の本質の問題から始まって、現在行われている生殖医療(ART)の安全性についての考察、妊娠について原点にかえって考えるなど新しい切り口の興味深い話であった。最後に、秋田大学での不妊症診療の実績と現在試みている新たな研究を紹介された。
確かに現在行われているARTは本当に安全なのか、あるいは50歳過ぎた女性に他の女性の受精した卵子を戻して妊娠・出産させることが正しいことなのか、など考えさせられることは多い。でもそれを言うと、そもそも医学は本質的に必要なのかというところまで議論しなければならなくなる。つまり、「自然」が最もいいのなら人間も生物であるから、他の動物のように病気やけがに対してもなにもせず様子を見るだけでいいということになる。結局、自然に対してどこまで医学が介入することが最適なのかを見極めることが最も重要なのだと思う。

自転車のマナー

平成27年7月16日(木)
自転車通勤を始めて8年になるが、気持ちよく毎日通っている。初めは普通の自転車だったが、途中から電動アシスト自転車(楽チャリ)に変えてからは文字通り楽になった。楽チャリはペダルを踏む力を3倍に増幅するので、坂道でもほとんどストレスなしに乗ることができるし、長距離走っても疲れない。初めの頃はあまり見かけなかった楽チャリだが、最近では乗る人が増えたようで、あちこちでよく見かけるようになった。
自転車通勤をしていて思うことは、平気で信号無視をする人や見通しの悪い十字路を減速せずに走り抜ける人がいることである。もし車にひかれたらどうするのだろうと思う。自転車を一旦止めて、再び走り出させるのが面倒なのだろうが、接触事故でけがをするのは自分である。道路交通法では車が悪いことになっているが痛い目に合うのは自分である。また、高速で歩道を走り抜ける人もいるが、実に危ないことである。歩行者にぶつかったら大変である。他にはスマホを扱いながら乗る人も多い。罰則を設けるながれになっていることに納得している。

人生を変えた一局

平成27年7月9日(木)
表題の本は、囲碁・将棋チャンネルの番組「記憶の一局」をまとめたもので、囲碁の一流棋士がそれぞれ特に思い入れのある対局を3局ずつ選んで、解説したものである。以前、趙治勲の囲碁にはまっていた時があったが、最近ではあまり囲碁に接することがなかった。
偶々この本が目に留まり、読んでみると当時のスター棋士たちと今の旬の棋士たちの棋譜と解説が興味深く、久しぶりに趙治勲の打碁を並べてみる気になったが、勝負師たちの思いのこもった対局は彼ら自身の解説と共に棋譜を追っていて実に面白いものであった。小林光一、石田芳夫、王銘?、小林覚、片岡聡、などの当時から変わらず活躍している棋士、山下敬吾、吉原由香里、などそのあとの世代の棋士たちを合わせて10人の棋譜はそれぞれ味わい深く、囲碁というゲームは人類の発明したすばらしいものの一つであると改めて思った。

薬はできるだけ使わない

平成27年7月3日(金)
同じ症状に対して医師によって薬の使い方はずいぶん違う。たとえば妊娠初期に出血があった場合、「切迫流産」という病名がついて止血剤、子宮収縮抑制剤が処方されることが多い。かつてまだ超音波検査装置がなかったころは、入院・安静・上記の薬の点滴が治療の定番だった。研修医のときにはそのような患者さんが、大学病院でも個人病院でもいっぱい入院していた。今は流産は細胞分裂のミスによることがわかってきたので意味のない入院・治療はしなくなった。母親の妊娠時の年齢が上がるほど流産率は上昇する。私の場合、ずいぶん前から薬は出さないで経過を見守るだけにしている。
ウイルスによる感染症、ヘルペスなどに対しても一定の期間で必ず治るので副作用のことを考えれば内服薬を出そうとは思わない。痛みなどを緩和するための軟膏を出すぐらいである。そもそもウイルスに効く薬などないと思っている。
一事が万事で、当院では実際に処方する薬は実に少なくなっており、厚労省が薬剤費を抑えるために行っている姑息な政策に逆の意味で心ならずも貢献している。でも、長く診療にかかわっていると、薬はできるだけ使わない方がいいと改めて思う。