平成26年9月25日(木)
愛知医科大学の若槻明彦教授の講演があった。低用量ピルは、避妊、生理痛の改善、生理周期の安定化、子宮内膜症の治療、卵巣がん・大腸がん発生の抑制など多くのメリットがある一方、血栓症の発生頻度の増加が問題になっている。そのことについて実際はどうなのか、対策はどうするのかという話で、興味深く聞いた。
ピルはメリットがデメリットをはるかに上回る薬であるが、副作用をなくすよう努めなければならない。静脈血栓症はピルを服用していない人にも発症するが、もっともリスクが高いのは妊娠である。妊娠中と産後3か月の血栓症の発生頻度は非妊時の10倍以上になるという。次いで問題なるのは喫煙である。以下、高年齢、肥満もリスクが高くなる。だから喫煙以下、リスクの高い人にはピルは勧めないのが原則である。血栓症が起きるのはピル内服開始3か月以内が最も多く、その時期を過ぎれば血栓症のリスクは低下する。だからその時期は特に気を付けなければならない。血栓症の発症を予知する方法はないということなので、一層注意が必要だと思ったことである。
月別記事一覧 2014年9月
低用量ピルの副作用について
ベセスダシステムについて
平成26年9月19日(金)
慶應義塾大学産婦人科、岩田卓講師の講演があった。子宮頸がんの細胞診の問題点を改善しようと、アメリカのベセスダという処に米国の専門家が集まり委員会が組織された。そこで従来の方法を改善すべく考えられたのがベセスダシステムで、現在はアメリカだけでなく世界でも使われるようになった。わが国でも従来のパパニコロウ細胞診から上記の方法に変えてきている。
ポイントは子宮頸がんの原因といわれているHPV(ヒトパピローマウイルス)の感染を関連付けていることで、従来の検査法より少し精度が上がっているそうである。もちろんこの方法も最善ではなく、今後も改善していくことになるだろう。ただ、感想としては本質的な意味で「がん」の治療ができない以上、検診の精度が上がってもなあと思ったことである。
藤田紘一郎著「人の命は腸が9割」
平成26年9月11日(木)
著者は、寄生虫体内のアレルゲン発見で小泉賞を受賞した東京医科歯科大名誉教授で、サナダ虫の「ハナコ」ちゃんを自らの腸内に寄生させてみたり話題の多い人であるが、一貫して表題の内容を主張している。
生物は栄養を吸収する腸を中心として発達してきており、脳は後付けの器官であるからヒトの体の司令塔は「脳」ではなく「腸」に置くべきだという説はそのとおりだと思う。ヒトの体は60兆個の細胞からできているが、腸内には2万種1000兆個もの細菌が住み着いていて、いわば生命共同体というべきものである。これらの菌が免疫システムを支え、働きを活性化しているのである。生後1年間で腸内細菌の組成がほぼ決定するといわれているが、この時期に「はいはい」していろいろなものを舐めない赤ちゃんは、免疫力が弱くなるという。
腸から健康になる方法として「食事の初めに小皿1杯のキャベツを食べる」「ネバネバ食品をたくさん食べる」「週に2~3回ステーキ(肉)を食べる」などは、わりと簡単にできそうである。広島大学の元学長、原田先生の話題もあり面白く読ませてもらった。
「成人病の真実」再び
平成26年9月3日(水)
久しぶりに近藤誠医師の表題の本を読み返してみた。「成人病の真実」は平成14年(2002年)に出版された本で、近藤医師が平成13年4月より文芸春秋誌に掲載した論文をまとめたものである。
氏の文章は平明でわかりやすく、出典も常に明らかにしており論文として優れたものである。今回読み返してみて、現在の医学の進展?から検証しても内容にいささかの訂正の必要もなく、ほんの一部ではあるがやっと医学界も認めてきたところがある。ただ、医療経済の面からは、全部認めれば医療費が縮小するからその方向にはいかないだろう。
タイトルだけあげれば、「高血圧症3700万人のからくり」「コレステロール値は高くていい」「糖尿病のレッテルを貼られた人へ」「脳卒中予防に脳ドック?」「医療ミス、医師につける薬はない」「インフルエンザ脳症は薬害だった」「インフルエンザワクチンを疑え」「夢のがん新薬を採点する」「ポリープはがんにならない」「がんを放置したらどうなる」「主要マーカーに怯えるな」「定期検診は人を不幸にする」など、なかなか刺激的である。でも著書からは患者さんに不利益を被らせないようにしようという、氏の真摯な思いが伝わってきて、その努力と勇気に満腔の敬意を表するものである。