平成24年7月27日(金)
表題は元国立公衆衛生院疫学部感症室長の母里啓子氏の著書の題名である。氏は医学部卒業後ウイルス学を修め、感染症の対策に一貫して携わってきた人である。現在B型肝炎の垂直感染を防ぐことができるようになったのは、母里氏たちの功績によるところが大きい。いわばワクチンのプロである。
氏によると、インフルエンザウイルスは変異が激しく流行に合わせたワクチンをつくることが難しいそうである。そもそも不活化ワクチンの外部に通ずる粘膜感染予防の効果は疑問視されているが、インフルエンザワクチンは不活化ワクチンである。一方、インフルエンザは高熱が出るとはいえただの「風邪」である。暖かくして安静にしておけば治る。一度かかると強力な抗体ができ、少々違う型のウイルスにも効果があり、流行があってもブースター効果でかえって抗体価が高くなる。インフルエンザのワクチンを打つ意味はない。まして副作用があるのである。母里氏は専門家として正しいことを発言しないのはよくないとの信念のもとに、逆風覚悟で発言しておられる。
日ごろからインフルエンザワクチンについて思っていたことと一致して、わが意を得たりという気持である。さらに氏は子宮頸がんワクチンについても、このワクチンは不活化ワクチンであり粘膜感染予防効果には疑問が残るとしている。もともとHPVは感染してもほとんどは消えてしまうウイルスであり、たとえ感染が持続して異形成となってもなんら害はなく、その後がん化しても早期発見すれば治療できるものなので、わざわざ高価なワクチンを打つ意味があるのかと述べられている。まさに的を射た提言で、医療者は傾聴すべきである。
月別記事一覧 2012年7月
インフルエンザワクチンはいらない
梅雨明け
平成24年7月21日(土)
この前の連休は九州地方で豪雨があり被害甚大だったのはまことに気の毒であったが、今週は一転して日差しが強くなり梅雨明け宣言もでた。
久しぶりの連休なので阿蘇の黒川温泉に行くつもりでいたが、あの豪雨である。前日まで様子を見ていたがとても無理なようで、しかたなくキャンセルした。5月の連休は壱岐に行く予定だったがこれも腰痛のため中止したので、これで2回九州地方に振られたことになる。広島から門司までの距離は広島から岡山までの距離とあまり変わらず、岡山から大阪までの距離とほぼ同じである。新幹線を使わず車で行くなら関西よりも九州の方が行きやすい。湯布院に別荘を建てて毎週土日に車で通っている人もいるそうで、九州は広島市在住者には親しみのある所のようである。暑い夏はあまり動かないようにして、秋になったらまた旅の計画を立ててみたいものである。
フェルメール光の王国
平成24年7月13日(金)
17世紀のオランダの画家フェルメールは、現在世界中で最も人気のある画家ではないだろうか。かく言う私も本物を見たことはないが、光を巧みに表現した細部にわたって精緻な絵に惹かれていた。先年、東京で作品展が開かれたことがあったが、あまりの人気に行くのがためらわれた。作品の前でゆっくり観賞することなどできないだろうと思われた。ゆっくり見るためには作品が展示されている各国の美術館に行くしかないだろうと思っていた。フェルメールに関する本は多数出版されており、いくつかは読んでみたが内容がもう一つだと感じていた。
「生物と無生物のあいだ」「動的平衡」 などの著書で知られる生物学者福岡伸一氏の近著「フェルメール光の王国」は、4年間にわたってフェルメールの作品が所蔵されている美術館を訪ねてまわり、その地の歴史と合わせて考察・観賞した力作である。旅の後半で氏が生物学者になって以来、考え方のよりどころとなっている孤独な学者シェーンハイマーの生誕の地ドイツ(ワイマール共和国)を訪ね、新築されたベルリン国立絵画館でフェルメールの絵を鑑賞し同時に生前その業績が正当に評価されたとはいえない学者に思いを馳せる。
ここでは芸術と科学と哲学は混然一体となり、切っても切り離せないものだと納得させられる。ヨーロッパの歴史にはかなわないと感じるのも、氏の深い考察と筆力の賜物であると思う。
精神科医師の本
平成24年7月6日(金)
精神科セカンドオピニオン活動に携わり、自身でもクリニックをたちあげ薬を使わない治療に努めている医師、内海聡氏の近著「精神科は今日も、やりたい放題」は、精神科についての内部告発ともいうべき話が語られていて実に興味深い。
近年、精神科のクリニックが増え抗うつ薬が大量に処方されるようになったが、本当の意味での「うつ病」「そううつ病」「統合失調症(精神分裂病)」などが、こんなに高頻度に発病するはずがないと思っていたが、やはり欧米の巨大製薬会社の抗うつ薬、抗精神病薬の販売拡大との関連があったのかと納得した。抗うつ薬SSRIが国内で承認されて以来、売り上げはうなぎ昇りで同時に副作用も増えている。内海医師によると、これらの薬は効かないうえに副作用・依存性が強く、患者のためにならず製薬会社を利するだけだという。やや過激な発言であるが腑に落ちる部分もある。
そもそも精神疾患を薬で治すことが可能なのだろうか?先ごろ亡くなった北杜夫氏は自身の「そううつ病」を公表していたが、その状態になったらどうしようもなくなることがプロの作家の筆でくわしく描かれている。私も同様の病気の人を知っているが、一旦「そう状態」あるいは「うつ状態」になったらお手上げで、ひたすら普通の状態に戻るのを待つしかないことを痛感していた。本物の病気でもそうなのである。安易に薬を使わないようにするべきであろう。