月別記事一覧 2012年3月

高見浩氏の名訳「羊たちの沈黙」

平成24年3月29日(木)
トマス・ハリスのサイコスリラー「羊たちの沈黙」は映画にもなった作品であり、その後に続く「ハンニバル」、「ハンニバル・ライジング」と合わせて読むと一層面白い。この本の前に書かれた「レッド・ドラゴン」を加えて4部作となってはいるが、モンスターと言うべきハンニバル・レクターが主人公になっているのは「羊たち…」以降の3作品である。
初めて「羊たち…」を読んだ時には、人物描写の巧みなことやその魅力、物語の流れなど実に面白かったが、翻訳の文章のこなれてない硬さが気になった。明らかに誤訳と思われる文章もあり、日本語としてもおかしなところがあった。その後しばらくして続編「ハンニバル」が発売されたがこれは気持ちよく読めた。翻訳者は前作とは異なっていて高見浩氏とのことであった。日本語としてもすばらしく、まさに名翻訳者であると思った。続いて出た「ハンニバル・ライジング」も同じく高見氏の翻訳で優れていて、連作なのに「羊たち…」だけが明らかに劣っているのが不満であった。
最近、高見氏の翻訳の「羊たちの沈黙」が出たので早速読んで見たが、素晴らしい翻訳で長年の不満が解消された。翻訳とは難しいもので、単に言葉を変えるだけでなく、その背景の宗教・文化・その国の社会常識・考え方などをふまえたうえで変えなければならない。さらにその国のアルファベットなどの文字を使った言葉・文字遊びやスラングも知っておく必要がある。そして最も大切なことは日本語の文章表現が的確にできなければならないことである。高見氏の翻訳はこれらをすべて備えた稀有な一級品であると思う。

味わい深い地唄

平成24年3月22日(木)
三弦、筝、尺八で演奏する地唄の発表会に誘っていただいたので、糸方の人たちと何度か音合わせをしているが結構楽しい。何しろ尺八を始めるまでは和楽器に触れたことはほとんどなかったし、そもそも地唄を聞いても意味もわからず退屈なだけだった。それが三弦、箏、唄に合わせて曲を作り上げるために集中して尺八を吹いてピタリと合うとなんとも良い心持になる。これらの曲は江戸時代から続いているだけあって、初めはとっつきにくいが一旦わかってくると味わい深い音楽である。学生時代にはまった男声合唱の曲も同じで、初めはそれほど良いと思わないがなじんでくるといいものである。
今まではプロの演奏(CD)に合わせて吹いていたが、我々で演奏する場合は人それぞれ異なるので合わせないと音楽にならない。そこを合わせてはじめて快い地唄が出来上がるのである。この年になるまでこういう世界があることを知らなかったので、今しばらくやってみようと思う。

腰痛再発

平成24年3月16日(木)
久しぶりに腰痛が再発した。30代にギックリ腰をして以来、時々腰痛が起きていたが決定的になったのは、ゴルフの練習に熱中した40代であった。コンペのラウンド中に動けなくなりほぼ1週間寝て過ごした。当時は勤務医で、外来、回診、分娩処置はなんとかこなすことができたが、手術は姿勢の関係で苦しいので半年免除してもらった。もう2度とゴルフはできないと思っていたが、のど元過ぎればというやつで、開業直後に少しやってみようかと思ってやってみたが、練習をすると腰に違和感が起こり大事をとって止めていた。不思議なことにテニスは普通にやってもなんともないのである。ゴルフは歩くのがメインで運動量も多くなく、ゲームとして優れているし知り合いも増える。十数年封印していたが腰に負担をかけないようにぼちぼち始めてみようと思ったのである。
何度か練習してラウンドしてみたがスコアはともかく腰痛は起きない。気をよくして練習を増やしてみたが問題ないので油断してしまったのである。かつて、腰痛が起きた時の打ち方をしてしまっていたうえに、それをしつこく繰り返してしまっていた。翌日から腰痛が起こり、誘っていただいていたコンペもキャンセルしてしまった。情けない話だが当分というかもしかしたら一生、ゴルフは無理かもしれない。今後はのんびりテニスと散歩、サイクリングぐらいしかできないのだろうか。

緊急避妊ピルについて

平成24年3月8日(木)
新しい緊急避妊ピル(ノルレボ錠)がわが国で承認・発売されて6カ月を過ぎた。聞くところによるとあまり普及してないようで、原因はその値段が高すぎるせいだという。1回分が1万円である。これは製薬会社の卸値であり、これに診察料などが加わると1万5千円ぐらいになり、なぜこんな法外な値段を厚労省・製薬会社(外資系)が決めたのか納得いかない。フランスではノルレボ錠が薬局で売られていて、3,500円ぐらいだそうである。ということは卸値では2~3000円であろう。わが国の卸値1万円はどう考えてもおかしい。
従来の緊急避妊の方法は、中容量ピル(プラノバール)を2錠飲み、12時間後にもう2錠飲むYuzpe法であるが、避妊率はノルレボ錠とほぼ同じである。こちらの値段ははるかに安く、この値段でメーカーは利益があるのかと思うくらいである。いずれにしても私としては法外な値段のノルレボ錠を勧める気はなく、従来のYuzpe法を勧めている。ただ、問題なのはこの方法だと吐き気を訴えることがあり、そのためにノルレボ錠が開発されたのである。もちろん従来の方法でなんともない人も多いので、私としては当分従来の方法を勧めるつもりである。
排卵時に性交した場合の1回の妊娠率は約30%で、緊急避妊ピルの妊娠阻止率は約80%なので、ざっと5~6%は緊急避妊薬を飲んでも妊娠する可能性がある。毎日飲むピルの場合の妊娠率は0,1%で、これがどんなに優れているかわかるだろう。避妊には毎日飲むピルを勧めるものである。

春を待つ

平成24年3月1日(木)
雨の日以外は毎日自転車通勤しているが、出がけに玄関わきの鉢植え(クリスマスローズだそうである)につぼみができているのを見た。今日から3月、次第に暖かさが増している。今朝の新聞の投書欄に、山陰から雪の峠を越えて広島市の美術館巡りに来た人が「広島市の暖かさに驚いた」と書かれていたが、まだ春が遠い地方も多いのだろう。
北海道、小樽市の近郊の村で育った詩人、伊藤整の詩集「雪明りの路」の扉に、「雪明りをよく知り、永久に其処を辿るあの人々に、私はこれらの詩篇を捧げる」とあるが、過酷な冬と生命に満ち溢れた春の対比が味わい深い。その中に「雪解」「春を待つ」「春」「春日」など、春の来るのを待ち望み春を喜ぶ詩があるが「春を待つ」という詩が好きだ。
「春を待つ」
ふんわりと雪の積つた山かげから 冬空がきれいに晴れ渡ってゐる。
うつすら寒く 日が暖かい。
日南ぼっこするまつ毛の先に ぽっと春の日の夢が咲く。
しみじみと日の暖かさは身にしむけれど
ま白い雪の山越えて 春の来るのはまだ遠い。