日付別記事一覧 2005年4月15日

治療は慎重に

平成17年4月15日(金)
妊娠中期に子宮の頚管が1,5cm以下の場合早産になる確率が高いことは、以前からわかっていた。それに対して、安静と頚管を縛る手術をすることが行われてきた。ところが最近手術をした場合とせずに経過をみた場合と、早産になる確率は変わらなかったとの論文が発表された。この論文は信頼できる内容であり、 以前に同様の検証をした別のグループの論文と同じ結果となっている。じつは以前に発表された、頚管を縛る手術が早産を防ぐのに有効であるという論文は、症例も少なくたまたまそうなったに過ぎないという意見の方が強くなっているようである。
昔から、その時代時代に流行の治療法や手術が行われてきたが、後になって有効でないとわかって廃れたものはたくさんある。問題なのはその治療や手術が患者さんに苦痛をあたえたり取り返しのつかないようになることである。たとえば切り取った臓器はもう新しくはできず失われたままである。産婦人科でかつて盛んに行われていたが今では全く行われなくなった手術にアレキサンダーの手術というのがある。今から30年以上前まで行われていたが、我々の世代より下の医師はその名前すら知らないはずである。アレキサンダーの手術とは子宮後屈矯正のための手術で、昔は女性の腰痛や生理痛の原因は子宮後屈のせいだと言われていたから、それを治すためと称して行われていたのである。無論当時の医師たちは心からその治療法を信じて、一生懸命治してあげようと努力したのは事実であるが。この治療は有効でないだけで、不都合が生じるわけではないのでまだよいが、そうでない治療はいくらでもある。
我々が子供の頃は一本の注射器で針を換えずに何人もの子供が予防接種を受けていたことを思い出す。ウイルス性の肝炎などの概念のない時代であり、注射針から血液を介してそれらの病気が感染するなどわからなかったのであろう。それよりも子供たちの日本脳炎や結核を防ぐために行っていたのである。血液製剤や輸 血による感染などもそうである。どんな治療法もある程度年月を経ないと、真偽のほどはわからない部分がある。だから一層治療をする時は本当にこれでいいのか何度も考えながら行うべきである。怖れるあまり何もできなくなっても困るが、極力むだなことは検査も含めてしないようにすべきだろう。一生懸命やったからとか、心から相手のことを思ってやったからといって許されるわけではないのである。