月別記事一覧 2005年2月

相性は難しい

平成17年2月28日(月)
先日、他県に在住の患者さんより「紹介していただいたお医者さんと合わないようなのでどうしたらいいでしょうか」との連絡があった。患者さんは以前から当 科で診ていたのであるが、結婚して他県に転居されたが年に一回は当科を受診されていた人である。紹介させていただいた先生はその地におられる私の信頼するすばらしい先生である。相性が良くなかったのだろうか、双方に申し訳なく思っている。どんなにいい人同士でも相性が悪ければどうしようもない。「いい先生だから信じて行ってみて下さい」とお答えしたが、相性ばかりは難しいかもしれない。逆に私が紹介された場合にも同じようなことがあっただろうと思う。
今日で二月も終わりである。まさに「二月は逃げる」であっという間に逃げて行ってしまった。

私のやり方

平成17年2月25日(金)
人にはそれぞれの才能や性格にあった生き方があり大ざっぱに分けて、攻撃的に前へ前へと進むタイプとあまり無理せず分にあった(と自分で思う)やり方をするタイプがあると思う。
私自身は時にはもっと積極的に前へ進んでもいいのではと思うことがあるが、本質的に後者である。積極的に前に進むタイプならクリニックを始めた場合、まず小さなクリニックからはじめて集客に励み利益をどんどんあげて大きくし、人を増やし病院にして付属施設を増やし一大コンチエルンをつくるのが理想かもしれないだろうし、商売を始めたなら客を増やし支店をつくり一大チェーンを築き上げるのがいいと思うだろうし。もちろんこういうことができるのは才能と運、なにより人間の器が必要で、成功すればそれはそれですばらしいことだろう。でも自分にはそういう才能もないし、そうなった時の自分を想像してもピンと来ない。たとえそうなったとしても心から満足できるようには思えない。
やはり自分は目の前の一人ひとりの患者さんに、自身で責任のとれる範囲内の人数を一人ひとりの顔を見ながら診療するのが好きだし性に合っている。当院を受診してよかったと思ってくれる人が一人でも増えれば、このうえない喜びなのである。

津田秀敏著「医学者は公害事件で何をしてきたのか」

平成17年2月22日(火)
暖かい日が続いていたが、日曜日から寒さがぶり返してきた。ついにコートが必要になってしまった。まさに三寒四温である。
「医学者は公害事件で何をしてきたのか(津田敏秀著)」という本を読んだ。
この著者は私の母校の後輩であり同公衆衛生の講師であるが、その内容の緻密さと正確な論旨、正義感と学者としての真摯な姿勢など最近読んだ本の中では密度の濃いすばらしい著書であった。こういう人物がいるかぎり、まだまだ日本も捨てたものではないと思われた。著者はまず疫学から語り始め、水俣病は食中毒事件であると看破し、初期発動の時点で食中毒として処理しておれば法律に基づいてマニュアルに沿って対策がたてられ、被害は大きくくい止められただろうことを示したうえで、その後の水俣病に関するさまざまな学者の良心にもとるような、政府・企業を利する事実を捻じ曲げた学者の発言を実名を挙げてきちんと検証して論破している。
さらに「カネミ油症事件」も同じ構造でおこったものであるとして、薬害エイズ事件に至るまでなぜ同じことがくり返されるのかを考察している。そして、学者が本来の真理探究の姿勢を忘れてしまって、保身と自己栄達のために御用学者にならないように「学者ウオッチャー」を立ち上げたらどうかと提案している。一般人、ジャーナリスト、学者、企業人、行政官など立場を問わず発言の場を作り、討論し公開していく。それにより不誠実な学者は淘汰され、能力のある真摯な学者が残っていくのではと期待している。実際はそううまくは行かないだろうが、少なくとも今までよりは良くなるのではないだろうか。著者に満腔の賛意を表するものである。

都はるみコンサート

平成17年2月19日(土)
先日、都はるみのコンサートに行った。以前からプロの歌手の中でもピカ一のうまさがあると思っていたが、さすがにすごかった。美空ひばり亡き今では第一人者といってもいいのではないだろうか。客層は50代60代の男女(半々ぐらいか)がほとんどで、ジャズやクラシックコンサートの雰囲気とは大いに異なっていた。気取ったところがなく、心から都はるみの歌が好きだという感じが伝わってきてなかなかよかった。
元来、声(歌)が好きなので凄みのある歌唱のできる歌手は、どのジャンルでも興味があり聞いてみたいのである。歌(声)は誰でも歌えるが人を感動させる技量を持った人は稀であり、その頂点に立つプロ中のプロの歌は文句なくすばらしく、今聞いておかなければ二度と聞けないかもしれない。はるか昔、レコードで マリアン・アンダーソンの「魔王」を聞いた時震えるほどすごいと思ったが、都はるみもじつによかった。

冷や汗三斗

平成17年2月15日(火)
思い出すと冷や汗三斗のようなことはだれにでもあると思う。たとえばその分野の権威の人に、それと知らずに自分の聞きかじったその分野の知識を披露するような。たとえばその時は何かをしてもらってもあまり感謝の気持ちを感じなかったのが、ずっと後になって人生経験を積んではじめてそのことは思いやりのあるすごいことであったことがわかったこととか。私の場合は結構たくさんあり、たまに思い出すと時間を戻して訂正したくなる。そしてその度に自分はなんてつま らない人間だろうと思うのである。自分がその立場に立たなければわからないことはいっぱいあるが、本能的にそれがわかる人はちゃんとした行いができるのだ。
これからは後悔するようにはしたくないと思っているが、どうせ何年かたってみるとまたしまったと思っているにちがいない。これはセンスの問題であるか。

順調な外来の流れ

平成17年2月12日(土)
二月ももう半ばになった。二月は逃げる、三月は去るというが、日がたつのは実に早いものである。今日は朝から処置を含めてちょうどいい感じの流れであった。忙しすぎず暇すぎず、ベストの状態である。いつもこうであればいいのだがなかなかそうはいかない。
当院はよろず相談所のようなところもあり、大きい病院に紹介した患者さんや妊婦さんが「病院でこんなことを言われたがどうなのでしょう」とか、ここには書 きづらいようなさまざまな相談が持ち込まれることがある。時間があるときはゆっくり対応ができるが、そうでなければ困ることもある。そういうことにも時に対応しながら、順調に進んでいくのがいいペースの外来なので今日は良かったと思う。

狂牛病騒動は何だったのか

平成17年2月8日(火)
英国狂牛病(BSE)由来のヤコブ病で日本人患者さんが一人亡くなったとのニュースがあった。非常に気の毒ではあるが、今回はそれほどの騒ぎにはなっていないようだ。以前の米国産の牛肉の輸入中止のときはすごかった。あのときの騒ぎはいったい何だったのだろうか。
そもそも狂牛病の牛が18万頭もいる英国ですら、さらに言うと脳みそを好んで食べる英国ですらそれが原因のヤコブ病は153人しかいないという。一方、狂牛病とは関係ないが同じ症状を示すクロイツフェルド・ヤコブ病では毎年日本で100人前後の人が亡くなっており、全世界では毎年1万人前後の人が亡くなっているとのことである。こちらの方がはるかに恐い。マスコミも騒ぎすぎだし、その流れにのって米国産の牛肉を輸入禁止にした政府もいったい何を考えているのだろう。こういうときこそ専門家がきちんとデータを出して、徒に恐がらせないようにするべきだろう。以前のダイオキシン騒ぎの時もそうだったが、いつも最初にマスコミが煽ってそこに政府のやることは何でも反対する声の大きいひとたちが騒いで、そのことを正しく把握している専門家の意見は無視されていくという構造は変わらないようである。

本川達雄著「ゾウの時間ネズミの時間」

平成17年2月5日(土)
「ゾウの時間ネズミの時間」という本がある。著者は東工大の教授で生物学者であるが、1992年8月が初出版で好評らしく現在52版を重ねている。発売当 時から評判になっていたと記憶しているが残念ながらまだ読んでいなかった。今回初めて読んでみたが、実に面白い。もっと早く読んでおけばよかった。語り口 もわかりやすく、斬新な視点でとらえた新しい生物学だと感心している。たとえば、哺乳類ならヒトを含めどの動物も心拍数は20億回で寿命が尽きることや、大きい動物と小さい動物は総じて時間の流れるスピードが異なるなどの説を、なぜそうなのか事実をつみ重ねて丁寧に説明している。
こういう生物学なら面白いし中学生や高校生でも興味を持つのではないだろうか。従来の生物の授業は全然面白くなかったことを思い出してしまったが、学問に限らずなんでも面白くなければだれも本気で取り組まないし、発展もないだろう。医学も同じように、いろいろな視点から自由な発想で取り組んでいく必要があると思う。

「如月」という言葉の美しさ

平成17年2月1日(火)
久しぶりの大雪である。日本列島に寒波が押し寄せているようだ。駐車場の車が雪をかぶり前面が凍っていたので水をかけて溶かして前が見えるようにしたが、 このように凍ったのはこの冬初めてのことだった。昼間もずっと雪が舞っており「タクシーに乗っていたら追突されて腰を打ったので診て欲しい」という妊婦さんが来院された。妊娠には問題なかったのでよかったが、こういう日は道路が滑るので実に危険である。
今日から月が替わって二月である。二月は如月(きさらぎ)ともいうが、一年のうちで最も寒いので着物を重ねて着るという意味の衣更着(きぬさらぎ)から起 こったという説と、木や草の芽がはり出す月という意味の木草発月(きくさはりつき)が変化したとする説があるが、いずれにしても風情のある呼び方である。実際最も寒い季節なので、衣更着の説の方を支持したくなる。英語でも二月のことをFebruaryというが一、二と数で呼ぶよりもだんぜんいい。日本の場合は四季に一致して起こったそれぞれの月の呼び方は旧暦のものであり、太陽暦とは約一ヶ月ずれているために実際の季節と異なる時期があるのでやこしい。節分(2月3日)の翌日が立春であるが、旧暦では元旦前後に立春があったという。旧暦の元旦は今の2月の初め頃に相当するから季節としては今の節分に一致する。
いずれにしても歴史に由来した呼び方や言葉はこれからも残るだろうし、残って欲しいと思う。なによりもこれらの言葉は美しいから。