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生理不順

平成30年4月6日(金)
年度の変わり目のこの時期になると生理不順で来院する人が増える。社会人になって仕事を始めたとか、通学のために家を出て一人暮らしになったなど、環境の変化・ストレスが原因と思われることが多い。こういった生理不順は、環境に慣れて落ち着いて来れば自然に治るのであわてて来院しなくてよい。
生理は排卵が起こって2週間後に始まるもので、妊娠すればもちろん生理は始まらず妊娠の兆候が現れる。つまり、妊娠のために排卵が起こり、妊娠してないと生理が始まるわけである。ヒトは一生の間に妊娠する回数はそんなに多くはないので、生理のほとんどはムダというと語弊があるがなくてもいい、ない方が楽な体の変化である。哺乳類はおしなべて排卵・生理が起きるものだが、げっ歯類(ネズミなど)のようにしょっちゅう排卵が起きるものと、トラやライオンのようにめったに排卵がないものがあるが、ヒトは排卵の頻度は多い方だろう。そのヒトのなかでも、排卵が毎月ないタイプの人も結構みられ、不妊になると脅されていたがそんなことはない。たとえ年に数回の排卵でも妊娠は可能で、古来このタイプの人たちも何の問題もなく生き残ってきたのである。
低用量ピルが使われるようになって欧米では30年以上、我が国では20年になるが、ピルを内服している間はほとんど排卵が無くなる。それでも妊娠に影響がないことがわかってきたし、生理が毎月なくても問題ないことがわかってきて、むしろ毎月生理をおこさない方がいいと勧める場合もある。まさにトラやライオンタイプになることである。特別の場合を除いて、生理不順を心配しなくていいのである。

「卵巣癌をめぐる最新情報」

平成30年3月23日(金)
島根大学医学部産婦人科、京哲教授による表題の講演があった。「がん」に関しては原因の究明と治療についての研究が行われてきたが、なかなか決定的な方法がないのが現実である。世界中で色々な試みがなされてきて、血液のがんを含め限られた「がん」に対しては有効な治療法も見つかってきたが、多くの固形がんに対しては困難な状況が続いている。
卵巣癌については卵管の先の「卵管采」が原因で発生する卵巣癌の存在がわかってきて、子宮筋腫などで子宮を摘出する際、以前は卵巣と卵管を残していたが、卵巣はホルモンの分泌に必要なので残すとしても、卵管は同時に切除することが卵巣がんの発生を防ぐ上で有効であることがわかってきた。自分が勤務医の頃はまだこのような知見はなかったので、子宮摘出術の際に卵管切除することは念頭になかったが、当時から同時に切除していた医師もいたようである。なぜ同時に切除していたのかは不明であるが、先見の明があったということか。
今行われている研究なども聞くことができて、このような講演会はいつも刺激になっていいものである。

オープンカンファレンス

平成30年2月9日(金)
広島市民病院産婦人科のオープンカンファレンスが開かれ、婦人科主任部長の最終講演があったので参加してきた。まず放射線治療科の松浦寛司主任部長による「知っておいていただきたい放射線治療~子宮頸がんと転移性骨髄圧迫」と題しての講演では、世界と我が国の子宮がんに対する治療法の違いを示し、放射線治療の優れた点などを詳しく説明して実にわかりやすかった。我が国は放射線治療が欧米に比べて遅れていて、手術優先だったのがさすがに少しずつ変わっているようである。
婦人科の野間純主任部長による「当科で行うMinimally Invasive Surgery」と題した講演では、腹腔鏡手術がどのように始まってきたのかという歴史から広島市民病院での手術実績を提示して、従来の開腹手術から体にかかる負担を最小限にする腹腔鏡手術に替わってきている状況を示した。子宮筋腫、卵巣嚢腫、異所性妊娠などに対する腹腔鏡手術は、従来の開腹手術に比べて侵襲の少なさ、回復時間の短縮や美容上の観点からも優れた方法である。子宮頸がんについても同様だが、問題は技術習得が難しいということだろう。子宮頸がんの手術は開腹でも難しい手術であり、腹腔鏡では一層難しい。誰でもできるというわけにいかない。広島市民病院の4800例の腹腔鏡手術件数の蓄積の上に成り立っている技術である。そのエキスパートの野間主任部長が定年で辞めるのは残念なことであるが、この病院のレベルの高さを改めて認識したことである。

「月経不順と不妊治療」

平成30年1月19日(金)
徳島大学医学部産婦人科准教授、松崎利也氏による表題の講演があった。内容は今までに分かっていることの系統だった説明と今後の展望で、淡々としたわかりやすい講演であった。講演自体は普通に終わったのだが、質疑応答でフロアからの質問に対しての答えが氏の広くて深い知識を感じさせられ、さすがと思ったことである。
講演会にはできるだけ出席するようにしているがそれほど目新しいことはあるはずもなく、ほとんどが知っていることのおさらいになるけれど、それぞれの演者はさすがに何か一つは聞いてよかったと思わせるものを持っている。ピルに関しては自分がいつも言っているのと同じことを感想のように話しておられた。つまり、一層性のピルは好きなように連続して内服してもいいし、好きな時に一週間休んで生理をおこさせても問題ないと。また、排卵誘発剤のクロミッドは思いのほかいい薬であるとも。こういった本音の部分が聞けるのも講演会のよい点である。今回は小さい集まりだったが、学会などではなかなかこういった本音は聞けないことが多い。どうしても紋切り型になってしまうからである。小さな集まりもいいものである。

緊急避妊ピルについての考察

平成29年12月23日(金)
最近、緊急避妊ピルを求めて来院される人が多いが、どの程度効果があるかは本当のところよくわからない。ネットなどでは大いに効果があるように書かれているが、実際のところ排卵・受精を少し多めのホルモン内服で確実に防げるとは思われない。50~80%は有効と言われているが、毎日飲む低用量ピルの有効率99%と比べれば失敗率は高い。フランスで開発されたRU486ならほぼ完全に着床を防ぐけれど我が国には入っていない。
何もしない場合、どのくらい妊娠するのか考えてみよう。簡便のため女性の生理周期を28日として、月経期間を7日間とすると妊娠可能期間は21日となる。この期間のうち妊娠する確率が高いのは排卵日とその前の7日間で、実際には5日くらいである。その5日間以外では妊娠しないわけだから75%は妊娠しないことになる。ところで妊娠率の最も高いと言われている排卵日にセックスした場合でも妊娠率は30~40%である。多めに見積もって5日間すべて30~40%の妊娠率として計算しても、21日間で考えれば妊娠率は7,5%~10%になるので10人のうち9人は薬を飲む必要がないことになる。だから緊急避妊ピルを飲んだから防げたと思っている人の中には、飲まなくても妊娠していない人も多いと思われる。安易な処方は慎まなければならない。

 

「ワクチン副作用の恐怖」

平成29年11月17日(金)
表題の本は、孤軍奮闘して医学界に警鐘を鳴らし続けている近藤誠医師の最新刊である。この本を知ったのは、医師たちの多くが入っているメーリングリストで例によって近藤医師の本を誹謗中傷する意見が多く見られたので、逆に興味を持ち取り寄せてみたからである。
以前から近藤医師は膨大な医学論文を検討したうえで、患者のためにならない検査・治療はすべきでないといい続けているが、大半は無視するか氏の主張を読まないで反論するかだった。かつて山本夏彦氏が「わかる人は電光石火わかるが、わからない人にはいくら話してもわかってもらえない」と述べていたが、そのとおりだと思う。近藤医師の言うことを認める医師は少なからずいると思うが、大勢はなかなか変わらない。ワクチンが有用だった時代は確かにあったが、現在の日本で果たして今の膨大なワクチンが必要なのか。副作用があってもそれ以上に有用なのかを本当にきちんと検討したうえで使っているのか、氏の本を読むとかなり怪しいと思われる。
ワクチンを世界中に広めるのはWHOの方針であり、WHOのバックには巨大製薬会社がついていることは周知のことである。我が国の医学界がWHOの方針に振り回されて、ワクチンの副作用による犠牲者を出すことだけはしないように冷静に考えてもらいたいと思う。

無痛分娩に思う

平成29年10月6日(金)
今日の新聞に、無痛分娩の際の麻酔ミスにより妊婦が死亡したとして大阪府の産婦人科医院の院長が業務上過失致死容疑で書類送検されたという記事が載っていた。そういえば少し前にも京都でも同じようなことがあり、夫が医院に対して莫大な金額の損害賠償請求をしているという記事もあった。
昔から「お産」は女性にとってまさに命がけの大仕事で、我が国でも70年前は600人に1人は母体死亡があったのである。当時は田舎では家に産婆さんを呼んでお産をするのが普通で、病院でのお産は少なかったこともあるだろうが「お産」とは本来何が起きるかわからないものであることは、産婦人科医なら肝に銘じていることである。今は母体死亡は20000人に1人になったが命がけであることに変わりはない。欧米では無痛分娩が結構行われているようであるが、我が国では6%でまだ少数である。「お産」という自然現象に伴う「痛み」はヒトが許容できる範囲内であるはずである。そして「痛み」はこれ以上だったら命が危ないよと知らせてくれる指標でもある。それを麻酔でなくすることがいいこととは思わない。もし無痛分娩をしたいのならその危険性を納得してするべきで、医師の側も万全の態勢で行わないといけない。そうすると高額になるのは必然でそうでなければ安全にできるはずがない。
「お産」がどんなに危険ととなり合わせか知っておいてもらいたいと産婦人科医は思っている。そしてどんなに技術も持ち誠意をつくしてもうまくいかないことがあることも。

週刊誌の反医療キャンペーン

平成29年9月22日(金)
今から20年以上前に当時慶応大学医学部講師だった近藤誠氏が「がん」の治療についての目から鱗が落ちるような論文を発表して以来、多くの医師たちが現在の医療の矛盾した部分や過剰な検査・治療などについて声をあげるようになった。医療には限界があるのに治そうと頑張るあまり、知らず知らずのうちに患者さんに不利益しか与えないような検査・治療を行ってしまうことに対する警鐘を鳴らすという意味で大切なことである。なにしろ西洋ではかつて麻酔のない時代に乳がんの治療のために、両手足を押さえつけて患部を切り取り焼きごてを押し付けて止血している絵が当時の教科書に載っているのである。当時は遅れていたからだと笑って済ませられることではない。今も形を変えて同じようなことが行われていないとはいえない。
そのような医学の陥りやすい行為に対して最近では週刊現代や週刊ポストなどが反医療キャンペーンを行っている。言い過ぎの部分もあるが納得するところもありいいことではないかと思っている。今月に入って週刊新潮が漢方薬、製薬会社ツムラに対するキャンペーン「漢方の大嘘」を始めた。漢方薬については医学部で講義が一切なかったのにいつの間にか保険薬になってしまったので、医師になってすぐに自分で勉強してみたが、今の漢方は本来の漢方ではなく漢方薬を処方するためのものになってしまっていると思った。我が国では漢方は女性に人気があるが、この先どうなるか注目している。

子宮内膜症の講演

平成29年9月15日(金)
子宮内膜症についての講演が2日続けてあった。倉敷平成病院の太田郁子先生と東大産婦人科准教授の甲賀かをり先生である。それぞれ別の切り口からの話で興味深い内容であった。子宮内膜症については診断、治療法の変遷に長い歴史があり、その積み重ねによってかなり克服できるようになったがまだまだ難しいところも多く、さらに努力が続けられている。特に子宮腺筋症は難しい部分があるので、最近東大の大学病院に「子宮腺筋症外来」を開設して難しい症例をフォローしているそうである。
子宮内膜症に最も有効なのはピルだと言われているが、実際に内膜症の有無にかかわらず多くの女性の生理痛の緩和に役立っている。それでもピルを使っているにもかかわらず症状が進行する人もいて、それに対して新しく開発された薬や新たな手術が試みられている。妊娠できる状態を維持することが究極の目的であるが、実はこれが最も難しいのである。
子宮内膜症は子宮内膜が月経時に腹腔内に逆流する、あるいは子宮筋層内に入り込むことが原因といわれているが、妊娠するためには排卵、月経が必須である。月経そのものが内膜症を引き起こし増悪させるわけだから、排卵を止めない限り難しいわけである。早いうちに妊娠、出産を終えてしまえば不妊症のために高い治療費を払わなくてもいいし、内膜症に対する治療も難しくない。そもそも内膜症になる率も減るし一番いいのだけれどなかなかそうはいかないのだろう。難しいところである。

男女の妊娠適齢期と生殖補助医療

平成29年7月28日(金)
国立成育医療研究センターの斎藤英和副センター長による表題の講演があった。女性の結婚年齢は20代前半の場合が最も子供を持ちやすく、結婚年齢が高くなるほど難しくなる。20代前半の生涯不妊率は5%であるが、30~34歳で15%、35~39歳で30%、40~44歳で64%にもなる。また、女性の妊娠しやすさは22歳を1とすると30歳で0,9、35歳で0,6、41歳で0,2である。さらに妊娠に至るまでの期間も20代で6か月、30代で10ヶ月かかり、挙児を希望した時点での男性の年齢も若い方が早い。ヒトは男女とも加齢に伴い妊娠する能力が減弱し、また妊娠中や分娩時のリスク、出生時のリスクが増加するので、妊娠・出産・育児は20代が適している。
日本は不妊大国で体外受精などの治療が急増しており、人口比で米国の4倍の数になっている。また治療の高齢化が著しく進んでいて40歳以上の患者さんが半数近くを占めている。さらに1児を出生するためにかかる不妊治療の費用も高額になり1治療30万円として40歳で370万円、45歳で3780万円、47歳で2億3千万円かかるという。卵子や卵巣の保存であるが、母体の生理的老化・病気のため無駄になる可能性があること、初期採卵・凍結で100万円かかり卵1個の年間管理料1万円で多数の卵の保存が必要なための経済的負担が大きいこと、子育てが高齢までかかり老後破産の心配があることなどの問題があることを話された。
いずれにせよ早く結婚するしかないのだが実はこれが一番難しいのである。我が国には昔から「お見合い」というすばらしい制度があり、年頃になれば自然に見合いして結婚していたが今はほとんどなくなってしまった。少子化を防ぐにはこの制度を復活させるのが最良ではないだろうか。