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医療事故の多い産婦人科

平成16年7月31日(土)
医療事故が多い科は産婦人科であるという。実数では内科、外科、整形外科なども多いようだが、割合でいうと産婦人科が多いのである。そしてその多くは妊娠、出産時の母と子に関することである。
当院はお産をしてないので、事故の起こる可能性は低いのであるが、お産をしている医療機関は万全の注意を払っているにもかかわらずいろんな事がおこる可能性があるのである。これはそもそもお産がそういうものだからだ。妊娠ー出産のどの時でも、何が起こってもおかしくないという危険を秘めている。これは産科に携わった者であれば肝に銘じていることと思う。ところが多くの場合、なにもしなくても無事に生まれる。だから、世間ではお産は無事に生まれてあたりまえと思っていることだろう。そのために、何かが起こった時に産科医の責任といわれるのである。
実際はどれだけ注意していてもどうしようもない、不可抗力によるものも多いのがお産である。産科は妊娠ー出産というめでたいことを扱う科であるが、24時間待機しておかなければならない科でもある。これらの所為なのだろうか、産婦人科医はじりじりと減っている。もっと増えていかないとお産ができなくなってしまわないだろうか。

耐性菌の増えた性病

平成16年7月9日(金)
腰が痛い。日曜日にテニスをした後、何年ぶりかのマージャンをしたためと思われる。一度ヘルニアになってからはすっかり腰がだめになった。ちょっと運動をすると痛くなる。情けないことである。今回はどちらかというとスジが痛いようなのでまだマシであるが。
今日は、パートナーが淋病になったので、自分も感染していないか調べて欲しいと言う人が何人か続いた。ちょうど昨夜講演会で性感染症の話があったばかりである。いま淋病は耐性菌が増えて、以前なら簡単に治っていたのが治らなくなったという話であった。これは我々開業医が日々感じていることである。実際なかなか治らない。クラミジアなら内服剤で良いが、淋病は抗生物質の静脈注射でないと治りにくいのである。
性感染症の蔓延で有名なのはコロンブスがアメリカ大陸(実は西インド諸島)から持ち帰って、あっという間にヨーロッパ中に拡がった梅毒である。この梅毒は日本にも持ち込まれ全国に拡がった。西インド諸島の風土病であった梅毒が、ヨーロッパを経て日本に拡がるまでの期間はわずか数十年である。人間の性行動はまことにすごいものがある。生殖力の強さと性病の蔓延の強さは一致するようである。生殖力が強いから人類はこれだけはびこってきたのだろう。性病の存在もある意味で仕方がないのかもしれない。

コンジローマの治療

平成16年6月2日(水)
最近コンジローマが多い。コンジローマとはイボのことで、おもに外陰部にできるウイルス感染症である。セックスで感染するため性感染症の一つといわれてい る。コンジローマができたときには、他の性病も同時にあることがよく見られるので気をつけなければならない。性病に感染するということはそれだけ性的に活発ということで、生物学的には正しいのだろうが他人にも感染させるし本人も困る。
コンジローマの治療は焼くか凍らせるかが一般的だが、欧米ではポドフィリンという植物からの抽出液を塗ることで治す。これはほとんど痛みもなくきれいに治るのでおすすめである。ちなみにこの薬は、欧米では薬局で自由に買えるようであるが、我が国では厚生省が禁止しているので買えないし売っていない。この薬はきついから危険なのだそうだ。それを言うなら一般に売られている消毒薬だって危険である。厚生省だって何かあった時に責められるのがイヤなので、簡単には薬剤の許可をしないのだろう。我々ももっと自己責任を重んじて(そういえばイラクの人質では随分自己責任論が盛んだったが)なんでもお上まかせはやめに して、もっと権利、義務、責任を明確にして主張すべきは主張していきたいものである。

健康診断は不要

平成16年6月1日(火)
健康診断は必要なのかという疑問がある。人間ドックは本当に寿命をのばしているのかという疑問がある。これらの検査は日本独特で、諸外国ではあまり行われていないようである。実際、がんを含め成人病(今は生活習慣病というのだが)は老化に伴う変化によるものがほとんどで、治すのではなく慣らしていくしかな いと思われる。今現在調子が悪ければ、受診すべきだがどこも悪いと思わなければ医者に近づかない方がいい。昔のテレビドラマなどを見ると医者が「もっと早 く来れば良かったのに、手遅れです」などのセリフがある。緊急を要する疾患や事故ならそうかもしれないが、がんや慢性疾患ではどれほどの違いがあるというのだろうか。生命予後はほとんど変わらないと思う。
普段はあまり病気のことなど考えずに、楽しく生きる方が得だろう。本当はこれが一番難しいのだが。

妊娠中の風邪

平成16年4月25日(日)
今日は日曜なので本来は休診なのだが、広島市の産婦人科当番医のため開院した。当番医は各科の開業医が休日診療を順番に行うもので、半年に一度まわってくる。いつもどんな急を要する患者さんが来るかとてぐすねひいているのだが、ごく普通の患者さんばかりで、ほっとするような、拍子抜けするような。産婦人科で最も多い緊急を要するのは妊娠・お産関係で、何か起こればお産を予定している病院へ行くだろうから当番医の所へは来ないのだろう。
実際妊娠中にはさまざまな心配があるようで、電話相談などもよくある。妊娠初期なら出血の心配が多い。あとは風邪をひいたので薬をどうしたらいいかの問い合わせも。出血については色々な場合があるので、状態によっては受診を勧めることが多いが、風邪についてはひどくないかぎり、「あったかくして安静にしてください」という。知り合いの内科の先生は「風邪?寝ときゃあ治る」とおっしゃる。私も全くそのとおりだと思う。オランダなどでは風邪をひいて受診しても、熱があれば家で冷やして様子を見て3日たってもよくならなければ来院するように話して薬も出さないそうである。日本人は薬好きの人が多く、風邪でも薬を出さなかったら、もう来てくれなくなると聞く。また、妊娠初期は薬の副作用も気になり、風邪も心配だが薬も心配だという人が多いのである。でも風邪をひいたからといって胎児に影響があるわけではなく、(ウイルスによる影響があるとしたら感染した時点で影響がありどうしようもなく、薬を使うのは有害無益である)まさに「寝ときゃあなおる」と言いたいのだが、そう言ってしまうと身もふたもないので同じようなことをやんわりと言う。もっとも、どうしても薬が欲しいという人には、さからわずに薬を処方する。開業医は患者さんのニーズを優先するのだ。
そうこうするうちに夕方6時になり、休日診療は終わりとなった。明日は月曜日でいつもと同じ診療日だ。早く帰ってビールを飲もう。

流産手術

平成16年4月21日(水)
毎日日誌を書くのは結構大変だと思う。でもここでやめたらまさに三日坊主である。やめてたまるか。
今日は朝から流産手術あり。いつものことだが、患者さんに流産を告げるのは気が重い。妊娠を告げた時の患者さんのうれしそうな顔、でもその約15%は流産するのだ。これはどうしようもない、まさに運である。治療によって何とかなることはほとんどないと思ってよい。妊卵は一定の比率でだめになり、それは誰にあたるかわからないのだ。流産と診断した時、いつもどのように言おうかと考える。それまでに何回か接していると、ある程度この人にはこういうふうに話た方がショックが少ないかなと思うので、そのように話す。どう話しても事実は変わらないのだが、なんとか少しでも希望が持てるように話すのであるが、正直難しい。今は妊娠検査の薬の感度がよいので、かなり早くから妊娠がわかるようになっている。そのため流産の事実がわかりやすくなったり、胎嚢という袋がみえるまでは子宮外妊娠も否定できないなどの心配をしなければならなくなっている。診断能力が増してもそれが幸せにつながらない場合もあるのだ。
今日も夜には勉強会を兼ねた会合がある。月曜をのぞいて5日連続の飲み会や会合だ。元来アルコールは弱いのだが好きである。弱くてよかった。もし強ければ確実にアルコール中毒だろう。ありがたいことにすぐいい気分になり、それ以上は飲めなくなる。お医者さんもすすめる適量がまさに自分のMAX(適量)である。親に感謝。

ピルの話

平成16年4月20日(火)
今日もピルをすすめたら「副作用は?」と聞かれた。ピル以外の薬を処方してもなにも言われないのに、ピルの時だけほとんど必ず聞かれる。これは20年以上前からほぼ同じである。漢方薬なら一切聞かれない。いったいこれは何なのだ。イメージとは恐ろしい。日本ではホルモンはすべて副作用が怖いというイメージがあり、漢方薬は安全だとの思い込みがある。いくら事実をあげて説明してもなかなか一旦ついたイメージは変わらない。これは日本だけの現象なのだろうか?世界中で日本ほど避妊をコンドームにたよる国はないし、ピルを怖がる国もない。うちでは毎月300人ぐらいの人にピルを処方している。問題となる副作用はほとんどない。たまに吐き気が強くて飲めない人もいるが、多くの人は調子良いとのこと。生理痛の強い人にはおすすめである。

診療日誌開始

平成16年4月19日(月)
長いことほったらかしていたホームページのリニューアルがすんだので、これを機会に「診療日誌」なるものを書くことにした。内容はその日にあったことが中心であるが、あまりこだわらず、長く続くことを目的としている。元来、日記など小学生の時に夏休みの宿題の絵日記ぐらいしか書いたことがないのでどうなるかわからないが、とりあえずできるだけ毎日書いてみるつもりだ。患者さんについてはそのまま書くとさしさわりがあるので、すべて設定を変えておいた。
数年前から診ているAさんが、「先生、卵巣のホルモンの検査をしてください」と言う。やや生理不順があり時に無排卵のことがあるが、ほかには問題ない。30代後半だが、これから結婚して子供が生めるなら生みたいらしい。でもいますぐ妊娠できる状況にはないのであるが、なにか異常がないか心配になっているようだ。ホルモンの検査をすれば色々なことがわかると、どこからか聞いてきたらしい。「うーん、ホルモンの検査は採血すれば簡単にできますが、多分なにも異常ないと思いますよ。あなたは排卵もちゃんとあるし、たまに排卵がないこともあるけど、妊娠は充分できるとおもいますよ。」「でも検査で詳しくわかると聞きました」と納得しない様子である。
このタイプの排卵障害の場合、放置して全く問題がないし、そもそもこの程度の状態の人にいらぬ検査をしたり、あまり意味のない治療をすることに問題がある。ホルモン検査などとさも大切そうにいっても、この場合たいした結果が出るわけがないし、治療しても排卵障害が治るわけもない。それは、治療した周期は排卵がおこるが、次の周期はまたもとのままで、いままでと同じなのだ。つまり、体質であって根本的に治す方法はない。むしろ経過を見ていけば、自然に体質が変わって治ることもあり、何もしなくていいのである。このことをどのように言ったら納得してくれるのかと、考えた。都会ではこのような場合、セットの検査で色々調べて治療する場合もあると聞く。私はそれは、お金と時間のムダに加えて異常だと心配する心理的負担もあっていいことはないと考えている。もちろん私も、言われる通り「はいわかりました」と言って、検査をして「排卵障害がありますから薬を飲んでください」と言えば、儲かるし患者さんからは、「あの先生は色々検査して異常を見つけて治療をしてくれた」と感謝されるだろうしハッピーである。でもそれは、本当には患者さんのためにならない、インチキだと思っているのでできない。そこでどのように話そうかと思うわけである。Aさんは半分納得、半分どうかなという雰囲気で帰っていかれた。このようなことは毎日何回もある。あまり言い過ぎるとどこかよそへ行ってしまうし、難しいのだ。やはり信頼されるように日頃から良い関係を築いておかなければ、と思った。