平成24年1月18日(水)
妊娠初期流産の原因のほとんどは妊卵の細胞分裂がうまくいかなくなったためで、民族を問わず一定の割合で起きる。だから治療する意味もないし治療できない。このことは胎児(胎芽)を超音波検査によってリアルタイムに観察できるようになって、わかってきた。したがって感染がない場合、経過を見守るしかないので、そのことを患者さんに話して納得してもらっている。
30年以上前にはまだ超音波検査が普及しておらず、妊娠初期に不正出血があれば入院してもらい、止血剤などを点滴投与するのが標準治療とされていた。だから当時はどの病院もそういう患者さんがいっぱい入院していて、ベッド上安静にて点滴を受けていた。なにしろ流産率はヒトでは15%以上あるのだから患者さんは多いわけである。今から考えれば気の毒であるが、意味のない治療をさせられていたことになる。でも当時の医学水準ではその治療が標準で、もしその治療をせずに流産したら訴えられて敗訴しただろう。
最近、少し出血した妊娠初期の患者さんを入院させる医療機関があるのを知って驚いた。もちろん上記のように説明して、それでも入院を希望されたのなら別であるがこの場合はどうなのだろう。
現在、標準治療として行われていても、将来なくなるものも多々あると思われる。今は通常に行われているが自分では意味がないと思われる治療はしないようにしているが、30年の間でもそのように思っていてあとでそのとおりだと証明された治療は結構あったし今もあるのである。
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流産の原因(1)
薬の話
平成23年11月8日(火)
日本人は薬好きだといわれるが、確かに医療機関では多量の薬が処方されている。医者が処方しすぎるのか、患者さんが求めるのか、その両方の相乗効果なのか、とにかく医療費に占める薬剤費の割合はアメリカの3倍、フランスやドイツの2倍である。明らかに薬の使い過ぎだろう。
本当に必要な薬は約300種類で、これだけでほぼ対処できるというエッセンシャルドラッグの概念がWHOで提唱されて久しいが、わが国では世界一高い薬が17,000商品も売られている。同じ薬でも日本以外の国と比べて高い薬価になっていて、喜ぶのは外資系も含めた製薬会社だけである。一方、昔から使われていて評価の定まった薬は薬価が下げられて、製薬会社は利益が出ないから製造中止にしようとしている。
当院では薬の処方は実に少なく、本当に必要だと思う薬しか処方しないようにしている。ただし、患者さんが漢方薬や他院で処方されていた薬を出してくれと言われた場合には、一応自分の考えを言った上で、それでも求められたら仕方なく処方することはある。もちろん納得されて今まで使われていた薬を止められる患者さんも多い。思うに自分のような医者ばかりだったら製薬会社はいやがるだろうが、薬剤費は大幅に減るのではなかろうか。
子宮頸がん予防ワクチン
平成23年7月8日(金)
製造が遅れていた子宮頸がんを防ぐワクチンが、8月初めには供給されるとのことである。さらに、8月末には4価ワクチンのガーダシルも発売されるそうだ。
子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)は何十種類も型があり、そのうちの16,18が子宮頸がんの60~70%に認められることから、この2種類の型に対応したワクチンができたわけである。これを2価ワクチンといい、現在不足しているサーバリックスのことである。
HPVの6,11は「いぼ」をつくるウイルスで、がんにはならないが尖形コンジローマという性病をひきおこす。ガーダシルは、HPVの16,18、に加えて6,11もカバーした4価ワクチンである。ちょっと考えればこちらの方がよさそうであるが、そうでもないらしい。
2価ワクチンのサーバリックスの方がHPV16,18に対する抗体価が強く、長期にわたって有効なのだという。困ったものだ。今後どちらを薦めたらいいのか難しい。
すすまないワクチン
平成23年6月10日(金)
今日から子宮がん予防ワクチンの接種がOKとなった。といっても、今年高校2年生になった人と、1月から3月までにすでに接種を開始している人の2回目ないし3回目の人だけが対象であるが。初めての接種はまだ無理なようである。
震災を期にいろいろ困難なことが続出している。財政破綻ははっきりしているのだから、バラマキ政策はすべて中止しなければ仕方ないだろう。われわれ国民もバカではないのだから、今国の財政がどうなっているかぐらいはわかっている。政府はまともな政策を施行してほしいものである。
適応とがん
平成23年6月4日(土)
女性ホルモン依存腫瘍である乳がんや子宮内膜がんは、閉経後の血中女性ホルモンがほとんどない時でも増殖していく。それは、腫瘍組織内でホルモンを作っているからで、このことがわかってきたのは1980年代以降である。がん組織が生き延びるためには、本人にはお構いなく何でもやるということだ。
生物は環境に適応するためにその形や代謝を様々に変えて生きてきた。環境に合わせて変えることができた生物のみが生き延びていて、それ以外は全部滅びてしまった。飛躍するようだが、変える能力を持っているがゆえに「がん」も発生するのである。つまり、良い方に変われば「適応」として生き延びることができ、悪い方に変われば「がん」となって滅びる。「適応」と「がん」は紙一重、表裏の関係である。だから人類は「がん」を克服することはできないだろう。
腫瘍マーカー
平成23年4月9日(土)
健康診断(ドック)に「腫瘍マーカー検診」という項目がある。かつて結構流行っていたが最近ではすたれていたのかと思っていたら、オプションで行われているらしい。異常値が出たということで心配して来られた患者さんが複数おられた。もちろん婦人科的にはなんの異常もみられなかった。
これらの検査を健康診断に使うのはいいこととは思わない。むしろ異常値が出て心配する人が増えるだけである。正常値とは、100人の正常な人の検査の値のうち、95%の人が入っている範囲をいう。だから正常な人でも5%は異常とみなされるのである。
腫瘍マーカーは実際に発症して治療を受け、その後のフォローには有用な場合もあるが、健康診断ではいたずらに不安を持つ人をつくるだけである。医師自らが本当に有用と思ってやっているのだろうか。はなはだ疑問である。
子宮頸がん予防ワクチンに思う
平成23年3月10日(木)
今年の1月から1年間の暫定措置で、中1から高1までの4学年の女子生徒に、子宮がんを防ぐためのワクチン接種が始まっている。英国の製薬会社が開発した非常に高価なワクチンであるが、彼らのロビー活動の成果により、わが国の政権与党である民主党のバラマキ政策と一致して、接種が始まったわけである。
一般の人たちがわが子のためになると信じて接種させるのは当然である。何の問題もない。問題は政府与党と、専門家である。わが国の子宮がん(頸部がん)の年間死亡数は2,500人である。年齢調節死亡率では2万人に1人。そして、ワクチンを全員に接種したとしても、3~4割の人には無効なうえに、ワクチンの効果も7年先以降についてはまだわかっていない。
わが国は借金を重ねて毎年赤字国債を発行しているが、これらのつけはすべて子ども世代に行くわけである。物事には優先順位がある。国を預かる者や医学の専門家は大きな視野で物事を見ないと、破滅の方向へ進んで行くことになる。
最近、ワクチンを製造している英国の製薬会社が、製造が追いつかないと言い出した。まったくお笑いぐさである。製薬会社が利益を追求するのは当たり前である。要は、あらゆることを正確に判断して国益になるように行動するのが政治家であり、専門家のはずである。恥を知って欲しい。
脳の性差
平成23年1月21日(金)
研修会があり、精神科の先生の興味深い話を聞いた。男性と女性の脳の性差についてである。
女性は男性に比べて①言葉を発する時間が長く相手との関係を深めようとする②お互いの気持ちや人間関係に関する話題が多い、など「共感・仲間づくり」がベースである。対して男性は①言葉を発する時間が短い②自分の知識、技能、地位を誇示する言葉をよく使う③相手の言葉をさえぎって自分の意見を主張するなど、「序列志向、システム志向」が強いという。
もちろんその比率は個人で異なるだろうが、確かに腑に落ちる話である。女性のコミュニケーションの能力は、男性よりはるかに強い。仲間を作って気持ちよく暮らしていくには女性の脳が優れていて、獲物を獲ったり外敵から仲間を守ったりするには男性の脳が優れているのだろう。両方あってこそ、命が続いてきたのである。うまくできているものだ。
子宮がん予防ワクチン
平成22年12月24日(金)
広島市では来年から、子宮がんを予防するワクチンを、中学1年生から高校1年生までの女子に無料で接種することになるらしい。対象人数は2万人弱と思われるがかなりの予算が必要だろう。なんでも国と自治体が費用を折半するとか。
いいことだとは思うのだが、費用対効果を考えると疑問がある。現在のところワクチンは英国製薬会社の独占で、非常に高い値付けになっており、もっと国として交渉して、安くしなければ実施は先送りするとか、近く発売される別の製薬会社のワクチンと競合させるとか、税金の無駄遣いをなくすべく努力をしなければダメである。
わが国の子宮がんによる年齢調節死亡率は年間、2万人に1人である。上記の女子全員にワクチンを接種したとして、将来子宮がんによる年間1人の死亡を0,3人にすることができるというふれこみではあるが。
健康診断
平成22年9月8日(水)
作家の曽野綾子氏が新聞や雑誌などに載せているエッセイや論文は、わが意を得たりという内容が多く、面白く読ませてもらっている。さらに氏のいささかの揺るぎもない信念に基づいた行動は、立場や地位によってしたくもないことをしている世の男たちにはうらやましいことだろう。
私は健康診断やドックは意味がないことをいつも言っているが、もし自分が検診センターの所長の立場だったらそんなことは言えないだろう。また、保健行政の立場にいても言えるわけがない。ありがたいことに自分はそういう立場になれないし、なろうとも思わないのでその点で気が楽である。
日大の医学部教授で検診センター所長の久代氏は、アサヒメディカルに控えめながら健康診断やドックによる寿命の延びはないことや、CTなど取り入れたさらに詳しい検診についての疑問を述べている。私の深読みかもしれないが、最も検診を推進しなければならない立場の人がこのように述べているということは、本音では「百害あって一利なし」と思っておられるのではなかろうか。