平成24年4月21日(土)
今の産婦人科診療で最も大きな出来事は超音波検査装置が開発されたことだと思う。胎児を観察する方法で、これほど安全で手軽にできるものはない。レントゲンやCTは被爆が問題になるうえに、装置が大げさなので場所やコストがかかりすぎるし、実際に使うのも大変である。
わずか30年前までは妊娠の状態を知るための触診・内診は産婦人科医にとって大切な、名人芸のような技術が必要であった。なにしろお腹の外から子宮内の胎児がどれくらい育っているのか、元気なのか、逆子ではないかなど、様々なことを診断しなければならなかったからである。現在でも行われている子宮底長・腹囲の測定はその時代の名残である。これらはもはや不必要になっているが、まだ健診の項目に入っている。また、胎児の心音を聞くための聴診器に相当するトラウベという木製の筒も、超音波を利用したドップラー装置になり、胎児の状態を観察するためのNSTへと発展していった。
もうひとつの大きな変化は、妊婦健診がほぼ公費になったことである。従来は健診は自費診療で、検査項目は施設によって若干異なっていたが、公費になったために画一化され、回数も決められてしまった。本当に必要なのかと思われる検査もある。かつて多かった妊娠中毒症(今ではこの病名はなくなった)を見つけ、早めに治療するという目的で始まった妊婦健診だけれど、ずいぶん様変わりしてきたものである。(この項続く)
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妊婦健診昨今(1)
緊急避妊ピルについて
平成24年3月8日(木)
新しい緊急避妊ピル(ノルレボ錠)がわが国で承認・発売されて6カ月を過ぎた。聞くところによるとあまり普及してないようで、原因はその値段が高すぎるせいだという。1回分が1万円である。これは製薬会社の卸値であり、これに診察料などが加わると1万5千円ぐらいになり、なぜこんな法外な値段を厚労省・製薬会社(外資系)が決めたのか納得いかない。フランスではノルレボ錠が薬局で売られていて、3,500円ぐらいだそうである。ということは卸値では2~3000円であろう。わが国の卸値1万円はどう考えてもおかしい。
従来の緊急避妊の方法は、中容量ピル(プラノバール)を2錠飲み、12時間後にもう2錠飲むYuzpe法であるが、避妊率はノルレボ錠とほぼ同じである。こちらの値段ははるかに安く、この値段でメーカーは利益があるのかと思うくらいである。いずれにしても私としては法外な値段のノルレボ錠を勧める気はなく、従来のYuzpe法を勧めている。ただ、問題なのはこの方法だと吐き気を訴えることがあり、そのためにノルレボ錠が開発されたのである。もちろん従来の方法でなんともない人も多いので、私としては当分従来の方法を勧めるつもりである。
排卵時に性交した場合の1回の妊娠率は約30%で、緊急避妊ピルの妊娠阻止率は約80%なので、ざっと5~6%は緊急避妊薬を飲んでも妊娠する可能性がある。毎日飲むピルの場合の妊娠率は0,1%で、これがどんなに優れているかわかるだろう。避妊には毎日飲むピルを勧めるものである。
初めてピルを飲む人のために
平成24年2月9日(木)
欧米では日常的に使われているピルは、わが国では以前より増えたとはいえまだまだ普及していないのが現状である。当院では多くの人にピルを処方しているが、初めて服用する人の多くは「ピルは怖い」と思っているようである。
実際に飲み始めてみると「なんだ、何も問題ないじゃないか」と思う人がほとんどで、避妊はほぼ完璧にできるし、生理痛は楽になる、生理の量も減るので貧血が治る、生理の周期がきちんとするなど多くの利点を実感する。副作用で多いのは飲み始めにおきる「吐き気」「むくみ」であるが、ほとんどの人は慣れてなんともなくなる。
ピルは原則3週間飲んで1週間休むことになっているが、種類によっては連続内服できるものもあり、2~3カ月続けて飲んでもらいその間生理はなく、その後の1週間の休薬期間に生理がくるようにしている人もいる。欧米ではすでに1年に1回だけ生理が来るピルも発売されていて、なかなかの人気だそうである。
なぜ生理があるのかを考えると、これはすべて妊娠するためである。妊娠するために毎月排卵し子宮は妊卵を着床させるために内膜を厚くし、妊娠がなければそれが剥がれて生理となり、また次の排卵が起こり…これを延々と繰り返している。その間には排卵時の卵巣出血が起きたり、子宮筋腫ができたり、子宮内膜症が発症したり大変である。なにより生理痛や生理の出血の手当てがわずらわしい。
だから、妊娠を望んでいない時にはピルを飲んでいると上記の悩みから解放される。なにより子宮・卵巣を休ませることができるので子宮筋腫や内膜症の進行を遅くすることもできるし、卵巣がんになる確率は飲まない時の半分になる。良いことばかりで悪いことがほとんどない稀有な薬である。ピルは薬を含め人類が開発した最も良いものの一つだと思う。
流産の原因(1)
平成24年1月18日(水)
妊娠初期流産の原因のほとんどは妊卵の細胞分裂がうまくいかなくなったためで、民族を問わず一定の割合で起きる。だから治療する意味もないし治療できない。このことは胎児(胎芽)を超音波検査によってリアルタイムに観察できるようになって、わかってきた。したがって感染がない場合、経過を見守るしかないので、そのことを患者さんに話して納得してもらっている。
30年以上前にはまだ超音波検査が普及しておらず、妊娠初期に不正出血があれば入院してもらい、止血剤などを点滴投与するのが標準治療とされていた。だから当時はどの病院もそういう患者さんがいっぱい入院していて、ベッド上安静にて点滴を受けていた。なにしろ流産率はヒトでは15%以上あるのだから患者さんは多いわけである。今から考えれば気の毒であるが、意味のない治療をさせられていたことになる。でも当時の医学水準ではその治療が標準で、もしその治療をせずに流産したら訴えられて敗訴しただろう。
最近、少し出血した妊娠初期の患者さんを入院させる医療機関があるのを知って驚いた。もちろん上記のように説明して、それでも入院を希望されたのなら別であるがこの場合はどうなのだろう。
現在、標準治療として行われていても、将来なくなるものも多々あると思われる。今は通常に行われているが自分では意味がないと思われる治療はしないようにしているが、30年の間でもそのように思っていてあとでそのとおりだと証明された治療は結構あったし今もあるのである。
薬の話
平成23年11月8日(火)
日本人は薬好きだといわれるが、確かに医療機関では多量の薬が処方されている。医者が処方しすぎるのか、患者さんが求めるのか、その両方の相乗効果なのか、とにかく医療費に占める薬剤費の割合はアメリカの3倍、フランスやドイツの2倍である。明らかに薬の使い過ぎだろう。
本当に必要な薬は約300種類で、これだけでほぼ対処できるというエッセンシャルドラッグの概念がWHOで提唱されて久しいが、わが国では世界一高い薬が17,000商品も売られている。同じ薬でも日本以外の国と比べて高い薬価になっていて、喜ぶのは外資系も含めた製薬会社だけである。一方、昔から使われていて評価の定まった薬は薬価が下げられて、製薬会社は利益が出ないから製造中止にしようとしている。
当院では薬の処方は実に少なく、本当に必要だと思う薬しか処方しないようにしている。ただし、患者さんが漢方薬や他院で処方されていた薬を出してくれと言われた場合には、一応自分の考えを言った上で、それでも求められたら仕方なく処方することはある。もちろん納得されて今まで使われていた薬を止められる患者さんも多い。思うに自分のような医者ばかりだったら製薬会社はいやがるだろうが、薬剤費は大幅に減るのではなかろうか。
子宮頸がん予防ワクチン
平成23年7月8日(金)
製造が遅れていた子宮頸がんを防ぐワクチンが、8月初めには供給されるとのことである。さらに、8月末には4価ワクチンのガーダシルも発売されるそうだ。
子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)は何十種類も型があり、そのうちの16,18が子宮頸がんの60~70%に認められることから、この2種類の型に対応したワクチンができたわけである。これを2価ワクチンといい、現在不足しているサーバリックスのことである。
HPVの6,11は「いぼ」をつくるウイルスで、がんにはならないが尖形コンジローマという性病をひきおこす。ガーダシルは、HPVの16,18、に加えて6,11もカバーした4価ワクチンである。ちょっと考えればこちらの方がよさそうであるが、そうでもないらしい。
2価ワクチンのサーバリックスの方がHPV16,18に対する抗体価が強く、長期にわたって有効なのだという。困ったものだ。今後どちらを薦めたらいいのか難しい。
すすまないワクチン
平成23年6月10日(金)
今日から子宮がん予防ワクチンの接種がOKとなった。といっても、今年高校2年生になった人と、1月から3月までにすでに接種を開始している人の2回目ないし3回目の人だけが対象であるが。初めての接種はまだ無理なようである。
震災を期にいろいろ困難なことが続出している。財政破綻ははっきりしているのだから、バラマキ政策はすべて中止しなければ仕方ないだろう。われわれ国民もバカではないのだから、今国の財政がどうなっているかぐらいはわかっている。政府はまともな政策を施行してほしいものである。
適応とがん
平成23年6月4日(土)
女性ホルモン依存腫瘍である乳がんや子宮内膜がんは、閉経後の血中女性ホルモンがほとんどない時でも増殖していく。それは、腫瘍組織内でホルモンを作っているからで、このことがわかってきたのは1980年代以降である。がん組織が生き延びるためには、本人にはお構いなく何でもやるということだ。
生物は環境に適応するためにその形や代謝を様々に変えて生きてきた。環境に合わせて変えることができた生物のみが生き延びていて、それ以外は全部滅びてしまった。飛躍するようだが、変える能力を持っているがゆえに「がん」も発生するのである。つまり、良い方に変われば「適応」として生き延びることができ、悪い方に変われば「がん」となって滅びる。「適応」と「がん」は紙一重、表裏の関係である。だから人類は「がん」を克服することはできないだろう。
腫瘍マーカー
平成23年4月9日(土)
健康診断(ドック)に「腫瘍マーカー検診」という項目がある。かつて結構流行っていたが最近ではすたれていたのかと思っていたら、オプションで行われているらしい。異常値が出たということで心配して来られた患者さんが複数おられた。もちろん婦人科的にはなんの異常もみられなかった。
これらの検査を健康診断に使うのはいいこととは思わない。むしろ異常値が出て心配する人が増えるだけである。正常値とは、100人の正常な人の検査の値のうち、95%の人が入っている範囲をいう。だから正常な人でも5%は異常とみなされるのである。
腫瘍マーカーは実際に発症して治療を受け、その後のフォローには有用な場合もあるが、健康診断ではいたずらに不安を持つ人をつくるだけである。医師自らが本当に有用と思ってやっているのだろうか。はなはだ疑問である。
子宮頸がん予防ワクチンに思う
平成23年3月10日(木)
今年の1月から1年間の暫定措置で、中1から高1までの4学年の女子生徒に、子宮がんを防ぐためのワクチン接種が始まっている。英国の製薬会社が開発した非常に高価なワクチンであるが、彼らのロビー活動の成果により、わが国の政権与党である民主党のバラマキ政策と一致して、接種が始まったわけである。
一般の人たちがわが子のためになると信じて接種させるのは当然である。何の問題もない。問題は政府与党と、専門家である。わが国の子宮がん(頸部がん)の年間死亡数は2,500人である。年齢調節死亡率では2万人に1人。そして、ワクチンを全員に接種したとしても、3~4割の人には無効なうえに、ワクチンの効果も7年先以降についてはまだわかっていない。
わが国は借金を重ねて毎年赤字国債を発行しているが、これらのつけはすべて子ども世代に行くわけである。物事には優先順位がある。国を預かる者や医学の専門家は大きな視野で物事を見ないと、破滅の方向へ進んで行くことになる。
最近、ワクチンを製造している英国の製薬会社が、製造が追いつかないと言い出した。まったくお笑いぐさである。製薬会社が利益を追求するのは当たり前である。要は、あらゆることを正確に判断して国益になるように行動するのが政治家であり、専門家のはずである。恥を知って欲しい。