平成24年3月1日(木)
雨の日以外は毎日自転車通勤しているが、出がけに玄関わきの鉢植え(クリスマスローズだそうである)につぼみができているのを見た。今日から3月、次第に暖かさが増している。今朝の新聞の投書欄に、山陰から雪の峠を越えて広島市の美術館巡りに来た人が「広島市の暖かさに驚いた」と書かれていたが、まだ春が遠い地方も多いのだろう。
北海道、小樽市の近郊の村で育った詩人、伊藤整の詩集「雪明りの路」の扉に、「雪明りをよく知り、永久に其処を辿るあの人々に、私はこれらの詩篇を捧げる」とあるが、過酷な冬と生命に満ち溢れた春の対比が味わい深い。その中に「雪解」「春を待つ」「春」「春日」など、春の来るのを待ち望み春を喜ぶ詩があるが「春を待つ」という詩が好きだ。
「春を待つ」
ふんわりと雪の積つた山かげから 冬空がきれいに晴れ渡ってゐる。
うつすら寒く 日が暖かい。
日南ぼっこするまつ毛の先に ぽっと春の日の夢が咲く。
しみじみと日の暖かさは身にしむけれど
ま白い雪の山越えて 春の来るのはまだ遠い。
カテゴリー 日誌
春を待つ
中村仁一著「大往生したけりゃ医療とかかわるな」
平成24年2月23日(木)
著者の中村医師の父親は、医者になりたくて苦学していた20歳の時に、受診した眼科で目薬と消毒薬を間違えて点眼され失明したためあんまの技術を身につけてやっと一家を養っていたが、著者が高校生の時に心筋梗塞で亡くなった。それもあって著者は医者になろうと思い京都大学医学部に合格したが学費も生活費もなく、すべてアルバイトで頑張って卒業し医師になった。その後病院の院長を経て現在、特別養護老人ホームの医師をしている。市民グループ「自分の死を考える集い」を主宰して16年になるという。
著書の中で、「生、老、病、死」は避けられないことだから、さからわず受け入れていくことがすべてだという。生き物は繁殖し、繁殖を終えたら死ぬのはあたりまえで、それにさからうことは不可能である。ホームで何百人もの自然死を見ていると、病院で医療を受けつつ死ぬよりはるかにやすらかに逝けることがわかる。医療にかかわらない方がいいのである。死は怖くないことがわかれば死を正面から見つめることができ、だからこそ「今」を精一杯生きようとすることができる、とユーモアを込めて説く。
医療の限界を知ってしまった著者は、生きることと医療のかかわりをまことに的確に述べている。さらにこの書は「老化」を治療の対象にしている現代医療へのアンチテーゼでもある。感染症やけがなどは原因を取り除けば治癒するが、「老化」による変化は治療できるわけがない。それを「生活習慣病」と称して賽の河原の石を積むようなことをしている現代医療と、それを信じて従っている人々に警鐘を鳴らしているのである。なかなかユニークな正鵠を射た考え方であると思う。
「細川家の至宝」と「クーザ福岡公演」、「鮨安吉」
平成24年2月16日(木)
サーカスに物語を取り入れたカナダのパフォーマンス集団、シルクドソレイユの公演が現在福岡で開催されているが、この連休にチケットが手に入ったので行ってみた。シルクドソレイユは数年おきに日本で公演しており、いつもは大阪公演に行くが今回は大阪でのチケットが手に入らなかったのである。ちょうど大宰府天満宮にある九州国立博物館で特別展「細川家の至宝」も開かれていたので、そちらも見ることができた。
シルクドソレイユの公演は毎回肉体的パフォーマンスのすばらしさに圧倒されるが、今回の「クーザ」は道化師も主役の一つで通常よりもおとなしい感じだったが、それはそれでよかった。
国立博物館では、鎌倉時代から続く細川家の文化財を伝えるために設立された「永青文庫」におさめられている数万点のコレクションの一部(300点以上)が展示されていたが、その歴史に圧倒された。第16代当主・細川護立がそれまでに受け継いできた宝を管理し、高度な鑑識眼で新たに収集した宝が展示されていたが、時を超えて残っているものは味わい深い。
たまたま予約できた博多駅近くにある「鮨安吉」は、よく吟味されたつまみを適当に出しながら鮨をにぎってくれる超人気店である。わずか7席のカウンターでゆっくり飲みながら江戸前鮨を味わうことができる。接客もよく、値段もリーゾナブルである。いい店に出会えたものである。今回の小旅行は、小倉の「松本清張記念館」にも行くことができたしなかなか面白いものであった。
初めてピルを飲む人のために
平成24年2月9日(木)
欧米では日常的に使われているピルは、わが国では以前より増えたとはいえまだまだ普及していないのが現状である。当院では多くの人にピルを処方しているが、初めて服用する人の多くは「ピルは怖い」と思っているようである。
実際に飲み始めてみると「なんだ、何も問題ないじゃないか」と思う人がほとんどで、避妊はほぼ完璧にできるし、生理痛は楽になる、生理の量も減るので貧血が治る、生理の周期がきちんとするなど多くの利点を実感する。副作用で多いのは飲み始めにおきる「吐き気」「むくみ」であるが、ほとんどの人は慣れてなんともなくなる。
ピルは原則3週間飲んで1週間休むことになっているが、種類によっては連続内服できるものもあり、2~3カ月続けて飲んでもらいその間生理はなく、その後の1週間の休薬期間に生理がくるようにしている人もいる。欧米ではすでに1年に1回だけ生理が来るピルも発売されていて、なかなかの人気だそうである。
なぜ生理があるのかを考えると、これはすべて妊娠するためである。妊娠するために毎月排卵し子宮は妊卵を着床させるために内膜を厚くし、妊娠がなければそれが剥がれて生理となり、また次の排卵が起こり…これを延々と繰り返している。その間には排卵時の卵巣出血が起きたり、子宮筋腫ができたり、子宮内膜症が発症したり大変である。なにより生理痛や生理の出血の手当てがわずらわしい。
だから、妊娠を望んでいない時にはピルを飲んでいると上記の悩みから解放される。なにより子宮・卵巣を休ませることができるので子宮筋腫や内膜症の進行を遅くすることもできるし、卵巣がんになる確率は飲まない時の半分になる。良いことばかりで悪いことがほとんどない稀有な薬である。ピルは薬を含め人類が開発した最も良いものの一つだと思う。
ライオンの交尾
平成24年2月2日(木)
ジャーナリストで作家の日垣隆氏のメルマガを愛読しているが、最近の号のケニアからの便りが面白かった。国内移動がエアラインの関係で難しくなったために、予定を変更してナイロビからマサイ・マラ国立公園のサファリに行ったところ、幸運にもライオンの交尾を見ることができたそうである。
百獣の王であるから(?)草原で堂々と行うそうであるが、交尾の時間は以外に短く10~15秒ぐらいで、ことが終わればオスはごろんと横になって休むという。ところが15分経つと再び起きあがり交尾して横になる。また15分経つと起き上がり交尾し、これを延々と3日間続けるそうである。すごすぎるとしか言いようがないが、種を残すために生き物はそれぐらい頑張るのだろう。
ある種のトリのオスはメスの気を引くために羽根できれいな円をつくり、メスがそれを認めれば交尾できるので必死で円をつくる映像を見たことがある。カマキリは肉食なので動くものを見れば食べてしまう。オスのカマキリが交尾中にメスに食べられてしまうことはよく知られているが、まことに種の保存は命がけである。
ビートたけし著「達人に訊け!」
平成24年1月26日(木)
北野武(ビートたけし)の著書はどれも面白いのでほとんど全部読んでいるが、彼が各分野のトップと対談する一連のシリーズは特に興味深い話が満載である。その中でも「達人に訊け!」はマスコミへの露出度がそれほど多くない達人が登場するのでいっそう面白い。日曜日の朝のテレビ番組「がっちりマンデー」に登場する社長さん達の面白さと共通するように思う。いずれも「その道」で頑張って人よりすぐれた技術を身につけ、成果を上げた人たちである。その人たちの話が面白くないはずがない。
「虫の達人」をはじめ宇宙、麻雀、字幕、数学、日本語、寄生虫、香り、競馬、金型プレスのそれぞれのトップの人たちとたけし氏の絶妙な会話は、それぞれの分野のエッセンスともいうべき本音を引きだす。それもビートたけしという特異なキャラがあってこそである。あとがきで氏は「本当にやりたいことをやるためには、まず目の前の長いハシゴを上らないといけないね。運のない人は、その努力を惜しむんだ」と書いているが、そのとおりだと思う。だれでも目の前の長いハシゴをのぼることができれば、その後はわりと自由にいろんな所へ行けるようになるだろう。もちろんハシゴの長さはそれぞれの能力や環境で違うだろうけれど。
流産の原因(1)
平成24年1月18日(水)
妊娠初期流産の原因のほとんどは妊卵の細胞分裂がうまくいかなくなったためで、民族を問わず一定の割合で起きる。だから治療する意味もないし治療できない。このことは胎児(胎芽)を超音波検査によってリアルタイムに観察できるようになって、わかってきた。したがって感染がない場合、経過を見守るしかないので、そのことを患者さんに話して納得してもらっている。
30年以上前にはまだ超音波検査が普及しておらず、妊娠初期に不正出血があれば入院してもらい、止血剤などを点滴投与するのが標準治療とされていた。だから当時はどの病院もそういう患者さんがいっぱい入院していて、ベッド上安静にて点滴を受けていた。なにしろ流産率はヒトでは15%以上あるのだから患者さんは多いわけである。今から考えれば気の毒であるが、意味のない治療をさせられていたことになる。でも当時の医学水準ではその治療が標準で、もしその治療をせずに流産したら訴えられて敗訴しただろう。
最近、少し出血した妊娠初期の患者さんを入院させる医療機関があるのを知って驚いた。もちろん上記のように説明して、それでも入院を希望されたのなら別であるがこの場合はどうなのだろう。
現在、標準治療として行われていても、将来なくなるものも多々あると思われる。今は通常に行われているが自分では意味がないと思われる治療はしないようにしているが、30年の間でもそのように思っていてあとでそのとおりだと証明された治療は結構あったし今もあるのである。
休日のランチ
平成24年1月11日(水)
休日の昼、ドライブを兼ねてのランチで気にいっている店がいくつかある。最近ちょくちょく行くのは、尾道駅の近くの「和房 まん作」。ここは若いが腕の良い店主が、目の前の漁港で揚がる新鮮な魚貝を美味しく食べさせてくれる。昼は数種類のランチだけであるが、夜はメニューが豊富でいい酒も置いてあり大いに楽しめそうである。行くたびにいつかは夜にも行ってみたいと思う。
もう一軒は、少し遠いが福山市の郊外に「膳夫高木(かしわでたかき)」という店がある。ここもカウンターと小部屋があり、調理するのを眺めながら食事ができる。料理にも接客にも細やかな心遣いがあり、なにより値段がリーゾナブルである。初めて訪れた時は、店がどこにあるのかわからないぐらい目立たないのでとまどったが、中に入ればほぼ満席、予約なしでは難しいと思われた。ここも夜に来てじっくり飲みながら食べてみたい店である。
謹賀新年
平成24年1月4日(水)
今日から診療開始である。冷えると思ったら久しぶりに雪が降っている。
正月は長女夫婦や孫たち、長男も帰っていてにぎやかだった。元旦は3歳の孫を連れて比治山神社に初詣。子供用のおみくじがあり引かせたら「末吉」、神社までの往復を「だっこ」してもらわず頑張って歩いたのはえらい。3日は地元の同級生の尽力で中学校の同窓会があり、実に40数年ぶりに郷里の同級生たちに会うことができた。時を経ていてもどこかに昔の面影が残っているもので、すぐに誰だかわかったし話し方も雰囲気も変わってないのが面白かった。恩師も出席されたが、かつての熱血教師は今も健在で、70歳代後半でもパワーにあふれ「山岳会」を作って地域の中高年に元気を与えておられる。最後に皆で校歌を歌ってお開きとなったが、次に皆に会える機会がはたしてあるのだろうかと思ったことである。
一年をふり返って
平成23年12月29日(木)
今日が今年最後の診療日。平成23年ももう終わる。診療面では大きな変化はなく、一般婦人科、妊婦健診、不妊症、子宮がん検診、更年期治療、流産・中絶、ピルなどバランスよく行ってきたと思う。特にピルについては積極的に薦めているので処方数も安定して増えている。以前から古くさいと云われていたホームページをリニューアルしたら新患数が増えたようだ。ネットを見ての来院で、いまやネットのない生活は考えられないということである。
趣味の尺八への情熱はあいかわらず強く、カメの歩みのようであるが、スキルアップしている実感があるのがうれしい。スポーツクラブでの週一のテニスと散歩は欠かさないが、今年はゴルフを再開することにした。上手くなるのはもう無理だろうから、体調管理を兼ねてのんびりやっていくつもりである。
うれしかったことは次女に男の子が、長女に二人目の女の子が生まれたことである。新しい命の誕生ほど素晴らしいことはなく、これも皆が健康で仲良く暮らしているおかげだ。ありがたいことである。
ふり返ってみればいい一年であったと思う。